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本編
第19話『ナイトベッド』
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「やっぱり、レイ君は生徒会長さんと付き合っているんだね」
中学の制服姿の琴葉は悲しげな表情をして、僕にそう言ってきた。
「違うんだ、これは……」
「だって、会長さんがレイ君の家に泊まりに来て、一緒に寝ているじゃない」
「……琴葉だって昔は家に泊まりに来て、僕と一緒に寝たじゃないか」
「……そうだったね」
琴葉は苦笑いをして、視線をちらつかせている。天然なところがあるからな。
「でも、それはお互いに幼い頃の話! 今はレイ君も会長さんも高校生同士じゃない! レイ君だって会長さんのことを意識せざるを得ないって言っていたし……」
「……言ったな、確かに」
昔は幼なじみということもあり、姉さんと一緒に寝ることも多かったためか、琴葉のことを女性というよりは友人のように感じていた。
「もう、レイ君にとってあたしはいなくてもいい存在なんだね」
「そんなことない!」
「……でも、レイ君があの会長さんと一緒にいるなんて嫌だ」
気付けば、十字架に張り付けられている沙奈会長がいた。月野学園の制服を着ている。しかし、会長は意識を失っているようだ。
「彼女なんていなくなっちゃえばいいよ」
琴葉のその言葉が合図だったのか、沙奈会長を張り付けた十字架は勢いよく燃え出す。その炎は会長のことを包み込んでゆく。
「沙奈会長!」
くそっ、体が動かない! 沙奈会長のことを助けなければいけないのに。
「じゃあね、レイ君。これがあの時についてのあたしからの処罰だよ」
そう言って、琴葉はすっと遠くへと消えていき、沙奈会長も炎に包まれて姿が見えなくなってしまったのであった。
「はあっ、はあっ……」
気付いたときには真っ暗で何も見えなかったけれど、暗さに慣れ、窓の方から注がれる月光によってうっすらと天井が見えるようになった。
「夢だったのか……」
あんな夢を見てしまうなんて。この前以上に息苦しい。
俺のすぐ近くで可愛らしい寝息が聞こえてくるけれど、沙奈会長が側にいることを確かめたくてベッドライトを点ける。
「玲人君、えへへっ……」
沙奈会長は寝る前と同じように俺に腕枕をしながら、幸せそうに眠っていた。そのことにとても安心する。
部屋の壁に掛かっている時計を見ると、まだ午前2時半過ぎか。
「ううん……」
ベッドライトが眩しかったのか、会長が目を覚ましてしまった。
「れいと……くん?」
「ごめんなさい、目を覚まさせてしまいましたね」
「それは別にいいんだけれど、どうしたの? こんな時間に目を覚まして。あっ、もしかして……私に色々としたくなっちゃったのかな? それとも、もうしちゃったのかな?」
ニヤニヤしながらそう言うと、沙奈会長は自分の体を触っている。むしろ、会長の方が俺の寝ている間に何かしてきそうだけれど。
「何もしていませんよ。ただ、目を覚ましたから会長の様子を見ただけです。ちゃんと寝ているのかなって」
「玲人君が寝てから15分くらいで寝たよ。その間に玲人君に頭をすりすりさせたり、頬にキスをしたり、匂いを堪能したり、寝顔の写真を撮ったりしたけれどね。決してやましいことはしていないから安心して」
そこまで言われたら普通は安心できないだろ。
ただ、匂いを嗅がれて、キスをされて、寝顔を撮影されて……俺、よく今まで目が覚めなかったな。まさか、あんな夢を見てしまった原因は……さすがに違うか。
「けほっ、けほっ」
「大丈夫ですか」
沙奈会長が咳き込んでいるところは、学校でも何度も見たけれど。
「私、病気には全然ならないんだけれどね。生徒会の仕事の疲れが気付かないうちに溜まって、今になって体に影響が出ちゃっているのかも」
「無理はしないでくださいね」
「うん。それに、玲人君が生徒会に入ってくれたし。月曜日から、樹里先輩と一緒に少しずつ仕事を教えていくからね」
「分かりました」
会長と副会長の2人体制でやるというのはさすがにキツいと思う。沙奈会長と副会長さんの負担が少しでも減るように頑張らなければ。
「それにしても、まだ2時半過ぎなんだね。まだまだ夜中だし、体を使ってコミュニケーションを取ってみる? 何だったら、コネクションしちゃう?」
「いえ、結構です。それに、沙奈会長が俺の隣でぐっすり眠っているのを見ることができたので十分なんです」
「……そっか。玲人君、もしかして何か悪い夢でも見ちゃった?」
