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Fragrance 8-タビノカオリ-
第10話『はるあやか』
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ベッドで体を温め、お腹の痛みもなくなったと遥香が言ってきたので私達は朝食の会場である1階のレストランに。昨日の夕食でも利用した場所だ。綺麗な海を見ながら食事をすることができる。
しかし、安心できたのはちょっとの間で、レストランで朝食を食べ始めてから再び遥香の体の具合が悪くなっていった。
「大丈夫? 遥香」
「うん……ちょっとだけ、ね。お手洗いに行くほどじゃないから」
「そっか。でも、無理はしないでね」
「……うん」
部屋で元気だったのは、ベッドの中で体を温めていたからかもしれない。
昨日の夕食でもレストランを利用し、ここが涼しいということは分かっていたので、私の長袖のTシャツを浴衣の下に着させたんだけれど、それでも寒いのかもしれない。
遥香のために消化のいい料理と温かい野菜スープを取ってきたけれど、どうやら食べきることはできないかな。ただ、ちょっとは食べているから、持参した胃腸薬を飲んでも大丈夫そうだ。
「とりあえず、午前中は部屋でゆっくりすることにしようか。あんなにいい部屋に泊まっているんだし、ゆっくりとする時間があってもいいんじゃないかな。まだ丸々3日間あるんだし。遥香が元気になってきたら、ホテルの中を探検するとか。どうだろう、遥香」
お兄さんがそんな提案をしてくる。
確かに、部屋も広くて綺麗だし、この大きなホテルの探検もまだしていない。まだ旅行も2日目なので、ホテルの中でゆっくりと過ごすこともありじゃないだろうか。
「私は部屋でゆっくり寝てるから、3人で海やプールで遊んできていいよ」
遥香は作り笑顔を見せながらそう言った。やっぱり、遥香ならそう言うと思ったよ。自分のせいで部屋に留まらせてしまうことが申し訳なく思っているんだろう。
「……私は遥香と一緒にいたいな。それに、海やプールをバルコニーから眺めることも十分に楽しいんだよ」
今日は晴れているので、海は綺麗だ。それをただ眺めるのもとても癒しになるし、水着の女の子を見るのも楽しいかも。それに、藍沢さんと宮原さんのことを見つけたら、それを追うというのもいいかもしれない。ただ、15階からでは見つけられるかどうかは分からないけれど。
「……絢ちゃんがそう言うんだったら」
「うん」
「じゃあ、午前中は部屋でゆっくりしようか。奈央もそれでいい?」
「私はかまわないよ」
まあ、午前中の遥香の様子を見ながら、午後をどうするかを決めればいいか。ゆっくりと寝ていれば、元気になると思うけれど。
そして、朝食を食べ終え、部屋に戻ろうとしたところで、
「……あっ、お腹痛くなってきた」
遥香、急に顔が青白くなってきた。目を覚ましたときよりも顔色が悪いかもしれない。
「そこのお手洗いに行こう」
「うん。1人で大丈夫だから、行ってくる」
「分かった」
遥香は駆け足でお手洗いへと姿を消していった。この様子だと……今日一日は部屋でゆっくりした方がいいかな。それでなくても、海やプールで遊ぶのは控えた方が良さそうだ。
「あの、お兄さん。遥香って、旅行になると体調を崩すことが多いんですか?」
「……そんなことはないかな。思い出せる限りでは1回か2回くらいかな。むしろ、俺の方がよく体調を崩して家族を困らせてたよ」
「あぁ……なるほどです」
お兄さん、昨日はウォータースライダーで気分を悪くしていたからね。
「隼人、絢ちゃん……藍沢さんと宮原さんだよ」
奈央さんがそう言うので、レストランの方を見てみると藍沢さんと宮原さんがこちらに向かって歩いていた。やっぱり、美男美女カップルだな。
「本当だ。でも、宮原さんの方、具合が悪そうだ」
「そう見えますね。遥香と同じでしょうかね」
宮原さんも顔色が悪い。部屋の寒さにやられたのか、食べ過ぎたのか。
すると、宮原さんがちょっと小走りでお手洗いの方に姿を消していった。
その直後、藍沢さんが私達のことを気付いたので、お互いに会釈をする。藍沢さん、お兄さん以上にイケメンかも――。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
お手洗いの方から遥香と宮原さんの叫び声が聞こえた。
真っ先にお手洗いの方に向かうと、そこには倒れている遥香と宮原さんの姿があった。
「遥香!」
この様子から見て、遥香と宮原さんが出会い頭にぶつかってしまったのだろう。
「彩花!」
「遥香、目を覚まして……」
起きたときから遥香の具合が悪かったので、もしかしたら、このまま目を覚まさなくなるんじゃないかと思ってしまって。2人の姿が揺らいで見えてしまっている。
「大丈夫ですよ。おそらく、2人が出会い頭にぶつかって、そのことで気を失っているだけだと思いますから」
「そう、ですか……」
「遥香、大丈夫か!」
「遥香ちゃん、それに宮原さん……」
お兄さんと奈央さんも駆けつけてくれた。
「たぶん、ここで遥香さんと彩花が出会い頭にぶつかってしまったんだと思います。彩花、小走りでお手洗いに行ったので、遥香さんのことを避けることができなかったんでしょう」
「きっと、そうでしょうね」
確かに、さっき……宮原さんはちょっと急いだ様子でお手洗いに入っていった。そんな彼女と遥香が出会ってしまったら、激しくぶつかってしまうのは仕方ないか。
「2人とも、部屋のベッドで休ませましょう」
「そうですね。奈央と絢さんは遥香のことを部屋に連れて行ってくれ。俺は藍沢さんと一緒に宮原さんのことを部屋に運ぶから」
さすがに、落ち着いた男性が2人いると助かる。私なんてまだ心がざわついていて、今の状況を理解するのでやっとだから。
「分かったわ、隼人。絢ちゃん、遥香ちゃんのことをおんぶしてくれる?」
「はい」
奈央さんに支えてもらいながら、遥香のことをおんぶする。意識がないからか遥香がとても重く感じる。昨日の水着姿のときも、えっちをしたときも遥香の体を見ているけれど、太っていたようには見えなかったな。
「俺が彩花をおんぶしますので、坂井さんは何かあったときにお願いします」
「分かりました」
お兄さんは宮原さんの方についていくのか。
そして、私達はエレベーターホールに向かう。私と藍沢さんがおんぶをしているけれど、寝ているだけだと思われているのか、周りから注目されるようなことは特にない。
エレベーターが到着し、香川さんが15階のボタンを押すと、直後に藍沢さんが10階のボタンを押した。藍沢さんと宮原さんは10階に泊まっているのか。
10階に到着すると、お兄さんと藍沢さん、宮原さんがエレベーターを降りる。
「じゃあ、すぐに戻るから。さあ、行きましょう」
「はい」
3人の姿が見えなくなったところで、エレベーターの扉が閉まる。
「宮原さん、大丈夫だといいんですが」
「きっと大丈夫だよ。それに、彼女には藍沢さんっていうしっかりとした彼氏さんがついているんだし」
「……そうですね」
藍沢さん、年齢がいくつなのか分からないけど、とてもしっかりとした人だ。宮原さんの方は高校生くらいに見えるし、そんな彼女が藍沢さんのことを先輩と言っていたから、2人とも高校生かもしれないな。
「着いたよ、絢ちゃん」
「あっ、はい」
エレベーターは15階に到着した。
奈央さんに部屋の1501号室のカードキーを渡し、部屋の扉を開けてもらう。私達の荷物が置いてある部屋を見るととても安心する。
「遥香、部屋に着いたよ」
小さめの声でそう言うけれど、まだ意識を取り戻していないからか、遥香からの返事はなかった。
遥香をベッドの上に寝かせて、ゆっくりと布団を掛ける。寝息が聞こえるあたり、ぐっすりと眠れているようだ。
「遥香ちゃん、ぐっすりと眠っているみたいだね」
「そうですね。きっかけアレですけど、眠ることができていることには安心しました」
お腹が痛かったら、なかなか眠れないからね。
「絢ちゃん、紅茶でも淹れようか? 温かいのでいい?」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
今は遥香が目を覚ますのを待つことしかできないか。
奈央さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、遥香が目を覚ます瞬間を待つのであった。
しかし、安心できたのはちょっとの間で、レストランで朝食を食べ始めてから再び遥香の体の具合が悪くなっていった。
「大丈夫? 遥香」
「うん……ちょっとだけ、ね。お手洗いに行くほどじゃないから」
「そっか。でも、無理はしないでね」
「……うん」
部屋で元気だったのは、ベッドの中で体を温めていたからかもしれない。
昨日の夕食でもレストランを利用し、ここが涼しいということは分かっていたので、私の長袖のTシャツを浴衣の下に着させたんだけれど、それでも寒いのかもしれない。
遥香のために消化のいい料理と温かい野菜スープを取ってきたけれど、どうやら食べきることはできないかな。ただ、ちょっとは食べているから、持参した胃腸薬を飲んでも大丈夫そうだ。
「とりあえず、午前中は部屋でゆっくりすることにしようか。あんなにいい部屋に泊まっているんだし、ゆっくりとする時間があってもいいんじゃないかな。まだ丸々3日間あるんだし。遥香が元気になってきたら、ホテルの中を探検するとか。どうだろう、遥香」
お兄さんがそんな提案をしてくる。
確かに、部屋も広くて綺麗だし、この大きなホテルの探検もまだしていない。まだ旅行も2日目なので、ホテルの中でゆっくりと過ごすこともありじゃないだろうか。
「私は部屋でゆっくり寝てるから、3人で海やプールで遊んできていいよ」
遥香は作り笑顔を見せながらそう言った。やっぱり、遥香ならそう言うと思ったよ。自分のせいで部屋に留まらせてしまうことが申し訳なく思っているんだろう。
「……私は遥香と一緒にいたいな。それに、海やプールをバルコニーから眺めることも十分に楽しいんだよ」
今日は晴れているので、海は綺麗だ。それをただ眺めるのもとても癒しになるし、水着の女の子を見るのも楽しいかも。それに、藍沢さんと宮原さんのことを見つけたら、それを追うというのもいいかもしれない。ただ、15階からでは見つけられるかどうかは分からないけれど。
「……絢ちゃんがそう言うんだったら」
「うん」
「じゃあ、午前中は部屋でゆっくりしようか。奈央もそれでいい?」
「私はかまわないよ」
まあ、午前中の遥香の様子を見ながら、午後をどうするかを決めればいいか。ゆっくりと寝ていれば、元気になると思うけれど。
そして、朝食を食べ終え、部屋に戻ろうとしたところで、
「……あっ、お腹痛くなってきた」
遥香、急に顔が青白くなってきた。目を覚ましたときよりも顔色が悪いかもしれない。
「そこのお手洗いに行こう」
「うん。1人で大丈夫だから、行ってくる」
「分かった」
遥香は駆け足でお手洗いへと姿を消していった。この様子だと……今日一日は部屋でゆっくりした方がいいかな。それでなくても、海やプールで遊ぶのは控えた方が良さそうだ。
「あの、お兄さん。遥香って、旅行になると体調を崩すことが多いんですか?」
「……そんなことはないかな。思い出せる限りでは1回か2回くらいかな。むしろ、俺の方がよく体調を崩して家族を困らせてたよ」
「あぁ……なるほどです」
お兄さん、昨日はウォータースライダーで気分を悪くしていたからね。
「隼人、絢ちゃん……藍沢さんと宮原さんだよ」
奈央さんがそう言うので、レストランの方を見てみると藍沢さんと宮原さんがこちらに向かって歩いていた。やっぱり、美男美女カップルだな。
「本当だ。でも、宮原さんの方、具合が悪そうだ」
「そう見えますね。遥香と同じでしょうかね」
宮原さんも顔色が悪い。部屋の寒さにやられたのか、食べ過ぎたのか。
すると、宮原さんがちょっと小走りでお手洗いの方に姿を消していった。
その直後、藍沢さんが私達のことを気付いたので、お互いに会釈をする。藍沢さん、お兄さん以上にイケメンかも――。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
お手洗いの方から遥香と宮原さんの叫び声が聞こえた。
