ハナノカオリ

桜庭かなめ

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Fragrance 7-ナツノカオリ-

第20話『最終日』

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 7月26日、金曜日。
 合宿最終日。昨日から引き続き、今日も曇り。昼過ぎから所によってはゲリラ豪雨になる予報になっている。
 今日は最終日なので昼過ぎまで練習をして、夕方には天羽女子に到着する予定となっている。
 恩田さんについては、一晩経って熱は下がったものの、体調が優れないということで練習には参加しないことになった。

「恩田さん、体調が戻らなかったか」
「そうみたいですね」
「まあ、練習ができるくらいに体調が良くなっていても、これまでのことを考えると私達の前に顔を出したくないのかもしれないな……」
「私も恩田さんと同じ立場だったら、参加するのを躊躇ってしまうかもしれません」
「そうだな。それに、インターハイの直前だし、今の恩田さんには精神的に負担になるようなことはなるべく避けた方がいいだろうね」

 と、黒崎先輩は恩田さんが今日の練習に参加しないことに対して、理解を示した。私も同じ意見だ。一緒に練習できないことは残念だけど。
 そして、恩田さんがいない中で短距離走、そしてリレーの練習を行なった。
 昼休みになり、恩田さんとちょっと話したいと思って彼女の部屋の前まで行くけれど、体調が回復していないからか、ドアをノックしても返事がなかった。
 午後になり、合宿が終了したときの両校の挨拶でようやく恩田さんの顔を見ることができたけれど、彼女の顔色は悪く、終始俯いていた。
 解散してバスに乗る前に恩田さんに一声掛けようと思ったけれど、彼女はすぐさまに八神高校のバスに乗ってしまったので、結局言葉を交わすことはできなかった。
 インターハイ前の練習という意味では今回の合宿は充実していたけど、恩田さんのことを考えると心残りが生じてしまった合宿だった。

「絢、色々とあったけど、今はインターハイの方に気持ちを向けていこう」
「……そうですね」

 恩田さんのことは頭から離れないけれど、徐々にインターハイの方へ気持ちを向けていかないと。勝てるレースも勝てなくなる。
 帰りのバスも黒崎先輩の隣の席に座る。私が窓側なのも同じだ。

「そういえば、黒崎先輩は草薙さんに告白したんですか?」
「……そんなわけないだろう。付き合うことになったら、バスに乗る前にキスを一度くらいしているよ」
「そ、そうですか……」
「教室で堂々とキスをして、坂井さんの恋人宣言をした絢にそんな反応されたくないんだけれどな」
「それは……そうですね」

 あのときはクラスメイトや同学年の生徒だけ見ていた前だったからであって、他校の生徒の前でキスなんてできない。

「まあ、絢は天羽女子に帰ったら坂井さんと思う存分キスしろ」
「……そのつもりですけどね」

 そうだ、遥香に何時頃に天羽女子に着くかどうか連絡しておかないと。今は午後2時過ぎだから、多分……4時くらいまでには天羽女子に着くだろう。

『遥香。今、天羽女子に向かって出発したよ。天羽女子には4時くらいに着くと思うから』

 よし、送信……っと。これで遥香が読めば大丈夫だろう。
 そして、すぐに送ったメッセージに既読と表示され、

『分かったよ。待ってるね』

 と、遥香からメッセージが返ってきた。

「いつ天羽女子へ帰るっていうメールを坂井さんに送っていたのかな?」
「どうして分かったんですか」
「坂井さんが話題に出ているタイミングでメールをするとしたら、その相手は彼女くらいしかいないだろう。それに、これから帰るんだから何時に帰るのか伝えているんじゃないかなぁ、って。行くときだって見送ってくれていたからね」
「凄いですね。先輩、頭いいなぁ……」
「……そう思える絢は頭が悪いんじゃないか」
「し、失礼ですね! 赤点は取りませんでしたよ!」

 試験前に遥香に勉強を教えてもらったおかげ、なんだけれどね。赤点を一つでも取っていたら、インターハイが終わったら赤点課題に追われていたところだよ。遥香達と旅行に行けなくなっていたかもしれない。

「そっか。じゃあ、インターハイでも赤点を取らないように頑張りなよ」
「もちろんですよ。というか、目指すは優勝ですから」
「うん、いい心構えだね。今の絢の言葉を聞いて安心できたからか、何だか眠くなってきちゃったよ」
「そうですか。ゆっくりと休んでください」

 私も眠くなってきた。5日間の練習の疲れが溜まったからかな。

「じゃあ、お言葉に甘えて。私は寝るよ。起きていたらでいいから、天羽女子の近くになったら起こしてね」
「はい、分かりました」

 そう言って、黒崎先輩はジャージのポケットから取り出したアイマスクを付けて眠りに入ってしまった。

「……私も寝るか」

 LINEで遥香とメッセージのやり取りをするのもありだけれど、2時間も経てば会えるんだから話す楽しみを取っておきたい。
 黒崎先輩のようにアイマスクは持っていないので、カーテンを閉めて私もしばしの眠りにつくのであった。
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