89 / 190
続編
第35話『これが新調した水着です。』
しおりを挟む
6月13日、日曜日。
氷織とのプールデートがとても楽しみで、あっという間にデート当日がやってきた。昼過ぎから夕方頃まで遊ぶ予定だ。
今日は朝から雨が降ったり止んだりの天気。これが一日中続くらしい。ただ、氷織と行くプールは屋内なので、プールデートを問題なく楽しめるだろう。ちなみに、屋内プール施設の名前はスイムブルー八神だ。
午後1時半。
俺はNR萩窪駅の東京中央線快速の下り方面の電車が到着するホームに立っている。映画デートのときと同じように、電車で氷織と待ち合わせすることになっている。ただ、今回乗る電車は下り方面なので、氷織が乗る予定の電車の時刻と、何号車のどの扉の近くにいるのかメッセージをくれることになっている。
――プルルッ。
スラックスのポケットに入れてあるスマホが鳴る。さっそく確認すると、氷織からLIMEでメッセージを受信したと通知が。
『笠ヶ谷駅13:32発。10号車の先頭の扉です』
一番端のところに乗る予定なんだ。端だと席に座れる可能性が高いもんな。
氷織に『分かった。ありがとう』と返信を送り、10号車の先頭の扉が開く場所へ向かう。ここで待っていれば、次に到着する電車に乗っている氷織に会える。
『まもなく、3番線に快速・中尾行きがまいります。まもなく――』
3分ほどして、八神駅へ向かう電車がもうすぐ来るとアナウンスが。だから、もうすぐ氷織に会えるんだな。
やがて、萩窪駅に電車が到着する。俺の目の前にある扉の窓から、青いキャミワンピースに白い半袖のTシャツを重ね着した氷織が見えた。プールデートだからか、大きめの桃色のトートバッグを持っている。
氷織は俺と目が合うと、嬉しそうに笑って小さく手を振ってくる。そんな氷織が可愛いと思いつつ、氷織に手を振り返す。
扉が開き、降車した人の後に乗車する。
「こんにちは、明斗さん」
「こんにちは、氷織。今日の服もよく似合っていて可愛いよ」
こんなにも素敵な私服姿を見せられると、この前新調した水着を着た氷織にも期待してしまう。
「ありがとうございます。明斗さんもVネックシャツがよく似合っていますよ。かっこいいです」
「ありがとう」
新しく買った水着を着ても、同じような感想を言ってもらえたら嬉しいな。
近くにある座席が3席連続で空いているので、そのうちの2席に俺達は隣同士に座る。
蒸し暑い中萩窪駅まで歩いて、ホームで電車を待っていたから、涼しい車内でゆったりと座れるのが心地いい。
「座れたな」
「良かったです。八神駅まで40分くらいかかりますから座れた方がいいかと思いまして。それで、端の車両に乗ったんです」
「そうだったんだ。氷織の狙い通りになって良かった」
「そうですね。ほっとしました」
「まあ、氷織と一緒なら、40分立つことになっても平気だけど」
「……明斗さんったら」
ニッコリと笑いながらそう言うと、氷織は俺の肩に頭を乗せてきた。この体勢なら、何時間でも電車に乗っていられそうだ。
「プールデートが楽しみなので、今日まであっという間でした」
「俺もだよ。学校もそうだし、バイトもいつも以上に頑張れたなぁ」
「ふふっ、そうですか。新調した水着はちゃんと持ってきていますので、楽しみにしていてくださいね」
「うん、楽しみにしてる」
東友で新しい水着を買ったときからずっと、氷織の水着がどんな感じか楽しみでいるよ。それもあったから、こんなにも早くデート当日が来たんじゃないかと思っている。
「私も明斗さんの水着を楽しみにしていますよ」
「似合っているって思ってもらえるといいな」
「明斗さんが選んで、明斗さんが着るんです。ですから、きっと似合っていると思うでしょうね」
優しい笑顔でそう言ってくれる氷織。嬉しいし、ちょっとキュンとなったよ。気づけば、俺は氷織の頭を優しく撫でていた。
「プールは去年の夏休みに、沙綾さん達とスイムブルー八神に行ったとき以来です。明斗さんはどうですか?」
