例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

小島秋人

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例えばこんな来世でも貴方は私を再び三度

4-1

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~4-1~

 頬に触れる掌の感触に目を覚ます、どうやら食後の充足感に誘われるまま転寝をしてしまったらしい。

 「寝るなら寝室に移れ、俺は少し出掛けるから」
 そう言って立ち上がったあの人は帰宅時とは異なる装いに着替えていた。

 「何処へ?」
 欠伸を噛み殺しながら行先を問うた。まさか以前の仕事に復職したと言う事も無いのだろうけれど、纏う雰囲気には少しだけその頃と似た険を感じた。

 「言うと不機嫌になるだろうが、それでも聞くか?」
 片手に自分を抱えもう一方の手で車椅子を押しながら問いかけに問いかけを返すあの人。会話の上でのマナー違反では?と指摘したい気持ちも有ったけれど、其れをすると其の儘話題を逸らされ有耶無耶のまま外出してしまいそうな気がしたので戦法を変える事にした。

 「…まさか、他に良い人でも出来たのですか」
 その様な疑いは毛程も抱いていなかったけれど、敢えて悪戯じみた顔では無く無表情に、視線を逸らしながら囁いてみた。あの人の歩みが止まる。

 「…その誤解は我々の将来の為には大変宜しくないな」
 呆れたような笑顔を作ってはいるけれど口角が僅かに引き攣っているのを見逃さない。どうやら思った以上に効果は有ったようだ。もう少し畳み掛けてみることにした。

 「いえ、良いのです、今のは忘れて下さい…これ以上重荷にはなりたくありませんので」
 最後の一言は露骨に科《しな》を作って消え入るように呟いた。我ながら演技が過ぎるかとも思ったが気取られた様子は無く、寧ろ視界の端に見える表情には焦燥の色が強まっている。どうしよう、少し楽しい。

 「言葉で否定しても証明にはなるまいな、どうすれば安心できる?」
 左手を車椅子から離し自分の右頬に添え眦を拭ってきた。どうやら先程噛み殺した欠伸についてきた涙腺からの分泌液が想定外の効能を果たしているらしい。必死に笑いを堪え絞り出すように要求を告げる。

 「ご一緒するわけには、参りませんか」
 未だ添えられたままの左手に媚びるように口付る。これは本心からの欲求の為演技の必要は無い。折角一緒に居られる時間が増えたのだから、置いて行かないで、一人にしないで。一寸した悪巫山戯の心算が少し感情が乗り過ぎてしまったらしい。今度は少し本気で悲しくなってきた。まさか本当に移り気とは思って居ないけれど、置いて行かれることに変わりは無いのだから。

 「…酒を飲みに出掛けようと思うんだが、嫌でなければ一緒に来てくれるか?」
 既に止め処無く零れつつあった分泌液の一つ一つを丁寧に慈しむように拾い拭うあの人はばつの悪い表情で伺いを立てる。最早言葉の出ない自分は努力して微笑みゆっくりと頷いた。

 我ながら不安定な情緒には未だ回復の兆しが無いようです。

 ごめんなさい
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