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Short Fragrance 1-カゼノカオリ-
後編『絢の場合』
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5月23日、木曜日。
正午。私は自分の部屋のベッドで横になっている。
今まで体調を崩したことなんて滅多になくて、体の丈夫さには自信があったのにこうもあっけなく風邪を引いてしまうのか。
きっと、遥香から貰っちゃったんだろうな。いや、絶対にそうだろう。キスもたくさんしちゃったし、背中にもキスしちゃったし。だからと言って、遥香を恨んだりしないし、お見舞いに行った自分を後悔しない。
――私に風邪、移していいんだからね。
その言葉が本当になっただけだと思っている。
遥香は高熱が出ていて、腹痛もあったそうだ。それでも、水曜日には病み上がりとは思えないくらいに元気な姿を学校で見せていた。遥香の驚異的な回復力もあるだろうけど、私が風邪を貰ったから……だと思いたいじゃないか。
私の場合は39度の高熱と、全身のだるさ。部活での疲れがどっと襲ったのか、関節痛が結構酷かったりする。病院でそれを言ったら、この季節にまさかのインフルエンザかと疑われて検査されたが、結果は陰性。単なる風邪と練習のし過ぎによる関節痛という診断で安心した。
腹痛は一切ないので、ちょっと冷ためのお茶を定期的に飲んでいる。全身が熱く、汗も結構掻いているので水を飲むと涼しくて気持ちいい。
遥香、片桐さん、広瀬さん、汐崎さん、陸上部の知り合いには学校を休むメールを入れておいた。大多数は「お大事に」という内容のシンプルな内容だったけど、遥香だけは「お見舞いに行く」と返事が返ってきた。
私は遥香に「私みたいに風邪を貰って、ぶり返しちゃうといけない」と返信をしておいたんだけど、意外と頑固なのか、
『それでも行く。絢ちゃんだって一度断ったけど、結局来たでしょ?』
という返信が来たので、さすがに断り切れなかった。本当は遥香が来てくれることが凄く嬉しいんだけどね。
きっと、月曜日は遥香もこんな風に過ごしていたんだろうな。高熱に苦しんで、だるいからベッドから動く気にもなれない。
こんなときには寝るに限る。さっき、早めのお昼ご飯も食べたので、医者から処方された薬を飲む。
すると、程なくして眠気が襲ってきた。私はそれに身を任せてゆっくりと眠りに落ちてゆくのであった。
再び目を覚ますと、部屋の中が薄暗くなっていた。電気が豆電球の状態になっていたので、ぼんやりと部屋の様子が分かる感じだ。
スマホで時刻を確認してみると、午後六時を過ぎていた。ということは、6時間くらい寝たのか。思いの外、ぐっすりと眠れたな。
とりあえず、お手洗いに行こうと思い部屋の扉を開けると、
「きゃあっ!」
すぐ目の前に、鍋が乗っているお盆を持ったエプロン姿の遥香がいた。
「は、遥香……」
「茶道部の方に行ってからお見舞いに来たの。そうしたら、絢ちゃんのための夕飯を作り始めようとしていたから、絢ちゃんのお母さんと一緒に作ったの」
「そ、そうだったんだ……」
ということは、鍋の中身は遥香の作った料理ってことか。
「……ちょっと待ってて。急いでお手洗いに行ってくるから!」
「急がなくても大丈夫だって。それに、関節痛なんだから、激しく体を動かしちゃダメだよ」
笑いながらも叱ってくれる遥香はとても頼もしい恋人だ。まあ、今の遥香を見ていると恋人というよりも妻の方が合っているけど。
「私は部屋で待ってるから」
「……分かった」
遥香に言われたとおり、私は急がずにお手洗いに向かう。それでも、関節に痛みが走るので急いでいたら痛みに震えていた気がする。
お手洗いで用を済ませ、私は自分の部屋に戻る。部屋の中では遥香がベッドに寄りかかるようにして座っていた。
「絢ちゃん、具合は大丈夫?」