「……そうですね」
ただ、沙奈会長が十字架に張り付けられ、その上に火あぶりにされてしまったという夢の内容は言えない。どうして、こういう夢だけは鮮明に覚えてしまっているのだろう。
「そっか……」
そう呟くと、沙奈会長は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。
「もし、私のせいで悪い夢を見ちゃったらごめんね。こうしていれば、少しは安心できると思うよ」
ちょうど目のあたりに沙奈会長の柔らかな胸が当たる。ただ、そんな胸も豊満なことが幸いし、何とか呼吸することができている。息を吸う度に彼女の甘い匂いを強く感じてしまうけれど。
「昔、泣いたり怒ったりしたときに、お母さんがこうやってぎゅっと抱きしめてくれて。そうすると、不思議と気持ちが安らぐんだよね。お母さんの匂いや柔らかさを感じられたからなのかな……」
昔、姉さんや琴葉がご機嫌斜めのときに、俺のことをぎゅっと抱きしめることがあった。大抵の場合、抱きしめた後はとても機嫌が良くなっていたな。
「私もお母さんの真似で、小さい頃、妹が泣いているときによく抱きしめてた。あと、喧嘩しちゃったときも」
「……会長、妹がいたんですね」
「うん、3歳年下の妹が1人いるよ。大人しい性格だけれど、可愛い自慢の妹なんだ」
会長に似て活発な妹さんかと思ったら大人しい子なのか。ただ、沙奈会長と一緒で好意を抱く相手には物凄く積極的になるかもしれない。
「玲人君、どうかな。少しは落ち着いた?」
「急に抱きしめられたので驚きましたけど……多少は」
「そっか、良かった。玲人君がお望みなら、私のおっぱいをもっと堪能してくれてもいいんだよ? ミルクは出ないけれど」
「遠慮しておきますよ」
まったく、沙奈会長はすぐにイチャイチャの方向に持っていくんだから。ただ、彼女にとっては、好きな人と過ごす初めての夜だから気持ちが高ぶっているのかも。
「そんな、遠慮しなくていいんだよっ!」
沙奈会長はさらにぎゅっと抱きしめてくる。
それに抵抗しようともがいているうちに、
「れ、玲人君……」
沙奈会長のことを押し倒したような体勢になってしまった。しかも、会長の寝間着のボタンがいくつも外れた状態で。
「……好きな場所から味わってくれていいよ、玲人君」
「何もしませんよ」
「遠慮しなくていいのに」
そう言うと、会長は再び俺のことを抱きしめてきて、脚も絡ませてくる。そのことでお互いの体の前面が密着する形となる。会長の力が思いの外に強いので、この体勢を解くことができない。
「あぁ、玲人君はやっぱりいいな。もう一生離したくない気分だよ」
「そう思っていただけるのは幸せですけど、ここまで力強くぎゅっとされると気分が悪くなってくるんですが……」
「本当に?」
「本当ですって」
会長の大きな胸がクッション代わりになっていて、痛みとかはあまりないけれど。
「じゃあ、私のことをお姉ちゃんって言ってくれたら離してあげる」
お姉ちゃんって、小学生くらいまでしか言っていないな。今は姉さんのことは姉さんって呼んでいるし。会長にも妹がいるから、年下の俺にも同じように言ってほしいのだろう。
「沙奈お姉ちゃん。お願いだから、俺のことを解放してください」
会長のことを見つめながらそう言う。やっぱり恥ずかしいな。真夜中で良かったよ。姉さんがいる前だったら今すぐにここから逃げてる。
「……分かったよ、玲人君」
沙奈会長は満足そうな表情をして抱擁を解いてくれた。
再び俺達は仰向けになり、寄り添うような体勢に。
「お姉ちゃんって言ったときの玲人君、とても可愛かったよ。でも、玲人君には弟じゃなくて夫になってほしいな」
言葉は違うけれど、伝えたい気持ちは前からずっと変わっていない。そこまで強い気持ちを抱き続けているところは尊敬する。
「そうですか。今のところ、俺は沙奈会長を姉や妻にする気はないですけどね」
「妻っていう響きいいね。妻になりたーい」
沙奈会長はニヤニヤしている。きっと、今の俺の言葉は聞き流したのだろう。
「会長と話していたら眠くなってきました」
「そっか。じゃあ、また悪い夢を見たときには私が助けに行くからね」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
さっき見た夢では沙奈会長が火に包まれてしまったけど。ただ、会長だったらそのくらいのことでは死なないかもしれない。
「おやすみなさい、会長」
「うん。おやすみ、玲人君」
沙奈会長は俺の頬にキスをしてきた。
もう、さっきのような辛い夢は見たくないな。
