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特別編8
第17話『花火大会-後編-』
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和男と清水さんと別れ、俺達は屋台が並んでいる通りに戻った。
会場に着いたときよりもさらに人が多くなっている。このイベントは花火大会だけど、屋台もいっぱいあるし夏祭り感覚で来ている人も多そう。夏休み最後の週末だし、夏の終わりの思い出作りに来る人も多いのかもしれない。
歩き出してすぐに、
「あっ、お姉ちゃん! 明斗さん! こんばんは!」
と、友達と一緒に遊び来ている七海ちゃんと会った。七夕祭りのときと同じように、青や水色の水玉模様の白い浴衣がよく似合っている。七海ちゃんは友達と一緒に屋台を楽しめているという。
せっかく会ったのだからと、七海ちゃんの希望で、俺と氷織は七海ちゃんや七海ちゃんの友達と一緒に写真撮影をした。
七海ちゃんと別れた後、氷織が、
「最初に焼きそばを食べたから、次はスイーツ系を食べたいです」
と希望した。なので、次は近くに屋台があるチョコバナナを食べることに。
ここの屋台はバナナに塗られているチョコが普通のチョコとイチゴチョコの2種類ある。なので、俺が普通のチョコ、氷織がイチゴチョコのバナナを購入した。
互いに違うものを購入したので、氷織と一口交換して。
「おっ、イチゴチョコバナナも美味しいな」
「美味しいですよね。……2種類のチョコバナナを食べられて幸せです」
と、氷織は一口交換すると幸せそうな笑顔になっていた。とっても可愛い。
チョコバナナを食べ終わったときに、
「あっ、明斗に氷織ちゃんだ! 会場で会えて嬉しい! 明斗も氷織ちゃんも似合ってるね!」
フレアスカートにフレンチスリーブのブラウス姿の姉貴と会った。日中にゾソールに来てくれたときと服装が違うな。友達と会うから着替えたのだろうか。姉貴は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。
事前に話していた通り、姉貴は中学時代の友人の女性数人と一緒だ。どの方も、姉貴が中学時代のとき、家に遊びに来た際に会ったことがある。その頃以来に会う方もいるので、「大きくなったね」とか「明実から写真を見せてもらっていたけど、本当にイケメンになったね」とか「甚平が似合う男らしい雰囲気になったね」などと言われて。親戚の人に久しぶりに会った感覚に近い。
また、氷織と付き合っていると俺が紹介して、氷織が挨拶すると「すっごい美人」「こんなに綺麗な人大学にいない」「浴衣似合いすぎ」「明斗君と仲良くね」などと言われて。氷織にとっては初対面の人に色々と言われたけど、氷織は楽しそうな笑顔になっていた。それもあって、とても嬉しい気持ちになった。
姉貴が友人達にお願いして、姉貴のスマホで姉貴と俺と氷織の3人での写真を撮影していた。その写真は姉貴がLIMEで送ってくれた。
「明斗、氷織ちゃん、デート楽しんでね。また家でね~」
数分ほど話して、姉貴は友達数人と一緒に俺達の元から去っていった。
「明実さんのご友人なだけあって、みなさんいい人達でしたね」
「そうだな。あと、大きくなったとかイケメンになったとか言われたから、親戚の人に会ったような感じだったよ。俺が小学4年とか5年のとき以来に会った方もいるし」
「ふふっ、そうですか。小学4、5年から高校2年生になりましたからね。この数年は大きいと思います。以前、アルバムを見せてもらいましたが、小学生の頃の明斗さんは可愛い雰囲気でしたし。ご友人の方達は当時の明斗さんに会っていますから、大きくなったとかイケメンになったと言いたくなるのも分かります」
「そうか。ただ、自分のことよりも、氷織のことを褒めてくれたことの方が嬉しかったな」
「ふふっ、そうですか。嬉しいですね」
氷織は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せると、腕をそっと絡ませてきた。
俺達は屋台のある通りを歩いていく。
事前にこの花火大会に行くことを知っている人達の中で会っていないのは、残るは火村さんと葉月さんだけか。2人と会えばコンプリートだな。
「あっ……」
氷織はそう呟いて歩みを止める。
俺も歩みを止めて、氷織の視線の先を見ると……射的の屋台か。射的の台にはおもちゃやお菓子など様々な種類の景品が置かれている。その中に……黒白のハチワレ模様の猫のぬいぐるみが入った箱があって。可愛らしいデザインのぬいぐるみだ。氷織が抱くのにちょうど良さそうなサイズだ。以前、デート中に行ったゲームコーナ―で猫のぬいぐるみを氷織に取ったことがあるので、立ち止まった理由はあのぬいぐるみがほしいと思ったからじゃないだろうか。
