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本編
第41話『ゴン-前編-』
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4月27日、金曜日。
今日さえ乗りきれば3連休に突入する。しかし、ミッションがあるためか喜びはあまり感じられない。
今日、父さんが部下の氷室さんを通じて、親友の警察官に相談してくれるから、2年前のことを簡単に書いたメモを父さんに渡しておいた。
また、昨日の夜、沙奈会長に氷室さんのことについて電話で話したら、
『決着への可能性が膨らんだ気がするね。道が開けてきたっていうか』
沙奈会長は力強く言ってくれた。頼りになりそうな大人がいるだけで先が見えてくる感じがする。このチャンスをモノにしたい。
今朝も月野学園の校門の前にはマスコミがいたけれど、何も言うことはないとだけ言って学校の中に入った。昨日、取材は受けないと言ったのに、しつこい人達だ。
生徒会の仕事も今日はほとんどないとのこと。だからか、沙奈会長と副会長さんから無理せずに一日過ごしてほしいと言われてしまった。今日も放課後になったらすぐに帰るかどうかは、授業を受けながら考えるか。
午前中の授業に臨むけど、昨日、疎外感の凄い教室で授業を受けたこともあってかあまり疲れなかった。ただ、本当に息が詰まる。
そんな時間を耐え抜き、昼休みになったらすぐに生徒会室へと向かう。すると、生徒会室には既に沙奈会長と副会長さんの姿があった。
「お疲れ様、玲人君」
「おつかれー、逢坂君」
やはり、ここが学校の中で唯一安心できる場所だ。午前中の疲れが一気に取れたような気がする。
さてと、僕もさっそくお弁当を食べるとしよう──。
──プルルッ。
うん? 僕のスマートフォンが鳴っている。確認してみると『ゴン』からの電話か。ひさしぶりだ。
「ゴンか、ひさしぶりだな」
『そうだな、ゼロ! どうだ、高校生活は楽しいか?』
「僕なりに楽しんでるよ。ゴンこそ仕事には慣れてきたのか」
『ああ。元気にやってるぜ。体力には自信があるし』
「お前、昔から体格いいもんな」
ゴンというのは刑務所で過ごしていたときに出会った3歳年上の男。本名は大山太志。アリスさんを除けば、2年前の事件以降にできた唯一の友人だ。
昔、彼は窃盗や食い逃げの常習犯で、刑務所で生活を送っていた。僕の禁固生活が始まってすぐに一度は自由の身になった。しかし、すぐに再犯で刑務所に戻ってきたので、その際に激しく叱った。それを機に彼は犯罪をしなくなった。
大柄な体格であり、食べることが大好きなところが、昔やったゲームのキャラクターに似ていることから僕は『ゴン』と呼ぶ。ゴンは僕の名前の一部から『レイ=0=ゼロ』と連想し『ゼロ』と呼ぶようになった。
「それで、急にどうしたんだよ、ゴン」
『今日はもう仕事が終わって、これから会社の健康診断なんだ。それも夕方くらいに終わるから、ゼロとひさしぶりに会いたいと思ってよ。最近、お前も色々と報道されているみたいだけど、気分転換にでもどうかと思って』
「ゴンも僕が報道されていることを知ったのか」
『ああ。ネット記事を見てよ。月野学園って高校名と、ゼロが教えてくれた2年前の事件のことが書かれていたからさ。きっと、ゼロのことだろうって思ったんだ』
「なるほどな」
僕の出所時にゴンと連絡先を交換し、高校受験に合格したときに春休みくらいに会いたいねと話していた。ただ、僕の方は高校進学に伴う引越し、ゴンの方は年度末の時期で忙しかったために見送りとなっていたのだ。
『もし、ゼロさえ良ければ月野駅近くで会わないか? 確か、月野学園って月野駅が最寄り駅だったよな?』
「そうだけど。ちょっと待って。僕、生徒会に入っているから、会長や副会長に訊かないと……って、うわっ!」
