30 / 166
例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度
6-3
しおりを挟む
~6-3~
控室には自分を含め7人の演者が居た。何れも年の頃は同じような物に見えたけれど、その様相は露骨な程七者七様であった。
舞台から下りる度に火傷の跡を増やす少女、日毎半身の感覚器官を削ぎ落とされていく少年、日増しに繁殖期の家畜の様な嬌声を上げ肛虐をねだる青年。自分はと言えば黒ずむ程の痣を全身に受け、痣の浮く場所が無くなったと見えればこの有様である。
一頃は尊厳こそ失えど苦痛ではなく思考が出来なくなるほどの快楽を与えられる青年を羨んだ時期もあったが、行き過ぎた凌辱の果てに鉄杭で突き上げられ事切れる様を舞台上で見てからは周りを羨む事の無意味さを知った。
それ以降、他の演者が変化する様を観察するのも、遂には生き残りを数える事すら辞めてしまった。自分の番が何時来るかすらわからないのだから。
いや、目を背けてはいたものの、その時が来る事を知る明確な指標は確かに有ったのだ。最初は右腕、次に左足、右足、左腕と眼前に落ちていく其れ等を見て「あぁ、次が最期なのだな」と否が応にも知ってしまっていた。
そしてその日はやってきた。自分の檻の鍵が開く音、従業員の足音と自分を運ぶ台車の車輪が転がる音。全てが実際の距離よりも遠くに聞こえた。自分が其処に有ると言う感覚すら朧げで、そのまま無感動に終われる事はきっと幸福なのだろうとすら思って居た。
耳慣れない乾いた音、土の詰まった麻袋を落とすような鈍い音。なんだろう。身をよじり視線を其方に向ける事すら出来る体力が残って居なかった。床に俯せたまま、中々訪れない従業員に疑問も持たず、視界の端を流れる赤黒い水溜りの流れる先を無心で追っていた。
体を起こされる。あぁ、はいはい、時間ですね。未だ水溜りの方に向けたままだった顔に手が添えられる。温かい。
「生きてるのか?」
妙な事を聞くなと思った。返事をする気も無かったが、聞きなれない声の持ち主の正体は気になったので其方に顔を向けてみる。案の定知らない顔だ、新入りだろうか。酷く驚いた顔をしている。無理もない、こんな只の肉塊が未だ生を保てている理由など肉塊自身分からないのだから。少し可笑しくなって自嘲の笑みを浮かべる。
「 」
返事をした心算が声が出ない。あぁ、そう言えば何時か麻酔が不完全な時に叫び過ぎて血を吐いた事が有った。
「そうか」
言わんとした事が正しく伝わったのかは分からない。その恐らく新入りらしい男は自分を抱きかかえたまま廊下を歩いて行く。台車に載せない事が不思議だったが。別に構わない、それを気にする事に意味が有る程残りの人生が十全に有るわけでもないのだから。
控室には自分を含め7人の演者が居た。何れも年の頃は同じような物に見えたけれど、その様相は露骨な程七者七様であった。
舞台から下りる度に火傷の跡を増やす少女、日毎半身の感覚器官を削ぎ落とされていく少年、日増しに繁殖期の家畜の様な嬌声を上げ肛虐をねだる青年。自分はと言えば黒ずむ程の痣を全身に受け、痣の浮く場所が無くなったと見えればこの有様である。
一頃は尊厳こそ失えど苦痛ではなく思考が出来なくなるほどの快楽を与えられる青年を羨んだ時期もあったが、行き過ぎた凌辱の果てに鉄杭で突き上げられ事切れる様を舞台上で見てからは周りを羨む事の無意味さを知った。
それ以降、他の演者が変化する様を観察するのも、遂には生き残りを数える事すら辞めてしまった。自分の番が何時来るかすらわからないのだから。
いや、目を背けてはいたものの、その時が来る事を知る明確な指標は確かに有ったのだ。最初は右腕、次に左足、右足、左腕と眼前に落ちていく其れ等を見て「あぁ、次が最期なのだな」と否が応にも知ってしまっていた。
そしてその日はやってきた。自分の檻の鍵が開く音、従業員の足音と自分を運ぶ台車の車輪が転がる音。全てが実際の距離よりも遠くに聞こえた。自分が其処に有ると言う感覚すら朧げで、そのまま無感動に終われる事はきっと幸福なのだろうとすら思って居た。
耳慣れない乾いた音、土の詰まった麻袋を落とすような鈍い音。なんだろう。身をよじり視線を其方に向ける事すら出来る体力が残って居なかった。床に俯せたまま、中々訪れない従業員に疑問も持たず、視界の端を流れる赤黒い水溜りの流れる先を無心で追っていた。
体を起こされる。あぁ、はいはい、時間ですね。未だ水溜りの方に向けたままだった顔に手が添えられる。温かい。
「生きてるのか?」
妙な事を聞くなと思った。返事をする気も無かったが、聞きなれない声の持ち主の正体は気になったので其方に顔を向けてみる。案の定知らない顔だ、新入りだろうか。酷く驚いた顔をしている。無理もない、こんな只の肉塊が未だ生を保てている理由など肉塊自身分からないのだから。少し可笑しくなって自嘲の笑みを浮かべる。
「 」
返事をした心算が声が出ない。あぁ、そう言えば何時か麻酔が不完全な時に叫び過ぎて血を吐いた事が有った。
「そうか」
言わんとした事が正しく伝わったのかは分からない。その恐らく新入りらしい男は自分を抱きかかえたまま廊下を歩いて行く。台車に載せない事が不思議だったが。別に構わない、それを気にする事に意味が有る程残りの人生が十全に有るわけでもないのだから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる