ラストグリーン

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
4 / 83

第3話『校内デート』

しおりを挟む
 咲希が転入してきて、金曜日ということもあってか、午後の授業もあっという間に終わった気がする。

「うぅん、終わったぁ!」
「お疲れ様、咲希。どう? 桜海高校の授業は」
「何とかやっていけそうかな。少なくとも文系科目と英語は。それに、翼達と一緒に授業を受けたからか楽しかったよ」
「そっか。僕も楽しかったよ」

 昨日までは窓側の一番後ろだったのでそれも良かったけど、後ろに咲希がいるっていうのもいいな。勉強の内容は高校生だけど、気分は小学1年生の頃に帰った感じがして。

「さっちゃん。ひさしぶりに家へ遊びに行きたいんだけど、今日は部活があって」
「ううん、気にしないで。部活も大事だし、美波と一緒に頑張ってね、明日香」
「ありがとう、さっちゃん。土日に会いたいから、そのときは連絡していい?」
「うん。特に予定はないからね。受験勉強もしなきゃだけど、10年ぶりに2人と再会できたんだし遊んでもいいよね。いつでも連絡してきて」

 咲希がそう言うと、明日香はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。

「……うん。いいね、いつでも連絡できるって。今までも、やろうと思えばできたんだろうけど」
「……そうだね、明日香」

 毎年やり取りしている年賀状にはもちろん住所が書いてあったからな。
 ただ、東京は遠いし、僕の場合は頬にされたキスが忘れられず、照れくさくもあって。会いたい気持ちはもちろんあったけど、これまで行動には移せなかった。

「明日香、そろそろ行こっか」
「そうだね。じゃあ、またね、つーちゃん、さっちゃん」
「うん、またね、明日香」
「部活頑張れよ」

 明日香は常盤さんと一緒に教室を後にした。基本的には明日香とは今のように教室で別れる。

「有村、桜海高での初日はどうだった?」
「うん、楽しかったよ。あと、まだ学校の中があまり分かっていないから、これから翼に案内してもらおうかなって思ってる。翼、この後大丈夫?」
「いいよ。バイトは明日だし」
「じゃあ、蓮見と校内探検をして学校のことを知ってくれ。放課後は基本的に生徒会室にいるから、何か学校のことで分からないことがあったらいつでも来てくれよ」
「分かった。じゃあね、羽村君」
「ああ、またな」

 羽村も教室を後にした。9月の終わり頃に文化祭や体育祭がある。生徒会は今ぐらいの時期から、2大イベントに向けて準備を始めるそうだ。受験勉強もあって大変だろうけど、無理をしない程度に頑張ってほしい。

「じゃあ、今後授業とかで使いそうなところから回ろっか」
「お願いします、翼先輩!」
「あははっ、咲希に先輩って呼ばれるとは思わなかったなぁ。じゃあ、行こうか」

 咲希と一緒に教室を出た瞬間だった。

「お兄ちゃん!」
「おう、芽依」

 教室の側にバッグを持った妹の芽依めいが立っていた。今週も終わったからか元気そうな様子。

「明日香ちゃんや美波先輩や里奈先生から、咲希ちゃん……咲希先輩が転入してきたってメッセージをもらったから会いたくて」

 芽依は松雪先生が顧問である茶道部に入部しているから、明日香や常盤さんだけじゃなくて、先生からも咲希が転入してきたというメッセージをもらったのか。そういえば、10年前に何度か遊んだことがあるのに、芽依にこのことを伝えるのをすっかりと忘れてた。

「芽依ちゃん、ひさしぶりだね。覚えていてくれたんだ」
「ちょっとだけですけど。でも、4人で遊んだことは覚えています」
「そっかぁ。芽依ちゃん、10年経ってさすがに大きくなったけど、変わらず可愛いね。ショートボブの髪、とてもよく似合ってるよ。あと、あたしのことは先輩って呼ばなくていいんだよ。敬語を使わなくてもいいし」

 咲希は芽依の頭を優しく撫でている。ただ、なぜだか小動物を愛でているようにしか見えない。

「あぁ、可愛いから芽依ちゃんを妹にしたいなぁ。でも、翼と結婚すれば義理だけれど妹になるんだよね」

 もしかしたら、芽依を義理の妹にしたいというのも、僕に告白した理由の一つかもしれないな。

「咲希ちゃん、これからよろしくね」
「うん、よろしくね。芽依ちゃんはこれからどうするの? あたしは翼に学校の中を案内してもらうんだけど」
「そうなんだ。あたしはこれから部活。茶道部なんだ。月水金の週3日やっているの。その顧問は里奈先生なんだよ」
「へえ、そうなんだね! じゃあ、芽依ちゃんも部活を頑張ってね」
「頑張れよ、芽依」
「うん! じゃあまたね!」

