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Fragrance 5-ミヤビナカオリ-
第18話『一歩の勇気』
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遥香のスマートフォンから、榎本先輩との会話を聞いた。そのおかげで、一連の出来事に潜んでいたことがほとんど分かった。
西垣先輩も雅先輩のことが好きなのか。雅先輩への恋心を押さえ込むためなら、昨日の雅先輩に対する態度も納得ができる。
雅先輩は西垣先輩と距離を近づけたい。しかし、皮肉なことに西垣先輩は雅先輩とどうしても距離を取っておきたい。
『これからどうすればいいのか。お兄ちゃんはもう考えがあるんでしょう?』
「ああ、1つだけある。雅先輩が西垣先輩に好きだという気持ちを伝えることだ」
西垣先輩が雅先輩のことが好きであることを知ってから、これしか方法は思いつかなかったし、これが一番いい方法だと思う。距離を取りたい西垣先輩に対して、こちらから向かっていくしかない。
『……やっぱり、お兄ちゃんもそう考えているんだね。私も神崎さんが西垣さんに気持ちを伝えるべきだと思った』
「……そうか。絢さんと付き合っている遥香もそう言うなら、それが一番だろう」
『え、えへへっ』
スマートフォンから遥香の可愛らしい笑い声が聞こえる。
ただ、俺達周りの人間が告白すべきだと思っていても、告白する本人である雅先輩がその気でないと意味がない。
俺は自分の隣でベッタリとくっついている雅先輩に問いかける。
「……今までの話、聞いていましたよね。西垣先輩にもう一度、告白してみませんか?」
今日の雅先輩は一度も涙を流すことはなかったが、笑うこともなく、怒ることもなくずっと無表情だった。しかし、
「……わ、私……」
西垣先輩が自分のことが好きだったという榎本先輩の話を聞いてから、雅先輩の様子が変わった。驚いていたり、とまどっていたり。彼氏がいたという自分の知らない事実に対してはえっ、と声を漏らしていた。
「……怖いよ」
「雅先輩……」
「怖いよ! 告白したらまたあの時みたいに、舞に辛い想いをさせちゃうよ! だって、舞には彼氏がいるじゃない。私を諦めるためであっても、舞には付き合っている人がいるじゃない! それなのに告白なんてできないよ……」
西垣先輩の想いがどうであれ、この状況を自分の告白によって壊したくないのか。西垣先輩には付き合っている異性がいる。その人から西垣先輩を奪ってしまうことになるからだろう。
「でも、西垣先輩が今までしてきたことは、全て雅先輩への好意があったからです。榎本先輩だって言っていたじゃないですか。昨日のことも、雅先輩と決定的な距離を作るためだったと。今も距離ができてしまっただけで、西垣先輩は雅先輩のことが好きなんだと思いますよ」
「隼人君……」
「西垣先輩もあなたを傷つけたくなくて自分の本音を口にすることができない。きっと、それだけなんだと思います」
西垣先輩は一緒にいることで生まれる痛みよりも、離れてしまうことでの痛みの方が良いと思ったんだ。だから、榎本先輩に例の写真のデータを受け取って、雅先輩と決定的な溝を作ることに決めた。
だけど、そんなことしたって好きな気持ちが消えたわけじゃない。本当の心の距離は1ミリたりとも雅先輩から離れていないんだ。
「西垣先輩の本音を引き出してあげてくれませんか。それができるのは雅先輩しかいません。そのためなら、俺達が協力しますから」
きっと、今も西垣先輩はどこかで雅先輩のことを想っているだろう。
「……私が告白しても大丈夫なのかな?」
雅先輩は確認するように俺に問いかける。
「……全くリスクのない選択肢なんてないと思っています。でも、告白することで生まれる傷と、このままの状態によって生まれる傷、どちらが苦しまずに済むでしょうね」
こうなってしまった以上、どちらの選択肢でも雅先輩と西沢先輩が乗り越えなければならないことがあるだろう。大切なのは乗り越えやろうと決めて、進み始めることなんじゃないだろうか。
雅先輩は迷っていたようだけど、何か答えを見つけたように決意に満ちた表情に変わっていった。それは絢さんと付き合う前の遥香と似ていた。
「……私、舞に告白する」
「雅先輩……」
「このままこうしてウジウジしていても、何もいいことないもんね。どんな結果になっても舞が好きな気持ちをあの時のように、言葉にして伝えたい」
雅先輩と付き合い始めてからの中で、今の言葉は一番力強かった。
「雅先輩の決意は固いようです。こういうことは早い方がいいと思います。明日、さっそく西垣先輩に告白しましょう。それでいいですか?」
「うん、できるだけ早い方が良いわね」
「榎本先輩、今の話は聞きましたよね。雅先輩の真っ直ぐな気持ちに協力してくれますか? 2人の架橋はあなただけなんです」
『……もちろん!』
どうやら、今回のことについて、ようやく終着点に向かい始めたようだ。明日、雅先輩が西垣先輩に告白する。告白によって生じることを考えるのも重要だと思う。だけど、雅先輩の言うとおり、自分の気持ちを言葉にすること自体が何よりも大切なんだ。
