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続編
第33話『体育祭の終わり』
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チーム対抗混合リレーでの興奮が冷めやらぬまま、体育祭の閉会式が行なわれる。
閉会式の中で、各チームの総合得点が発表となり、
『今年の体育祭の優勝チームは……青チームです!』
優勝チームが我ら青チームであると発表された。そのことで、青チームの生徒達は大喜び。チームリーダーが優勝の賞状を受け取った。
混合リレーの前に点数の状況や優勝条件を聞いていたので、俺はリレーを1位でゴールしたと分かった瞬間に青チーム優勝は分かっていた。それでも、こうして『優勝は青チーム!』って言われると、嬉しさがこみ上げてくる。勝ちたいっていう気持ちで体育祭に臨んだからかな。
閉会式が終わり、俺達一般生徒は校舎に戻る。その際、高橋先生から、男子は教室で、女子は特設会場を含めた更衣室で着替えるようにと言われた。
教室に戻り、女子達が荷物を持って外に出た後に、俺は和男達と一緒に体操着から制服に着替えていく。
「優勝できて嬉しいぜ! これも、アキが混合リレーで1位でゴールしてくれたおかげだ!」
「そうだな! もし、個人のMVPがあるなら、確実に紙透だな!」
「倉木との二人三脚も1位だったし、青山を連れて行った借り物競走も1位。最後の混合リレーも紙透が1位でゴールしたし。紙透の体育祭と言ってもいいかもな」
などと、和男達からお褒めの言葉をたくさん言われる。こんなにも言われるのは、青チームが優勝して、ラストの混合リレーで俺が1位でゴールしたからだろうな。
「実は混合リレーの直前に、青チームが優勝できるかどうかは混合リレーの結果次第だってチームリーダーに言われたんだ。結果的には優勝争いをしていた緑と赤チームよりも早く俺がゴールしたことで優勝が決まった。だけど、そういう状況を作ってくれたのは青チームのみんなだよ」
氷織や和男の出場した種目は1位が多かったし、それ以外の種目でも青チームの生徒はまずまずの結果を出し続けていた。だからこそ、最後まで緑チームや赤チームと優勝争いができたのだと思っている。
「俺は全員で掴んだ青チーム優勝だと思っているよ」
「アキらしいな。ますますかっこいいぜ。でも、アキが混合リレーで緑と赤より早くゴールしたから、青チームが優勝できたのも事実だ。だから、ありがとな! アキ!」
嬉しそうな笑顔でそう言い、和男は俺にサムズアップしてくる。
和男のお礼もあってか、教室にいるクラスメイト全員が俺に「ありがとう!」と言ってくれた。中には肩とか背中とかを軽く叩いてくれる奴もいて。和男とか友達くらいならともかく、まさかこんなにたくさんお礼を言われるとは。
「……ありがとう」
そう言ったときには、俺の頬は普段よりもだいぶ緩んでいた。きっと、和男達のように俺も嬉しそうに笑っているのだろう。
教室にいる男子生徒全員の着替えが終わり扉を開けているので、制服姿の女子生徒が少しずつ教室に戻ってきた。
氷織は火村さんと清水さんと一緒に後方の扉から教室に入る。体育祭も終わったからか、髪型がポニーテールから普段のストレートのロングヘアになっている。
扉の近くで火村さんと清水さんと別れると、氷織は自分の席があるこちらにやってくる。その際、俺と目が合い、氷織は微笑みながら手を振ってくれた。
「ただいまです、明斗さん」
「おかえり、氷織。髪型がストレートに戻ったね」
「体育祭が終わりましたからね」
「そっか。今日は朝着替えたときからずっとポニーテールだったから、随分と久しぶりに見た気がする。ポニーテールも可愛かったけど、いつものストレートヘアもいいなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます」
氷織は持ち前の優しい笑みを浮かべながら、自分の席に座った。
