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Fragrance 7-ナツノカオリ-
第5話『恩田真紀』
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食堂での私立八神高等学校の顔合わせ。
お互いの高校の生徒と親睦を深めること、特に一緒に練習する生徒と打ち解けるという意味で競技ごとに集まって一緒に食事をすることになった。
「短距離はここかしら」
「はい、そうです」
黒髪のショートヘアの八神高校の女子生徒が、私の隣に座ってくる。この子がもしかして草薙さんが言っていた期待の1年生なのかな。
「あたし、恩田真紀って言うの。あなた、原田絢さんよね。あたしと同じ1年生の」
「私のこと、知ってたんだ」
やっぱり、1年生だったんだ。
「うん。100mは予選2位だったけれど、200mでは1位で通過したからね。ちょっとした有名人よ、あなたは。まあ、さっきの反応を見る限り……あたしのことは知らなかったみたいね」
「ごめんなさい。今、初めて知ったよ」
「あたしはギリギリでインターハイに出場できたからね。それでも、草薙先輩があたしのことを期待してくれているから頑張らないと」
ということは、この子が草薙さんの言っていた期待の1年生だったんだ。恩田真紀さん、背は小さめだけれど、インターハイに出場するだけあって相当な速いタイムで走るはず。この子が一番の強敵になる可能性は大かも。
「これからよろしくね、原田さん」
「うん、よろしく、恩田さん」
そして、私達は握手を交わす。
恩田さん、明るくて気さくそうな子だな。昼食のカレーを食べているときは、陸上のことばかり話すかと思ったら学校のことや友達のこと、彼女の好きな音楽のことなどを話した。話していく中で結構気の合う部分が多いことが分かった。スマホの番号とメアド、LINEのアカウントを教え合う。
昼食が終わり、少し休んだ後、午後はさっそく本番を想定した練習が始まる。黒崎先輩の指導の下で。
恩田さんは私と全く同じで100mと200mに出場し、400mリレーは補欠選手として登録されている。よって、合宿中は私と最も一緒に練習することになる。
「さすがは原田さん。結構早いわね」
「いやいや、そんな。恩田さんこそ結構早いじゃないか」
正直、甘く見ていた。
見た感じ、私と背の差が15cmから20cmくらいあるから、彼女の足はさほど速くないと思っていた。けれど、100mを一度走ってみると、私と彼女の速度はほとんど差がなかった。
「これは……油断をしていたら負けるな」
「油断をしていなくても勝ってやるわよ。最近、結構調子がいいんだ」
「一番のライバルはやっぱり恩田さんだね」
「ふふっ、あたしは予選の走りを見てから、ずっと原田さんがライバルだと思っていたけれどね」
とても光栄なことを笑顔で言ってくれる。
しっかし、恩田さんは結構勝ち気な性格なのかも。けれど、その性格が功を奏しているのは今の走りでも分かる。調子がいいっていうことも。もしかしたら、明日、明後日……と合宿が進んでいく中で彼女に追い抜かれてしまうかもしれない。彼女にライバルとは言ったけれど、脅威、っていう方が正しいのかも。
「原田さんみたいに背が高かったら良かったのにな。そうすれば、もっと早く走れるだろうし、女の子にもモテるんだろうね」
「ど、どうなんだろう。っていうか、女の子にモテるって……」
「練習が始まる前に、うちの部員に色々と聞かれたわよ、あなたのことについて」
「そうなんだ。何だか私の知らないところで、私のことを話されると……やっぱり、アイドルになった気分だなぁ」
特にそれが悪いとは思っていない。ただ、私には遥香という恋人がいるから、合宿中に誰かに言い寄られても絶対に動じない……はず。
「……自然にそういうことを言えるところがいいのかもね。あたしには背の高い女の子にしか思えないんだけどなぁ。べ、別に原田さんを悪く言っているわけじゃないから誤解しないでよね」
「いいよ。ただ、恩田さんみたいに初対面でも、こうやって接してくれるのがとても嬉しいんだ」
私がそう言うと、恩田さんの頬が若干赤くなった。彼女は水筒をゴクゴクと飲む。
「……あ、あなたが人気な理由がちょっと分かった気がする」
「ははっ、そっか」
「こんな風に騒がれて、あなたは何とも思わないの?」
「……私には大切な人がいるからね」
「それって、恋人?」
「うん。女の子なんだけれどね」
恋人の存在を口にしたので、遥香の笑顔が思い浮かぶ。
あぁ、遥香は今頃、何をしているのかな。家でゆっくりとした時間を過ごしているのだろうか。それとも、どこかに遊びに出かけているのか。夏休みの課題をしていたら……インターハイが終わった後に写させてもらおう。
「………へえ、原田さんって女の子の恋人がいるんだ」
恩田さんは私のことを見ずにそんなことを言う。
「でも、原田さんはイケメンだし男の子よりも女の子と付き合う方が合ってるかも」
「イメージ通りって感じかな」
「ええ。むしろ、男の人と付き合ったら……どっちが彼氏なのか分からなくなるんじゃない。可愛い人と付き合いそう」
恩田さんは可愛らしい笑顔をしながらそう言ってくれるけれど、褒められたのか貶されたのか分からない。
けれど、男の人と付き合うとしたら……遥香みたいな可愛らしい人かな。それか、遥香のお兄さんのような人。
「絢! 恩田さん! そろそろ200mの練習を始めよう!」
『分かりました!』
そして、恩田さんと一緒に200mの練習をする。100mのときと同じように、200mも私の方が速かったけれど、その差はほとんどなかった。気を抜いていたらあっという間に恩田さんに追い抜かれてしまう。彼女と走ることがとてもいい刺激になる。
