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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第10話『遥香彼方』
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初めて私よりも速く走れた嬉しさからなのか、練習が終わった後も恩田さんは私と一緒にいる時間が多く、夕食の今も楽しそうに私に話している。普通なら少しずつメンタルも回復していって、明日からまた頑張ろうと思えるんだけれど……。
――じっ。
少し遠くの方から月岡さんが私達の方を凝視しているので、なかなか恩田さんと楽しくお喋りをすることができない。
「どうしたの? 原田さん、元気が無さそうだけれど……」
「……午後になって恩田さんに負け続けるようになったことが相当響いているみたいだ。明日から頑張らないとな……」
と、適当にごまかす。
「原田さん、午後になってから調子が悪そうだったから、それが原因かも。今夜はゆっくりと休んだ方がいいわね」
恩田さんはあくまでも私が午前中よりも調子が悪かったから、私が勝てたんだと励ましてくれている。何だか申し訳ないなぁ。
「……よし」
月岡さんに監視されている状況だけれども、そのことで恩田さんに気を遣わせてはいけない。せっかく一緒に合宿しているんだから楽しまないと。
「そういえば、恩田さんって双子のお姉さんがいるんだよね」
「そうだけど、彩葉とかから聞いたの?」
「ううん、天羽女子に通っている子から聞いたんだよ。その子が恩田さんと双子のお姉さんとお友達で、小学校時代によく遊んでいたってLINEでメッセージが来て」
最初こそ首を傾げていた恩田さんだったけれど、今の私の言葉にピンと来たのか彼女ははっとした表情になる。
「原田さんにLINEで教えてくれたその子の名前……もしかして、坂井遥香っていう女の子じゃない?」
「そうそう!」
「へえ、遥香と知り合いだったのかぁ……あいつとは小学生の時に、沙良っていう姉と一緒に遥香の家に行ってよく遊んでたんだよ。別々の中学に進学してからは、あたしが陸上部に入って忙しくなったこともあって、全然会わなくなっちまったけれど……」
そう言いながらも、恩田さんは楽しそうな表情をしている。遥香とのいい思い出がたくさんあったという何よりの証拠だ。
そういえば、遥香の小学生の時の話はあまり聞いたことがないな。まさか、恩田さん姉妹とよく遊んでいたなんて。
「あいつは沙良に似て優しい女の子だったな。どうだ、あいつは高校でちゃんとやっていけているか? たまにおっちょこちょいなところがあるから、小学生の時は心配になるときがあってさ」
「遥香は優しい女の子だよ。おっちょこちょいなところはあまり見たことはないけれど、遥香にむしろ引っ張ってもらっている感じだよ。そういう女の子が天羽女子には結構いるよ。しっかりした女の子だと思ってる」
遥香と出会ってからの約4ヶ月間。私は遥香に救ってもらって、彼女の恋人となった。それからも遥香にはいつも支えてもらって、助けてもらって。本当に幸せ者だと思う。そんな彼女に助けてもらった人が数え切れないほどいることを知っている。
「……そっか。じゃあ、遥香は楽しく高校生活を送れているんだ」
「そうだね。部活は茶道部だよ」
「……あいつ、昔からお菓子とか甘い物が好きだったもんなぁ。きっと、甘い物が食べることができるから茶道部に入部したと思うよ」
「どうして分かるの?」
「沙良と同じだから。沙良も茶道部なんだよ」
「……なるほど」
遥香と沙良さんは結構似ている部分があるのかもしれない。一度、沙良さんという女の子に会ってみたいな。
それにしても、恩田さん……遥香をあいつ呼ばわりするなんて。相当気心が知れた仲なんだなぁ。遥香の恋人としてちょっと嫉妬してしまう。
「そういえば、遥香からどうしてそんな連絡が来たの? 多分、あたしと沙良が八神高校に行ったこと、遥香は知らないと思うんだけれどなぁ」
「昨日のように沙良さんから電話があったみたいだよ。恩田さんが天羽女子と陸上部の合宿をしているって言われたから、もしかして……と思って私にメッセージをくれたんだ。遥香、午後に沙良さんと久しぶりに会ったって」
「まじか、沙良……1人で遥香の家に行ったんだ。いや、遥香の家に行くときは必ずあたしと一緒に行っていたからさ。まあ、高校生にもなったし、今は夏休みだから1人で行く方が自然なんだけれどね」
でも、あたしも会いたいなぁ……と恩田さんは呟く。中学生の時に全然会っていないとなると、3年くらいは遥香と会っていないことになるよな。合宿が終わって、インターハイが終わったときくらいに遥香や沙良さんと一緒に遊びたいな。
「そういえば、原田さん、遥香のことをよく知っているみたいだけれど、遥香とクラスメイトなの?」
「ああ、そうだよ。あと……遥香と付き合っているんだ。付き合い始めてから3ヶ月くらいなんだけれどね」
「……へえ、そうなんだ。それなら、最近の遥香のことをよく知っていてもおかしくないよね。そっか、遥香と付き合っているんだ……」
そう言うと、恩田さんの食事の手が急に止まる。それまでの笑顔もすっと消えて。こんな表情、今まで見たことがない。
「……ごめん。ちょっとやらきゃいけないことを思い出したから、部屋に戻るね」