「俺は……高校生になってからは初めてだな。去年の夏は和男とか男友達数人で、神奈川の湘南の海水浴場へ遊びに行ったから」
そのときはビーチボールで遊んだり、スイカ割りをしたり。俺があまり泳げないから、和男達と水鉄砲を使って遊んだりもしたか。楽しかったな。
あとは、ナンパを成功させるためだといって、何人かの友達に付き合わされたっけ。友達のナンパは成功せず、俺が女性達から逆ナンされてしまったけど。即座に断ったので、友人達から恨まれるようなことはなかった。
「プールは……中3の水泳の授業が最後かな」
「そうなんですね。これが明斗さんにとって高校最初のプールだと分かって嬉しいです」
ふふっ、と氷織は言葉通りの嬉しそうな笑みを見せてくれる。
「ちなみに、私は……親戚以外の男の子と一緒にプールへ遊びに行くのはこれが初めてですよ。男の子と2人きりなのは完全にこれが初めてです」
「そうなんだ。氷織にとってもこれが初めてなことがあって嬉しいよ。一緒にプールデート楽しもうね」
「はいっ」
それからは、これまでプールや海に遊びに行ったときの思い出話や、お互いに好きな漫画やアニメの水着回などについて語り合った。それが楽しくて、八神駅までの40分間はあっという間だった。
八神駅は俺達が乗った東京中央線快速の他にも、複数の路線が乗り入れる。なので、萩窪駅や笠ヶ谷駅よりも立派なところだ。ここで降車する人も多くいた。
スイムブルー八神は北口を出て、徒歩8分のところにある。去年来たことのある氷織が「スイムブルーまで私が案内しますね!」と言ってくれたので、彼女のご厚意に甘えることにした。
駅を出ると小雨が降っていたため、スイムブルーまでは氷織と相合い傘をしていくことに。今日はデートだから、学校の行き帰り以上に相合い傘がいいなぁって思える。
「ここです」
氷織の案内もあって、俺達は迷うことなくスイムブルー八神に到着。とても大きな建物だ。公式サイトに『多摩地域で一番大きな屋内プール施設』と書いてあったけど、それも納得かな。
「とても立派な建物だね。きっと、屋内プールのエリアも広いんだろうな」
「立派ですよ。大きなプールがいくつもありますから。さあ、明斗さん。中に入りましょうか」
「そうだね」
俺達はスイムブルー八神の中に入る。
ロビーには俺達のようなカップルもいれば、学生らしき数人のグループ、親子連れなどのお客さんがいる。日曜日のお昼過ぎだったり、雨で蒸し暑かったりするからだろうか。ロビーの段階でこれだけお客さんがいるなら、屋内プールは賑わっていそうだ。
受付で利用料金を支払い、俺達は更衣室の前まで向かう。
「では、更衣室を出たこの場所で待ち合わせしましょうか」
「うん、そうしよう。じゃあ、また後で」
「はいっ」
俺は男子更衣室の中に入る。
大きな施設だけあって、更衣室も結構広いな。とても綺麗で、小学校や中学校のプールの更衣室とは全然違う。小学生の頃に、夏休みの家族旅行で泊まった大きなホテルのプール用の更衣室がこんな感じだったな。
更衣室の中には、若い男性や小さな子連れ、丸々としたご老人などちらほらといる。俺達より少し前に来たのか水着に着替える人もいれば、遊び終わって髪を拭いている人や、私服に着替えている人もいる。
人のいない奥の方へ行き、俺はこの前の東友で新調した青い水着に着替える。
荷物をロッカーに入れ、青色のキーバンドを左腕に装着する。落としたり、なくしたりしないように気をつけないと。
男子更衣室を出て行くとき、出入口近くにある洗面台の鏡で新しい水着を着た自分の姿を見る。……氷織に似合っているとか、かっこいいって言ってもらえると嬉しいな。
更衣室を出ると……そこにはまだ氷織の姿はなかった。氷織がどんな水着姿になって出てくるのか楽しみにしながら、彼女を待つことにしよう。
