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本編
第10話『歩もうと決めた道』
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姉さんに指摘されたように、お風呂の中で生徒会に入るかどうかの考えが大分まとまっていた。
お風呂を出てから寝るまでの間、改めて1人で考えてみたけれど、その考えが揺らぐことはなかった。明日、如月会長と副会長さんの2人に意向を伝えることにしよう。
4月19日、木曜日。
今日の天気は快晴だ。強い陽差しによる温もりと穏やかな風の涼しさが気持ちいい。こういった気候がいつまでも続いていけばいいのにな。
「にゃーん」
公園に行くと、いつもの茶トラ猫がベンチでのんびりとしていた。いつでも変わらないお前を見ていると心が落ち着くよ。
「今日も学校に行ってくるよ。ただ、これからは夕方に会えなくなる日が多くなるかもね」
茶トラ猫の頭を優しく撫でる。
「くぅーん」
気持ちいいのか茶トラ猫はそんな声を上げてくれる。ノーリアクションの猫もいいけれど、こうやってしっかりと反応してくれる猫って可愛いな。
俺は月野学園に登校する。生徒会や風紀委員会の生徒はいないので、どうやら今日も朝の身だしなみチェックはないようだ。といっても、俺のことをジロジロと見てくる生徒は依然として多いけれども。
「生徒会室にいるかもしれないな」
もし、会長も副会長さんもいなかったら、副会長さんに連絡しよう。
俺は生徒会室に向かう。緊張する中、扉をノックする。
『はーい』
中から如月会長の声が聞こえた。会長の声を聞いて安心するのは初めてだ。
ゆっくりと扉が開くと、目の前には如月会長の姿が。
「玲人君……」
「おはようございます、如月会長」
「……おはよう」
昨日と同じように朝一番に俺と顔を会わせたからか、如月会長は目を見開き驚いている様子だった。
生徒会室の中に入ると、副会長さんの姿もあった。
「玲人君、何か分からないことがあるのかな? 私や樹里先輩に何でも訊いていいよ」
「生徒会の仕事で分からないことはもちろんありますけど、今回は庶務係として生徒会に入ることをお2人に伝えようと思って来ました」
「……えっ?」
会長、目が点になっているぞ。生徒会に入るという俺の答えに驚いたのか。それともドッキリだと考えているのか。
「沙奈ちゃん、良かったじゃない。逢坂君、生徒会に入ってくれるってさ!」
副会長さんが爽やかな笑みを浮かべながら会長にそう言う。どうやら、副会長さんの方が理解するのが早かったようだ。
「……本当なの? 玲人君」
「本当ですよ」
「……それならもう一度、はっきり言ってくれるかな」
会長は俺の手をそっと握り、目を見つめながらそう言う。
「庶務係として生徒会に入ります。分からないことばかりですが、これからよろしくお願いします」
誰かに必要とされていることは嬉しいけれど、怖さもある。でも、如月会長と副会長さんと一緒ならやってみてもいいと思えるようになったのだ。
「本当に生徒会に入ってくれるんだよね」
「だから入るって何度も言っているじゃないですか」
「……ありがとう」
そう言って、如月会長は俺のことをぎゅっと抱きしめ、俺の胸に顔を埋めてくる。会長の温もりを全身で感じる。今まではそれが恐ろしかったけれど、今は心地いいな。
「抱きしめちゃうなんて、逢坂君が生徒会に入ったことが相当嬉しいんだね」
「……もちろんですよ。それに、昨日……あんなことをしちゃったから、玲人君が生徒会に入る可能性はもうないんじゃないかと思って……」
「あれは確かにやり過ぎだったね。そこは反省しようね」
副会長さんはさすがに苦笑い。
「……玲人君、本当に生徒会にいてくれるんだよね?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、約束の……キスをしてくれない?」
嬉しさのあまりか如月会長はそう言ってゆっくりと目を瞑ってくる。もうすっかりといつもの会長に戻ったな。
「調子に乗らないでください」
「でも、誓いをするときにキスをするものでしょ?」
「それは結婚するときですよ」
