焦げ付いた砂糖水のように

小島秋人

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 流行り病の影響で中止になった友人の結婚式が何件かあり、その内の一人から
 「流行が落ち着いたから」と改めて御招待を頂いた。慶事への参加は暫くぶりであったため支度には手間取ったが何より喜ばしい。手抜かりの無いよう調え晴れやかな気分で家を出た。

 彼は式場の準備を手伝うとかで先に現地入りしており、他の友人達と連れ立って後を追う形で会場に向かった。道すがらにも何人か合流し、些か賑々しい道中となる。同性のカップルに結婚の話題はデリケートな問題とでも思われていたのだろうか。終始矢鱈気遣う様な周囲に辟易しつつの道行きではあったものの、特に何事もなく式場に辿り着いた。

 着いて早々、受付で友人たちと何事か話し込んでいた彼は私の姿を認めるや此方に駆け寄って来る。数歩の内、表情に怪訝な色が増していくのを認めた。…おぉ、何のお小言だい?

 『お前…そんな着古しのスーツじゃ失礼でしょ』
 おいおいこれでもクリーニングしたての一張羅だぞと反論する隙もなく手近な室に連れ込まれる。どうやら手狭ではあるが個人用の控室らしい。…勝手に借りちゃって良いのかな?

 『ほら、さっさと着替える』
 …用意が良いな、そんなに信頼無いんかい。悪態を吐きたくなるのを堪え渡された衣装を広げる。

 …タキシード?

 『俺らも今日やるから』
 事も無げに伝える彼。それでも幾らかの気恥ずかしさが有るのか、視線はやや下げ気味に外している。向きでない演出を凝るから照れが出るんだと言う揶揄いには蹴りで返された。幾分調子が戻った様で何よりだ。

 手近な姿見を用い改めて身支度を調えたが、事前に伝えられていた式の開始迄は余裕がある。このままこの室で待てば良いのだろうか、着替えを見守っていた助平に尋ねようと振り返った。

 …なんか息荒いんですけど。

 徐に歩み寄る彼に気圧される様に化粧台の上に腰を下ろす。…どうした?

 『待てない…もう、始めちゃおうか』
 絶対に俺の想像とは違う事を始めようとしている気がしてならない。ウインザーノットに結んだネクタイは素材の良さが災いしたかするりと解かれてしまう。釦をぷつ、ぷつと外す彼の指がインナー越しに熱を掻き立てる。

 良いだろう、煽ったのは其方と忘れるなよ。腰から抱き上げて手近なソファーに。

 『…言って』
 何を?
 『誓いの言葉…言いながら、して』

 空気に酔っていた、御互いに。愛の確信を貪る様に睦み合うのが常であった二人が、こんなにも
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