「明斗さん。あそこの射的の台に、とても可愛いハチワレ模様の猫のぬいぐるみ入っている箱を見つけました」
「可愛いぬいぐるみだな」
「ええ。あのぬいぐるみがほしいです」
氷織は目を輝かせてハチワレ模様の猫のぬいぐるみを見ている。やっぱり、ぬいぐるみがほしくて立ち止まったんだな。
「もし、明斗さんさえ良ければ……あのぬいぐるみをゲットしてくれませんか? 七夕祭りでも、キュアックマのぬいぐるみをゲットしてくれましたし……」
色々なことをそつなくこなせる氷織も、射的は苦手で。俺が結構得意なのもあり、七夕祭りの射的の屋台では、キュアックマというクマのぬいぐるみを取ってあげたっけ。それもあって、氷織は俺に猫のぬいぐるみを取ってほしいとお願いしたのだろう。
「いいぞ、氷織」
「ありがとうございます!」
氷織はニッコリとした可愛い笑顔でお礼を言ってくれる。よし、彼氏として氷織のためにあのぬいぐるみを取ろう。
射的の屋台の前まで行き、屋台の中にいるおじさんに、
「おじさん。射的やります」
「おう。3発100円だ。景品を台から落としたらゲットだからな」
「分かりました」
「明斗さん、お願いしますっ」
「うん」
俺は氷織から100円玉を受け取った。氷織のお金でプレイするので、できるだけ少ない額でぬいぐるみをゲットしたい。できれば、3発以内で。
おじさんに100円玉を渡すと、俺の目の前に射的の銃と3発のコルクが乗った銀のトレーが置かれた。
俺は銃口にコルクを装着して、お目当てであるハチワレ猫のぬいぐるみが入った箱を見る。箱にはちょっとしたへこみや傷がいくつもあって。これまで、何度も挑戦を受けては景品ゲットを逃れてきたことが窺える。
銃をぬいぐるみの箱に向けて、集中する。
こういう箱の景品のときは、箱の右上部分か左上部分に当てると、箱が回転する力を使って景品を落としやすい。……右上部分を狙うか。
箱の右上部分に銃口を向けて、
――パンッ。
1発目のコルクを撃った。
銃から放たれたコルクは、箱の右上部分に向かって飛んでいく。箱の右上の端っこをかすった程度で、コルクは奥の壁に当たった。
「あぁ、かすった程度か」
「でも、かするのも凄いですよ! 私がやっていたら全く当たらないと思いますから」
氷織はちょっと興奮した様子でそう言ってくれる。そういえば、七夕祭りでキュアックマのぬいぐるみを撮るのに挑戦したときも、商品に当たっただけでもこういう言葉を言ってくれたっけ。
「あと、今回も銃を構えて狙いを定める明斗さんがかっこいいです……」
と、うっとりとした様子で氷織が言ってくれて。そういえば、こういうことも七夕祭りのときに言っていたっけ。こういう姿を見たいのも、射的をやってほしいと言った理由の一つかもしれない。
「ありがとう。……絶対に取るから見ててくれよ」
「はいっ」
俺は2発目のコルクを銃口にセット。
銃をぬいぐるみの箱に向ける。1発目は箱の上の部分にかすれたから、そのときよりも少し下にコルクが飛ぶように調整しないと。……このあたりかな。
――パンッ。
2発目のコルクを撃つ。
調整が上手くいったようで、銃から放たれたコルクはさっきよりも少し低めのところに向かって飛んでいく。
――ポンッ。
コルクは俺が狙っていた箱の右上部分に命中。その衝撃でぬいぐるみの入っている箱に回転がかかり、景品が置かれている台から落下した。
「よし、やった!」
「凄いです、明斗さん! かっこいい!」
パチパチ、と氷織は嬉しそうに拍手をしてくれる。氷織のほしがっていたぬいぐるみを取れたし、氷織にかっこいいところを見せられて嬉しいよ。
「おぉ、やったな、甚平の兄ちゃん! 浴衣の姉ちゃんも良かったな!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
俺達がお礼を言うと、屋台のおじさんはハチワレ猫のぬいぐるみが入っている箱を紙の手提げに入れて氷織に渡してくれる。ぬいぐるみを手にできたからか氷織は本当に嬉しそうで。そんな氷織を見ると、より嬉しい気持ちになるよ。
2発でゲットできたので、コルクはもう1発ある。
氷織に他にほしいものはないかと言われると、「猫繋がりで」という理由で、白い猫耳カチューシャがほしいと言った。
猫耳カチューシャも箱に入っているので、先ほどと同じように箱の右上部分を狙って……1発でゲットできた。
「100円で2つも景品をゲットできるなんて凄いです!」
「ありがとう。氷織のほしいものをゲットできて嬉しいよ」
昔から射的は好きだけど、氷織の喜ぶ姿を見ると今が一番好きだなって思う。
「ぬいぐるみとカチューシャを取ってもらったので、何かお礼したいです」
「そうだな……じゃあ、猫耳カチューシャを付けて、ハチワレ猫のぬいぐるみを抱きしめた写真を撮らせてほしいな。今日の記念に」
「ふふっ、分かりました」
氷織は笑顔で快諾してくれた。
屋台の通りから少し外れたところに行き、氷織は箱から白いカチューシャを取り出して頭に付ける。
「いいサイズですね。付け心地いいです」
「そっか。猫耳が生えて可愛いな。猫耳カチューシャを付けた氷織を見るのは、お試しで付き合っている頃に初めて一緒に猫カフェに行ったとき以来か」
「そうですね。萩窪にある猫カフェで付けましたね」
「だよな。本当に可愛いよ。俺的には浴衣姿とも合っているなって思うよ」
「ふふっ、良かったです。にゃあん」
猫耳カチューシャを付けたからか、氷織は猫の鳴き真似をして右手を猫の手にしてくれる。あー、滅茶苦茶可愛い。そう思う人がいるのか、近くにいる人の多くが氷織のことを見ている。
周囲から視線を集めているけど、氷織はそんなことは全く気にしない様子で、箱からハチワレ猫のぬいぐるみを取り出した。
「わぁっ、可愛いハチワレ猫ちゃんですぅ。抱き心地も良くて。明斗さん、ゲットしてくれてありがとうございます! 大切にしますね!」
「ああ。大切にしてくれよ。じゃあ、写真を撮ろうか」
「はいっ」
氷織はハチワレ猫のぬいぐるみを両手で抱きしめて、嬉しそうな笑顔で俺の方を向いてくれる。そんな氷織のことを俺のスマホで撮影した。
写真を確認すると……氷織、本当にいい笑顔だなぁ。あと、抱きしめられているハチワレ猫のぬいぐるみが羨ましい。ちょっと変わってほしいくらいだ。
「いい写真が撮れたよ、ありがとう」
「いえいえ」
「あっ、ひおりんと紙透君がいたッスよ」
「本当ね……きゃあっ! 氷織可愛いわっ! 猫耳生えてるうっ!」
葉月さんの声と火村さんの黄色い声が聞こえたので振り返ると……近くに浴衣姿の葉月さんと火村さんがいた。2人と一緒に女子数人がいて。そのうちの何人かはクラスメイトだ。2人の着る浴衣は七夕祭りと同じく、葉月さんは黄緑色の生地に白や赤の撫子の花柄があしらわれ、火村さんは赤い生地にピンクの桜の花柄があしらわれたものだ。葉月さんはいつもの明るい笑顔で、火村さんは興奮した様子で俺達を見ている。
火村さんは早足でこちらにやってきて、葉月さん達がゆっくりとした歩みで続く。
「まさか、猫耳カチューシャを付けた浴衣姿の氷織に会えるなんて! 感激だわっ! そして2人ともこんばんはっ!」
「こんばんはッス。ひおりん、紙透君」
「こんばんは、恭子さん、沙綾さん、みなさんも」
「みんなこんばんは」
俺達がそう挨拶すると、火村さんと葉月さんと一緒にいる女子達は「こんばんはー」と挨拶してくれる。また、氷織を見て「青山さん猫耳可愛いー」「恭子が興奮するの分かる」などという言葉も。恋人を褒めてもらえて嬉しいな。
「浴衣姿のお二人やみなさんと会えて嬉しいです。恭子さんと沙綾さん、似合ってますね」
「似合ってるよな。これで、事前にこの花火大会に来るって聞いている人とは全員会えたし」
「そうッスか。ひおりんも紙透君も似合っているッスよ」
「2人とも似合っているわね! 特に氷織は! この会場にいる人の中で一番可愛いわっ! ……でも、どうして氷織は猫耳カチューシャを付けていて、猫のぬいぐるみを抱きしめているの?」
「気になるッスね」
「さっき、射的の屋台で明斗さんがゲットしてくれたんです。しかも、100円分3発で」
「そのお礼に、カチューシャを付けてぬいぐるみを抱きしめている写真を撮らせてくれってお願いしたんだ」
「そういうことッスか。そういえば、紙透君は七夕祭りでも射的でキュアックマのぬいぐるみをゲットしたッスね」
「さすがは紙透だわ。こんなに可愛い氷織を見せてくれた紙透に金一封をあげたいくらいだわ」
「ははっ。その賛辞の言葉で十分だよ」
火村さんの言う「金一封」がどのくらいなのかはちょっと興味あるけど。
火村さんがここまで喜んでくれると、ぬいぐるみとカチューシャをゲットできて良かったなと思える。
「ねぇ、氷織ぃ。その可愛い姿の氷織と一緒に写真撮りたいなぁ。どう?」
今までで指折りの可愛い声で氷織にお願いする火村さん。まあ、こんなに可愛い氷織がいたら一緒に写真を撮りたいよな。
「いいですよ、恭子さん。一緒に撮りましょう」
「ありがとう!」
「沙綾さんやみなさんも」
「どうもッス!」
