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Fragrance 8-タビノカオリ-
第53話『STAY』
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午前10時半。
相良さんと別れた私達は奈央ちゃんが起きるのを待ってから、全員で私達が宿泊している15階の部屋に戻る。今は私、絢ちゃん、直人さん、彩花さんの4人で一緒にいる。
お兄ちゃんは奈央ちゃんが意識を失った間に起きたことを説明するために、奈央ちゃんと一緒に隣の部屋にいる。
ううっ、4人でいると何だか気まずいなぁ。特に……絢ちゃんとは。私と絢ちゃんは椅子に座っているけれど、机を介していることもあってか微妙な距離感が生まれてしまっている。
今日になってから、彩花さんは結構明るく、
「せーんぱいっ」
直人さんと嬉しそうに腕を絡ませている。直人さんと彩花さんはベッドで隣り合うようにして座っているので、べったりとくっついている。ただ、彩花さんはもちろん私の姿だから、まるで私と直人さんがべったりとくっついているように見えてしまう。
「……お前は元通りになったなぁ」
「だって、私は先輩のことが好きですから」
「……そうか」
何だか、こんなにも仲のいい姿を見せられると羨ましく思えてしまう。
すると、彩花さんは直人さんのことを跨ぐようにして座る。
「先輩は私だけ見ていればいいんですよ」
「……お前、昔みたいな感じに言うんだな」
「だってそうですよ。体が入れ替わったとはいえ、他の女の子と一夜を明かしたんですから。今でも嫉妬心が膨らんでいます」
「そ、そうっすか……」
昔みたいな感じ、と直人さんは言うけれど……彩花さん、以前は直人さんに嫉妬したときはきつい態度でも取っていたのかな。
「ねえ、せんぱぁい」
「な、何でしょうか?」
直人さんに対して、私の声で甘えた声を出されると……凄くドキドキするんだけど。
「……遥香さんと何をしたんですか?」
そのとき、初めて……彩花さんは怒った表情を見せる。私、怒るとこんなに恐い表情をするんだ。さっきとは違う意味でドキドキしてくる。
直人さん、ちょっと青ざめた表情をしているから、ここは私がフォローしないと! 昨日は私のわがままに付き合わせちゃったんだし。
「え、ええとですね……」
「遥香さんは答えなくて結構です。直人先輩が答えてください。いえ、答えなさい」
うううっ、彩花さん、恐いよ。そうだよね、私のわがままって……付き合っている人が知ったらとても嫌なことだよね。もし、昨晩の自分に会えるなら、頬を叩いて、大人しく寝なさいと言いたい。
絢ちゃんのことをチラッと見ると、絢ちゃんも今すぐに泣きそうな感じだった。
すると、彩花さんはゆっくりと直人さんに顔を近づけて、
「確かに嫉妬はしていますけど、怒っていません。とにかく、ありのままに答えてください。これはあの2人のためです」
低い声でそう言う。怒っていないって彩花さんは言っているけれど、絶対に怒っていると思う。
「……ええと、一緒に部屋のお風呂に入りました」
「えっ?」
「髪と体を洗ってもらいました」
「えっ? えっ?」
「その後は……キスとか色々なことをしてしまいました」
「……こらああっ!」
彩花さんは不機嫌そうな表情をして頬を膨らました。
うううっ、やっぱり怒っていましたね。そうですよね。こらああっ、って言いたくなりますよね。私、とても酷いことをしてしまいました。
「ごめんなさい」
素直に直人さんは謝った。
「……べ、別にいいですよ。私だって、その……絢さんと似たようなことをしていましたから。私こそごめんなさい。体が入れ替わった影響もありますし。それに、昨日……先輩が言ってくれたじゃないですか。お互い様だって」
「……ああ」
「だから、私は許します。でも、元の体に戻ったら……いつもよりもちょっとだけでいいので甘えさせてください」
「……もちろんだよ」
直人さんは彩花さんの頭を優しく撫でていた。
そして、彩花さんは嬉しくなったのか、ゆっくりと直人さんのことを抱きしめる。
「はぁ、直人先輩の匂い……」
直人さんの胸に顔を埋めて、顔をすりすりしている。彩花さん……いつもはこんな感じで直人さんに甘えているのかな。可愛いな。
