恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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続編

第5話『中間試験』

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 5月18日から、2年生最初の中間試験が始まった。4日間かけて行なわれる。
 氷織達と一緒に勉強会をし、分からない部分を氷織に教えてもらったおかげだろうか。これまで以上に試験に手応えを感じている。これなら、1年生のときよりも高水準の成績を取れそうだ。
 また、試験期間中は午前中で日程が終わる。なので、学校が終わると勉強会メンバーでお昼ご飯を食べ、午後にはメンバーのうちの誰かの家に行き、翌日の試験科目について勉強する流れに。
 ちなみに、この期間中の勉強会で、俺は初めて火村さんの家と葉月さんの家に行った。火村さんの部屋は可愛らしい雰囲気で、葉月さんの部屋は氷織の部屋に似た落ち着いた雰囲気だった。ただ、葉月さんの部屋は壁にポスターやタペストリーがいくつか飾られていたり、キャラクターのぬいぐるみがたくさんあったりと、彼女の趣味が感じられる部屋でもあった。
 氷織はもちろんのこと、和男達も調子がいいらしい。少なくとも、みんな赤点の教科が一つもなく中間試験を乗り越えられるといいな。



「よっしゃあっ! 終わったぜ!」

 5月21日、金曜日。
 中間試験の最終科目の試験時間が終わるチャイムが鳴った瞬間、俺の後ろの席に座っている和男の雄叫びが聞こえた。ちなみに、今終わった試験の科目は和男の苦手な世界史B。試験ができなかったという意味ではないことを祈る。勉強会のときは、俺中心に積極的に質問していたし大丈夫だと思うけど。
 和男は列の最後尾に座っている。なので、俺を含めて同じ列にいるテストの答案用紙を集めて、試験監督の教師に提出する。
 和男に答案用紙を渡し、教室の中を見渡すと……中間試験も終わって今週の学校も終わりだからか、かなりいい雰囲気だ。火村さんと清水さんは近所の席の女子生徒と楽しくお喋りしている。
 また、氷織を見ると……俺の視線に気づいたのか氷織はすぐにこちらを見て、微笑みながら小さく手を振ってくれた。そんな氷織に俺も小さく手を振った。

「アキ!」

 気づけば、和男が俺のすぐ近くに立っていた。俺と目が合うと、和男は俺の右手を持ち上げ、両手でぎゅっと掴んできた。そのパワーがとても強く、右手がさっそく痛み始めてきている。

「勉強教えてくれてありがとな! 世界史も1年のときに比べてよくできた気がするぜ! 赤点は回避できそうだ! もしかしたら平均点くらい行くかもしれねえ! 今日やった英語表現Ⅱと数学Bも赤点はないと思うぜ!」
「それは良かった」

 ということは、さっきの雄叫びは中間試験が終わった解放感によるものだったんだな。良かった良かった。

「みんなとの勉強会のおかげで、今回の試験も赤点はなさそうだ」
「頑張ったな」
「おう! これで今日の放課後から、また思い切り部活ができるぜ!」

 和男は白い歯を見せながら笑う。中間試験が終わったので、今日の放課後から部活動が再開される。あの雄叫びは、部活がまたできる喜びもあったのかもしれない。

「頑張れよ、和男」
「おう! アキも今日からバイトがあるんだよな。頑張れよ!」
「ありがとう、頑張るよ」

 俺がそう言うと、和男は俺の右手を離し、肩をポンポンと叩いた。
 中間試験が明けたので、俺はさっそくバイトのシフトが入っている。ただ、午後2時からなので、氷織と火村さん、葉月さんと一緒にお昼ご飯を食べるくらいは大丈夫だ。
 それから程なくして、担任の先生が教室にやってきて、終礼が行われる。中間試験お疲れ様という言葉と、採点した試験の答案は来週の授業で随時返却されることが伝えられた。

「それでは、今日の終礼はこれで終わります~。また来週~」

 こうして今週の学校の日程は全て終了……と言いたいけど、俺と和男は今週が掃除当番なのである。ただ、それも今日で終わりだ。

「教室の外で待っていますね。明斗さんも倉木さんも頑張ってくださいね」
「お掃除頑張ってね、2人とも!」
「頑張りなさい。待っているわ」
「ありがとう、みんな」
「アキと一緒に頑張るぜ!」

 俺と和男がそう言うと、氷織と火村さん、清水さんは教室から出て行った。
 掃除当番の生徒と担任教師以外の大半が教室を出たところで、今週最後の掃除を始める。
 今週は火曜日から中間試験があってお昼頃に終わりだった。だから、いつもの掃除当番のときとは違って、気分のいい中で掃除ができている。
 何事もなく掃除が終わり、和男と一緒に教室を出る。すると、そこには氷織と火村さん、清水さんに葉月さんも待ってくれていた。中間試験と掃除当番が終わったので、6人で「お疲れ様」といった労いの言葉をかけ合う。部活禁止期間から、ほとんどの日で一緒に勉強をしたので、氷織達の言葉が心に響く。
 和男と清水さんはこれから部活があるため、昇降口まで6人で一緒に向かうことに。

「和男には終礼前に聞いたんだけど、氷織達は今日の試験はどうだった?」
「どの教科も手応えがありました。回答欄のズレもなかったので大丈夫かと」
「さすがは氷織ね! あたしは英語と世界史はよくできたと思うわ。数学Bは紙透と氷織と沙綾達に教えてもらったおかげで、赤点は免れられそう」
「あたしも恭子ちゃんと同じ感じ。今年は紙透君だけじゃなくて、氷織ちゃんや沙綾ちゃんもいたからね。苦手な理系科目も何とかなりそうだよ」
「2人がそう言ってくれると嬉しいッスよ。今日は苦手な古典Aの試験があったッスけど、紙透君の教えもあって平均点くらい取れそうな感じッス。紙透君、どうもッス!」
「いえいえ。俺も数学ⅡとBについて、葉月さんに教えてもらったことがあったし。もちろん、氷織達のおかげもあって、1年のときよりもよくできたよ。ありがとう」