「じゃあ、俺が写真を撮るよ。その写真を氷織達に送るよ」
「ありがとう、紙透!」
その後、俺のスマホで氷織と火村さん、氷織と葉月さんといったツーショットや、氷織と火村さんと葉月さんのスリーショット、火村さんと葉月さんと一緒に来た女子達も一緒に写った集合写真も撮った。
また、火村さんと葉月さんと一緒に来た女子達が「紙透君も写真を撮ってあげるよ」と言ってくれたので、俺と氷織と火村さんと葉月さんの写真を撮ってもらった。
今撮った写真は氷織と火村さんと葉月さんとのLIMEのグループトークにアップした。
「紙透も氷織もありがとう!」
「どうもッス。じゃあ、あたし達はこれで。デートとお泊まり、楽しむッスよ」
「2人とも楽しんでね!」
「ありがとうございますっ!」
「ありがとう。またな」
火村さんと葉月さん達は俺達に手を振って、屋台のある通りの方へ戻っていった。
スマホで時刻を確認すると……午後6時47分か。
「氷織。花火の打ち上げ開始まであと10分ちょっとだから、花火の観覧エリアに行くか?」「そうですね。行きましょうか」
その後、氷織はカチューシャとぬいぐるみを箱に戻して、紙の手提げに入れた。また、俺が志願して、紙の手提げは俺が持つことに。
氷織と手を繋いで、花火の観覧エリアへと向かう。打ち上げ開始まであと10分ほどなのもあり、観覧エリアへ向かう人は多い。人の波に飲まれて氷織と離れてしまわないように、氷織の手を今一度しっかりと握る。
屋台エリアを抜けて、花火の観覧エリアへ。
観覧エリアは無料で、立ち見の形で花火を見ることができる。
10分前なので、観覧エリアには既に来ている人が多い。花火は対岸から打ち上げられるので、俺達は対岸の方を見る。
「この花火大会って、結構な数の花火を打ち上げられていた記憶があるけど、どのくらい打ち上げられるんだろう?」
「確か、1万発だったと思います」
「1万発かぁ。それは凄いな。楽しみだ」
「そうですね!」
氷織はワクワクとした様子でそう言った。可愛いな。
ちなみに、周りを見てみると……人がいっぱいいるのもあって、和男達の姿は見えない。ただ、この会場のどこかにはいるだろう。
それから少しの間、氷織とこの花火大会のことなどで話していると、
『まもなく、花火の打ち上げを開始します。およそ1万発の花火をお楽しみください!』
というアナウンスがなされた。もうすぐか。
多摩川の方を見ていると、
――ピュー。
という笛の音と共に、一つの光が夜空に向かって飛んでいき、
――パァン!
という大きな破裂音がしたのと同時に、丸くてとても大きな赤い花火が打ち上がった! 「綺麗」といった感想や「おおっ」という驚きの声、打ち上げが始まったからか拍手も聞こえてきて。
「うわあっ、綺麗です!」
「綺麗だな! 迫力もあって凄いな!」
「ですね!」
最初に大きな花火が打ち上がったからか、氷織は興奮した様子になっている。可愛いな。
最初の大きい花火で勢いが付けたかのごとく、花火がどんどん打ち上がっていく。どの花火も綺麗だし、色や形も大きさも様々なので見ていてとても楽しい。あと、花火に照らされた多摩川も綺麗で。だからか、
「綺麗ですね……」
と、氷織が楽しそうな様子で何度も言葉にしていて。花火に照らされた氷織の笑顔は本当に可愛くて、とても綺麗で。だから、花火よりも氷織の方に見入ってしまうことも。
俺の視線を感じ取ったのか、氷織はこちらを向くと、
「どうかしましたか? 私のことをじっと見て」
と、柔らかい笑顔でそう問いかける。
「花火も綺麗だけど、花火を楽しんでいる氷織の笑顔の方がもっと綺麗だからさ。つい、見入っちゃったんだ」
氷織の目を見つめながら、俺は正直に気持ちを言葉にした。周りに人はいるけど、今は花火大会という特別な時間なのもあって、気恥ずかしさはなかった。
「そう言ってくれて嬉しいです、明斗さん。……大好きです」
氷織は嬉しそうな笑顔でそう言うと、俺にキスをしてきた。その直後に「きゃあっ」と女性の黄色い声が聞こえたけど、花火の大きな音ですぐにかき消された。
数秒ほどして、氷織の方から唇を離す。すると、目の前にはニッコリとした氷織の可愛い笑顔が。そのときも花火の光に照らされて。氷織のこの笑顔は花火大会の会場にいる誰よりも可愛くて美しいだろう。
氷織は俺の右手を離して、俺の右腕にそっと腕を絡ませてきた。
「花火が終わるまで……このままでいてもいいですか?」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
ちゅっ、と氷織は俺の頬にキスをした。