「混合リレーで1位になって優勝でしたから、着替えの間もその話がメインでした。あとは借り物競走のことも。男子の方はどうでしたか?」
「同じような感じだよ。和男がリレーを1位でゴールしたのを褒めてくれたから、みんなも褒めてくれて」
「そうでしたか」
「……出場した種目では全部1位になって。チームは優勝して。氷織達が一緒だったし、葉月さんも相手として凄く良かったから、今年の体育祭は今までで一番だと思ったよ」
「それは良かったです。登校するときに勝ちたいって言っていましたもんね。私も明斗さんと一緒にリレーに出場したり、100m走と恭子さんとの二人三脚で1位を取ったり。部活動リレーに出たり。明斗さんが借り物競走で『大切な存在』として連れて行ってくれたり、ゴールテープを切る明斗さんを見られたり。盛りだくさんで最高な体育祭でした!」
「良かったね、氷織」
そう言って、氷織の頭を優しく撫でると、氷織は柔和な笑みを浮かべた。
氷織にとっても、最高な体育祭になったことがたまらなく嬉しい。氷織の言う通り、今年の体育祭は盛りだくさんな体育祭でもあった。きっと、何年経っても忘れることはないだろう。
氷織と話していたら、クラスメイト全員が教室に戻ってきていた。青チームが優勝したからだろうか。大半の生徒が笑顔だ。
「は~い、みんな体育祭お疲れ様~! 終礼をやりますよ~!」
高橋先生が教室に入ってきた。先生は両手に1つずつ青いカゴを持っており、それらを教卓の上に乗せた。いったい、何を持ってきたんだろう? カゴを教卓に乗せるとき「よいしょっ」って言っていたし。
高橋先生が来たため、クラスメイトはみんな自分の席に座る。
「みんな~、今日は体育祭お疲れ様でした~。私が言うのは変かもしれないけど、みんな、青チーム優勝おめでとう~!」
わ~い! と高橋先生は嬉しそうに拍手をする。そんな先生にノって、クラスメイトの大半が一緒に拍手をする。体育祭優勝の興奮が残っているのか、一部のクラスメイトは「やったー!」とか「イエーイ!」と言って。
「これも、うちのクラスはもちろん、青チーム全員が頑張った結果だと思います~。先生、とっても感動しました~! 結果は問わず、体育祭を頑張ったみんなへのご褒美に、ラプトンの紙パックの紅茶を購買部で買ってきました~!」
『やったー!』
多くのクラスメイトが喜んでいる。中には「あざーす!」と叫ぶ男子生徒や、「由実先生、ありがとう!」と嬉しそうにお礼を言う女子生徒も。
教卓にある2つのカゴには、クラス全員分のラプトンの紙パックの紅茶が入っているのか。ちなみに、ラプトンとは紅茶で大人気の飲料メーカーである。俺も高校の購買部やコンビニ、自販機で何度も買ったことがある。
「ストレートティーにミルクティー、アップルティーにレモンティーの全4種類があります~。1人1本、好きなものをカゴから取っていってくださ~い。さっそく飲んでもいいですし、家に帰ってから飲んでもいいですよ~」
『はーい!』
元気よく返事をすると、半分ほどの生徒がさっそくカゴのある教卓へ向かう。その中には火村さんと清水さん、和男の姿も。
「私はミルクティーにしましょうかね。明斗さんは何にしますか?」
「アップルティーにしようかな」
他の3つなら家で作って飲むことがあるけど、アップルティーはないから。アップルティーがなかったらレモンティーにしよう。
カゴの周りに生徒があまりいなくなったところで、俺は氷織と一緒に教卓へ向かう。
カゴの中を見てみると、どの味の紅茶もまだ残っていた。俺はアップルティー、氷織はミルクティーをカゴから一つ取って自分の席に戻った。
「俺はさっそくいただこうかな」
「私もです。ミルクティーいただきます」
「いただきます」
付属のストローを飲み口に刺し、俺はアップルティーを一口飲む。
紅茶の味はもちろんのこと、リンゴの甘味もしっかりあって美味しい。混合リレーで走ってからそこまで時間が経っていないからか、この甘味がいいなって思える。