 芽依は茶道室の方へと向かっていった。芽依にとっては幼稚園の頃のことだけれど、しっかりと覚えていたんだな。

「芽依ちゃんが覚えていてくれて嬉しいな。あたし達も行こうよ」
「そうだね」

 僕は咲希と一緒に校内探検をする。さっき言ったように、今後利用するかもしれない場所を中心に回っていく。といっても、3年生ということで教室を移動して授業することがほぼないので、意外と早く終わりそうだ。
 僕に好きだと告白した咲希は、手を繋ぐのは恥ずかしいのか、僕のワイシャツの裾をそっと掴んでいた。

「今後行くところはだいたいこんな感じかな」
「ありがとう、翼。結構立派だね。天羽女子比べたらこじんまりしている感じがするけど、すぐに色々なところに行けるからいいよ」

 爽やかな笑みを浮かべながら咲希はそう言った。私立校って校舎や施設などがかなり充実しているイメージがある。あと、敷地がとても広いとか。男子禁制だけど、咲希が通っていた天羽女子がどんなところなのか一度行ってみたいな。

「今回は今後行きそうなところだけに絞ったけど、気になる場所とか、こういう場所はあるの……っていうのはある?」
「今のところはないかな。また気になることがあったら訊くよ」
「うん、分かった。いつでも訊いてきてね」
「ありがとう、翼。……何だか、翼と校内デートをしているみたいで楽しかったよ。また、翼と一緒に歩くことができたことがとても嬉しくて」

 そういえば、校内を歩いているときは笑みをずっと絶やさなかったもんな。あと、校内デートという言葉は初めて聞いた。

「小学生のときは明日香と3人一緒だったのが基本だったでしょ? もちろん、明日香が嫌だってわけじゃないけど、翼と2人で行動できたのがとても嬉しいんだ」
「……そっか。小学生のときは、体調が悪くなったりしない限りは基本的に3人行動だったもんね」

 それが当たり前となって1年間も過ごしていたからこそ、咲希が転校すると知ったときはショックだった。

「僕も咲希と一緒に学校の中を歩くことができて嬉しいよ」
「……あたしのこと、ちょっとは好きになった?」
「何て言えばいいのか分からないけど、今はとにかく咲希とまた一緒に学校生活を送ることができることが嬉しくて。あと、子供の10年だから、さすがに変わるだろうって思っていたけれど、咲希は素敵な女性になったね」
「……あ、ありがと。凄く嬉しい……です……」

 気付けば、咲希の顔はとても赤くなっていて、さっきよりも緩んだ笑みになっていた。そんな顔を見られるのが恥ずかしいのか咲希は両手で隠す。こういう姿はさすがに10年前には見られなかったので新鮮であり、可愛らしい。

「ねえ、翼。これから……あたしの家に来ない? 昔はあたしの家でも遊んだし。といっても、あのときの家とは違うんだけれどね」
「じゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔するね」

 そっか。昔の家とは違うんだ。それは寂しいけど、今の家がどんな感じのか気になるな。
 咲希の新しい家に向かうため、僕らは学校を後にするのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

トライアングル・エラー

月島しいる
恋愛
「ねえ、私たち付き合ってみない?」 幼少期から長い年月を過ごした三人。 いつまでも続くと思っていた関係は、ある時を境に呆気なく破綻した。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

海の声

ある
キャラ文芸
父さんの転勤で引っ越してきた"沖洲島(おきのすじま)"。 都会暮らしに慣れていた誠司にとっては"ど田舎"で何にもないつまらない島だった。 ある朝、海を眺めているとこの島の少女"海美(うみ")と出逢う。 海美と出逢って知ったこの"何もないつまらない島"の美しさ。 そして初めての感情。 不思議な石が巡り会わせた長くて短いひと夏の淡い青春の物語。 ---------------------------------------- 前半を見て"面白く無いな"と思ったら飛ばし飛ばしで読んで下さい(´。-ω-)笑笑 コメント、お気に入り、いいね!を下さい(`・ω・´)ゞ それだけで励みになります!! 特にコメントに飢えておりまして…(゚Д゚≡゚Д゚) 気付き次第即返信しますので、一文字だけでもいいのでコメントお願いします!!( ´・ω・)ノ アドバイスや文字間違い、文章の違和感…etc細心の注意を払っていますが、そういった事もコメント頂けたら嬉しいです(´°ω°`)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...