ベッドライトを消し、沙奈会長の温もりや匂いに安心感を抱きつつ、俺は再び眠りにつくのであった。
中学の制服姿の琴葉は悲しげな表情をして、僕にそう言ってきた。
「違うんだ、これは……」
「だって、会長さんがレイ君の家に泊まりに来て、一緒に寝ているじゃない」
「……琴葉だって昔は家に泊まりに来て、僕と一緒に寝たじゃないか」
「……そうだったね」
琴葉は苦笑いをして、視線をちらつかせている。天然なところがあるからな。
「でも、それはお互いに幼い頃の話! 今はレイ君も会長さんも高校生同士じゃない! レイ君だって会長さんのことを意識せざるを得ないって言っていたし……」
「……言ったな、確かに」
昔は幼なじみということもあり、姉さんと一緒に寝ることも多かったためか、琴葉のことを女性というよりは友人のように感じていた。
「もう、レイ君にとってあたしはいなくてもいい存在なんだね」
「そんなことない!」
「……でも、レイ君があの会長さんと一緒にいるなんて嫌だ」
気付けば、十字架に張り付けられている沙奈会長がいた。月野学園の制服を着ている。しかし、会長は意識を失っているようだ。
「彼女なんていなくなっちゃえばいいよ」
琴葉のその言葉が合図だったのか、沙奈会長を張り付けた十字架は勢いよく燃え出す。その炎は会長のことを包み込んでゆく。
「沙奈会長!」
くそっ、体が動かない! 沙奈会長のことを助けなければいけないのに。
「じゃあね、レイ君。これがあの時についてのあたしからの処罰だよ」
そう言って、琴葉はすっと遠くへと消えていき、沙奈会長も炎に包まれて姿が見えなくなってしまったのであった。
「はあっ、はあっ……」
気付いたときには真っ暗で何も見えなかったけれど、暗さに慣れ、窓の方から注がれる月光によってうっすらと天井が見えるようになった。
「夢だったのか……」
あんな夢を見てしまうなんて。この前以上に息苦しい。
俺のすぐ近くで可愛らしい寝息が聞こえてくるけれど、沙奈会長が側にいることを確かめたくてベッドライトを点ける。
「玲人君、えへへっ……」
沙奈会長は寝る前と同じように俺に腕枕をしながら、幸せそうに眠っていた。そのことにとても安心する。
部屋の壁に掛かっている時計を見ると、まだ午前2時半過ぎか。
「ううん……」
ベッドライトが眩しかったのか、会長が目を覚ましてしまった。
「れいと……くん?」
「ごめんなさい、目を覚まさせてしまいましたね」
「それは別にいいんだけれど、どうしたの? こんな時間に目を覚まして。あっ、もしかして……私に色々としたくなっちゃったのかな? それとも、もうしちゃったのかな?」
ニヤニヤしながらそう言うと、沙奈会長は自分の体を触っている。むしろ、会長の方が俺の寝ている間に何かしてきそうだけれど。
「何もしていませんよ。ただ、目を覚ましたから会長の様子を見ただけです。ちゃんと寝ているのかなって」
「玲人君が寝てから15分くらいで寝たよ。その間に玲人君に頭をすりすりさせたり、頬にキスをしたり、匂いを堪能したり、寝顔の写真を撮ったりしたけれどね。決してやましいことはしていないから安心して」
そこまで言われたら普通は安心できないだろ。
ただ、匂いを嗅がれて、キスをされて、寝顔を撮影されて……俺、よく今まで目が覚めなかったな。まさか、あんな夢を見てしまった原因は……さすがに違うか。
「けほっ、けほっ」
「大丈夫ですか」
沙奈会長が咳き込んでいるところは、学校でも何度も見たけれど。
「私、病気には全然ならないんだけれどね。生徒会の仕事の疲れが気付かないうちに溜まって、今になって体に影響が出ちゃっているのかも」
「無理はしないでくださいね」
「うん。それに、玲人君が生徒会に入ってくれたし。月曜日から、樹里先輩と一緒に少しずつ仕事を教えていくからね」
「分かりました」
会長と副会長の2人体制でやるというのはさすがにキツいと思う。沙奈会長と副会長さんの負担が少しでも減るように頑張らなければ。
「それにしても、まだ2時半過ぎなんだね。まだまだ夜中だし、体を使ってコミュニケーションを取ってみる? 何だったら、コネクションしちゃう?」
「いえ、結構です。それに、沙奈会長が俺の隣でぐっすり眠っているのを見ることができたので十分なんです」
「……そっか。玲人君、もしかして何か悪い夢でも見ちゃった?」
「……そうですね」
ただ、沙奈会長が十字架に張り付けられ、その上に火あぶりにされてしまったという夢の内容は言えない。どうして、こういう夢だけは鮮明に覚えてしまっているのだろう。
「そっか……」