真っ先にお手洗いの方に向かうと、そこには倒れている遥香と宮原さんの姿があった。
「遥香!」
この様子から見て、遥香と宮原さんが出会い頭にぶつかってしまったのだろう。
「彩花!」
「遥香、目を覚まして……」
起きたときから遥香の具合が悪かったので、もしかしたら、このまま目を覚まさなくなるんじゃないかと思ってしまって。2人の姿が揺らいで見えてしまっている。
「大丈夫ですよ。おそらく、2人が出会い頭にぶつかって、そのことで気を失っているだけだと思いますから」
「そう、ですか……」
「遥香、大丈夫か!」
「遥香ちゃん、それに宮原さん……」
お兄さんと奈央さんも駆けつけてくれた。
「たぶん、ここで遥香さんと彩花が出会い頭にぶつかってしまったんだと思います。彩花、小走りでお手洗いに行ったので、遥香さんのことを避けることができなかったんでしょう」
「きっと、そうでしょうね」
確かに、さっき……宮原さんはちょっと急いだ様子でお手洗いに入っていった。そんな彼女と遥香が出会ってしまったら、激しくぶつかってしまうのは仕方ないか。
「2人とも、部屋のベッドで休ませましょう」
「そうですね。奈央と絢さんは遥香のことを部屋に連れて行ってくれ。俺は藍沢さんと一緒に宮原さんのことを部屋に運ぶから」
さすがに、落ち着いた男性が2人いると助かる。私なんてまだ心がざわついていて、今の状況を理解するのでやっとだから。
「分かったわ、隼人。絢ちゃん、遥香ちゃんのことをおんぶしてくれる?」
「はい」
奈央さんに支えてもらいながら、遥香のことをおんぶする。意識がないからか遥香がとても重く感じる。昨日の水着姿のときも、えっちをしたときも遥香の体を見ているけれど、太っていたようには見えなかったな。
「俺が彩花をおんぶしますので、坂井さんは何かあったときにお願いします」
「分かりました」
お兄さんは宮原さんの方についていくのか。
そして、私達はエレベーターホールに向かう。私と藍沢さんがおんぶをしているけれど、寝ているだけだと思われているのか、周りから注目されるようなことは特にない。
エレベーターが到着し、香川さんが15階のボタンを押すと、直後に藍沢さんが10階のボタンを押した。藍沢さんと宮原さんは10階に泊まっているのか。
10階に到着すると、お兄さんと藍沢さん、宮原さんがエレベーターを降りる。
「じゃあ、すぐに戻るから。さあ、行きましょう」
「はい」
3人の姿が見えなくなったところで、エレベーターの扉が閉まる。
「宮原さん、大丈夫だといいんですが」
「きっと大丈夫だよ。それに、彼女には藍沢さんっていうしっかりとした彼氏さんがついているんだし」
「……そうですね」
藍沢さん、年齢がいくつなのか分からないけど、とてもしっかりとした人だ。宮原さんの方は高校生くらいに見えるし、そんな彼女が藍沢さんのことを先輩と言っていたから、2人とも高校生かもしれないな。
「着いたよ、絢ちゃん」
「あっ、はい」
エレベーターは15階に到着した。
奈央さんに部屋の1501号室のカードキーを渡し、部屋の扉を開けてもらう。私達の荷物が置いてある部屋を見るととても安心する。
「遥香、部屋に着いたよ」
小さめの声でそう言うけれど、まだ意識を取り戻していないからか、遥香からの返事はなかった。
遥香をベッドの上に寝かせて、ゆっくりと布団を掛ける。寝息が聞こえるあたり、ぐっすりと眠れているようだ。
「遥香ちゃん、ぐっすりと眠っているみたいだね」
「そうですね。きっかけアレですけど、眠ることができていることには安心しました」
お腹が痛かったら、なかなか眠れないからね。
「絢ちゃん、紅茶でも淹れようか? 温かいのでいい?」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
今は遥香が目を覚ますのを待つことしかできないか。
奈央さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、遥香が目を覚ます瞬間を待つのであった。
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