それからも氷織と身を寄せ合いながら、1万発の打ち上げ花火を楽しむ。これまでに何度も、この花火大会での打ち上げ花火を見てきたけど、氷織と一緒に見る今回の打ち上げ花火が一番綺麗だ。
会場に着いたときよりもさらに人が多くなっている。このイベントは花火大会だけど、屋台もいっぱいあるし夏祭り感覚で来ている人も多そう。夏休み最後の週末だし、夏の終わりの思い出作りに来る人も多いのかもしれない。
歩き出してすぐに、
「あっ、お姉ちゃん! 明斗さん! こんばんは!」
と、友達と一緒に遊び来ている七海ちゃんと会った。七夕祭りのときと同じように、青や水色の水玉模様の白い浴衣がよく似合っている。七海ちゃんは友達と一緒に屋台を楽しめているという。
せっかく会ったのだからと、七海ちゃんの希望で、俺と氷織は七海ちゃんや七海ちゃんの友達と一緒に写真撮影をした。
七海ちゃんと別れた後、氷織が、
「最初に焼きそばを食べたから、次はスイーツ系を食べたいです」
と希望した。なので、次は近くに屋台があるチョコバナナを食べることに。
ここの屋台はバナナに塗られているチョコが普通のチョコとイチゴチョコの2種類ある。なので、俺が普通のチョコ、氷織がイチゴチョコのバナナを購入した。
互いに違うものを購入したので、氷織と一口交換して。
「おっ、イチゴチョコバナナも美味しいな」
「美味しいですよね。……2種類のチョコバナナを食べられて幸せです」
と、氷織は一口交換すると幸せそうな笑顔になっていた。とっても可愛い。
チョコバナナを食べ終わったときに、
「あっ、明斗に氷織ちゃんだ! 会場で会えて嬉しい! 明斗も氷織ちゃんも似合ってるね!」
フレアスカートにフレンチスリーブのブラウス姿の姉貴と会った。日中にゾソールに来てくれたときと服装が違うな。友達と会うから着替えたのだろうか。姉貴は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。
事前に話していた通り、姉貴は中学時代の友人の女性数人と一緒だ。どの方も、姉貴が中学時代のとき、家に遊びに来た際に会ったことがある。その頃以来に会う方もいるので、「大きくなったね」とか「明実から写真を見せてもらっていたけど、本当にイケメンになったね」とか「甚平が似合う男らしい雰囲気になったね」などと言われて。親戚の人に久しぶりに会った感覚に近い。
また、氷織と付き合っていると俺が紹介して、氷織が挨拶すると「すっごい美人」「こんなに綺麗な人大学にいない」「浴衣似合いすぎ」「明斗君と仲良くね」などと言われて。氷織にとっては初対面の人に色々と言われたけど、氷織は楽しそうな笑顔になっていた。それもあって、とても嬉しい気持ちになった。
姉貴が友人達にお願いして、姉貴のスマホで姉貴と俺と氷織の3人での写真を撮影していた。その写真は姉貴がLIMEで送ってくれた。
「明斗、氷織ちゃん、デート楽しんでね。また家でね~」
数分ほど話して、姉貴は友達数人と一緒に俺達の元から去っていった。
「明実さんのご友人なだけあって、みなさんいい人達でしたね」
「そうだな。あと、大きくなったとかイケメンになったとか言われたから、親戚の人に会ったような感じだったよ。俺が小学4年とか5年のとき以来に会った方もいるし」
「ふふっ、そうですか。小学4、5年から高校2年生になりましたからね。この数年は大きいと思います。以前、アルバムを見せてもらいましたが、小学生の頃の明斗さんは可愛い雰囲気でしたし。ご友人の方達は当時の明斗さんに会っていますから、大きくなったとかイケメンになったと言いたくなるのも分かります」
「そうか。ただ、自分のことよりも、氷織のことを褒めてくれたことの方が嬉しかったな」
「ふふっ、そうですか。嬉しいですね」
氷織は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せると、腕をそっと絡ませてきた。
俺達は屋台のある通りを歩いていく。
事前にこの花火大会に行くことを知っている人達の中で会っていないのは、残るは火村さんと葉月さんだけか。2人と会えばコンプリートだな。
「あっ……」
氷織はそう呟いて歩みを止める。
俺も歩みを止めて、氷織の視線の先を見ると……射的の屋台か。射的の台にはおもちゃやお菓子など様々な種類の景品が置かれている。その中に……黒白のハチワレ模様の猫のぬいぐるみが入った箱があって。可愛らしいデザインのぬいぐるみだ。氷織が抱くのにちょうど良さそうなサイズだ。以前、デート中に行ったゲームコーナ―で猫のぬいぐるみを氷織に取ったことがあるので、立ち止まった理由はあのぬいぐるみがほしいと思ったからじゃないだろうか。