そうだよ、直人さんと彩花さんがこうして謝って、仲直りしたんだから……私達だってちゃんと謝らないと。
「……ごめんね、絢ちゃん。昨日はその……泣いちゃって……」
絢ちゃんの顔をしっかりと見て、私は彼女に謝った。許してもらえるかどうかは関係なく、絢ちゃんに謝りたかった。
「……気にしないでいいよ、遥香。彩花ちゃんの言うとおり、2人の体が入れ替わったこともあって仕方ないところもあるし、それに……お互い様なんだからさ」
絢ちゃんはそう言うと、優しい笑顔を浮かべながら私のことを見つめる。優しいな、絢ちゃんは。思わず涙を流してしまう。
「……うん。ありがとね、絢ちゃん」
私がそう言うと、絢ちゃんは私の耳元で、
「元の体に戻ったら……私に思い切り甘えてきて。時間が掛かってもいいから……いつもの私達になっていこうよ」
そう言うと、優しい笑みを見せてくれた。
「私も……元の体に戻ったら、絢ちゃんに甘えてきてほしいな」
絢ちゃんの顔を見て、キュンとするなんて。その感覚が懐かしいと思えてしまうことが悔しいけれど、同時に心地よかった。
ふと、相良さんはあの日の夜……水代さんとこうして仲直りしたかったんだろうなって思った。
水代さんは自殺をしてしまったけれど、誰かの体に憑依することで相良さんと会うことができる。50年や60年経ってもそのままかもしれない。
もし、氷高さんと決着を付けることができたら、そんな状況が変わってしまうのかな。やりたいことが果たされ、成仏してしまい永遠に会うことができなくなっちゃうのかな。そうなってしまったら悲しいけれど、本来であればそれが普通であり、誰かに憑依したら話せるという今のこの状況の方が特別なんだろうなぁ。
今回のことで、水代さんとの永遠の別れになるかもしれないけれど、水代さんはこの状況を変えようとして、私と彩花さんの体を入れ替えて、私達に相良さんへの協力を求めたんだ。
「そうだ、コーヒーを淹れますよ。お2人には紅茶を淹れますね」
「ありがとう、彩花」
「いえいえ」
彩花さんは直人さんから離れて、楽しげにコーヒーと紅茶を淹れている。仲直りができて嬉しいのかな。彼女の姿を見ながらそう思うのであった。
相良さんと別れた私達は奈央ちゃんが起きるのを待ってから、全員で私達が宿泊している15階の部屋に戻る。今は私、絢ちゃん、直人さん、彩花さんの4人で一緒にいる。
お兄ちゃんは奈央ちゃんが意識を失った間に起きたことを説明するために、奈央ちゃんと一緒に隣の部屋にいる。
ううっ、4人でいると何だか気まずいなぁ。特に……絢ちゃんとは。私と絢ちゃんは椅子に座っているけれど、机を介していることもあってか微妙な距離感が生まれてしまっている。
今日になってから、彩花さんは結構明るく、
「せーんぱいっ」
直人さんと嬉しそうに腕を絡ませている。直人さんと彩花さんはベッドで隣り合うようにして座っているので、べったりとくっついている。ただ、彩花さんはもちろん私の姿だから、まるで私と直人さんがべったりとくっついているように見えてしまう。
「……お前は元通りになったなぁ」
「だって、私は先輩のことが好きですから」
「……そうか」
何だか、こんなにも仲のいい姿を見せられると羨ましく思えてしまう。
すると、彩花さんは直人さんのことを跨ぐようにして座る。
「先輩は私だけ見ていればいいんですよ」
「……お前、昔みたいな感じに言うんだな」
「だってそうですよ。体が入れ替わったとはいえ、他の女の子と一夜を明かしたんですから。今でも嫉妬心が膨らんでいます」
「そ、そうっすか……」
昔みたいな感じ、と直人さんは言うけれど……彩花さん、以前は直人さんに嫉妬したときはきつい態度でも取っていたのかな。
「ねえ、せんぱぁい」
「な、何でしょうか?」
直人さんに対して、私の声で甘えた声を出されると……凄くドキドキするんだけど。
「……遥香さんと何をしたんですか?」
そのとき、初めて……彩花さんは怒った表情を見せる。私、怒るとこんなに恐い表情をするんだ。さっきとは違う意味でドキドキしてくる。
直人さん、ちょっと青ざめた表情をしているから、ここは私がフォローしないと! 昨日は私のわがままに付き合わせちゃったんだし。