男女の更衣室の入り口を見ていると、定期的に人の出入りがあるな。たまに、女性用の更衣室を出てきた水着姿の女性が、頬を赤らめて俺を見てくることも。去年での海のように逆ナンの可能性も考えたが、そういった展開にはならない。
周りを見ると、結構大きな自販機がある。途中に休憩したり、帰ったりするときに飲むのもいいかもしれないな。
「お、お待たせしました。明斗さん。待ちましたか?」
「ううん、そんなことない……よ」
正面を見ると、すぐ目の前に黒の三角ビキニ姿の氷織が立っていた。そんな彼女は右手にはスマホを持っている。
俺と目が合うと、氷織ははにかみ、
「どうですか?」
と一言言い、ゆっくりと一回転する。そのことで氷織の長い銀髪が少しふわっと上がり、甘い匂いが香る。髪が上がったことでチラッと見えたが、トップスの方は首と背中の二カ所を紐で固定しているようだ。また、ボトムスの方は両サイドから紐で固定している。
トップスもボトムスも布地はそこまで広くなく、大胆な印象を与えさせる。黒い水着なので、氷織の白い肌の美しさが際立って。
水着姿になったことで、初めて見る素肌の部分も多くてドキッとしてしまう。両脚は細長く、お腹は出ていなくてはっきりとしたくびれがあって。全身に程良く筋肉がついている。
そして……胸。今まで、縦ニットの服を着たり、火村さんが氷織のお見舞いで「大きくて、美しくて、Eカップ」と話していたり、タピオカチャレンジを成功したりしたことから、結構大きな胸だとは分かっていた。ただ、こうしてビキニを身につけた胸を見ると……氷織の胸は本当に大きくて美しい形だ。これがEカップなのですか。あと、谷間も凄い。
改めて全身を見ると、氷織は本当にスタイル抜群だ。
「真剣な様子でじっくりと見てくれるのは嬉しいですが、ちょっと恥ずかしいです……」
「ご、ごめん。あまりにも似合っているから釘付けになっていたんだ。綺麗で、可愛くて、黒い水着だからセクシーな大人っぽさもあって。とても素敵だよ、氷織」
ストレートに感想を言うと、赤らんだ氷織の顔に笑顔の花が咲く。
「そう言ってくれて嬉しいです。この水着、恭子さんが似合いそうだと渡してくれたのがきっかけで。布地はやや少なめですが、シンプルなデザインですし、色は黒ですからいいなと思いまして。試着したら結構いいと思えましたし、恭子さんはもちろんのこと、沙綾さんも似合っていると言ってくださったので、この水着にしたんです」
「そうだったんだ」
2人ともグッジョブ。特にこの水着がいいんじゃないかと氷織に勧めた火村さん。明日、2人には購買部か自販機で好きな飲み物を一つずつ奢ろう。
「明斗さんのその青い水着素敵ですね! クールで落ち着いた雰囲気で。よく似合っていてかっこいいです。水着姿を見るのが初めてだからなのもありますが、キュンとなりました」
氷織は依然として顔が赤いまま、俺の水着姿を凝視している。
「ありがとう。クールな感じがいいなって思ったし、氷織は青系の色が好きだから。それで、この水着を買ったんだ」
「そうだったんですね。その素敵な水着姿をスマホで撮ってもいいですか? 初めてのプールデートの思い出に。私とのツーショット写真や私の水着姿の写真も。LIMEで送りますから」
「もちろんいいよ」
お互いの水着姿や俺とのツーショット写真を撮りたいから、氷織はスマホを持ってきたんだな。
それから、氷織のスマホを使ってお互いの水着姿やツーショットの自撮り写真を撮影した。氷織は撮った写真をLIMEの俺との個別トークに送信してくれる。
また、ツーショット写真を撮る際に体が近づいたとき、氷織から甘美な匂いがしてドキッとした。そのことで体がかなり熱くなってきているし……プールデートで良かったかも。
「これでOKですね」
「いい写真を送ってくれてありがとう、氷織」
「いえいえ。スマホをロッカーに戻してきますね」
「ああ」
氷織は小走りで女子更衣室へと戻っていく。そんな氷織の後ろ姿もとても可愛くて、美しく思えた。