「明斗さん。あそこの射的の台に、とても可愛いハチワレ模様の猫のぬいぐるみ入っている箱を見つけました」
「可愛いぬいぐるみだな」
「ええ。あのぬいぐるみがほしいです」
氷織は目を輝かせてハチワレ模様の猫のぬいぐるみを見ている。やっぱり、ぬいぐるみがほしくて立ち止まったんだな。
「もし、明斗さんさえ良ければ……あのぬいぐるみをゲットしてくれませんか? 七夕祭りでも、キュアックマのぬいぐるみをゲットしてくれましたし……」
色々なことをそつなくこなせる氷織も、射的は苦手で。俺が結構得意なのもあり、七夕祭りの射的の屋台では、キュアックマというクマのぬいぐるみを取ってあげたっけ。それもあって、氷織は俺に猫のぬいぐるみを取ってほしいとお願いしたのだろう。
「いいぞ、氷織」
「ありがとうございます!」
氷織はニッコリとした可愛い笑顔でお礼を言ってくれる。よし、彼氏として氷織のためにあのぬいぐるみを取ろう。
射的の屋台の前まで行き、屋台の中にいるおじさんに、
「おじさん。射的やります」
「おう。3発100円だ。景品を台から落としたらゲットだからな」
「分かりました」
「明斗さん、お願いしますっ」
「うん」
俺は氷織から100円玉を受け取った。氷織のお金でプレイするので、できるだけ少ない額でぬいぐるみをゲットしたい。できれば、3発以内で。
おじさんに100円玉を渡すと、俺の目の前に射的の銃と3発のコルクが乗った銀のトレーが置かれた。
俺は銃口にコルクを装着して、お目当てであるハチワレ猫のぬいぐるみが入った箱を見る。箱にはちょっとしたへこみや傷がいくつもあって。これまで、何度も挑戦を受けては景品ゲットを逃れてきたことが窺える。
銃をぬいぐるみの箱に向けて、集中する。
こういう箱の景品のときは、箱の右上部分か左上部分に当てると、箱が回転する力を使って景品を落としやすい。……右上部分を狙うか。
箱の右上部分に銃口を向けて、
――パンッ。
1発目のコルクを撃った。
銃から放たれたコルクは、箱の右上部分に向かって飛んでいく。箱の右上の端っこをかすった程度で、コルクは奥の壁に当たった。
「あぁ、かすった程度か」
「でも、かするのも凄いですよ! 私がやっていたら全く当たらないと思いますから」
氷織はちょっと興奮した様子でそう言ってくれる。そういえば、七夕祭りでキュアックマのぬいぐるみを撮るのに挑戦したときも、商品に当たっただけでもこういう言葉を言ってくれたっけ。
「あと、今回も銃を構えて狙いを定める明斗さんがかっこいいです……」
と、うっとりとした様子で氷織が言ってくれて。そういえば、こういうことも七夕祭りのときに言っていたっけ。こういう姿を見たいのも、射的をやってほしいと言った理由の一つかもしれない。
「ありがとう。……絶対に取るから見ててくれよ」
「はいっ」
俺は2発目のコルクを銃口にセット。
銃をぬいぐるみの箱に向ける。1発目は箱の上の部分にかすれたから、そのときよりも少し下にコルクが飛ぶように調整しないと。……このあたりかな。
――パンッ。
2発目のコルクを撃つ。
調整が上手くいったようで、銃から放たれたコルクはさっきよりも少し低めのところに向かって飛んでいく。
――ポンッ。
コルクは俺が狙っていた箱の右上部分に命中。その衝撃でぬいぐるみの入っている箱に回転がかかり、景品が置かれている台から落下した。
「よし、やった!」
「凄いです、明斗さん! かっこいい!」
パチパチ、と氷織は嬉しそうに拍手をしてくれる。氷織のほしがっていたぬいぐるみを取れたし、氷織にかっこいいところを見せられて嬉しいよ。
「おぉ、やったな、甚平の兄ちゃん! 浴衣の姉ちゃんも良かったな!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
俺達がお礼を言うと、屋台のおじさんはハチワレ猫のぬいぐるみが入っている箱を紙の手提げに入れて氷織に渡してくれる。ぬいぐるみを手にできたからか氷織は本当に嬉しそうで。そんな氷織を見ると、より嬉しい気持ちになるよ。
2発でゲットできたので、コルクはもう1発ある。
氷織に他にほしいものはないかと言われると、「猫繋がりで」という理由で、白い猫耳カチューシャがほしいと言った。
猫耳カチューシャも箱に入っているので、先ほどと同じように箱の右上部分を狙って……1発でゲットできた。
「100円で2つも景品をゲットできるなんて凄いです!」
「ありがとう。氷織のほしいものをゲットできて嬉しいよ」
昔から射的は好きだけど、氷織の喜ぶ姿を見ると今が一番好きだなって思う。
「ぬいぐるみとカチューシャを取ってもらったので、何かお礼したいです」