去年のクラスでは、体育祭後に担任からのご褒美とか差し入れは特になかったので、紅茶1つもらえるのが凄く嬉しい。それもあって、とても美味しく感じる。
「美味しいなぁ、アップルティー」
「ミルクティーも美味しいですよ」
氷織は満足げにそう言い、ミルクティーをもう一口。紙パックを持って飲む姿も絵になるなぁ。
「明斗さんも一口飲みますか?」
「飲むよ、ありがとう。じゃあ、俺もアップルティーを一口あげるよ」
「ありがとうございます」
俺は氷織と紅茶の紙パックを交換し、氷織のミルクティーを一口いただく。ミルクティーも美味しいな。ただ、ラプトンのミルクティーも何度も飲んだことがあるけど、こんなに美味しかったかな。今までで一番かも。
「アップルティーも美味しいですね。ありがとうございます」「
「いえいえ。ミルクティーも美味しかったよ。ありがとう」
俺と氷織はお互いに自分の紅茶のパックを返した。
和男達の方を見てみると、3人も自分が取った紅茶を飲んでいる。美味しいのか、3人とも朗らかな笑みを見せている。
「全員取りましたね~。じゃあ、飲みながらでいいので、連絡事項を話しますね~。今日は体育祭でしたが、明日から普通に授業がありますからね~。寝坊して遅刻しないように気をつけましょうね~」
『はーい!』
「あら~、いいお返事~。あと、今日はお昼休憩以外は教室にいなかったので、お掃除はなしにします~」
おっ、掃除当番がなしになったか。今週は氷織のいる班が掃除当番なので、良かったと思える。氷織を含めて掃除当番の女子生徒が「はーい」と返事した。
「では、終礼はこれで終わります~。また明日~」
そして、クラス委員による挨拶が行われ、今日の日程はこれで終了した。
今日は体育祭だったから、いつもよりもあっという間に感じたな。ただ、体育祭では色々なことがあったから、氷織と登校したのが随分と昔のことのように思える。
教室を見渡すと、終礼が終わってさっそく教室を出る生徒もいる。ただ、掃除がないからか教室に残っている生徒もそれなりにいて。
氷織はミルクティーの紙パックを持ちながら、俺の方に振り返る。
「今日は掃除もないですし、紅茶がまだ残っていますから、ここでゆっくりしますか?」
「そうだね。この後、特に予定もないし。今日は火曜日だけど、体育祭だったから文芸部の活動はないのかな」
「ええ。今日の活動はありません。……強いて言えば、部活動対抗リレーに出たことが活動だったでしょうか」
「ははっ、それは言えてるな。じゃあ、紅茶を飲みながらここでのんびりしよう」
「はいっ」
「氷織~!」
火村さんが氷織の名を呼んだので声がした方へ向くと、彼女は紅茶の紙パックを持って俺達のところにやってきた。何かに期待した様子で。
「あたし、紅茶はレモンティーにしたの。もし良かったら、一口交換しない?」
やっぱり、氷織との一口交換目当てだったか。
「もちろんですよ。ただ、明斗さんが口付けていますけど、それでよければ」
「紙透なら全然オッケーよ。はい、あたしの一口どうぞ」
「私のミルクティーもどうぞ」
氷織と火村さんはお互いの紅茶の紙パックを渡し合って、相手の紅茶を一口飲む。
2人とも、相手の紅茶が口に合ったのだろうか。氷織は爽やかな笑顔を浮かべ、火村さんは……とっても幸せな笑顔を見せている。
「レモンティーも美味しいですね。ありがとうございます」
「……ミルクティーも美味しかった。ラプトンのミルクティーはたくさん飲んだことあるけど、今までで一番美味しかったわぁ……」
俺と同じ感想かい。火村さんも氷織のことが大好きだから、このミルクティーがとても美味しく感じられるんだろう。
「ふふっ、恭子ちゃんらしいね」
「そうだな、美羽!」
和男と清水さんは紅茶を飲みながらこちらにやってきた。2人の紙パックを見ると……和男はストレートティーで清水さんはミルクティーか。2人らしいチョイスかも。
「おっ、みんないたッス。今日はお疲れ様ッス」