気付けば、沙奈会長と副会長さんが僕の側に寄り添っていた。電話に集中していたので全然気付かなかった。ゴンとの電話が気になるのかな。
『どうした、ゼロ』
「いや、たいしたことじゃない。僕、実は生徒会に入ってさ。生徒会の先輩方に放課後は早く抜けていいかどうか訊いてみるよ」
『おう、分かった』
通話を保留の状態にする。
「あの、突然なんですけど、刑務所で知り合った友人から、放課後にひさしぶりに会わないかと誘われたのですが、早めに抜けても大丈夫ですか? ちなみにその友人は男です」
女性じゃないから言わなくても大丈夫だと思うけれど、何かのときのために言っておいた方がいいと思って。
「うん、大丈夫だよ。今日の仕事はほとんどないし。リフレッシュするにもいい機会だと思うよ。むしろ、私達も行きたいくらいですよね、樹里先輩」
「逢坂君とそのお友達さえ良ければね」
「僕はかまいませんよ。友人も大らかで気さくな男なので大丈夫だと思いますけど。一応、聞いてみますね」
再び通話状態にして、
「今日の放課後、僕は大丈夫だけれど……会長と副会長が一緒に行きたいと言っていてさ。2人とも女の子だけれどゴン、いいかな?」
『ああ、俺はかまわないぜ。ゼロの連れてくる女の子だったら大丈夫だろう。俺、同い年の彼女がいるから、2人を取るってこともないぜ!』
「へえ、お前、恋人がいるんだ。初耳だな」
出会った当初から、分け隔てなく話せる奴だから結構モテそうだ。
『ああ。最後に出所してすぐにできたんだ。それまでも何度かデートはしていたんだけど。何度も犯罪に手を染めちまったのに、俺のことをずっと心配くれていたいい恋人だよ』
「そっか。それは良かった」
ゴンがそう言うなら、彼の恋人はとてもいい人なんだろう。もしかしたら、半年以上も犯罪を起こさずに生活できているのは、恋人のおかげでもあるのかも。
『彼女にはゼロと会うつもりだと言っているから大丈夫だ。それで、月野駅の近くで会うとして、どこに行くか?』
「僕も引っ越してそんなに経っていないから、駅の周りはあまり知らないな……」
「駅の近くにカラオケボックスがあるよ。あそこなら個室だから人の目を気にせずに過ごせると思う」
僕とゴンの会話を聞いていたのか、沙奈会長がそんなことを言ってきた。さっきよりもさらに顔を寄せている。
『今の声が、今日一緒に来る会長さんか副会長さんなのか?』
「生徒会長だよ。彼女の言ったように、カラオケボックスがいいと思う」
『そうだな、分かった。今週、給料が入ったから奢るよ。ゼロの高校入学祝いってことで。もちろん、一緒に来る子達の分も。俺は社会人だからな』
「……さすがは社会人。ありがとう。そのご厚意に甘えさせてもらうよ。じゃあ、月野駅の改札で会おうか」
『分かった。じゃあ、学校を出るときにでも一言、連絡をくれ』
「分かった。また後で」
『ああ』
ゴンの方から通話を切った。
ゴンと会うのは僕が自由の身になった直後以来だけど、彼は変わっているのかな。僕のこの金髪を見てどう思うのか。
「逢坂君、どうだった?」
「ええ。彼は彼女がいますけど、お二人が来ても大丈夫ですって。月野駅近くのカラオケボックスで会うことになりました」
「ああ、あそこね。友達と何度か行ったことがあるよ。確かにカラオケボックスならゆっくりとできるよね」
「そうですね。あと、彼は社会人で給料が入った直後だからか、僕達の料金も払ってくれるみたいです」
「太っ腹だね」
彼の下の名前は太志だけれど……僕の記憶の中では太ってはない。デカい奴だけど。
「じゃあ、昼休みの間に少しでも仕事を進めておきますか」
「そうだね、沙奈ちゃん。逢坂君はゆっくりとお弁当を食べていいからね」
「分かりました」
生徒会の仕事をしている2人が見えているところで、のんびりとお昼ご飯を食べられるだろうか。
──プルルッ。
うん、もしかしてゴンからか?