「そうだな……じゃあ、猫耳カチューシャを付けて、ハチワレ猫のぬいぐるみを抱きしめた写真を撮らせてほしいな。今日の記念に」
「ふふっ、分かりました」
氷織は笑顔で快諾してくれた。
屋台の通りから少し外れたところに行き、氷織は箱から白いカチューシャを取り出して頭に付ける。
「いいサイズですね。付け心地いいです」
「そっか。猫耳が生えて可愛いな。猫耳カチューシャを付けた氷織を見るのは、お試しで付き合っている頃に初めて一緒に猫カフェに行ったとき以来か」
「そうですね。萩窪にある猫カフェで付けましたね」
「だよな。本当に可愛いよ。俺的には浴衣姿とも合っているなって思うよ」
「ふふっ、良かったです。にゃあん」
猫耳カチューシャを付けたからか、氷織は猫の鳴き真似をして右手を猫の手にしてくれる。あー、滅茶苦茶可愛い。そう思う人がいるのか、近くにいる人の多くが氷織のことを見ている。
周囲から視線を集めているけど、氷織はそんなことは全く気にしない様子で、箱からハチワレ猫のぬいぐるみを取り出した。
「わぁっ、可愛いハチワレ猫ちゃんですぅ。抱き心地も良くて。明斗さん、ゲットしてくれてありがとうございます! 大切にしますね!」
「ああ。大切にしてくれよ。じゃあ、写真を撮ろうか」
「はいっ」
氷織はハチワレ猫のぬいぐるみを両手で抱きしめて、嬉しそうな笑顔で俺の方を向いてくれる。そんな氷織のことを俺のスマホで撮影した。
写真を確認すると……氷織、本当にいい笑顔だなぁ。あと、抱きしめられているハチワレ猫のぬいぐるみが羨ましい。ちょっと変わってほしいくらいだ。
「いい写真が撮れたよ、ありがとう」
「いえいえ」
「あっ、ひおりんと紙透君がいたッスよ」
「本当ね……きゃあっ! 氷織可愛いわっ! 猫耳生えてるうっ!」
葉月さんの声と火村さんの黄色い声が聞こえたので振り返ると……近くに浴衣姿の葉月さんと火村さんがいた。2人と一緒に女子数人がいて。そのうちの何人かはクラスメイトだ。2人の着る浴衣は七夕祭りと同じく、葉月さんは黄緑色の生地に白や赤の撫子の花柄があしらわれ、火村さんは赤い生地にピンクの桜の花柄があしらわれたものだ。葉月さんはいつもの明るい笑顔で、火村さんは興奮した様子で俺達を見ている。
火村さんは早足でこちらにやってきて、葉月さん達がゆっくりとした歩みで続く。
「まさか、猫耳カチューシャを付けた浴衣姿の氷織に会えるなんて! 感激だわっ! そして2人ともこんばんはっ!」
「こんばんはッス。ひおりん、紙透君」
「こんばんは、恭子さん、沙綾さん、みなさんも」
「みんなこんばんは」
俺達がそう挨拶すると、火村さんと葉月さんと一緒にいる女子達は「こんばんはー」と挨拶してくれる。また、氷織を見て「青山さん猫耳可愛いー」「恭子が興奮するの分かる」などという言葉も。恋人を褒めてもらえて嬉しいな。
「浴衣姿のお二人やみなさんと会えて嬉しいです。恭子さんと沙綾さん、似合ってますね」
「似合ってるよな。これで、事前にこの花火大会に来るって聞いている人とは全員会えたし」
「そうッスか。ひおりんも紙透君も似合っているッスよ」
「2人とも似合っているわね! 特に氷織は! この会場にいる人の中で一番可愛いわっ! ……でも、どうして氷織は猫耳カチューシャを付けていて、猫のぬいぐるみを抱きしめているの?」
「気になるッスね」
「さっき、射的の屋台で明斗さんがゲットしてくれたんです。しかも、100円分3発で」
「そのお礼に、カチューシャを付けてぬいぐるみを抱きしめている写真を撮らせてくれってお願いしたんだ」
「そういうことッスか。そういえば、紙透君は七夕祭りでも射的でキュアックマのぬいぐるみをゲットしたッスね」
「さすがは紙透だわ。こんなに可愛い氷織を見せてくれた紙透に金一封をあげたいくらいだわ」
「ははっ。その賛辞の言葉で十分だよ」
火村さんの言う「金一封」がどのくらいなのかはちょっと興味あるけど。
火村さんがここまで喜んでくれると、ぬいぐるみとカチューシャをゲットできて良かったなと思える。
「ねぇ、氷織ぃ。その可愛い姿の氷織と一緒に写真撮りたいなぁ。どう?」
今までで指折りの可愛い声で氷織にお願いする火村さん。まあ、こんなに可愛い氷織がいたら一緒に写真を撮りたいよな。
「いいですよ、恭子さん。一緒に撮りましょう」
「ありがとう!」
「沙綾さんやみなさんも」
「どうもッス!」
「じゃあ、俺が写真を撮るよ。その写真を氷織達に送るよ」
「ありがとう、紙透!」
その後、俺のスマホで氷織と火村さん、氷織と葉月さんといったツーショットや、氷織と火村さんと葉月さんのスリーショット、火村さんと葉月さんと一緒に来た女子達も一緒に写った集合写真も撮った。
