80 / 118
特別編
第16話『夕ご飯』
しおりを挟む
僕らは予約していた午後6時半まで貸切温泉を堪能した。
僕は琴葉達に体をたっぷりと触られたけど、厭らしい触り方でもなかったし、何よりも温泉がとても気持ち良かったので気にはしなかった。ただ、他の人にも同じようなことをするのはまずいと思いますよ、と注意はしておいた。お風呂に入るのは元々好きなので、部屋にある温泉や大浴場にもゆっくりと浸かりたい。
温泉から出た後、部屋でちょっと休んでから夕食を食べることになった。
午後7時過ぎ。
僕らは夕ご飯の会場である1階のレストランへと向かう。夕食の時間が始まってからある程度時間が経っているからか、中は賑わっているな。バイキング形式なのもあってか、常に誰かしら会場を歩く宿泊客がいる状況。
6人用のテーブルも空いていたので、席の確保も兼ねて僕が1人で座り、沙奈会長達は料理を取ることに。
「みなさん、楽しそうで何よりですね。安心しました」
「そうですね……って、アリスさん!」
気付けば、僕らと同じく浴衣姿のアリスさんが隣の椅子に座っていたのだ。いつものように穏やかな笑みを浮かべている。
「あらあら、驚かせてしまいましたか。こんばんは、逢坂さん」
「……こんばんは。あの……ここにいて大丈夫なんですか? アリスさんはこのホテルの宿泊客ではありませんよね? 浴衣は着ていますけど」
「大丈夫ですよ。一時的な滞在なので。魔法を使って逢坂さんや琴葉、如月さん以外には見えないようにしています。あと、せっかくですから琴葉と同じものを来てみたいと思い、魔法を使ってこの浴衣というものを着てみました。普段着ているものよりも身軽でいいですね」
「そうですか。似合っていますよ、アリスさん」
「ありがとうございます」
浴衣が気に入ったのかアリスさんは楽しげな様子。
今日、副会長さんが着ていたワンピースよりも、フリルがたっぷりと付いているゴシックワンピースだもんな。それに比べたら浴衣は身軽か。あとで琴葉や沙奈会長に見せるためにも浴衣姿のアリスさんの写真を撮っておいた。
あと、魔法で一部の人には彼女の姿が見えないってことは、下手すると僕が独り言を喋っているように見えてしまうのか。気を付けないと。
「琴葉から旅行の話は聞いていたんですよね」
「ええ。暇さえあれば魔法を使ってみなさんの様子を見ていました」
「……本当に便利ですね、魔法って」
「今のように様々な用途に使えるようになるまでには、たっぷりと修行しなければいけないのですよ。ただ、魔法を使って逢坂さん達の様子を見ただけでは、旅行気分を味わえません。ですから、このホテルの近くにある足湯に先ほど行ってきました」
「な、なるほど。気持ち良かったですか?」
「ええ。とても気持ち良かったです。みなさんが貸切温泉に入っているのを見て、あたしも温泉も体験してみたいと思って。入って正解でした」
アリスさん、とても満足そうだ。
それよりも、貸切温泉での様子も見ていたのか。アリスさんが女の子だからいいけど、もし男の子だったら問題になっていたな。
「逢坂さんって見た目よりも筋肉質ですよね。あたしの世界ではどうしても魔法が基本なので、逢坂さんほどの筋肉を付けた方はあまりいないのですよ」
「そうなんですね」
てっきり、色々な魔法を使うためには体力が必要で、その過程で筋肉がついているのだと思っていた。
「あと……可愛かったですよ。……ばぶばぶ」
「……はあっ? はあっ……」
やっぱり、アリスさんにばぶばぶ言ったところを見られていたのか。僕はいつまでこのネタでからかわれなければいけないんだ。思わず頭を抱えてしまう。
「昨日から見ていましたよ。あなたの部屋でみなさん、楽しそうにしていましたね。夜は見なくても大丈夫だと琴葉がサインを送ってくれたので見ていませんが」
「……なるほど。あと、今夜は僕と沙奈会長の部屋の様子は見なくていいですよ。あの……2人きりで色々としたいんで」