「うん、半日寝たら気分も大分良くなった。関節の方はまだあまり治ってないけど」
「そっか」
「でも、お腹は壊してないから普通に食べられるよ。むしろ、お腹減ってるし」
鍋の蓋は開いていないけど、既に部屋の中には美味しそうな匂いが広がっていて、食欲を湧かせている。
「何を作ってくれたの?」
「絢ちゃんの大好物の鍋焼きうどんだよ」
じゃ~ん、と言って遥香は鍋の蓋を開ける。鍋焼きうどんのお出ましではありませんか。半熟玉子まで乗っているなんて、遥香マジ天使。
「玉子入りが良いんだってね、絢ちゃん」
「……うん。玉子は大好きだから」
「ほら、こっち来てよ。私が食べさせてあげるから」
「……ありがとう」
私は遥香の隣に座る。
遥香は鍋からお椀にうどんを取って、私がやけどしないように「ふーふー」って冷ましてくれている。もう、できた奥さんだよ。
「絢ちゃん、あ~んして。あ~ん」
「……あ、あ~ん」
遥香に言われるとおりに、私は口を開ける。すると、遥香が冷ましたうどんを食べされてくれる。
「美味しい」
「……良かった。喜んでくれて」
遥香の満面の笑みを見ることができて嬉しい。今日、学校に行けなくて一番残念なのは遥香の笑顔が見ることができないことだったけれど、今の遥香の笑みでそれが全て吹き飛んだ。遥香の笑みは私にとって、元気にさせてくれるこの上ない薬だった。
「遥香の優しさが詰まってると思う。心が温まるよ」
「絢、ちゃん……」
遥香は恍惚な表情を浮かべると、私のことをちらちらと見てくる。
「……ねえ、絢ちゃん」
「なに?」
「隣同士だとちょっと食べづらいでしょ? だから、もっと良い方法で食べさせてあげるね」
そう言うと、遥香はうどんを2、3本すすってよく噛む。
まさかとは思うけど、遥香の言うもっと良い食べさせ方って、
「んっ……!」
気付けば、遥香は私のことを抱きしめていて、キスをしていた。
私は遥香が何をしたいのかが分かっていたので、ゆっくりと口を開いて遥香の口を塞ぐようにする。
すると、遥香の口から彼女の唾液に乗って、咀嚼されたうどんが入り込んでくる。さっきよりも断然甘くて美味しい。一度も噛むことなく、するりと喉を通っていく。
「絢ちゃん、美味しい?」
「……美味しいよ」
「そっか。良かった」
「……でも、この食べ方だと冷めちゃうから、普通に食べさせてくれないかな。それに、二人きりでも結構恥ずかしいし」
「私はけっこういいと思ったんだけどなぁ……」
遥香は頬を少し膨らませ、私の方を見てくる。そんな顔をされたら、断り切れなくなっちゃうじゃないか。
「……じゃあ、もう一度だけお願い」
「うん!」
遥香が喜んでくれるなら、もう一度くらいはいいかな。
そして、さっきと同じように遥香から口移しでうどんを食べる。恥ずかしいけれど、遥香とキスできることはとても嬉しい。
その後は普通に食べさせてもらった。
「ごちそうさま。美味しかったよ、遥香」
「お粗末様でした」
「うどんを食べたら体が熱くなってきちゃった。汗も掻いちゃってるし」
私がそう言うと、遥香はニヤリと笑う。
「じゃあ、汗を拭かなきゃいけないね」
「そうだね」
「私が拭いてあげるよ」
「えっ、でも……」
「だって、この前は絢ちゃんが拭いてくれたでしょ。だから、そのお礼」
「……じゃあ、お願いするよ。タオルは箪笥に入ってるから」
「うん」
ここは、遥香の厚意に甘えることにしよう。
まさか、遥香にお見舞いに来てもらって、汗を拭いてもらう日がこんなすぐに訪れるとは思わなかったな。
「タオルあったよ」
「じゃあ、シャツを脱ぐから遥香は――」
「ううん、遠慮しないで。だって、絢ちゃんは関節痛なんでしょ? 自分で脱ぐのは辛いんじゃない?」
「まあ、そうだけど――」
「だったら、私の言うことを聞きなさい。ほら、脱ぎましょうね~」
と言って、遥香は私の着るTシャツをゆっくりと脱がしていく。遥香ってこんなに強引な女の子だったっけ?
結局、遥香にTシャツを脱がされたので、私は両手で胸を隠す。
「絢ちゃん、胸を隠さなくたっていいんだよ。2人きりなんだし」
「だって、恥ずかしい……」
「……そっか、恥ずかしいんだ」
そう言うと、遥香は私に近づいて首筋にキスをする。
「ふあっ」
「絢ちゃん、可愛い」
「どうしてこんなことを……」
「……この前のお返しだよ。絢ちゃん、私の背中にキスばっかりしてさ。私、大きな声が出ないように必死に我慢してたんだからね。だから、絢ちゃんにも同じ目に遭ってもらうよ」
だから、遥香はさっきニヤリと笑ったんだ。
「そのことは本当にごめんね。だから……ひゃうっ」
今度は首筋を舐められる。凄くくすぐったいけれど……嫌じゃない。あの時みたいに家に二人きりしかいないなら大きな声を出せるけれど、今は違う。声を出しちゃったら、家族にこの状況がばれてしまう。
必死に声を押し殺そうとするものの、遥香がピンポイントに攻めているため、どうしても喘ぎ声を出てしまう。でも、私も遥香に同じ思いをさせていたんだよな……。
「はるかぁ、もうやめて……」
もう、これ以上されたら我慢できない。必死に遥香に訴えた。
すると、遥香はクスクスと笑う。
「……ね? こんなことを恥ずかしいでしょ?」
「うん……」
「だから、こういうことは他の人に邪魔される心配のないときにしようね」
「……うん」
「でも、一度始めると止まらないよね。だって、絢ちゃん……可愛い反応をするんだもん。だから、もっと見たくなっちゃって」
遥香は優しい笑みを見せながらそう言った。
私も同じだった。一度キスをしたら、遥香が可愛い反応を見せるからもっと見たいって思っちゃって。その繰り返しで、結局止められなくなる。
「だけど、そう思えるのは絢ちゃんだけだよ」
「……私も」
「そっか。だったら、許してあげるよ。もうこれでなしってことで」
「うん」
「じゃあ、今度はタオルでちゃんと拭いてあげるね。前も後ろも私が拭いちゃって良いよね?」
「……おねがい」
何だか、遥香に一本取られた感じだ。
遥香と一緒にいると、何かあっても必ず前に進ませてくれる。遥香が恋人で本当に良かったと思う。
遥香に体を拭いてもらったので、大分爽やかな気分になった。
「遥香、お見舞いに来てくれてありがとう」
「そんなにかしこまらくても。それに、絢ちゃんが言ってたことが分かるんだ」
「えっ?」
「絢ちゃんが学校にいないと寂しいなって。だからこそ、絢ちゃんの家に行きたくなっちゃって。月曜日は絢ちゃんもこんな気分だったんだよね」
「……まあね」
「でもさ、それだけ絢ちゃんのことが好きだから、そう思えるんだと思う。好きじゃなかったら、たいして何にも感じないだろうから」
「そうかもしれないね」
学校で会えなくてこんなに寂しいと思ったのは、遥香が初めてだった。そう思えるほど、私は遥香のことが好きなんだ。
「遥香」
私はちょっと強引に遥香とキスをする。
「……早く元気になって学校に行くから」
「……待ってるよ」
遥香と見つめ合って、互いの気持ちを確かめ合うように、もう一度キスをする。遥香の温もりと甘い匂いが私を包み込んでいった。
遥香の優しさと、ちょっとSな部分に触れることのできた一日でした。
金曜日は体調も大分回復していたけど、大事を取って休むことにした。
そして、翌週の月曜日には関節痛も治ったので、学校に登校して、陸上部の練習にも復帰した。
この一週間、遥香と学校で会えない日が多かったけれど、その分、遥香への気持ちが再確認できて、より好きになれたような気がする。遥香も同じだと嬉しい。
今日も遥香と楽しくて、愛しい時間を過ごしていく。
Short Fragrance 1-カゼノカオリ- おわり
次の話からFragrance 4-アメノカオリ-となります。