葉月さんの声が聞こえたのでみんなで扉の方を見ると、制服姿でスクールバッグと体操服の袋を持った葉月さんが教室に入ってきた。そんな彼女に俺達5人は「お疲れ様」と声を掛けた。
「おっ、みんなラプトンの紙パック持っているッスね! 購買部で買ったッスか?」
「由実先生が買ってきてくれたんです。体育祭を頑張ったご褒美に、1人1つずつ」
「そうだったッスか! いいッスねぇ。高橋先生、優しいッスもんね。うちのクラスの担任は『体育祭おつかれ~』の一言だけだったッスよ」
ちょっと不満げに言う葉月さん。今の葉月さんの話や去年のクラス担任のことを考えると、高橋先生がとても優しい先生に思えてきた。
「そうだ。朝、あんなことを言ったんでちゃんと言わないと。……青チームには負けたッス! 優勝おめでとうッス!」
大きな声でそう言うと、葉月さんは笑顔で拍手してくれる。朝礼前に「青チームには負けないッスよ!」って意気込んでいたからな。だから、これは敗北宣言ってことかな。
「混合リレーも緑チームが途中までは1位だったッスけど、青チームの追い上げが凄かったッス。ひおりんも紙透君もかっこよかったッスよ。バトンパスも見事だったッス」
「ふふっ、ありがとうございます、沙綾さん」
「ありがとう、葉月さん。バトンパスは放課後に何度か練習したからな。それを本番でもちゃんとできて良かった」
「そうッスか」
「沙綾さん。ミルクティーを一口飲みますか? 明斗さんと恭子さんが口を付けていますが」
「全然OKッス。いただくッス」
それから少しの間、俺達は紙パックの紅茶を飲みながら教室でゆっくりと過ごした。
今年の体育祭は本当に盛りだくさんだったな。氷織という恋人ができてから初めての体育祭だったし。和男と清水さん、火村さんとも同じチームで。葉月さんは敵チームだけど、氷織が出ているときには一緒に応援して。リレーのアンカーは人生で初めてだったけど、氷織達リレーメンバーのおかげで1位という最高の結果になって。青チームも優勝できたし。本当に楽しかった。
高校2年の体育祭の日は、最高の形で幕を下ろしたのであった。
閉会式の中で、各チームの総合得点が発表となり、
『今年の体育祭の優勝チームは……青チームです!』
優勝チームが我ら青チームであると発表された。そのことで、青チームの生徒達は大喜び。チームリーダーが優勝の賞状を受け取った。
混合リレーの前に点数の状況や優勝条件を聞いていたので、俺はリレーを1位でゴールしたと分かった瞬間に青チーム優勝は分かっていた。それでも、こうして『優勝は青チーム!』って言われると、嬉しさがこみ上げてくる。勝ちたいっていう気持ちで体育祭に臨んだからかな。
閉会式が終わり、俺達一般生徒は校舎に戻る。その際、高橋先生から、男子は教室で、女子は特設会場を含めた更衣室で着替えるようにと言われた。
教室に戻り、女子達が荷物を持って外に出た後に、俺は和男達と一緒に体操着から制服に着替えていく。
「優勝できて嬉しいぜ! これも、アキが混合リレーで1位でゴールしてくれたおかげだ!」
「そうだな! もし、個人のMVPがあるなら、確実に紙透だな!」
「倉木との二人三脚も1位だったし、青山を連れて行った借り物競走も1位。最後の混合リレーも紙透が1位でゴールしたし。紙透の体育祭と言ってもいいかもな」
などと、和男達からお褒めの言葉をたくさん言われる。こんなにも言われるのは、青チームが優勝して、ラストの混合リレーで俺が1位でゴールしたからだろうな。
「実は混合リレーの直前に、青チームが優勝できるかどうかは混合リレーの結果次第だってチームリーダーに言われたんだ。結果的には優勝争いをしていた緑と赤チームよりも早く俺がゴールしたことで優勝が決まった。だけど、そういう状況を作ってくれたのは青チームのみんなだよ」
氷織や和男の出場した種目は1位が多かったし、それ以外の種目でも青チームの生徒はまずまずの結果を出し続けていた。だからこそ、最後まで緑チームや赤チームと優勝争いができたのだと思っている。
「俺は全員で掴んだ青チーム優勝だと思っているよ」