とても充実した中で、初日の練習が終わるのであった。
お互いの高校の生徒と親睦を深めること、特に一緒に練習する生徒と打ち解けるという意味で競技ごとに集まって一緒に食事をすることになった。
「短距離はここかしら」
「はい、そうです」
黒髪のショートヘアの八神高校の女子生徒が、私の隣に座ってくる。この子がもしかして草薙さんが言っていた期待の1年生なのかな。
「あたし、恩田真紀って言うの。あなた、原田絢さんよね。あたしと同じ1年生の」
「私のこと、知ってたんだ」
やっぱり、1年生だったんだ。
「うん。100mは予選2位だったけれど、200mでは1位で通過したからね。ちょっとした有名人よ、あなたは。まあ、さっきの反応を見る限り……あたしのことは知らなかったみたいね」
「ごめんなさい。今、初めて知ったよ」
「あたしはギリギリでインターハイに出場できたからね。それでも、草薙先輩があたしのことを期待してくれているから頑張らないと」
ということは、この子が草薙さんの言っていた期待の1年生だったんだ。恩田真紀さん、背は小さめだけれど、インターハイに出場するだけあって相当な速いタイムで走るはず。この子が一番の強敵になる可能性は大かも。
「これからよろしくね、原田さん」
「うん、よろしく、恩田さん」
そして、私達は握手を交わす。
恩田さん、明るくて気さくそうな子だな。昼食のカレーを食べているときは、陸上のことばかり話すかと思ったら学校のことや友達のこと、彼女の好きな音楽のことなどを話した。話していく中で結構気の合う部分が多いことが分かった。スマホの番号とメアド、LINEのアカウントを教え合う。
昼食が終わり、少し休んだ後、午後はさっそく本番を想定した練習が始まる。黒崎先輩の指導の下で。
恩田さんは私と全く同じで100mと200mに出場し、400mリレーは補欠選手として登録されている。よって、合宿中は私と最も一緒に練習することになる。
「さすがは原田さん。結構早いわね」
「いやいや、そんな。恩田さんこそ結構早いじゃないか」
正直、甘く見ていた。
見た感じ、私と背の差が15cmから20cmくらいあるから、彼女の足はさほど速くないと思っていた。けれど、100mを一度走ってみると、私と彼女の速度はほとんど差がなかった。
「これは……油断をしていたら負けるな」
「油断をしていなくても勝ってやるわよ。最近、結構調子がいいんだ」
「一番のライバルはやっぱり恩田さんだね」
「ふふっ、あたしは予選の走りを見てから、ずっと原田さんがライバルだと思っていたけれどね」
とても光栄なことを笑顔で言ってくれる。
しっかし、恩田さんは結構勝ち気な性格なのかも。けれど、その性格が功を奏しているのは今の走りでも分かる。調子がいいっていうことも。もしかしたら、明日、明後日……と合宿が進んでいく中で彼女に追い抜かれてしまうかもしれない。彼女にライバルとは言ったけれど、脅威、っていう方が正しいのかも。
「原田さんみたいに背が高かったら良かったのにな。そうすれば、もっと早く走れるだろうし、女の子にもモテるんだろうね」
「ど、どうなんだろう。っていうか、女の子にモテるって……」
「練習が始まる前に、うちの部員に色々と聞かれたわよ、あなたのことについて」
「そうなんだ。何だか私の知らないところで、私のことを話されると……やっぱり、アイドルになった気分だなぁ」
特にそれが悪いとは思っていない。ただ、私には遥香という恋人がいるから、合宿中に誰かに言い寄られても絶対に動じない……はず。
「……自然にそういうことを言えるところがいいのかもね。あたしには背の高い女の子にしか思えないんだけどなぁ。べ、別に原田さんを悪く言っているわけじゃないから誤解しないでよね」
「いいよ。ただ、恩田さんみたいに初対面でも、こうやって接してくれるのがとても嬉しいんだ」
私がそう言うと、恩田さんの頬が若干赤くなった。彼女は水筒をゴクゴクと飲む。
「……あ、あなたが人気な理由がちょっと分かった気がする」
「ははっ、そっか」
「こんな風に騒がれて、あなたは何とも思わないの?」
「……私には大切な人がいるからね」
「それって、恋人?」
「うん。女の子なんだけれどね」
恋人の存在を口にしたので、遥香の笑顔が思い浮かぶ。
あぁ、遥香は今頃、何をしているのかな。家でゆっくりとした時間を過ごしているのだろうか。それとも、どこかに遊びに出かけているのか。夏休みの課題をしていたら……インターハイが終わった後に写させてもらおう。
「………へえ、原田さんって女の子の恋人がいるんだ」
恩田さんは私のことを見ずにそんなことを言う。
「でも、原田さんはイケメンだし男の子よりも女の子と付き合う方が合ってるかも」
「イメージ通りって感じかな」
「ええ。むしろ、男の人と付き合ったら……どっちが彼氏なのか分からなくなるんじゃない。可愛い人と付き合いそう」
恩田さんは可愛らしい笑顔をしながらそう言ってくれるけれど、褒められたのか貶されたのか分からない。
けれど、男の人と付き合うとしたら……遥香みたいな可愛らしい人かな。それか、遥香のお兄さんのような人。
「絢! 恩田さん! そろそろ200mの練習を始めよう!」
『分かりました!』
そして、恩田さんと一緒に200mの練習をする。100mのときと同じように、200mも私の方が速かったけれど、その差はほとんどなかった。気を抜いていたらあっという間に恩田さんに追い抜かれてしまう。彼女と走ることがとてもいい刺激になる。
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