正午。私は自分の部屋のベッドで横になっている。
今まで体調を崩したことなんて滅多になくて、体の丈夫さには自信があったのにこうもあっけなく風邪を引いてしまうのか。
きっと、遥香から貰っちゃったんだろうな。いや、絶対にそうだろう。キスもたくさんしちゃったし、背中にもキスしちゃったし。だからと言って、遥香を恨んだりしないし、お見舞いに行った自分を後悔しない。
――私に風邪、移していいんだからね。
その言葉が本当になっただけだと思っている。
遥香は高熱が出ていて、腹痛もあったそうだ。それでも、水曜日には病み上がりとは思えないくらいに元気な姿を学校で見せていた。遥香の驚異的な回復力もあるだろうけど、私が風邪を貰ったから……だと思いたいじゃないか。
私の場合は39度の高熱と、全身のだるさ。部活での疲れがどっと襲ったのか、関節痛が結構酷かったりする。病院でそれを言ったら、この季節にまさかのインフルエンザかと疑われて検査されたが、結果は陰性。単なる風邪と練習のし過ぎによる関節痛という診断で安心した。
腹痛は一切ないので、ちょっと冷ためのお茶を定期的に飲んでいる。全身が熱く、汗も結構掻いているので水を飲むと涼しくて気持ちいい。
遥香、片桐さん、広瀬さん、汐崎さん、陸上部の知り合いには学校を休むメールを入れておいた。大多数は「お大事に」という内容のシンプルな内容だったけど、遥香だけは「お見舞いに行く」と返事が返ってきた。
私は遥香に「私みたいに風邪を貰って、ぶり返しちゃうといけない」と返信をしておいたんだけど、意外と頑固なのか、
『それでも行く。絢ちゃんだって一度断ったけど、結局来たでしょ?』
という返信が来たので、さすがに断り切れなかった。本当は遥香が来てくれることが凄く嬉しいんだけどね。
きっと、月曜日は遥香もこんな風に過ごしていたんだろうな。高熱に苦しんで、だるいからベッドから動く気にもなれない。
こんなときには寝るに限る。さっき、早めのお昼ご飯も食べたので、医者から処方された薬を飲む。
すると、程なくして眠気が襲ってきた。私はそれに身を任せてゆっくりと眠りに落ちてゆくのであった。
再び目を覚ますと、部屋の中が薄暗くなっていた。電気が豆電球の状態になっていたので、ぼんやりと部屋の様子が分かる感じだ。
スマホで時刻を確認してみると、午後六時を過ぎていた。ということは、6時間くらい寝たのか。思いの外、ぐっすりと眠れたな。
とりあえず、お手洗いに行こうと思い部屋の扉を開けると、
「きゃあっ!」
すぐ目の前に、鍋が乗っているお盆を持ったエプロン姿の遥香がいた。
「は、遥香……」
「茶道部の方に行ってからお見舞いに来たの。そうしたら、絢ちゃんのための夕飯を作り始めようとしていたから、絢ちゃんのお母さんと一緒に作ったの」
「そ、そうだったんだ……」
ということは、鍋の中身は遥香の作った料理ってことか。
「……ちょっと待ってて。急いでお手洗いに行ってくるから!」
「急がなくても大丈夫だって。それに、関節痛なんだから、激しく体を動かしちゃダメだよ」
笑いながらも叱ってくれる遥香はとても頼もしい恋人だ。まあ、今の遥香を見ていると恋人というよりも妻の方が合っているけど。
「私は部屋で待ってるから」
「……分かった」
遥香に言われたとおり、私は急がずにお手洗いに向かう。それでも、関節に痛みが走るので急いでいたら痛みに震えていた気がする。
お手洗いで用を済ませ、私は自分の部屋に戻る。部屋の中では遥香がベッドに寄りかかるようにして座っていた。
「絢ちゃん、具合は大丈夫?」
「うん、半日寝たら気分も大分良くなった。関節の方はまだあまり治ってないけど」
「そっか」
「でも、お腹は壊してないから普通に食べられるよ。むしろ、お腹減ってるし」