 教えてもらうのは氷織と葉月さんが主だったけど、和男と葉月さん中心に勉強を教えることも多かった。だから、今まで以上に授業の内容を理解できた上で試験に臨めた。定期試験の成績上位者一覧に初めて入れるかもしれない。
 俺がお礼を言ったからか、みんな笑顔で俺のことを見てくる。

「それはこっちのセリフだぜ! ありがとな、アキ!」

 と、和男から大きな声でお礼を言われて、背中を思い切り叩かれた。そのことで背中に結構な痛みが走るけど、和男にも感謝しているので何も言わないでおこう。
 昇降口を出たところで和男と清水さんと別れ、俺は氷織と火村さんと葉月さんと一緒に学校を後にする。

「さてと、どこでお昼ご飯を食べようか。氷織達は行きたいお店ってある?」
「そのことについて、明斗さんと倉木さんを待っている間に話したのですが、笠ヶ谷駅の北口にあるラーメン屋さんはどうでしょう?」
「北口にあるラーメン屋……ああ、醤油ラーメンと豚骨ラーメンとお値段が評判の?」
「そうよ」

 火村さんがそう答える。この様子からして、ラーメン屋に行きたいと提案したのは火村さんのようだ。

「あたし、実はラーメンが好きで。ただ、普段一緒にお昼を食べる友達とだと、ラーメン屋に行くことが全然なくて。あと、そのラーメン屋の前を通ったときに中の様子が見えたことがあるんだけど、男の人ばかりで。女性だけだと入りづらい感じだから……」
「ああ……1年のときに、和男達と何度か食べに行ったことがあるけど、男の人が多かったな」

 女性のお客さんもいたけど、カップルや夫婦、家族連れのようなお客さんが多かった。火村さんの言うとおり、女性一人や、女性のみのグループだと入りづらいかも。

「同じようなことを氷織と沙綾に話したら、2人とも賛成してくれて」
「あたしもラーメンが好きッスけど、そのラーメン屋には行ったことがなかったッスから」
「私は家族で一度行ったことがあります。そのとき食べた豚骨ラーメンが美味しかったので、また食べてみたいなと」

 おぉ、氷織もあのお店のラーメンを食べたことがあるのか。俺も豚骨ラーメンが好きだから、今の氷織の話を聞いて嬉しい気持ちに。

「紙透も氷織に作ってもらうほどにラーメンが好きだから、あとでそのラーメン屋でいいか訊こうって話しになっていたの」
「そういうことだったんだ。俺はそのラーメン屋でかまわないよ。俺もあのお店のラーメンは好きだから」
「ありがとう、紙透!」
「決まりッスね!」
「明斗さんならいいと言ってくれると思っていました」

 3人とも嬉しそうだな。特に一度も行ったことのない火村さんと葉月さんは。俺も2年生になってから行くのは初めてなので楽しみだ。
 俺達は4人で笠ヶ谷駅の北口にあるラーメン屋へ向かう。
 人気のラーメン屋でもあり、今はお昼時。なので、10分ほど並んでから男性の店員さんに4人掛けのテーブル席へ案内された。初めてだからか、待っている間は火村さんと葉月さんは店内をよく見渡していた。
 これまで行ったときと同じように、お客さんは男性の比率が高い。また、値段のリーズナブルさもあってか、カウンター席やテーブル席に笠ヶ谷高校の生徒が何人もいて。氷織が来るのは予想外だったのか、店内にいるうちの生徒の大半は驚いた様子でこちらを見ていた。
 俺と氷織は豚骨ラーメン、火村さんと葉月さんは醤油ラーメンを注文。俺はこれからバイトがあるので、麺を大盛りにしてもらうことに。
 待っている間、氷織と火村さんと葉月さんはラーメンを一口ずつ交換しようと約束を交わしていた。自分が注文したラーメンとは違う味を楽しみたいらしい。
 また、氷織はバッグからヘアゴムを取り出して、長い銀髪をポニーテールの形に纏めた。ラーメンなどの汁物を食べるときに纏めることもあるのだという。いつもと違う髪型に火村さんはもちろん興奮し、スマホでポニーテール氷織の写真を何枚も撮っていた。
 10分ほどで、注文したラーメンが運ばれてきた。スマホで写真を撮った後、俺達はラーメンを食べ始める。

「……うん。豚骨ラーメン美味しいな」
「美味しいですよね。家族で食べに来たときのことを鮮明に思い出します」

 そう言い、氷織は美味しそうに麺をすする。違う味のラーメンを注文し、一口交換するのも魅力的だけど、同じものを注文して同じタイミングで楽しむのもいいなと思う。

「うんっ! 醤油ラーメン美味しいわ!」
「さっぱりしていて美味しいッスねっ!」

 醤油ラーメンを頼んだ火村さんと葉月さんもご満悦のようだ。美味しそうに食べる女の子は可愛い。氷織は特に可愛い。
 ある程度食べた後、女子3人は約束通り自分のラーメンを交換し合う。3人とも自分が注文したものとは違うラーメンも美味しいと言っていた。何度も来たことがあるお店だからだろうか。交換の輪に入っていないけど、今の3人を見ていると微笑ましくて、嬉しい気持ちになる。
 4人全員完食。氷織達はとても満足そうで。そんな彼女達のおかげで、今までこのお店で食べてきた中で一番満足した昼食になった。
 また、この昼食でパワーがついたので、午後2時から夜にかけての久しぶりのバイトも難なくこなせたのであった。
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