「じゃあ、生徒会に入ったついでに結婚しましょう!」
結婚ってついで感覚でしてしまっていいものなのだろうか。もちろん、このタイミングで会長と結婚なんてしないけれど。
「会長と結婚はしません。でも、生徒会に入るという誓いとして」
俺は会長のことをぎゅっと抱きしめた。こうすれば彼女も黙るだろうし、月曜日から何度も抱きしめてほしいって言ってきていたから。
「逢坂君も意外と大胆なところがあるんだね」
「小さい頃はよく4つ上の姉のことを抱きしめていたので、年上の女性を抱きしめること自体にはそこまで抵抗感ないですね」
昨日、入浴中に抱きしめ合ったときに昔のことを思い出した。幼い頃は姉さんによく甘えていたな。
「玲人君に抱きしめてもらえるなんて嬉しいよ」
「……そうですか」
嬉しいって言われると、今まで会長のことを抱きしめるのを嫌がったことに罪悪感を覚えてしまう。
「でも、不思議だなぁ。制服から私の知らない女の子の匂いがするんだけれど。これってどういうことなのか説明してくれる? しかも2人」
会長は至近距離から俺に冷たい視線を向ける。抱きしめられただけで俺の制服についている女性の匂いをかぎ分けることができるのか。凄いし、恐ろしい。
「ねえ、黙ってないで答えなさい。会長命令よ」
「1人は俺の姉ですね。家でたまに抱きしめられます。そして、あと1人は……2年生の佐藤華先輩だと思います。図書委員会の生徒ですけど」
アリスさんは……ベンチで隣同士に座ることはあったけれど、体が密着するようなことはなかったな。
「ああ、樹里先輩から話を聞いたわ。新入荷した本を運ぶのを手伝ったんだよね」
「そうです。まあ、そのきっかけが、たくさん本を持っていた佐藤先輩がよろめいたので俺が抱き留めたんですよ。多分、そのときに彼女の匂いがついたのだと思います」
「なるほどね。それは羨ま……分かったわ」
今、絶対に『羨ましい』って言おうとしたよな。
「そういう理由なら全然かまわないよ。いや、玲人君は色々と悪く言われているけれど、かっこいいから、校内にファンがいる可能性はあると思うの。だから、玲人君に変なことをしてくる女子が出てこないか心配で……」
いや、変なことをしてくる可能性が一番あるのは会長じゃないか。
そういえば、佐藤先輩も俺が意外と人気あるって言っていたな。それが本当なのかは知らないけど。
「逢坂君って、遠くから見ている分には金髪で無愛想だから恐い印象だけれど、実際に話すといい子だよね」
「樹里先輩も分かっていただけましたか?」
「昨日、逢坂君を見守っていた段階で十分に分かっていたよ。それにしても、沙奈ちゃんは本当に逢坂君のことを気に入っているんだね」
「もちろんですよ。これからの学校生活がより一層楽しくなると思います」
俺の方は……どうなるかな。今までよりは確実に大変な学校生活になると思うけれど、早く慣れるといいな。
如月会長は満面の笑みで、
「逢坂玲人君。月野学園生徒会へようこそ!」
俺のことを温かく迎え入れてくれた。これが会長の本当の姿であると信じたい。
こうして俺は生徒会庶務係になったのであった。
放課後。
庶務係としての初仕事は、俺が今日から生徒会庶務係とすることの正式な告示の紙と、これから生徒会が3人体制で活動することを知らせる生徒会広報の号外を、校内の全ての掲示板に貼っていくことだった。会長と副会長さんと一緒に。
「いいじゃない。こうして張り出すと、本当にこれから玲人君と3人で活動していくんだって実感できるね」
「……そうですね」
「これまで2人でも順調に活動してきたけれど、逢坂君がいると心強いな」
「早くお二人のお役に立てるよう一つ一つ勉強していきます」
最近は会長の体調もあまり良くないからな。何かあってもサポートできるようにならなければ。
「それにしても、この写真いいですよね、樹里先輩」
「そうだね。逢坂君もいい笑顔ができるんじゃない」
「そ、そうですかね」
号外を発行するため、生徒会メンバーの写真を昼休みに撮影した。会長と副会長さんから笑顔になってと言われたので、精一杯に笑顔を作ったつもりだけれど、2人が気に入ってくれたようで良かった。
ただ、この写真……俺を真ん中にして、会長と副会長さんが寄り添ってピースをしているものだ。プライベートならまだしも、生徒会広報に載せる写真としてこれはいいのだろうか。