「アキらしいな。ますますかっこいいぜ。でも、アキが混合リレーで緑と赤より早くゴールしたから、青チームが優勝できたのも事実だ。だから、ありがとな! アキ!」
嬉しそうな笑顔でそう言い、和男は俺にサムズアップしてくる。
和男のお礼もあってか、教室にいるクラスメイト全員が俺に「ありがとう!」と言ってくれた。中には肩とか背中とかを軽く叩いてくれる奴もいて。和男とか友達くらいならともかく、まさかこんなにたくさんお礼を言われるとは。
「……ありがとう」
そう言ったときには、俺の頬は普段よりもだいぶ緩んでいた。きっと、和男達のように俺も嬉しそうに笑っているのだろう。
教室にいる男子生徒全員の着替えが終わり扉を開けているので、制服姿の女子生徒が少しずつ教室に戻ってきた。
氷織は火村さんと清水さんと一緒に後方の扉から教室に入る。体育祭も終わったからか、髪型がポニーテールから普段のストレートのロングヘアになっている。
扉の近くで火村さんと清水さんと別れると、氷織は自分の席があるこちらにやってくる。その際、俺と目が合い、氷織は微笑みながら手を振ってくれた。
「ただいまです、明斗さん」
「おかえり、氷織。髪型がストレートに戻ったね」
「体育祭が終わりましたからね」
「そっか。今日は朝着替えたときからずっとポニーテールだったから、随分と久しぶりに見た気がする。ポニーテールも可愛かったけど、いつものストレートヘアもいいなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます」
氷織は持ち前の優しい笑みを浮かべながら、自分の席に座った。
「混合リレーで1位になって優勝でしたから、着替えの間もその話がメインでした。あとは借り物競走のことも。男子の方はどうでしたか?」
「同じような感じだよ。和男がリレーを1位でゴールしたのを褒めてくれたから、みんなも褒めてくれて」
「そうでしたか」
「……出場した種目では全部1位になって。チームは優勝して。氷織達が一緒だったし、葉月さんも相手として凄く良かったから、今年の体育祭は今までで一番だと思ったよ」
「それは良かったです。登校するときに勝ちたいって言っていましたもんね。私も明斗さんと一緒にリレーに出場したり、100m走と恭子さんとの二人三脚で1位を取ったり。部活動リレーに出たり。明斗さんが借り物競走で『大切な存在』として連れて行ってくれたり、ゴールテープを切る明斗さんを見られたり。盛りだくさんで最高な体育祭でした!」
「良かったね、氷織」
そう言って、氷織の頭を優しく撫でると、氷織は柔和な笑みを浮かべた。
氷織にとっても、最高な体育祭になったことがたまらなく嬉しい。氷織の言う通り、今年の体育祭は盛りだくさんな体育祭でもあった。きっと、何年経っても忘れることはないだろう。
氷織と話していたら、クラスメイト全員が教室に戻ってきていた。青チームが優勝したからだろうか。大半の生徒が笑顔だ。
「は~い、みんな体育祭お疲れ様~! 終礼をやりますよ~!」
高橋先生が教室に入ってきた。先生は両手に1つずつ青いカゴを持っており、それらを教卓の上に乗せた。いったい、何を持ってきたんだろう? カゴを教卓に乗せるとき「よいしょっ」って言っていたし。
高橋先生が来たため、クラスメイトはみんな自分の席に座る。
「みんな~、今日は体育祭お疲れ様でした~。私が言うのは変かもしれないけど、みんな、青チーム優勝おめでとう~!」
わ~い! と高橋先生は嬉しそうに拍手をする。そんな先生にノって、クラスメイトの大半が一緒に拍手をする。体育祭優勝の興奮が残っているのか、一部のクラスメイトは「やったー!」とか「イエーイ!」と言って。
「これも、うちのクラスはもちろん、青チーム全員が頑張った結果だと思います~。先生、とっても感動しました~! 結果は問わず、体育祭を頑張ったみんなへのご褒美に、ラプトンの紙パックの紅茶を購買部で買ってきました~!」
『やったー!』