氷織とのプールデートがとても楽しみで、あっという間にデート当日がやってきた。昼過ぎから夕方頃まで遊ぶ予定だ。
今日は朝から雨が降ったり止んだりの天気。これが一日中続くらしい。ただ、氷織と行くプールは屋内なので、プールデートを問題なく楽しめるだろう。ちなみに、屋内プール施設の名前はスイムブルー八神だ。
午後1時半。
俺はNR萩窪駅の東京中央線快速の下り方面の電車が到着するホームに立っている。映画デートのときと同じように、電車で氷織と待ち合わせすることになっている。ただ、今回乗る電車は下り方面なので、氷織が乗る予定の電車の時刻と、何号車のどの扉の近くにいるのかメッセージをくれることになっている。
――プルルッ。
スラックスのポケットに入れてあるスマホが鳴る。さっそく確認すると、氷織からLIMEでメッセージを受信したと通知が。
『笠ヶ谷駅13:32発。10号車の先頭の扉です』
一番端のところに乗る予定なんだ。端だと席に座れる可能性が高いもんな。
氷織に『分かった。ありがとう』と返信を送り、10号車の先頭の扉が開く場所へ向かう。ここで待っていれば、次に到着する電車に乗っている氷織に会える。
『まもなく、3番線に快速・中尾行きがまいります。まもなく――』
3分ほどして、八神駅へ向かう電車がもうすぐ来るとアナウンスが。だから、もうすぐ氷織に会えるんだな。
やがて、萩窪駅に電車が到着する。俺の目の前にある扉の窓から、青いキャミワンピースに白い半袖のTシャツを重ね着した氷織が見えた。プールデートだからか、大きめの桃色のトートバッグを持っている。
氷織は俺と目が合うと、嬉しそうに笑って小さく手を振ってくる。そんな氷織が可愛いと思いつつ、氷織に手を振り返す。
扉が開き、降車した人の後に乗車する。
「こんにちは、明斗さん」
「こんにちは、氷織。今日の服もよく似合っていて可愛いよ」
こんなにも素敵な私服姿を見せられると、この前新調した水着を着た氷織にも期待してしまう。
「ありがとうございます。明斗さんもVネックシャツがよく似合っていますよ。かっこいいです」
「ありがとう」
新しく買った水着を着ても、同じような感想を言ってもらえたら嬉しいな。
近くにある座席が3席連続で空いているので、そのうちの2席に俺達は隣同士に座る。
蒸し暑い中萩窪駅まで歩いて、ホームで電車を待っていたから、涼しい車内でゆったりと座れるのが心地いい。
「座れたな」
「良かったです。八神駅まで40分くらいかかりますから座れた方がいいかと思いまして。それで、端の車両に乗ったんです」
「そうだったんだ。氷織の狙い通りになって良かった」
「そうですね。ほっとしました」
「まあ、氷織と一緒なら、40分立つことになっても平気だけど」
「……明斗さんったら」
ニッコリと笑いながらそう言うと、氷織は俺の肩に頭を乗せてきた。この体勢なら、何時間でも電車に乗っていられそうだ。
「プールデートが楽しみなので、今日まであっという間でした」
「俺もだよ。学校もそうだし、バイトもいつも以上に頑張れたなぁ」
「ふふっ、そうですか。新調した水着はちゃんと持ってきていますので、楽しみにしていてくださいね」
「うん、楽しみにしてる」
東友で新しい水着を買ったときからずっと、氷織の水着がどんな感じか楽しみでいるよ。それもあったから、こんなにも早くデート当日が来たんじゃないかと思っている。
「私も明斗さんの水着を楽しみにしていますよ」
「似合っているって思ってもらえるといいな」
「明斗さんが選んで、明斗さんが着るんです。ですから、きっと似合っていると思うでしょうね」
優しい笑顔でそう言ってくれる氷織。嬉しいし、ちょっとキュンとなったよ。気づけば、俺は氷織の頭を優しく撫でていた。
「プールは去年の夏休みに、沙綾さん達とスイムブルー八神に行ったとき以来です。明斗さんはどうですか?」