全ては明日。雅先輩からの告白で、決着をつける。
西垣先輩も雅先輩のことが好きなのか。雅先輩への恋心を押さえ込むためなら、昨日の雅先輩に対する態度も納得ができる。
雅先輩は西垣先輩と距離を近づけたい。しかし、皮肉なことに西垣先輩は雅先輩とどうしても距離を取っておきたい。
『これからどうすればいいのか。お兄ちゃんはもう考えがあるんでしょう?』
「ああ、1つだけある。雅先輩が西垣先輩に好きだという気持ちを伝えることだ」
西垣先輩が雅先輩のことが好きであることを知ってから、これしか方法は思いつかなかったし、これが一番いい方法だと思う。距離を取りたい西垣先輩に対して、こちらから向かっていくしかない。
『……やっぱり、お兄ちゃんもそう考えているんだね。私も神崎さんが西垣さんに気持ちを伝えるべきだと思った』
「……そうか。絢さんと付き合っている遥香もそう言うなら、それが一番だろう」
『え、えへへっ』
スマートフォンから遥香の可愛らしい笑い声が聞こえる。
ただ、俺達周りの人間が告白すべきだと思っていても、告白する本人である雅先輩がその気でないと意味がない。
俺は自分の隣でベッタリとくっついている雅先輩に問いかける。
「……今までの話、聞いていましたよね。西垣先輩にもう一度、告白してみませんか?」
今日の雅先輩は一度も涙を流すことはなかったが、笑うこともなく、怒ることもなくずっと無表情だった。しかし、
「……わ、私……」
西垣先輩が自分のことが好きだったという榎本先輩の話を聞いてから、雅先輩の様子が変わった。驚いていたり、とまどっていたり。彼氏がいたという自分の知らない事実に対してはえっ、と声を漏らしていた。
「……怖いよ」
「雅先輩……」
「怖いよ! 告白したらまたあの時みたいに、舞に辛い想いをさせちゃうよ! だって、舞には彼氏がいるじゃない。私を諦めるためであっても、舞には付き合っている人がいるじゃない! それなのに告白なんてできないよ……」
西垣先輩の想いがどうであれ、この状況を自分の告白によって壊したくないのか。西垣先輩には付き合っている異性がいる。その人から西垣先輩を奪ってしまうことになるからだろう。
「でも、西垣先輩が今までしてきたことは、全て雅先輩への好意があったからです。榎本先輩だって言っていたじゃないですか。昨日のことも、雅先輩と決定的な距離を作るためだったと。今も距離ができてしまっただけで、西垣先輩は雅先輩のことが好きなんだと思いますよ」
「隼人君……」
「西垣先輩もあなたを傷つけたくなくて自分の本音を口にすることができない。きっと、それだけなんだと思います」
西垣先輩は一緒にいることで生まれる痛みよりも、離れてしまうことでの痛みの方が良いと思ったんだ。だから、榎本先輩に例の写真のデータを受け取って、雅先輩と決定的な溝を作ることに決めた。
だけど、そんなことしたって好きな気持ちが消えたわけじゃない。本当の心の距離は1ミリたりとも雅先輩から離れていないんだ。
「西垣先輩の本音を引き出してあげてくれませんか。それができるのは雅先輩しかいません。そのためなら、俺達が協力しますから」
きっと、今も西垣先輩はどこかで雅先輩のことを想っているだろう。
「……私が告白しても大丈夫なのかな?」
雅先輩は確認するように俺に問いかける。
「……全くリスクのない選択肢なんてないと思っています。でも、告白することで生まれる傷と、このままの状態によって生まれる傷、どちらが苦しまずに済むでしょうね」
こうなってしまった以上、どちらの選択肢でも雅先輩と西沢先輩が乗り越えなければならないことがあるだろう。大切なのは乗り越えやろうと決めて、進み始めることなんじゃないだろうか。
雅先輩は迷っていたようだけど、何か答えを見つけたように決意に満ちた表情に変わっていった。それは絢さんと付き合う前の遥香と似ていた。
「……私、舞に告白する」
「雅先輩……」
「このままこうしてウジウジしていても、何もいいことないもんね。どんな結果になっても舞が好きな気持ちをあの時のように、言葉にして伝えたい」
雅先輩と付き合い始めてからの中で、今の言葉は一番力強かった。
「雅先輩の決意は固いようです。こういうことは早い方がいいと思います。明日、さっそく西垣先輩に告白しましょう。それでいいですか?」
「うん、できるだけ早い方が良いわね」
「榎本先輩、今の話は聞きましたよね。雅先輩の真っ直ぐな気持ちに協力してくれますか? 2人の架橋はあなただけなんです」
『……もちろん!』
どうやら、今回のことについて、ようやく終着点に向かい始めたようだ。明日、雅先輩が西垣先輩に告白する。告白によって生じることを考えるのも重要だと思う。だけど、雅先輩の言うとおり、自分の気持ちを言葉にすること自体が何よりも大切なんだ。
全ては明日。雅先輩からの告白で、決着をつける。
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