そう言うと、恩田さんは完食していないものの、食器を返却コーナーに戻して、食堂を立ち去ってしまった。遥香と付き合っていると話した瞬間に様子が変わったから、おそらく遥香に絡むことが原因だと思うけれど。
月岡さんの方を見てみると、恩田さんが急に食堂から立ち去ったことが予想外だったのか彼女は心配そうな表情をしていたのであった。
――じっ。
少し遠くの方から月岡さんが私達の方を凝視しているので、なかなか恩田さんと楽しくお喋りをすることができない。
「どうしたの? 原田さん、元気が無さそうだけれど……」
「……午後になって恩田さんに負け続けるようになったことが相当響いているみたいだ。明日から頑張らないとな……」
と、適当にごまかす。
「原田さん、午後になってから調子が悪そうだったから、それが原因かも。今夜はゆっくりと休んだ方がいいわね」
恩田さんはあくまでも私が午前中よりも調子が悪かったから、私が勝てたんだと励ましてくれている。何だか申し訳ないなぁ。
「……よし」
月岡さんに監視されている状況だけれども、そのことで恩田さんに気を遣わせてはいけない。せっかく一緒に合宿しているんだから楽しまないと。
「そういえば、恩田さんって双子のお姉さんがいるんだよね」
「そうだけど、彩葉とかから聞いたの?」
「ううん、天羽女子に通っている子から聞いたんだよ。その子が恩田さんと双子のお姉さんとお友達で、小学校時代によく遊んでいたってLINEでメッセージが来て」
最初こそ首を傾げていた恩田さんだったけれど、今の私の言葉にピンと来たのか彼女ははっとした表情になる。
「原田さんにLINEで教えてくれたその子の名前……もしかして、坂井遥香っていう女の子じゃない?」
「そうそう!」
「へえ、遥香と知り合いだったのかぁ……あいつとは小学生の時に、沙良っていう姉と一緒に遥香の家に行ってよく遊んでたんだよ。別々の中学に進学してからは、あたしが陸上部に入って忙しくなったこともあって、全然会わなくなっちまったけれど……」
そう言いながらも、恩田さんは楽しそうな表情をしている。遥香とのいい思い出がたくさんあったという何よりの証拠だ。
そういえば、遥香の小学生の時の話はあまり聞いたことがないな。まさか、恩田さん姉妹とよく遊んでいたなんて。
「あいつは沙良に似て優しい女の子だったな。どうだ、あいつは高校でちゃんとやっていけているか? たまにおっちょこちょいなところがあるから、小学生の時は心配になるときがあってさ」
「遥香は優しい女の子だよ。おっちょこちょいなところはあまり見たことはないけれど、遥香にむしろ引っ張ってもらっている感じだよ。そういう女の子が天羽女子には結構いるよ。しっかりした女の子だと思ってる」
遥香と出会ってからの約4ヶ月間。私は遥香に救ってもらって、彼女の恋人となった。それからも遥香にはいつも支えてもらって、助けてもらって。本当に幸せ者だと思う。そんな彼女に助けてもらった人が数え切れないほどいることを知っている。
「……そっか。じゃあ、遥香は楽しく高校生活を送れているんだ」
「そうだね。部活は茶道部だよ」
「……あいつ、昔からお菓子とか甘い物が好きだったもんなぁ。きっと、甘い物が食べることができるから茶道部に入部したと思うよ」
「どうして分かるの?」
「沙良と同じだから。沙良も茶道部なんだよ」
「……なるほど」
遥香と沙良さんは結構似ている部分があるのかもしれない。一度、沙良さんという女の子に会ってみたいな。
それにしても、恩田さん……遥香をあいつ呼ばわりするなんて。相当気心が知れた仲なんだなぁ。遥香の恋人としてちょっと嫉妬してしまう。
「そういえば、遥香からどうしてそんな連絡が来たの? 多分、あたしと沙良が八神高校に行ったこと、遥香は知らないと思うんだけれどなぁ」
「昨日のように沙良さんから電話があったみたいだよ。恩田さんが天羽女子と陸上部の合宿をしているって言われたから、もしかして……と思って私にメッセージをくれたんだ。遥香、午後に沙良さんと久しぶりに会ったって」
「まじか、沙良……1人で遥香の家に行ったんだ。いや、遥香の家に行くときは必ずあたしと一緒に行っていたからさ。まあ、高校生にもなったし、今は夏休みだから1人で行く方が自然なんだけれどね」
でも、あたしも会いたいなぁ……と恩田さんは呟く。中学生の時に全然会っていないとなると、3年くらいは遥香と会っていないことになるよな。合宿が終わって、インターハイが終わったときくらいに遥香や沙良さんと一緒に遊びたいな。
「そういえば、原田さん、遥香のことをよく知っているみたいだけれど、遥香とクラスメイトなの?」
「ああ、そうだよ。あと……遥香と付き合っているんだ。付き合い始めてから3ヶ月くらいなんだけれどね」
「……へえ、そうなんだ。それなら、最近の遥香のことをよく知っていてもおかしくないよね。そっか、遥香と付き合っているんだ……」
そう言うと、恩田さんの食事の手が急に止まる。それまでの笑顔もすっと消えて。こんな表情、今まで見たことがない。
「……ごめん。ちょっとやらきゃいけないことを思い出したから、部屋に戻るね」
そう言うと、恩田さんは完食していないものの、食器を返却コーナーに戻して、食堂を立ち去ってしまった。遥香と付き合っていると話した瞬間に様子が変わったから、おそらく遥香に絡むことが原因だと思うけれど。
月岡さんの方を見てみると、恩田さんが急に食堂から立ち去ったことが予想外だったのか彼女は心配そうな表情をしていたのであった。
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