そう呟くと、沙奈会長は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。
「もし、私のせいで悪い夢を見ちゃったらごめんね。こうしていれば、少しは安心できると思うよ」
ちょうど目のあたりに沙奈会長の柔らかな胸が当たる。ただ、そんな胸も豊満なことが幸いし、何とか呼吸することができている。息を吸う度に彼女の甘い匂いを強く感じてしまうけれど。
「昔、泣いたり怒ったりしたときに、お母さんがこうやってぎゅっと抱きしめてくれて。そうすると、不思議と気持ちが安らぐんだよね。お母さんの匂いや柔らかさを感じられたからなのかな……」
昔、姉さんや琴葉がご機嫌斜めのときに、俺のことをぎゅっと抱きしめることがあった。大抵の場合、抱きしめた後はとても機嫌が良くなっていたな。
「私もお母さんの真似で、小さい頃、妹が泣いているときによく抱きしめてた。あと、喧嘩しちゃったときも」
「……会長、妹がいたんですね」
「うん、3歳年下の妹が1人いるよ。大人しい性格だけれど、可愛い自慢の妹なんだ」
会長に似て活発な妹さんかと思ったら大人しい子なのか。ただ、沙奈会長と一緒で好意を抱く相手には物凄く積極的になるかもしれない。
「玲人君、どうかな。少しは落ち着いた?」
「急に抱きしめられたので驚きましたけど……多少は」
「そっか、良かった。玲人君がお望みなら、私のおっぱいをもっと堪能してくれてもいいんだよ? ミルクは出ないけれど」
「遠慮しておきますよ」
まったく、沙奈会長はすぐにイチャイチャの方向に持っていくんだから。ただ、彼女にとっては、好きな人と過ごす初めての夜だから気持ちが高ぶっているのかも。
「そんな、遠慮しなくていいんだよっ!」
沙奈会長はさらにぎゅっと抱きしめてくる。
それに抵抗しようともがいているうちに、
「れ、玲人君……」
沙奈会長のことを押し倒したような体勢になってしまった。しかも、会長の寝間着のボタンがいくつも外れた状態で。
「……好きな場所から味わってくれていいよ、玲人君」
「何もしませんよ」
「遠慮しなくていいのに」
そう言うと、会長は再び俺のことを抱きしめてきて、脚も絡ませてくる。そのことでお互いの体の前面が密着する形となる。会長の力が思いの外に強いので、この体勢を解くことができない。
「あぁ、玲人君はやっぱりいいな。もう一生離したくない気分だよ」
「そう思っていただけるのは幸せですけど、ここまで力強くぎゅっとされると気分が悪くなってくるんですが……」
「本当に?」
「本当ですって」
会長の大きな胸がクッション代わりになっていて、痛みとかはあまりないけれど。
「じゃあ、私のことをお姉ちゃんって言ってくれたら離してあげる」
お姉ちゃんって、小学生くらいまでしか言っていないな。今は姉さんのことは姉さんって呼んでいるし。会長にも妹がいるから、年下の俺にも同じように言ってほしいのだろう。
「沙奈お姉ちゃん。お願いだから、俺のことを解放してください」
会長のことを見つめながらそう言う。やっぱり恥ずかしいな。真夜中で良かったよ。姉さんがいる前だったら今すぐにここから逃げてる。
「……分かったよ、玲人君」
沙奈会長は満足そうな表情をして抱擁を解いてくれた。
再び俺達は仰向けになり、寄り添うような体勢に。
「お姉ちゃんって言ったときの玲人君、とても可愛かったよ。でも、玲人君には弟じゃなくて夫になってほしいな」
言葉は違うけれど、伝えたい気持ちは前からずっと変わっていない。そこまで強い気持ちを抱き続けているところは尊敬する。
「そうですか。今のところ、俺は沙奈会長を姉や妻にする気はないですけどね」
「妻っていう響きいいね。妻になりたーい」
沙奈会長はニヤニヤしている。きっと、今の俺の言葉は聞き流したのだろう。
「会長と話していたら眠くなってきました」
「そっか。じゃあ、また悪い夢を見たときには私が助けに行くからね」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
さっき見た夢では沙奈会長が火に包まれてしまったけど。ただ、会長だったらそのくらいのことでは死なないかもしれない。
「おやすみなさい、会長」
「うん。おやすみ、玲人君」
沙奈会長は俺の頬にキスをしてきた。
もう、さっきのような辛い夢は見たくないな。
ベッドライトを消し、沙奈会長の温もりや匂いに安心感を抱きつつ、俺は再び眠りにつくのであった。
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