鍋の蓋は開いていないけど、既に部屋の中には美味しそうな匂いが広がっていて、食欲を湧かせている。
「何を作ってくれたの?」
「絢ちゃんの大好物の鍋焼きうどんだよ」
じゃ~ん、と言って遥香は鍋の蓋を開ける。鍋焼きうどんのお出ましではありませんか。半熟玉子まで乗っているなんて、遥香マジ天使。
「玉子入りが良いんだってね、絢ちゃん」
「……うん。玉子は大好きだから」
「ほら、こっち来てよ。私が食べさせてあげるから」
「……ありがとう」
私は遥香の隣に座る。
遥香は鍋からお椀にうどんを取って、私がやけどしないように「ふーふー」って冷ましてくれている。もう、できた奥さんだよ。
「絢ちゃん、あ~んして。あ~ん」
「……あ、あ~ん」
遥香に言われるとおりに、私は口を開ける。すると、遥香が冷ましたうどんを食べされてくれる。
「美味しい」
「……良かった。喜んでくれて」
遥香の満面の笑みを見ることができて嬉しい。今日、学校に行けなくて一番残念なのは遥香の笑顔が見ることができないことだったけれど、今の遥香の笑みでそれが全て吹き飛んだ。遥香の笑みは私にとって、元気にさせてくれるこの上ない薬だった。
「遥香の優しさが詰まってると思う。心が温まるよ」
「絢、ちゃん……」
遥香は恍惚な表情を浮かべると、私のことをちらちらと見てくる。
「……ねえ、絢ちゃん」
「なに?」
「隣同士だとちょっと食べづらいでしょ? だから、もっと良い方法で食べさせてあげるね」
そう言うと、遥香はうどんを2、3本すすってよく噛む。
まさかとは思うけど、遥香の言うもっと良い食べさせ方って、
「んっ……!」
気付けば、遥香は私のことを抱きしめていて、キスをしていた。
私は遥香が何をしたいのかが分かっていたので、ゆっくりと口を開いて遥香の口を塞ぐようにする。
すると、遥香の口から彼女の唾液に乗って、咀嚼されたうどんが入り込んでくる。さっきよりも断然甘くて美味しい。一度も噛むことなく、するりと喉を通っていく。
「絢ちゃん、美味しい?」
「……美味しいよ」
「そっか。良かった」
「……でも、この食べ方だと冷めちゃうから、普通に食べさせてくれないかな。それに、二人きりでも結構恥ずかしいし」
「私はけっこういいと思ったんだけどなぁ……」
遥香は頬を少し膨らませ、私の方を見てくる。そんな顔をされたら、断り切れなくなっちゃうじゃないか。
「……じゃあ、もう一度だけお願い」
「うん!」
遥香が喜んでくれるなら、もう一度くらいはいいかな。
そして、さっきと同じように遥香から口移しでうどんを食べる。恥ずかしいけれど、遥香とキスできることはとても嬉しい。
その後は普通に食べさせてもらった。
「ごちそうさま。美味しかったよ、遥香」
「お粗末様でした」
「うどんを食べたら体が熱くなってきちゃった。汗も掻いちゃってるし」
私がそう言うと、遥香はニヤリと笑う。
「じゃあ、汗を拭かなきゃいけないね」
「そうだね」
「私が拭いてあげるよ」
「えっ、でも……」
「だって、この前は絢ちゃんが拭いてくれたでしょ。だから、そのお礼」
「……じゃあ、お願いするよ。タオルは箪笥に入ってるから」
「うん」
ここは、遥香の厚意に甘えることにしよう。
まさか、遥香にお見舞いに来てもらって、汗を拭いてもらう日がこんなすぐに訪れるとは思わなかったな。
「タオルあったよ」
「じゃあ、シャツを脱ぐから遥香は――」
「ううん、遠慮しないで。だって、絢ちゃんは関節痛なんでしょ? 自分で脱ぐのは辛いんじゃない?」
「まあ、そうだけど――」
「だったら、私の言うことを聞きなさい。ほら、脱ぎましょうね~」
と言って、遥香は私の着るTシャツをゆっくりと脱がしていく。遥香ってこんなに強引な女の子だったっけ?
結局、遥香にTシャツを脱がされたので、私は両手で胸を隠す。
「絢ちゃん、胸を隠さなくたっていいんだよ。2人きりなんだし」
「だって、恥ずかしい……」
「……そっか、恥ずかしいんだ」
そう言うと、遥香は私に近づいて首筋にキスをする。
「ふあっ」
「絢ちゃん、可愛い」
「どうしてこんなことを……」
「……この前のお返しだよ。絢ちゃん、私の背中にキスばっかりしてさ。私、大きな声が出ないように必死に我慢してたんだからね。だから、絢ちゃんにも同じ目に遭ってもらうよ」
だから、遥香はさっきニヤリと笑ったんだ。
「そのことは本当にごめんね。だから……ひゃうっ」
今度は首筋を舐められる。凄くくすぐったいけれど……嫌じゃない。あの時みたいに家に二人きりしかいないなら大きな声を出せるけれど、今は違う。声を出しちゃったら、家族にこの状況がばれてしまう。
必死に声を押し殺そうとするものの、遥香がピンポイントに攻めているため、どうしても喘ぎ声を出てしまう。でも、私も遥香に同じ思いをさせていたんだよな……。
「はるかぁ、もうやめて……」
もう、これ以上されたら我慢できない。必死に遥香に訴えた。
すると、遥香はクスクスと笑う。
「……ね? こんなことを恥ずかしいでしょ?」
「うん……」
「だから、こういうことは他の人に邪魔される心配のないときにしようね」
「……うん」
「でも、一度始めると止まらないよね。だって、絢ちゃん……可愛い反応をするんだもん。だから、もっと見たくなっちゃって」
遥香は優しい笑みを見せながらそう言った。
私も同じだった。一度キスをしたら、遥香が可愛い反応を見せるからもっと見たいって思っちゃって。その繰り返しで、結局止められなくなる。
「だけど、そう思えるのは絢ちゃんだけだよ」
「……私も」
「そっか。だったら、許してあげるよ。もうこれでなしってことで」
「うん」
「じゃあ、今度はタオルでちゃんと拭いてあげるね。前も後ろも私が拭いちゃって良いよね?」
「……おねがい」
何だか、遥香に一本取られた感じだ。
遥香と一緒にいると、何かあっても必ず前に進ませてくれる。遥香が恋人で本当に良かったと思う。
遥香に体を拭いてもらったので、大分爽やかな気分になった。
「遥香、お見舞いに来てくれてありがとう」
「そんなにかしこまらくても。それに、絢ちゃんが言ってたことが分かるんだ」
「えっ?」
「絢ちゃんが学校にいないと寂しいなって。だからこそ、絢ちゃんの家に行きたくなっちゃって。月曜日は絢ちゃんもこんな気分だったんだよね」
「……まあね」
「でもさ、それだけ絢ちゃんのことが好きだから、そう思えるんだと思う。好きじゃなかったら、たいして何にも感じないだろうから」
「そうかもしれないね」
学校で会えなくてこんなに寂しいと思ったのは、遥香が初めてだった。そう思えるほど、私は遥香のことが好きなんだ。
「遥香」
私はちょっと強引に遥香とキスをする。
「……早く元気になって学校に行くから」
「……待ってるよ」
遥香と見つめ合って、互いの気持ちを確かめ合うように、もう一度キスをする。遥香の温もりと甘い匂いが私を包み込んでいった。
遥香の優しさと、ちょっとSな部分に触れることのできた一日でした。
金曜日は体調も大分回復していたけど、大事を取って休むことにした。
そして、翌週の月曜日には関節痛も治ったので、学校に登校して、陸上部の練習にも復帰した。
この一週間、遥香と学校で会えない日が多かったけれど、その分、遥香への気持ちが再確認できて、より好きになれたような気がする。遥香も同じだと嬉しい。
今日も遥香と楽しくて、愛しい時間を過ごしていく。
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