「え、ええとですね……」
「遥香さんは答えなくて結構です。直人先輩が答えてください。いえ、答えなさい」
うううっ、彩花さん、恐いよ。そうだよね、私のわがままって……付き合っている人が知ったらとても嫌なことだよね。もし、昨晩の自分に会えるなら、頬を叩いて、大人しく寝なさいと言いたい。
絢ちゃんのことをチラッと見ると、絢ちゃんも今すぐに泣きそうな感じだった。
すると、彩花さんはゆっくりと直人さんに顔を近づけて、
「確かに嫉妬はしていますけど、怒っていません。とにかく、ありのままに答えてください。これはあの2人のためです」
低い声でそう言う。怒っていないって彩花さんは言っているけれど、絶対に怒っていると思う。
「……ええと、一緒に部屋のお風呂に入りました」
「えっ?」
「髪と体を洗ってもらいました」
「えっ? えっ?」
「その後は……キスとか色々なことをしてしまいました」
「……こらああっ!」
彩花さんは不機嫌そうな表情をして頬を膨らました。
うううっ、やっぱり怒っていましたね。そうですよね。こらああっ、って言いたくなりますよね。私、とても酷いことをしてしまいました。
「ごめんなさい」
素直に直人さんは謝った。
「……べ、別にいいですよ。私だって、その……絢さんと似たようなことをしていましたから。私こそごめんなさい。体が入れ替わった影響もありますし。それに、昨日……先輩が言ってくれたじゃないですか。お互い様だって」
「……ああ」
「だから、私は許します。でも、元の体に戻ったら……いつもよりもちょっとだけでいいので甘えさせてください」
「……もちろんだよ」
直人さんは彩花さんの頭を優しく撫でていた。
そして、彩花さんは嬉しくなったのか、ゆっくりと直人さんのことを抱きしめる。
「はぁ、直人先輩の匂い……」
直人さんの胸に顔を埋めて、顔をすりすりしている。彩花さん……いつもはこんな感じで直人さんに甘えているのかな。可愛いな。
そうだよ、直人さんと彩花さんがこうして謝って、仲直りしたんだから……私達だってちゃんと謝らないと。
「……ごめんね、絢ちゃん。昨日はその……泣いちゃって……」
絢ちゃんの顔をしっかりと見て、私は彼女に謝った。許してもらえるかどうかは関係なく、絢ちゃんに謝りたかった。
「……気にしないでいいよ、遥香。彩花ちゃんの言うとおり、2人の体が入れ替わったこともあって仕方ないところもあるし、それに……お互い様なんだからさ」
絢ちゃんはそう言うと、優しい笑顔を浮かべながら私のことを見つめる。優しいな、絢ちゃんは。思わず涙を流してしまう。
「……うん。ありがとね、絢ちゃん」
私がそう言うと、絢ちゃんは私の耳元で、
「元の体に戻ったら……私に思い切り甘えてきて。時間が掛かってもいいから……いつもの私達になっていこうよ」
そう言うと、優しい笑みを見せてくれた。
「私も……元の体に戻ったら、絢ちゃんに甘えてきてほしいな」
絢ちゃんの顔を見て、キュンとするなんて。その感覚が懐かしいと思えてしまうことが悔しいけれど、同時に心地よかった。
ふと、相良さんはあの日の夜……水代さんとこうして仲直りしたかったんだろうなって思った。
水代さんは自殺をしてしまったけれど、誰かの体に憑依することで相良さんと会うことができる。50年や60年経ってもそのままかもしれない。
もし、氷高さんと決着を付けることができたら、そんな状況が変わってしまうのかな。やりたいことが果たされ、成仏してしまい永遠に会うことができなくなっちゃうのかな。そうなってしまったら悲しいけれど、本来であればそれが普通であり、誰かに憑依したら話せるという今のこの状況の方が特別なんだろうなぁ。
今回のことで、水代さんとの永遠の別れになるかもしれないけれど、水代さんはこの状況を変えようとして、私と彩花さんの体を入れ替えて、私達に相良さんへの協力を求めたんだ。
「そうだ、コーヒーを淹れますよ。お2人には紅茶を淹れますね」
「ありがとう、彩花」
「いえいえ」
彩花さんは直人さんから離れて、楽しげにコーヒーと紅茶を淹れている。仲直りができて嬉しいのかな。彼女の姿を見ながらそう思うのであった。
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