多くのクラスメイトが喜んでいる。中には「あざーす!」と叫ぶ男子生徒や、「由実先生、ありがとう!」と嬉しそうにお礼を言う女子生徒も。
教卓にある2つのカゴには、クラス全員分のラプトンの紙パックの紅茶が入っているのか。ちなみに、ラプトンとは紅茶で大人気の飲料メーカーである。俺も高校の購買部やコンビニ、自販機で何度も買ったことがある。
「ストレートティーにミルクティー、アップルティーにレモンティーの全4種類があります~。1人1本、好きなものをカゴから取っていってくださ~い。さっそく飲んでもいいですし、家に帰ってから飲んでもいいですよ~」
『はーい!』
元気よく返事をすると、半分ほどの生徒がさっそくカゴのある教卓へ向かう。その中には火村さんと清水さん、和男の姿も。
「私はミルクティーにしましょうかね。明斗さんは何にしますか?」
「アップルティーにしようかな」
他の3つなら家で作って飲むことがあるけど、アップルティーはないから。アップルティーがなかったらレモンティーにしよう。
カゴの周りに生徒があまりいなくなったところで、俺は氷織と一緒に教卓へ向かう。
カゴの中を見てみると、どの味の紅茶もまだ残っていた。俺はアップルティー、氷織はミルクティーをカゴから一つ取って自分の席に戻った。
「俺はさっそくいただこうかな」
「私もです。ミルクティーいただきます」
「いただきます」
付属のストローを飲み口に刺し、俺はアップルティーを一口飲む。
紅茶の味はもちろんのこと、リンゴの甘味もしっかりあって美味しい。混合リレーで走ってからそこまで時間が経っていないからか、この甘味がいいなって思える。
去年のクラスでは、体育祭後に担任からのご褒美とか差し入れは特になかったので、紅茶1つもらえるのが凄く嬉しい。それもあって、とても美味しく感じる。
「美味しいなぁ、アップルティー」
「ミルクティーも美味しいですよ」
氷織は満足げにそう言い、ミルクティーをもう一口。紙パックを持って飲む姿も絵になるなぁ。
「明斗さんも一口飲みますか?」
「飲むよ、ありがとう。じゃあ、俺もアップルティーを一口あげるよ」
「ありがとうございます」
俺は氷織と紅茶の紙パックを交換し、氷織のミルクティーを一口いただく。ミルクティーも美味しいな。ただ、ラプトンのミルクティーも何度も飲んだことがあるけど、こんなに美味しかったかな。今までで一番かも。
「アップルティーも美味しいですね。ありがとうございます」「
「いえいえ。ミルクティーも美味しかったよ。ありがとう」
俺と氷織はお互いに自分の紅茶のパックを返した。
和男達の方を見てみると、3人も自分が取った紅茶を飲んでいる。美味しいのか、3人とも朗らかな笑みを見せている。
「全員取りましたね~。じゃあ、飲みながらでいいので、連絡事項を話しますね~。今日は体育祭でしたが、明日から普通に授業がありますからね~。寝坊して遅刻しないように気をつけましょうね~」
『はーい!』
「あら~、いいお返事~。あと、今日はお昼休憩以外は教室にいなかったので、お掃除はなしにします~」
おっ、掃除当番がなしになったか。今週は氷織のいる班が掃除当番なので、良かったと思える。氷織を含めて掃除当番の女子生徒が「はーい」と返事した。
「では、終礼はこれで終わります~。また明日~」
そして、クラス委員による挨拶が行われ、今日の日程はこれで終了した。
今日は体育祭だったから、いつもよりもあっという間に感じたな。ただ、体育祭では色々なことがあったから、氷織と登校したのが随分と昔のことのように思える。
教室を見渡すと、終礼が終わってさっそく教室を出る生徒もいる。ただ、掃除がないからか教室に残っている生徒もそれなりにいて。
氷織はミルクティーの紙パックを持ちながら、俺の方に振り返る。
「今日は掃除もないですし、紅茶がまだ残っていますから、ここでゆっくりしますか?」
「そうだね。この後、特に予定もないし。今日は火曜日だけど、体育祭だったから文芸部の活動はないのかな」