「でも、悪くはないか」
写真を見ていると、月野学園にも確かな居場所ができたような気がして。とても温かな気持ちになるのであった。
お風呂を出てから寝るまでの間、改めて1人で考えてみたけれど、その考えが揺らぐことはなかった。明日、如月会長と副会長さんの2人に意向を伝えることにしよう。
4月19日、木曜日。
今日の天気は快晴だ。強い陽差しによる温もりと穏やかな風の涼しさが気持ちいい。こういった気候がいつまでも続いていけばいいのにな。
「にゃーん」
公園に行くと、いつもの茶トラ猫がベンチでのんびりとしていた。いつでも変わらないお前を見ていると心が落ち着くよ。
「今日も学校に行ってくるよ。ただ、これからは夕方に会えなくなる日が多くなるかもね」
茶トラ猫の頭を優しく撫でる。
「くぅーん」
気持ちいいのか茶トラ猫はそんな声を上げてくれる。ノーリアクションの猫もいいけれど、こうやってしっかりと反応してくれる猫って可愛いな。
俺は月野学園に登校する。生徒会や風紀委員会の生徒はいないので、どうやら今日も朝の身だしなみチェックはないようだ。といっても、俺のことをジロジロと見てくる生徒は依然として多いけれども。
「生徒会室にいるかもしれないな」
もし、会長も副会長さんもいなかったら、副会長さんに連絡しよう。
俺は生徒会室に向かう。緊張する中、扉をノックする。
『はーい』
中から如月会長の声が聞こえた。会長の声を聞いて安心するのは初めてだ。
ゆっくりと扉が開くと、目の前には如月会長の姿が。
「玲人君……」
「おはようございます、如月会長」
「……おはよう」
昨日と同じように朝一番に俺と顔を会わせたからか、如月会長は目を見開き驚いている様子だった。
生徒会室の中に入ると、副会長さんの姿もあった。
「玲人君、何か分からないことがあるのかな? 私や樹里先輩に何でも訊いていいよ」
「生徒会の仕事で分からないことはもちろんありますけど、今回は庶務係として生徒会に入ることをお2人に伝えようと思って来ました」
「……えっ?」
会長、目が点になっているぞ。生徒会に入るという俺の答えに驚いたのか。それともドッキリだと考えているのか。
「沙奈ちゃん、良かったじゃない。逢坂君、生徒会に入ってくれるってさ!」
副会長さんが爽やかな笑みを浮かべながら会長にそう言う。どうやら、副会長さんの方が理解するのが早かったようだ。
「……本当なの? 玲人君」
「本当ですよ」
「……それならもう一度、はっきり言ってくれるかな」
会長は俺の手をそっと握り、目を見つめながらそう言う。
「庶務係として生徒会に入ります。分からないことばかりですが、これからよろしくお願いします」
誰かに必要とされていることは嬉しいけれど、怖さもある。でも、如月会長と副会長さんと一緒ならやってみてもいいと思えるようになったのだ。
「本当に生徒会に入ってくれるんだよね」
「だから入るって何度も言っているじゃないですか」
「……ありがとう」
そう言って、如月会長は俺のことをぎゅっと抱きしめ、俺の胸に顔を埋めてくる。会長の温もりを全身で感じる。今まではそれが恐ろしかったけれど、今は心地いいな。
「抱きしめちゃうなんて、逢坂君が生徒会に入ったことが相当嬉しいんだね」
「……もちろんですよ。それに、昨日……あんなことをしちゃったから、玲人君が生徒会に入る可能性はもうないんじゃないかと思って……」
「あれは確かにやり過ぎだったね。そこは反省しようね」
副会長さんはさすがに苦笑い。
「……玲人君、本当に生徒会にいてくれるんだよね?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、約束の……キスをしてくれない?」
嬉しさのあまりか如月会長はそう言ってゆっくりと目を瞑ってくる。もうすっかりといつもの会長に戻ったな。
「調子に乗らないでください」
「でも、誓いをするときにキスをするものでしょ?」
「それは結婚するときですよ」
「じゃあ、生徒会に入ったついでに結婚しましょう!」
結婚ってついで感覚でしてしまっていいものなのだろうか。もちろん、このタイミングで会長と結婚なんてしないけれど。
「会長と結婚はしません。でも、生徒会に入るという誓いとして」
俺は会長のことをぎゅっと抱きしめた。こうすれば彼女も黙るだろうし、月曜日から何度も抱きしめてほしいって言ってきていたから。
「逢坂君も意外と大胆なところがあるんだね」
「小さい頃はよく4つ上の姉のことを抱きしめていたので、年上の女性を抱きしめること自体にはそこまで抵抗感ないですね」
昨日、入浴中に抱きしめ合ったときに昔のことを思い出した。幼い頃は姉さんによく甘えていたな。
「玲人君に抱きしめてもらえるなんて嬉しいよ」
「……そうですか」
嬉しいって言われると、今まで会長のことを抱きしめるのを嫌がったことに罪悪感を覚えてしまう。
「でも、不思議だなぁ。制服から私の知らない女の子の匂いがするんだけれど。これってどういうことなのか説明してくれる? しかも2人」
会長は至近距離から俺に冷たい視線を向ける。抱きしめられただけで俺の制服についている女性の匂いをかぎ分けることができるのか。凄いし、恐ろしい。
「ねえ、黙ってないで答えなさい。会長命令よ」
「1人は俺の姉ですね。家でたまに抱きしめられます。そして、あと1人は……2年生の佐藤華先輩だと思います。図書委員会の生徒ですけど」
アリスさんは……ベンチで隣同士に座ることはあったけれど、体が密着するようなことはなかったな。
「ああ、樹里先輩から話を聞いたわ。新入荷した本を運ぶのを手伝ったんだよね」
「そうです。まあ、そのきっかけが、たくさん本を持っていた佐藤先輩がよろめいたので俺が抱き留めたんですよ。多分、そのときに彼女の匂いがついたのだと思います」
「なるほどね。それは羨ま……分かったわ」
今、絶対に『羨ましい』って言おうとしたよな。
「そういう理由なら全然かまわないよ。いや、玲人君は色々と悪く言われているけれど、かっこいいから、校内にファンがいる可能性はあると思うの。だから、玲人君に変なことをしてくる女子が出てこないか心配で……」
いや、変なことをしてくる可能性が一番あるのは会長じゃないか。
そういえば、佐藤先輩も俺が意外と人気あるって言っていたな。それが本当なのかは知らないけど。
「逢坂君って、遠くから見ている分には金髪で無愛想だから恐い印象だけれど、実際に話すといい子だよね」
「樹里先輩も分かっていただけましたか?」
「昨日、逢坂君を見守っていた段階で十分に分かっていたよ。それにしても、沙奈ちゃんは本当に逢坂君のことを気に入っているんだね」
「もちろんですよ。これからの学校生活がより一層楽しくなると思います」
俺の方は……どうなるかな。今までよりは確実に大変な学校生活になると思うけれど、早く慣れるといいな。
如月会長は満面の笑みで、
「逢坂玲人君。月野学園生徒会へようこそ!」
俺のことを温かく迎え入れてくれた。これが会長の本当の姿であると信じたい。
こうして俺は生徒会庶務係になったのであった。
放課後。
庶務係としての初仕事は、俺が今日から生徒会庶務係とすることの正式な告示の紙と、これから生徒会が3人体制で活動することを知らせる生徒会広報の号外を、校内の全ての掲示板に貼っていくことだった。会長と副会長さんと一緒に。
「いいじゃない。こうして張り出すと、本当にこれから玲人君と3人で活動していくんだって実感できるね」
「……そうですね」
「これまで2人でも順調に活動してきたけれど、逢坂君がいると心強いな」
「早くお二人のお役に立てるよう一つ一つ勉強していきます」
最近は会長の体調もあまり良くないからな。何かあってもサポートできるようにならなければ。
「それにしても、この写真いいですよね、樹里先輩」
「そうだね。逢坂君もいい笑顔ができるんじゃない」
「そ、そうですかね」
号外を発行するため、生徒会メンバーの写真を昼休みに撮影した。会長と副会長さんから笑顔になってと言われたので、精一杯に笑顔を作ったつもりだけれど、2人が気に入ってくれたようで良かった。
ただ、この写真……俺を真ん中にして、会長と副会長さんが寄り添ってピースをしているものだ。プライベートならまだしも、生徒会広報に載せる写真としてこれはいいのだろうか。
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