さすがに沙奈会長とイチャイチャしたいとは言えなかった。
ただ、そんな内容を察したのか、アリスさんは頬を赤くして視線をちらつかせている。
「……大丈夫ですよ。その……逢坂さんが如月さんと2人きりで寝ると分かったとき、どんなことをするのか想像できていますから。その……琴葉の事件が解決した次の日の夜、逢坂さんの部屋の様子を見たのですが、そのときはベッドでお二人が激しく求め合っていましたから……」
きゃっ、とアリスさんは両手を頬に当てている。
やっぱり、あの日の夜の様子をアリスさんは見ていたのか。……ばぶばぶ言ったことをからかわれるよりもよっぽど恥ずかしいんですけど。
「安心してください、見ませんから。今後もそのような場面になりそうなときは見ないようにしますので。あと、今夜は琴葉達の部屋の様子や、状況によっては琴葉と一緒に寝ようかなと思っていますから。逢坂さんはあたしのことは気にせずに如月さんと思う存分に愛を育んでください」
「……お気遣い感謝します」
「では、あたしはこの辺で」
そう言うと、アリスさんはすっと姿を消した。きっと、僕が1人きりでここにいたから話すのにいい機会だと思ったのだろう。今夜、琴葉と話す機会があればいいな。アリスさんと会うことができれば、2人にとっていい思い出ができると思うから。
「たくさん料理があって迷っちゃったね、琴葉ちゃん」
「そうですね、沙奈さん」
迷ったと話す沙奈会長は肉料理も魚料理も持ってきており、郷土料理なのかお餅が入っている具だくさんの味噌汁もあった。
それに対して、琴葉は……肉料理だけでなくフルーツやスイーツもさっそく持ってきていた。
「相変わらずだなぁ、琴葉」
「こんなにも、フルーツやスイーツをたくさん食べられる機会なんて滅多にないでしょ?」
「……それもそうだな。でも、お腹を壊さないように気を付けてね」
僕は料理を一通り食べたら、フルーツやスイーツを食べるようにしよう。
そうだ、今は沙奈会長と琴葉しかいないからあのことを話そうかな。
「沙奈会長、琴葉。ついさっき、浴衣姿を着たアリスさんが僕のところにやってきました」
「えっ、そうなの?」
「レイ君が1人きりだから来たのかな。寂しがっていると思って……」
琴葉や沙奈会長ほどの優しさがあれば、その可能性もありそうだ。
「昨日からずっと僕らの様子を見ていたそうです。貸切温泉に入った僕らに影響されて、ホテルの近くにある足湯に入ったと」
「ここら辺、温泉地だからね。無料で入ることのできる足湯があるんだ」
「そうなんですね。今夜……もしかしたら、琴葉の方の部屋にアリスさんが遊びに来るかもしれない。タイミングを見計らってだと思うけれど」
「分かった」
「あと……沙奈会長、耳を貸してください」
僕は沙奈会長の耳元で、
「付き合い始めた日の夜のこと、アリスさんが見ていたそうです。あまりにも刺激的だったので、今回はさすがに僕らの部屋は見ないと言っていました」
「なるほどね……なるほど。それなら、何も気にせずにできるね……」
顔を真っ赤にしていたけど、どこかほっとしているように見えた。
「どうしたんですか、沙奈さん。顔が赤いですけど」
「へっ? ああ……こんなところで玲人君が急に顔を近づけるからドキドキしちゃって。玲人君、場所を考えなきゃダメだよ」
まったくもう、と沙奈会長は微笑みながら僕の隣の椅子に座った。
それじゃ、僕もそろそろ料理を取りに行こうかな。そう思って席から立ち上がろうとしたとき、
「結局、自分の好きなものばかり取っちゃった」
「それでいいと思いますよ、麻実さん」
「樹里ちゃんの言うとおり、それがバイキングの醍醐味ですって。あたしも食べたいものを取ってきましたし」
姉さん、副会長さん、真奈ちゃんが戻ってきた。
姉さんは……好きなものばかり取ってきただけあって、肉料理と炭水化物が多いな。お昼ご飯のときに気に入ったのかほうとうを持ってきているし。ほうとうよりも少ないけど、うどんも持ってきているし。