スマートフォンを確認すると、父さんからメッセージが届いたという通知が。
『さっき、氷室君に玲人が書いたメモを渡して、2年前のことを簡単に説明しておいた。午後に親友の警察官に話してくれるそうだ』
父さんの方も着実に段階を踏んでいるか。
『分かった。ありがとう。』
あとは、その警察の方が僕の事件の話を聞いてどう判断するか。今回はざっくりとしか説明していないので、後日、僕と直接会って話すことも十分にあり得るだろう。
会社では父さんや氷室さんが僕のことで動いてくれて、目の前では沙奈会長と副会長さんが生徒会の仕事をしている。僕は何もやっていないな……と思いながらお弁当を食べ始めるのであった。
今日さえ乗りきれば3連休に突入する。しかし、ミッションがあるためか喜びはあまり感じられない。
今日、父さんが部下の氷室さんを通じて、親友の警察官に相談してくれるから、2年前のことを簡単に書いたメモを父さんに渡しておいた。
また、昨日の夜、沙奈会長に氷室さんのことについて電話で話したら、
『決着への可能性が膨らんだ気がするね。道が開けてきたっていうか』
沙奈会長は力強く言ってくれた。頼りになりそうな大人がいるだけで先が見えてくる感じがする。このチャンスをモノにしたい。
今朝も月野学園の校門の前にはマスコミがいたけれど、何も言うことはないとだけ言って学校の中に入った。昨日、取材は受けないと言ったのに、しつこい人達だ。
生徒会の仕事も今日はほとんどないとのこと。だからか、沙奈会長と副会長さんから無理せずに一日過ごしてほしいと言われてしまった。今日も放課後になったらすぐに帰るかどうかは、授業を受けながら考えるか。
午前中の授業に臨むけど、昨日、疎外感の凄い教室で授業を受けたこともあってかあまり疲れなかった。ただ、本当に息が詰まる。
そんな時間を耐え抜き、昼休みになったらすぐに生徒会室へと向かう。すると、生徒会室には既に沙奈会長と副会長さんの姿があった。
「お疲れ様、玲人君」
「おつかれー、逢坂君」
やはり、ここが学校の中で唯一安心できる場所だ。午前中の疲れが一気に取れたような気がする。
さてと、僕もさっそくお弁当を食べるとしよう──。
──プルルッ。
うん? 僕のスマートフォンが鳴っている。確認してみると『ゴン』からの電話か。ひさしぶりだ。
「ゴンか、ひさしぶりだな」
『そうだな、ゼロ! どうだ、高校生活は楽しいか?』
「僕なりに楽しんでるよ。ゴンこそ仕事には慣れてきたのか」
『ああ。元気にやってるぜ。体力には自信があるし』
「お前、昔から体格いいもんな」
ゴンというのは刑務所で過ごしていたときに出会った3歳年上の男。本名は大山太志。アリスさんを除けば、2年前の事件以降にできた唯一の友人だ。
昔、彼は窃盗や食い逃げの常習犯で、刑務所で生活を送っていた。僕の禁固生活が始まってすぐに一度は自由の身になった。しかし、すぐに再犯で刑務所に戻ってきたので、その際に激しく叱った。それを機に彼は犯罪をしなくなった。
大柄な体格であり、食べることが大好きなところが、昔やったゲームのキャラクターに似ていることから僕は『ゴン』と呼ぶ。ゴンは僕の名前の一部から『レイ=0=ゼロ』と連想し『ゼロ』と呼ぶようになった。
「それで、急にどうしたんだよ、ゴン」
『今日はもう仕事が終わって、これから会社の健康診断なんだ。それも夕方くらいに終わるから、ゼロとひさしぶりに会いたいと思ってよ。最近、お前も色々と報道されているみたいだけど、気分転換にでもどうかと思って』
「ゴンも僕が報道されていることを知ったのか」
『ああ。ネット記事を見てよ。月野学園って高校名と、ゼロが教えてくれた2年前の事件のことが書かれていたからさ。きっと、ゼロのことだろうって思ったんだ』
「なるほどな」
僕の出所時にゴンと連絡先を交換し、高校受験に合格したときに春休みくらいに会いたいねと話していた。ただ、僕の方は高校進学に伴う引越し、ゴンの方は年度末の時期で忙しかったために見送りとなっていたのだ。
『もし、ゼロさえ良ければ月野駅近くで会わないか? 確か、月野学園って月野駅が最寄り駅だったよな?』
「そうだけど。ちょっと待って。僕、生徒会に入っているから、会長や副会長に訊かないと……って、うわっ!」
気付けば、沙奈会長と副会長さんが僕の側に寄り添っていた。電話に集中していたので全然気付かなかった。ゴンとの電話が気になるのかな。
『どうした、ゼロ』