また、火村さんと葉月さんと一緒に来た女子達が「紙透君も写真を撮ってあげるよ」と言ってくれたので、俺と氷織と火村さんと葉月さんの写真を撮ってもらった。
今撮った写真は氷織と火村さんと葉月さんとのLIMEのグループトークにアップした。
「紙透も氷織もありがとう!」
「どうもッス。じゃあ、あたし達はこれで。デートとお泊まり、楽しむッスよ」
「2人とも楽しんでね!」
「ありがとうございますっ!」
「ありがとう。またな」
火村さんと葉月さん達は俺達に手を振って、屋台のある通りの方へ戻っていった。
スマホで時刻を確認すると……午後6時47分か。
「氷織。花火の打ち上げ開始まであと10分ちょっとだから、花火の観覧エリアに行くか?」「そうですね。行きましょうか」
その後、氷織はカチューシャとぬいぐるみを箱に戻して、紙の手提げに入れた。また、俺が志願して、紙の手提げは俺が持つことに。
氷織と手を繋いで、花火の観覧エリアへと向かう。打ち上げ開始まであと10分ほどなのもあり、観覧エリアへ向かう人は多い。人の波に飲まれて氷織と離れてしまわないように、氷織の手を今一度しっかりと握る。
屋台エリアを抜けて、花火の観覧エリアへ。
観覧エリアは無料で、立ち見の形で花火を見ることができる。
10分前なので、観覧エリアには既に来ている人が多い。花火は対岸から打ち上げられるので、俺達は対岸の方を見る。
「この花火大会って、結構な数の花火を打ち上げられていた記憶があるけど、どのくらい打ち上げられるんだろう?」
「確か、1万発だったと思います」
「1万発かぁ。それは凄いな。楽しみだ」
「そうですね!」
氷織はワクワクとした様子でそう言った。可愛いな。
ちなみに、周りを見てみると……人がいっぱいいるのもあって、和男達の姿は見えない。ただ、この会場のどこかにはいるだろう。
それから少しの間、氷織とこの花火大会のことなどで話していると、
『まもなく、花火の打ち上げを開始します。およそ1万発の花火をお楽しみください!』
というアナウンスがなされた。もうすぐか。
多摩川の方を見ていると、
――ピュー。
という笛の音と共に、一つの光が夜空に向かって飛んでいき、
――パァン!
という大きな破裂音がしたのと同時に、丸くてとても大きな赤い花火が打ち上がった! 「綺麗」といった感想や「おおっ」という驚きの声、打ち上げが始まったからか拍手も聞こえてきて。
「うわあっ、綺麗です!」
「綺麗だな! 迫力もあって凄いな!」
「ですね!」
最初に大きな花火が打ち上がったからか、氷織は興奮した様子になっている。可愛いな。
最初の大きい花火で勢いが付けたかのごとく、花火がどんどん打ち上がっていく。どの花火も綺麗だし、色や形も大きさも様々なので見ていてとても楽しい。あと、花火に照らされた多摩川も綺麗で。だからか、
「綺麗ですね……」
と、氷織が楽しそうな様子で何度も言葉にしていて。花火に照らされた氷織の笑顔は本当に可愛くて、とても綺麗で。だから、花火よりも氷織の方に見入ってしまうことも。
俺の視線を感じ取ったのか、氷織はこちらを向くと、
「どうかしましたか? 私のことをじっと見て」
と、柔らかい笑顔でそう問いかける。
「花火も綺麗だけど、花火を楽しんでいる氷織の笑顔の方がもっと綺麗だからさ。つい、見入っちゃったんだ」
氷織の目を見つめながら、俺は正直に気持ちを言葉にした。周りに人はいるけど、今は花火大会という特別な時間なのもあって、気恥ずかしさはなかった。
「そう言ってくれて嬉しいです、明斗さん。……大好きです」
氷織は嬉しそうな笑顔でそう言うと、俺にキスをしてきた。その直後に「きゃあっ」と女性の黄色い声が聞こえたけど、花火の大きな音ですぐにかき消された。
数秒ほどして、氷織の方から唇を離す。すると、目の前にはニッコリとした氷織の可愛い笑顔が。そのときも花火の光に照らされて。氷織のこの笑顔は花火大会の会場にいる誰よりも可愛くて美しいだろう。
氷織は俺の右手を離して、俺の右腕にそっと腕を絡ませてきた。
「花火が終わるまで……このままでいてもいいですか?」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます」
ちゅっ、と氷織は俺の頬にキスをした。
それからも氷織と身を寄せ合いながら、1万発の打ち上げ花火を楽しむ。これまでに何度も、この花火大会での打ち上げ花火を見てきたけど、氷織と一緒に見る今回の打ち上げ花火が一番綺麗だ。
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