「俺は……高校生になってからは初めてだな。去年の夏は和男とか男友達数人で、神奈川の湘南の海水浴場へ遊びに行ったから」
そのときはビーチボールで遊んだり、スイカ割りをしたり。俺があまり泳げないから、和男達と水鉄砲を使って遊んだりもしたか。楽しかったな。
あとは、ナンパを成功させるためだといって、何人かの友達に付き合わされたっけ。友達のナンパは成功せず、俺が女性達から逆ナンされてしまったけど。即座に断ったので、友人達から恨まれるようなことはなかった。
「プールは……中3の水泳の授業が最後かな」
「そうなんですね。これが明斗さんにとって高校最初のプールだと分かって嬉しいです」
ふふっ、と氷織は言葉通りの嬉しそうな笑みを見せてくれる。
「ちなみに、私は……親戚以外の男の子と一緒にプールへ遊びに行くのはこれが初めてですよ。男の子と2人きりなのは完全にこれが初めてです」
「そうなんだ。氷織にとってもこれが初めてなことがあって嬉しいよ。一緒にプールデート楽しもうね」
「はいっ」
それからは、これまでプールや海に遊びに行ったときの思い出話や、お互いに好きな漫画やアニメの水着回などについて語り合った。それが楽しくて、八神駅までの40分間はあっという間だった。
八神駅は俺達が乗った東京中央線快速の他にも、複数の路線が乗り入れる。なので、萩窪駅や笠ヶ谷駅よりも立派なところだ。ここで降車する人も多くいた。
スイムブルー八神は北口を出て、徒歩8分のところにある。去年来たことのある氷織が「スイムブルーまで私が案内しますね!」と言ってくれたので、彼女のご厚意に甘えることにした。
駅を出ると小雨が降っていたため、スイムブルーまでは氷織と相合い傘をしていくことに。今日はデートだから、学校の行き帰り以上に相合い傘がいいなぁって思える。
「ここです」
氷織の案内もあって、俺達は迷うことなくスイムブルー八神に到着。とても大きな建物だ。公式サイトに『多摩地域で一番大きな屋内プール施設』と書いてあったけど、それも納得かな。
「とても立派な建物だね。きっと、屋内プールのエリアも広いんだろうな」
「立派ですよ。大きなプールがいくつもありますから。さあ、明斗さん。中に入りましょうか」
「そうだね」
俺達はスイムブルー八神の中に入る。
ロビーには俺達のようなカップルもいれば、学生らしき数人のグループ、親子連れなどのお客さんがいる。日曜日のお昼過ぎだったり、雨で蒸し暑かったりするからだろうか。ロビーの段階でこれだけお客さんがいるなら、屋内プールは賑わっていそうだ。
受付で利用料金を支払い、俺達は更衣室の前まで向かう。
「では、更衣室を出たこの場所で待ち合わせしましょうか」
「うん、そうしよう。じゃあ、また後で」
「はいっ」
俺は男子更衣室の中に入る。
大きな施設だけあって、更衣室も結構広いな。とても綺麗で、小学校や中学校のプールの更衣室とは全然違う。小学生の頃に、夏休みの家族旅行で泊まった大きなホテルのプール用の更衣室がこんな感じだったな。
更衣室の中には、若い男性や小さな子連れ、丸々としたご老人などちらほらといる。俺達より少し前に来たのか水着に着替える人もいれば、遊び終わって髪を拭いている人や、私服に着替えている人もいる。
人のいない奥の方へ行き、俺はこの前の東友で新調した青い水着に着替える。
荷物をロッカーに入れ、青色のキーバンドを左腕に装着する。落としたり、なくしたりしないように気をつけないと。
男子更衣室を出て行くとき、出入口近くにある洗面台の鏡で新しい水着を着た自分の姿を見る。……氷織に似合っているとか、かっこいいって言ってもらえると嬉しいな。
更衣室を出ると……そこにはまだ氷織の姿はなかった。氷織がどんな水着姿になって出てくるのか楽しみにしながら、彼女を待つことにしよう。
男女の更衣室の入り口を見ていると、定期的に人の出入りがあるな。たまに、女性用の更衣室を出てきた水着姿の女性が、頬を赤らめて俺を見てくることも。去年での海のように逆ナンの可能性も考えたが、そういった展開にはならない。