副会長さんは魚料理と野菜中心のヘルシーな内容。
真奈ちゃんは沙奈会長のように肉料理や魚料理など色々なものを取ってきている。料理の取り方一つで個性って出るんだなと思った。
「じゃあ、僕も取ってきますよ。みなさん、僕のことは気にせずに食べてください」
僕も料理を取りに行く。
肉料理や魚料理はもちろん郷土料理も豊富だ。沙奈会長達が迷うのも頷ける。
沙奈会長が取ってきたお餅入りのみそしるはおつけだんご、姉さんがほうとうとは別に持ってきたうどんは吉田うどんという山梨の郷土料理とのこと。僕も旅行に来たのだから郷土料理は食べておきたい。
そんなことを考えながら料理を取ったら、お盆には郷土料理でいっぱいになってしまった。まだ食べたい料理もあるし、後でまた取りに来よう。
席に戻ると、みんなはまだ料理を食べていなかった。
「あれ、まだ食べ始めていないんですね」
「みんなで一緒に食べ始めたいと思ってね。あと、樹里先輩がどんなものを取ってきたのか動画に収めたいそうで……」
「そういうことですか」
ありとあらゆることを動画という形で残したいのかもしれない。
「逢坂君は郷土料理中心みたいだね」
「そうですね。ほうとう、吉田うどん、おつけだんご……炭水化物ばかりですね。まずは郷土料理から食べたいと思いまして」
「なるほどね。どうもありがとう」
僕は沙奈会長の隣の椅子に座る。
「それじゃ、玲人君も戻ってきたところで、いただきます!」
『いただきます!』
旅先のホテルでの夕ご飯なんて何年ぶりだろうか。同年代の人達だけで行く旅行も久しぶりなので、より非日常を味わっている気がして。それでも、
「……美味しい」
この一言に尽きるのだ。ホテルの夕ご飯だけあってとても美味しいんだけれど、沙奈会長達の嬉しそうな様子を見ると、美味しさがより増すように思える。
――誰かと一緒に食べた方がより美味しい。
昔は綺麗事だと信じていなかったその言葉も、今は少しだけ信じられそうな気がしたのであった。
僕は琴葉達に体をたっぷりと触られたけど、厭らしい触り方でもなかったし、何よりも温泉がとても気持ち良かったので気にはしなかった。ただ、他の人にも同じようなことをするのはまずいと思いますよ、と注意はしておいた。お風呂に入るのは元々好きなので、部屋にある温泉や大浴場にもゆっくりと浸かりたい。
温泉から出た後、部屋でちょっと休んでから夕食を食べることになった。
午後7時過ぎ。
僕らは夕ご飯の会場である1階のレストランへと向かう。夕食の時間が始まってからある程度時間が経っているからか、中は賑わっているな。バイキング形式なのもあってか、常に誰かしら会場を歩く宿泊客がいる状況。
6人用のテーブルも空いていたので、席の確保も兼ねて僕が1人で座り、沙奈会長達は料理を取ることに。
「みなさん、楽しそうで何よりですね。安心しました」
「そうですね……って、アリスさん!」
気付けば、僕らと同じく浴衣姿のアリスさんが隣の椅子に座っていたのだ。いつものように穏やかな笑みを浮かべている。
「あらあら、驚かせてしまいましたか。こんばんは、逢坂さん」
「……こんばんは。あの……ここにいて大丈夫なんですか? アリスさんはこのホテルの宿泊客ではありませんよね? 浴衣は着ていますけど」
「大丈夫ですよ。一時的な滞在なので。魔法を使って逢坂さんや琴葉、如月さん以外には見えないようにしています。あと、せっかくですから琴葉と同じものを来てみたいと思い、魔法を使ってこの浴衣というものを着てみました。普段着ているものよりも身軽でいいですね」
「そうですか。似合っていますよ、アリスさん」
「ありがとうございます」
浴衣が気に入ったのかアリスさんは楽しげな様子。
今日、副会長さんが着ていたワンピースよりも、フリルがたっぷりと付いているゴシックワンピースだもんな。それに比べたら浴衣は身軽か。あとで琴葉や沙奈会長に見せるためにも浴衣姿のアリスさんの写真を撮っておいた。
あと、魔法で一部の人には彼女の姿が見えないってことは、下手すると僕が独り言を喋っているように見えてしまうのか。気を付けないと。
「琴葉から旅行の話は聞いていたんですよね」
「ええ。暇さえあれば魔法を使ってみなさんの様子を見ていました」
「……本当に便利ですね、魔法って」
「今のように様々な用途に使えるようになるまでには、たっぷりと修行しなければいけないのですよ。ただ、魔法を使って逢坂さん達の様子を見ただけでは、旅行気分を味わえません。ですから、このホテルの近くにある足湯に先ほど行ってきました」
「な、なるほど。気持ち良かったですか?」
「ええ。とても気持ち良かったです。みなさんが貸切温泉に入っているのを見て、あたしも温泉も体験してみたいと思って。入って正解でした」
アリスさん、とても満足そうだ。
それよりも、貸切温泉での様子も見ていたのか。アリスさんが女の子だからいいけど、もし男の子だったら問題になっていたな。
「逢坂さんって見た目よりも筋肉質ですよね。あたしの世界ではどうしても魔法が基本なので、逢坂さんほどの筋肉を付けた方はあまりいないのですよ」
「そうなんですね」
てっきり、色々な魔法を使うためには体力が必要で、その過程で筋肉がついているのだと思っていた。
「あと……可愛かったですよ。……ばぶばぶ」
「……はあっ? はあっ……」
やっぱり、アリスさんにばぶばぶ言ったところを見られていたのか。僕はいつまでこのネタでからかわれなければいけないんだ。思わず頭を抱えてしまう。
「昨日から見ていましたよ。あなたの部屋でみなさん、楽しそうにしていましたね。夜は見なくても大丈夫だと琴葉がサインを送ってくれたので見ていませんが」
「……なるほど。あと、今夜は僕と沙奈会長の部屋の様子は見なくていいですよ。あの……2人きりで色々としたいんで」
さすがに沙奈会長とイチャイチャしたいとは言えなかった。
ただ、そんな内容を察したのか、アリスさんは頬を赤くして視線をちらつかせている。
「……大丈夫ですよ。その……逢坂さんが如月さんと2人きりで寝ると分かったとき、どんなことをするのか想像できていますから。その……琴葉の事件が解決した次の日の夜、逢坂さんの部屋の様子を見たのですが、そのときはベッドでお二人が激しく求め合っていましたから……」
きゃっ、とアリスさんは両手を頬に当てている。
やっぱり、あの日の夜の様子をアリスさんは見ていたのか。……ばぶばぶ言ったことをからかわれるよりもよっぽど恥ずかしいんですけど。
「安心してください、見ませんから。今後もそのような場面になりそうなときは見ないようにしますので。あと、今夜は琴葉達の部屋の様子や、状況によっては琴葉と一緒に寝ようかなと思っていますから。逢坂さんはあたしのことは気にせずに如月さんと思う存分に愛を育んでください」
「……お気遣い感謝します」
「では、あたしはこの辺で」
そう言うと、アリスさんはすっと姿を消した。きっと、僕が1人きりでここにいたから話すのにいい機会だと思ったのだろう。今夜、琴葉と話す機会があればいいな。アリスさんと会うことができれば、2人にとっていい思い出ができると思うから。
「たくさん料理があって迷っちゃったね、琴葉ちゃん」
「そうですね、沙奈さん」
迷ったと話す沙奈会長は肉料理も魚料理も持ってきており、郷土料理なのかお餅が入っている具だくさんの味噌汁もあった。
それに対して、琴葉は……肉料理だけでなくフルーツやスイーツもさっそく持ってきていた。
「相変わらずだなぁ、琴葉」
「こんなにも、フルーツやスイーツをたくさん食べられる機会なんて滅多にないでしょ?」
「……それもそうだな。でも、お腹を壊さないように気を付けてね」
僕は料理を一通り食べたら、フルーツやスイーツを食べるようにしよう。
そうだ、今は沙奈会長と琴葉しかいないからあのことを話そうかな。
「沙奈会長、琴葉。ついさっき、浴衣姿を着たアリスさんが僕のところにやってきました」
