一緒に地獄に落ちてくれ

小島秋人

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一生に一度の物を質種に

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  『一生に一度の物を質種に』


 沈黙を破ったのはお嬢だった。
 「…貴方は」
 「うん?」
 「軽薄な性格である事は疑いようが無いわ」
 「ははっ」
 其れはそうだろう、今回の提案だって各々の純潔を捧げるのが前提。大切な物と認識していない訳じゃない。それでも、一生に一度の物を質種にさせようとする姿勢が誠実である筈も無い。

 「…けれど、自分が信ずる筋は違えない男性であるとも思っているの」
 漸くと擡げた顔を此方に、真っ直ぐな瞳で私と視線を交わす。

 「…この子が信じて委ねたなら、わたしもそうしたいと思う」
 お嬢の隣に腰掛けていた彼女が身を寄せ腕を組むのを視界の端に捉えていた。

 「お前…さては俺には口止めしといて自分から話したな?」
 「えへへ…実は二人がお昼食べに行ってるスキに」
 「怒らないであげて、『にぃちゃんに全部甘えてちゃダメだから』って勇気を出したのだもの」
 腕に擦り寄る彼女を庇う様に自身からも身を寄せたお嬢の表情は子を負う母親の其れすらを思わせる。こんなにも思い合えているなら抑私の横槍が必要だったのかすら疑わしいものだ。

 「ただ…如何せんわたしも初めてだから、何も知らないまま身体を開くのは怖いの」
 至極真っ当な意見だと頷く。しかし直接的な表現を避けたために却って蠱惑的な言葉面になっている事に自覚は無いのだろうか。

 「ここは一つ、彼に先を譲って見に回るのが得策ではないかしら」
 「ほわぁ!?」
 今日二度目の奇声を張り上げる彼。

 「第一あなたさっきから全く会話に参加していないじゃない。そんなに暇なら早く支度を済ませて来てくれないかしら、時間の浪費は害悪よ」
 「いや俺は俺で心の準備に時間が必要で」
 「それくらいわたしたちが話している間に済ませなさい、いつまでもうじうじと思い悩むのは男らしくないわよ」
 「だ、男女平等!」
 「だから答弁に参加する時間を平等に与えていたでしょう?それを活用しないで沈黙で無駄にするならせめて体を動かしていなさい」
 「ぐっ…!議長!発言したいです!」
 「却下、お前さんの負け。とっととシャワー浴びといで」
 全く矢継ぎ早の問答、いや寸劇と称した方が良いのか。何にしろやはり彼らの会話は傍目に楽しくて仕様が無い。終始神妙な顔を浮かべていた彼女もいつの間にか顔を綻ばせていた。
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