天使は誰

真白 雪和

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衝動と散らばる感情

ー優大ー奪わないで

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ベランダで晴れ空を見ながら煙草を吸っていた。
ボーカルをやり始めたんだから、喫煙を止めようとしたんだけど吸わずには居られなかった。
人前では気を遣って吸わないんだけどね。

気分? 天気とは裏腹に、良くない。

なんともいえない違和感がとても憂鬱で。
その原因は勿論、あいつ。

最低な男だ。Vanillaの晴って奴。

何であんなに嫌な感じなんだ。
顔が良いから尚更イライラする。
あの整った表情で笑われるのが嫌過ぎる。
それに馬鹿にしたような態度。

先輩に対してあんな振る舞い方するか?
ひと昔前だったら、あんな奴すぐに潰されてた。
気に入らない。本当に。


真希ちゃんを僕から取ろうとしてるけど。

簡単に奪えるわけないじゃん。

いくら何でも舐めくさってる。
そんな簡単に自分の彼女を他人に渡したりしない。

ていうか、最初から真希ちゃんを自分のっていう言い方してたのも腹ただしい。

あと、Vanillaの曲がシングルランキング1位取ってたのも嫌だった。

奪いたい衝動が頭の中で流れる。
歌い方まで似てる。
考えないようにしてたのに。
ああ、本当に気持ち悪い。

いや、生き返るなんてそんなはず。気にしすぎだよね。

下手な偶然があるわけない。
もしかして僕への嫌がらせでわざと似せてるとか? そうだとしたら悪趣味過ぎるだろ。

いや、そこまでするはずないか。
たまたま似ていただけかもしれない。
でもあの眼差し、あっくんも歌う時にしてた。
いつも冷めた目付きというか、そういう表情してるのに、歌うと人が変わったみたいに情熱的になるんだ。

終わると燃え尽きて、ぐったりする。

そういう人だった。

ああ、思い出してしまう。

2月の陽気、まだまだ冷える。
ビルが並ぶ都会の景色が見えるベランダ。  


煙草が吸い終わってからしばらく、ぼーっと空を見ていた。

寒くなってきたので部屋に戻ると、スマホが鳴っている。

この音、メッセージアプリからだ。誰だろう。

表示を見ると真希ちゃんだった。
今まで電話する時は予め聞いてくれてたのに。
どうしたんだろう、電話に出てみる。

「もしもし、真希ちゃん? 」


「もしもし。先日はありがとうございました」

いや、男の声じゃん。誰だよ。

「俺って言えば分かりますよね。優大さん」

何で真希ちゃんのスマホから掛けてるの?

一体何なの。

頭おかしいよ。

何がしたいんだ。僕を怒らせて楽しい気持ちになろうとしてる? そういうの止めてほしい。

「何で真希ちゃんのスマホから掛けてきたの?やっぱり僕に喧嘩売ってる? 」

「先に俺のもの奪ってきたの、そっちでしょう」

「僕の彼女なんだけど」

「ふっ、まるで自分のものみたいに言うの止めてほしいですね」

その笑い方こそ、止めてよ。
また吐きそうになるから。


「何言っちゃってんの。最初からお前のじゃないから」

「真希は俺をもう1度好きになるから、あなたは要らないんです」

だからさ、真希ちゃんは最初から君の事なんて好きじゃないから。勘違いもここまでくると気の毒に思えてくるな。

言い返すと、彼は急に笑いだした。
本当に気でも狂ってるんじゃないかって思うくらいの笑い方だった。

何が面白いのか分からないが、きっとまた馬鹿にしてるんだろう。

楽屋の時の妖しい笑みを思い出して吐き気がした。

「勘違いしてるのは、優大さんですよ。 俺の真希だって言ってるじゃないですか。人のものを奪うのが好きな性格の悪い優大さんには、失う悲しみを知ってもらわないとね」

そんなの一生知りたくないね。知る必要ないし。
性格が悪いのは認めるけど、お前なんかに言われたくない。

「真希ちゃんは僕と付き合ってるんだって」

こいつ、もしかして彼女に何かしてるんじゃないのか?
嫌な予感しかしない。

手を出したら許さないよ。

そう言ったら彼は鼻で笑った。

「いい加減に理解してほしいものです。お前の彼女なんて、最初から存在していない事をね。真希は俺だけのものだって言ってるのに、分からないんですか」


「だから違うって」

「何も違わないですよ。俺と真希はこれから愛し合うので邪魔しないでくださいね。まあ、間に入るなんてできないだろうけど。それじゃあ、さようなら」

一方的に電話を切られてしまった。

やばい。真希ちゃんの所に早く行かないと。

それなのに、怖くてたまらない。
あいつに会うの嫌すぎる。

スマホを持つ手が大袈裟なくらいに震えていた。




    
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