「ええ。今日の活動はありません。……強いて言えば、部活動対抗リレーに出たことが活動だったでしょうか」
「ははっ、それは言えてるな。じゃあ、紅茶を飲みながらここでのんびりしよう」
「はいっ」
「氷織~!」
火村さんが氷織の名を呼んだので声がした方へ向くと、彼女は紅茶の紙パックを持って俺達のところにやってきた。何かに期待した様子で。
「あたし、紅茶はレモンティーにしたの。もし良かったら、一口交換しない?」
やっぱり、氷織との一口交換目当てだったか。
「もちろんですよ。ただ、明斗さんが口付けていますけど、それでよければ」
「紙透なら全然オッケーよ。はい、あたしの一口どうぞ」
「私のミルクティーもどうぞ」
氷織と火村さんはお互いの紅茶の紙パックを渡し合って、相手の紅茶を一口飲む。
2人とも、相手の紅茶が口に合ったのだろうか。氷織は爽やかな笑顔を浮かべ、火村さんは……とっても幸せな笑顔を見せている。
「レモンティーも美味しいですね。ありがとうございます」
「……ミルクティーも美味しかった。ラプトンのミルクティーはたくさん飲んだことあるけど、今までで一番美味しかったわぁ……」
俺と同じ感想かい。火村さんも氷織のことが大好きだから、このミルクティーがとても美味しく感じられるんだろう。
「ふふっ、恭子ちゃんらしいね」
「そうだな、美羽!」
和男と清水さんは紅茶を飲みながらこちらにやってきた。2人の紙パックを見ると……和男はストレートティーで清水さんはミルクティーか。2人らしいチョイスかも。
「おっ、みんないたッス。今日はお疲れ様ッス」
葉月さんの声が聞こえたのでみんなで扉の方を見ると、制服姿でスクールバッグと体操服の袋を持った葉月さんが教室に入ってきた。そんな彼女に俺達5人は「お疲れ様」と声を掛けた。
「おっ、みんなラプトンの紙パック持っているッスね! 購買部で買ったッスか?」
「由実先生が買ってきてくれたんです。体育祭を頑張ったご褒美に、1人1つずつ」
「そうだったッスか! いいッスねぇ。高橋先生、優しいッスもんね。うちのクラスの担任は『体育祭おつかれ~』の一言だけだったッスよ」
ちょっと不満げに言う葉月さん。今の葉月さんの話や去年のクラス担任のことを考えると、高橋先生がとても優しい先生に思えてきた。
「そうだ。朝、あんなことを言ったんでちゃんと言わないと。……青チームには負けたッス! 優勝おめでとうッス!」
大きな声でそう言うと、葉月さんは笑顔で拍手してくれる。朝礼前に「青チームには負けないッスよ!」って意気込んでいたからな。だから、これは敗北宣言ってことかな。
「混合リレーも緑チームが途中までは1位だったッスけど、青チームの追い上げが凄かったッス。ひおりんも紙透君もかっこよかったッスよ。バトンパスも見事だったッス」
「ふふっ、ありがとうございます、沙綾さん」
「ありがとう、葉月さん。バトンパスは放課後に何度か練習したからな。それを本番でもちゃんとできて良かった」
「そうッスか」
「沙綾さん。ミルクティーを一口飲みますか? 明斗さんと恭子さんが口を付けていますが」
「全然OKッス。いただくッス」
それから少しの間、俺達は紙パックの紅茶を飲みながら教室でゆっくりと過ごした。
今年の体育祭は本当に盛りだくさんだったな。氷織という恋人ができてから初めての体育祭だったし。和男と清水さん、火村さんとも同じチームで。葉月さんは敵チームだけど、氷織が出ているときには一緒に応援して。リレーのアンカーは人生で初めてだったけど、氷織達リレーメンバーのおかげで1位という最高の結果になって。青チームも優勝できたし。本当に楽しかった。
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ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
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