天使は誰

真白 雪和

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うごきだす感情

ー真希ーどうすればよかったの 1

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え? 何でなの?

藍来が居なくなってしまった。

声が聞こえないし、ブレスレットが何だか軽くなったように感じた。

それに、水晶の輝きが鈍い。明らかにどよん、としてる。

本当にどこかへ行ってしまうの?


「真希ちゃん、あっくんが居なくなったみたいだね」

「うん……」



どうして。

私のせい? 今まで忘れてたから?

居ないと寂しいし困るよ。

藍来を好きだよ。恋人にはなれないけれど、大切なんだよ。

今までずっと一緒だったじゃないの。


こんな形でお別れなんて、嫌。

「真希ちゃん、泣かないで」

「私のせいだ。藍来を忘れてたから、だから居なくなったの」

もう、会えないのかな。
こんなことになるなんて。

もっと藍来を大切にしたらよかったんだ。

なのに、優大君と一緒に居ると楽しくて存在を忘れてた。それも簡単に。私って薄情な人間かもしれない。

いつも彼は私を1番に思ってくれて、大切にしてくれた。

それなのに、私は藍来を好きだという気持ちを忘れよう、なかったことにしようとしてた。

だって、幽霊が恋人になんてなれるはずない。

好きになっても虚しいだけ。

だから望まなかったんだよ。

でもまさか居なくなるなんて……


「違うよ、真希ちゃんのせいじゃない」

心配した表情で私を見る優大君。
なんでそんな泣きそうな顔してるの。

もう、何もかも全部私が悪いんだ。気持ちがぐちゃぐちゃになってく。

「僕じゃ、駄目なのかな? その寂しい気持ちを埋めるの」    

抱きしめてくれた。海で出会った時と同じ香りがする。

その匂いで思い出してしまう、藍来との記憶。
   
ついこないだまで海に一緒に行ったよね。

楽しかった思い出が頭の中を巡って、もっと寂しくなる。


涙が勝手に出てくる。

声をあげて泣くしかなかった。

「僕が傍に居るんだから泣かないで。あっくんの代わりじゃないけど、真希ちゃんを大切にするから」


優大君の悲しい瞳に、閉じ込められそうになる。じっと、見つめるんだもの。

瞳を見つめ返すと、彼に一筋の涙が零れた。
ねえ、どうか。
その涙の海に私を溺れさせて。

私を優大君でいっぱいにしてよ。
もう居ないはずの藍来がまだ、心に居座るんだから。

いつも頼りにしてた彼なんて居なくても大丈夫になるくらいに。

大好きになりたいの。

「もしかして、真希ちゃん。あっくんを好きだったんでしょ」

「……うん。幽霊なのに好きになるなんておかしいよね」

「僕が一緒に泣いてあげるから。だから、あっくんを少しずつ忘れよう」


優大君は優しい。藍来とはまた違うぬくもりが悲しみを甘く溶かしていく。

一緒に泣いてくれた優大君。



ーーしばらく2人で涙をこぼして、気持ちが少しずつでも落ち着いた。


「ねえ、真希ちゃん。もう平気かな」


「うん、落ち着いた。大丈夫だよ」

「良かった。大切な話をしてもいい?」

差し出されたのはCDが入ってるケース。真っ白いCDには、愛しい存在と書いてある。

「これ、咲き誇って群青の新曲。実はこの曲をメンバーに聞かせたら、いい曲だから活動再開したいって話になったんだ。僕があっくんの代わりにボーカルをやる」


えっ! 咲き誇って群青が活動再開!?

それ、本当なの!?

「嬉しい! 咲き誇って群青、活動するの!? どうしよう、ワクワクしてきた!」

「喜んでくれて、嬉しいよ。この曲、今聴いてほしい」

渡された曲をCDプレーヤーにかけると、
甘くて優しいメロディが聴こえてきた。




ーーかけがえない存在が傍に居てくれる そんな運命を大切にしたい 出会った冬の海で愛を誓うよ 大好きだからーー

「優しい曲。これ、優大君が作ったんだよね? 」


「作詞も作曲も僕だよ」

「わあ。こんなに素敵な曲を作れるなんて凄い」

「真希ちゃんを思って作ったんだ。毎日大切に思いながら」

私を思って作ってくれたの?

どうしよう、凄い嬉しい。

心がいっぱいになっちゃうよ。
好きが溢れそうになる。 

こんな気持ち初めて。優大君が私を思ってくれてる。
もっと惹かれてしまう。
  

「再来月の金曜9時の音楽番組、咲き誇って群青がでるから見てほしい。僕、頑張って歌うよ」  

生放送の番組だ。久しぶりに、咲き誇って群青がテレビで見られる。楽しみ。リアルタイムでも見るけど、番組を録画しなきゃ。

「ちゃんと見るからね。優大君のボーカル、楽しみにしてる」

「ありがとう真希ちゃん。そうだ、ちょっと目を閉じて」

何でかなと思いつつも、目をつむった。




    
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