天使は誰

真白 雪和

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狂い出す歯車

ー晴ーこれ以上 1

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真希。過呼吸頑張って落ち着かせたよ。
だから大丈夫って言いたいはずが。

どうして、声が出ないんだ。

真希の不安を拭いたいのに。

 
言いたいことが沢山ある。だから声を……


おかしい。どうやったって出ない。

もはや声の出し方すら分からない。
今まで喋ったり歌ったりしただろ。
いつもと同じようにすればいいはず。

何で当たり前が出来ないんだ。


駄目だ。どうしよう。

こういう時って過去になかったから、対処法が分からない。

真希の言葉が、ショックだったから一時的に声が出なくなっただけだよ、な。

とりあえず、病院に行くしかないか。

その場を離れようとすると、真希が待って、私はどうしたらいいのと聞いてきた。


真希が更に不安になってる。

落ち着いてほしい。というか、俺が冷静にならないとだ。

スマホで、声が出ないから病院に行くと文字を打って見せた。


でも今、彼女を1人にしたら心配だ。

連れていくしかないかな。嫌がられるか。

『真希もついてきて』


追加で書いてそう伝えると心配してくれてるのか、ついて行くみたいだ。

支度をしてもらって、俺の車で病院に行く。


 走りはじめて少しして、彼女が口を開いた。

「本当に……藍来も居るの? 」  

頷くしか出来ない。
そう、藍来なんだよ。晴になって会いに来たんだ。そう言いたいが、やっぱり声にならない。

「本当なんだ。こんな形で会うとは思わなかったよ。久しぶり……だね。びっくりしちゃった」

返事もろくに出来ない。

言いたい言葉が宙を舞う虚しさ。
心に募っていく。


「さっきは、何であんなことしたの。私が好きだから? 」

再び頷く。

「私を好きな気持ちでおかしくなっちゃったんだね。それって、私のせいかな」


それは違う。真希のせいじゃない。
でも、確かに好きすぎておかしいのは自分でも分かる。

首をふるのも頷くのも出来なくて。

返事をしたいのに。

そのあと、真希は一言も喋らなくなった。

かかりつけの病院に到着するまで、ずっと沈黙。

声が出ないってこんなに、じれったいんだ。

早く元に戻って晴になった訳を話したい。


病院で耳鼻咽喉科を受診した。

真希はもう落ち着いたのか、俺の代わりに状況を説明してくれた。

医者に告げられた内容にショックを受けた。

発声障害だった。

やっぱりそうだよな、そんな気はしてたけど。先生が用意してくれたメモに『すぐに治りますよね』と書いて尋ねた。

でも、望んでた返事じゃなかった。


「精神的なものだと思いますので、直ぐにとはいかないかもしれません。自宅で静養しながら、リハビリしましょう。今は焦らないでください」

真希が隣で一緒に話を聞いてるのに。

最悪な事になってしまった。

泣きそうな顔してるのに堪えてるみたい。
申し訳ない気持ちになる。
きっと自分のせいにするに違いない。

早く大丈夫って言わなきゃならないのに。
何度やっても声が出なくて、イラつく。


俺は嫌われた。
だから声が出なくなってしまった。
でも彼女のせいじゃない。自分のせいだ。
自業自得ってやつ。


これからどうするんだ。仕事が入ってるのに。

でも、そんなことどうでもいい。

ボーカルとして致命的だという恥よりも

真希の名前を呼べない。その方がずっと嫌。



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