「えっ、そうなの?」
「レイ君が1人きりだから来たのかな。寂しがっていると思って……」
琴葉や沙奈会長ほどの優しさがあれば、その可能性もありそうだ。
「昨日からずっと僕らの様子を見ていたそうです。貸切温泉に入った僕らに影響されて、ホテルの近くにある足湯に入ったと」
「ここら辺、温泉地だからね。無料で入ることのできる足湯があるんだ」
「そうなんですね。今夜……もしかしたら、琴葉の方の部屋にアリスさんが遊びに来るかもしれない。タイミングを見計らってだと思うけれど」
「分かった」
「あと……沙奈会長、耳を貸してください」
僕は沙奈会長の耳元で、
「付き合い始めた日の夜のこと、アリスさんが見ていたそうです。あまりにも刺激的だったので、今回はさすがに僕らの部屋は見ないと言っていました」
「なるほどね……なるほど。それなら、何も気にせずにできるね……」
顔を真っ赤にしていたけど、どこかほっとしているように見えた。
「どうしたんですか、沙奈さん。顔が赤いですけど」
「へっ? ああ……こんなところで玲人君が急に顔を近づけるからドキドキしちゃって。玲人君、場所を考えなきゃダメだよ」
まったくもう、と沙奈会長は微笑みながら僕の隣の椅子に座った。
それじゃ、僕もそろそろ料理を取りに行こうかな。そう思って席から立ち上がろうとしたとき、
「結局、自分の好きなものばかり取っちゃった」
「それでいいと思いますよ、麻実さん」
「樹里ちゃんの言うとおり、それがバイキングの醍醐味ですって。あたしも食べたいものを取ってきましたし」
姉さん、副会長さん、真奈ちゃんが戻ってきた。
姉さんは……好きなものばかり取ってきただけあって、肉料理と炭水化物が多いな。お昼ご飯のときに気に入ったのかほうとうを持ってきているし。ほうとうよりも少ないけど、うどんも持ってきているし。
副会長さんは魚料理と野菜中心のヘルシーな内容。
真奈ちゃんは沙奈会長のように肉料理や魚料理など色々なものを取ってきている。料理の取り方一つで個性って出るんだなと思った。
「じゃあ、僕も取ってきますよ。みなさん、僕のことは気にせずに食べてください」
僕も料理を取りに行く。
肉料理や魚料理はもちろん郷土料理も豊富だ。沙奈会長達が迷うのも頷ける。
沙奈会長が取ってきたお餅入りのみそしるはおつけだんご、姉さんがほうとうとは別に持ってきたうどんは吉田うどんという山梨の郷土料理とのこと。僕も旅行に来たのだから郷土料理は食べておきたい。
そんなことを考えながら料理を取ったら、お盆には郷土料理でいっぱいになってしまった。まだ食べたい料理もあるし、後でまた取りに来よう。
席に戻ると、みんなはまだ料理を食べていなかった。
「あれ、まだ食べ始めていないんですね」
「みんなで一緒に食べ始めたいと思ってね。あと、樹里先輩がどんなものを取ってきたのか動画に収めたいそうで……」
「そういうことですか」
ありとあらゆることを動画という形で残したいのかもしれない。
「逢坂君は郷土料理中心みたいだね」
「そうですね。ほうとう、吉田うどん、おつけだんご……炭水化物ばかりですね。まずは郷土料理から食べたいと思いまして」
「なるほどね。どうもありがとう」
僕は沙奈会長の隣の椅子に座る。
「それじゃ、玲人君も戻ってきたところで、いただきます!」
『いただきます!』
旅先のホテルでの夕ご飯なんて何年ぶりだろうか。同年代の人達だけで行く旅行も久しぶりなので、より非日常を味わっている気がして。それでも、
「……美味しい」
この一言に尽きるのだ。ホテルの夕ご飯だけあってとても美味しいんだけれど、沙奈会長達の嬉しそうな様子を見ると、美味しさがより増すように思える。
――誰かと一緒に食べた方がより美味しい。
昔は綺麗事だと信じていなかったその言葉も、今は少しだけ信じられそうな気がしたのであった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる