焦げ付いた砂糖水のように

小島秋人

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 入籍は出来ないまでも、せめて大学の卒業に合わせて催しくらいは―――

 はっきりと交わした約束ではなかったものの、いつの間にかお互い暗黙の内に其のような決め事に沿って動いていた。親しい友人に声を掛けておいたり、会場を整えたり。何かにつけ忙しない私を余所に、彼は彼で何か備えをしているらしい事は気付いていた。其れが何かは当日まで分からず仕舞いだったが。

 大学へは資格の取得を目的に進学した。だからと言う訳でもないのだろうが、友人関係の構築は人並みより大分控え目に終えた学生生活だったと思う。郷里の旧交を温める以上の大事を認められなかったと言い換えた方が正確だろう。

 なればこそ、式次第も終えて早々に帰路に着こうとしていた私を誰かが呼び止めた。振り返ると、豪奢なドレスに身を包んだ美人が此方に歩み寄って来るではないか。

 「突然ごめんなさい、この辺りは不案内で…駅までの道を教えて下さる?」

 色々と思いがけない展開にしどろもどろしかける。が、先を急ぐ身だ。

 あー…すいません、大事な人と約…束………が?

 おいまさか、言いかけた所で耳馴染んだ笑い声が響く。

 「良かった、気付かなかったらどうしてくれようかと!」

 目尻に泪を浮かべん程高笑いに笑う彼は更に距離を詰め胸元に飛び込んだ。

 「びっくりした?」
 うん、した。

 未だ固まった儘の私の手を取って彼は歩き出す。

 言葉の選択を誤らず済んで良かった。

 折角の晴れの日、二人にとって、二重の意味で。

 その大切な日に、弾けるような笑顔を見せる君を見て。

 これから始まる幸せな日々に対する何よりの保証を得た事が先ず最初の幸福だった。
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