「いや、たいしたことじゃない。僕、実は生徒会に入ってさ。生徒会の先輩方に放課後は早く抜けていいかどうか訊いてみるよ」
『おう、分かった』
通話を保留の状態にする。
「あの、突然なんですけど、刑務所で知り合った友人から、放課後にひさしぶりに会わないかと誘われたのですが、早めに抜けても大丈夫ですか? ちなみにその友人は男です」
女性じゃないから言わなくても大丈夫だと思うけれど、何かのときのために言っておいた方がいいと思って。
「うん、大丈夫だよ。今日の仕事はほとんどないし。リフレッシュするにもいい機会だと思うよ。むしろ、私達も行きたいくらいですよね、樹里先輩」
「逢坂君とそのお友達さえ良ければね」
「僕はかまいませんよ。友人も大らかで気さくな男なので大丈夫だと思いますけど。一応、聞いてみますね」
再び通話状態にして、
「今日の放課後、僕は大丈夫だけれど……会長と副会長が一緒に行きたいと言っていてさ。2人とも女の子だけれどゴン、いいかな?」
『ああ、俺はかまわないぜ。ゼロの連れてくる女の子だったら大丈夫だろう。俺、同い年の彼女がいるから、2人を取るってこともないぜ!』
「へえ、お前、恋人がいるんだ。初耳だな」
出会った当初から、分け隔てなく話せる奴だから結構モテそうだ。
『ああ。最後に出所してすぐにできたんだ。それまでも何度かデートはしていたんだけど。何度も犯罪に手を染めちまったのに、俺のことをずっと心配くれていたいい恋人だよ』
「そっか。それは良かった」
ゴンがそう言うなら、彼の恋人はとてもいい人なんだろう。もしかしたら、半年以上も犯罪を起こさずに生活できているのは、恋人のおかげでもあるのかも。
『彼女にはゼロと会うつもりだと言っているから大丈夫だ。それで、月野駅の近くで会うとして、どこに行くか?』
「僕も引っ越してそんなに経っていないから、駅の周りはあまり知らないな……」
「駅の近くにカラオケボックスがあるよ。あそこなら個室だから人の目を気にせずに過ごせると思う」
僕とゴンの会話を聞いていたのか、沙奈会長がそんなことを言ってきた。さっきよりもさらに顔を寄せている。
『今の声が、今日一緒に来る会長さんか副会長さんなのか?』
「生徒会長だよ。彼女の言ったように、カラオケボックスがいいと思う」
『そうだな、分かった。今週、給料が入ったから奢るよ。ゼロの高校入学祝いってことで。もちろん、一緒に来る子達の分も。俺は社会人だからな』
「……さすがは社会人。ありがとう。そのご厚意に甘えさせてもらうよ。じゃあ、月野駅の改札で会おうか」
『分かった。じゃあ、学校を出るときにでも一言、連絡をくれ』
「分かった。また後で」
『ああ』
ゴンの方から通話を切った。
ゴンと会うのは僕が自由の身になった直後以来だけど、彼は変わっているのかな。僕のこの金髪を見てどう思うのか。
「逢坂君、どうだった?」
「ええ。彼は彼女がいますけど、お二人が来ても大丈夫ですって。月野駅近くのカラオケボックスで会うことになりました」
「ああ、あそこね。友達と何度か行ったことがあるよ。確かにカラオケボックスならゆっくりとできるよね」
「そうですね。あと、彼は社会人で給料が入った直後だからか、僕達の料金も払ってくれるみたいです」
「太っ腹だね」
彼の下の名前は太志だけれど……僕の記憶の中では太ってはない。デカい奴だけど。
「じゃあ、昼休みの間に少しでも仕事を進めておきますか」
「そうだね、沙奈ちゃん。逢坂君はゆっくりとお弁当を食べていいからね」
「分かりました」
生徒会の仕事をしている2人が見えているところで、のんびりとお昼ご飯を食べられるだろうか。
──プルルッ。
うん、もしかしてゴンからか?
スマートフォンを確認すると、父さんからメッセージが届いたという通知が。
『さっき、氷室君に玲人が書いたメモを渡して、2年前のことを簡単に説明しておいた。午後に親友の警察官に話してくれるそうだ』
父さんの方も着実に段階を踏んでいるか。
『分かった。ありがとう。』
あとは、その警察の方が僕の事件の話を聞いてどう判断するか。今回はざっくりとしか説明していないので、後日、僕と直接会って話すことも十分にあり得るだろう。
会社では父さんや氷室さんが僕のことで動いてくれて、目の前では沙奈会長と副会長さんが生徒会の仕事をしている。僕は何もやっていないな……と思いながらお弁当を食べ始めるのであった。
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