周りを見ると、結構大きな自販機がある。途中に休憩したり、帰ったりするときに飲むのもいいかもしれないな。
「お、お待たせしました。明斗さん。待ちましたか?」
「ううん、そんなことない……よ」
正面を見ると、すぐ目の前に黒の三角ビキニ姿の氷織が立っていた。そんな彼女は右手にはスマホを持っている。
俺と目が合うと、氷織ははにかみ、
「どうですか?」
と一言言い、ゆっくりと一回転する。そのことで氷織の長い銀髪が少しふわっと上がり、甘い匂いが香る。髪が上がったことでチラッと見えたが、トップスの方は首と背中の二カ所を紐で固定しているようだ。また、ボトムスの方は両サイドから紐で固定している。
トップスもボトムスも布地はそこまで広くなく、大胆な印象を与えさせる。黒い水着なので、氷織の白い肌の美しさが際立って。
水着姿になったことで、初めて見る素肌の部分も多くてドキッとしてしまう。両脚は細長く、お腹は出ていなくてはっきりとしたくびれがあって。全身に程良く筋肉がついている。
そして……胸。今まで、縦ニットの服を着たり、火村さんが氷織のお見舞いで「大きくて、美しくて、Eカップ」と話していたり、タピオカチャレンジを成功したりしたことから、結構大きな胸だとは分かっていた。ただ、こうしてビキニを身につけた胸を見ると……氷織の胸は本当に大きくて美しい形だ。これがEカップなのですか。あと、谷間も凄い。
改めて全身を見ると、氷織は本当にスタイル抜群だ。
「真剣な様子でじっくりと見てくれるのは嬉しいですが、ちょっと恥ずかしいです……」
「ご、ごめん。あまりにも似合っているから釘付けになっていたんだ。綺麗で、可愛くて、黒い水着だからセクシーな大人っぽさもあって。とても素敵だよ、氷織」
ストレートに感想を言うと、赤らんだ氷織の顔に笑顔の花が咲く。
「そう言ってくれて嬉しいです。この水着、恭子さんが似合いそうだと渡してくれたのがきっかけで。布地はやや少なめですが、シンプルなデザインですし、色は黒ですからいいなと思いまして。試着したら結構いいと思えましたし、恭子さんはもちろんのこと、沙綾さんも似合っていると言ってくださったので、この水着にしたんです」
「そうだったんだ」
2人ともグッジョブ。特にこの水着がいいんじゃないかと氷織に勧めた火村さん。明日、2人には購買部か自販機で好きな飲み物を一つずつ奢ろう。
「明斗さんのその青い水着素敵ですね! クールで落ち着いた雰囲気で。よく似合っていてかっこいいです。水着姿を見るのが初めてだからなのもありますが、キュンとなりました」
氷織は依然として顔が赤いまま、俺の水着姿を凝視している。
「ありがとう。クールな感じがいいなって思ったし、氷織は青系の色が好きだから。それで、この水着を買ったんだ」
「そうだったんですね。その素敵な水着姿をスマホで撮ってもいいですか? 初めてのプールデートの思い出に。私とのツーショット写真や私の水着姿の写真も。LIMEで送りますから」
「もちろんいいよ」
お互いの水着姿や俺とのツーショット写真を撮りたいから、氷織はスマホを持ってきたんだな。
それから、氷織のスマホを使ってお互いの水着姿やツーショットの自撮り写真を撮影した。氷織は撮った写真をLIMEの俺との個別トークに送信してくれる。
また、ツーショット写真を撮る際に体が近づいたとき、氷織から甘美な匂いがしてドキッとした。そのことで体がかなり熱くなってきているし……プールデートで良かったかも。
「これでOKですね」
「いい写真を送ってくれてありがとう、氷織」
「いえいえ。スマホをロッカーに戻してきますね」
「ああ」
氷織は小走りで女子更衣室へと戻っていく。そんな氷織の後ろ姿もとても可愛くて、美しく思えた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる