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第46話『かわいいメモリー』
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俺達は今日の授業で出た課題を取り組んでいく。コンビニで買ってきた飲み物やお菓子をつまみながら。
座っている場所が近いのもあり、和男に数学ⅡとB、葉月さんにたまに古典を教える。人に教えると授業の理解が深まるなぁ。
たまに氷織の方をチラッと見ると、氷織は火村さんと清水さんに理系科目を教えていることが多い。清水さんは真剣だけど、火村さんは氷織をうっとりと見つめているときがあった。君……氷織に教えてもらったことはちゃんと頭に入っているのかな?
今日出た課題はそこまで難しくなかったので、俺は結構早めに終わった。
数学Ⅱの問題集を取り出し、担当教師が教えてくれた中間試験の範囲の問題を解き始める。課題とは違って、問題集にはかなり難しい問題もある。
「これ……分からないな」
数分考えたけど全然分からない。解答の冊子を見ても……この答えになる流れが分からん。よし、氷織か葉月さんに訊くか。
氷織の方を見ると……氷織も課題が終わったようで、今は古典の問題集をやっている。誰にも教えていないから、今なら訊いても大丈夫かな。
「氷織」
小さな声で呼びかけると、氷織はこちらを向いてくる。
「何でしょう?」
「数学Ⅱの問題集をやっているんだけど、分からないところがあって。訊いてもいいかな?」
「もちろんいいですよ」
そう言う氷織は何だか嬉しそうに見えた。初めて質問するからかな。
氷織は俺の方に少し動いてくる。そのことで、甘い匂いがふんわりと香ってきて。
「どの問題ですか?」
「この……因数分解の問題なんだけど」
「……あっ、この問題ですか。以前、解いた記憶があります。難しいですよね。まず、この式で注目する部分は……」
と、氷織は俺の分からない因数分解の問題を丁寧に教えてくれる。
氷織の解説……とても分かりやすいな。さすがは学年1位を取り続けるだけのことはある。自分一人では全く歯が立たなかった問題の解き方が、どんどん頭に入っていく。
「それで、これが答えになるんです」
「おおっ、なるほど。しっかりと理解できたよ。ありがとう、氷織」
「いえいえ。明斗さんのお役に立てて嬉しいです」
氷織は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せてくれる。至近距離だし、分からなかった問題を解説してくれた直後だから、氷織にキュンキュンしちゃってる。あぁ、可愛すぎるよこの笑顔。気づけば、頬に熱が帯びていた。
教えてくれたお礼に、コンビニで買った抹茶マシュマロを氷織にあげることに。
氷織は袋からマシュマロを一粒取り、口の中に入れる。美味しいです、と言って笑顔でモグモグしている姿はとても可愛らしかった。
「よし、これで今日の課題が終わったぜ!」
勉強会を始めてから1時間ほど。
和男も課題が終わって、これで6人全員が終わった。なので、少しの間、みんなで休憩することに。
「明斗さん」
「うん?」
「本棚の一番下の段の端にある、白い立派な背表紙。あれって何なのですか? 無地ですし」
「ああ、あれは俺のアルバムだよ」
「そうですか! 見てみてもいいですか? 連休中のお家デートで私のアルバムを見せてから、私も明斗さんのアルバムを見てみたいと思っていたので」
「そうだったんだ。見ていいよ」
「ありがとうございます」
嬉しそうにお礼を言うと、氷織はクッションから立ち上がって、本棚の方へ。
「紙透君の小さい頃の姿は興味があるッスね。紙透君はイケメンッスから、小さい頃は可愛い感じがするッス」
「沙綾の言うこと……分からなくはないわ。興味がないと言ったら嘘になるし、あたしも見ようかしら」
火村さんも俺の小さい頃の姿に興味があるとは。意外だ。
「あたし達は前に見たことがあるよね、和男君」
「ああ。小さい頃のアキが可愛かったのは覚えてるぜ。どんな写真があったのかはあまり覚えてねえし、俺達も見るか」
「そうだね!」
「おおっ、期待が膨らむッスね」
そういえば、1年くらい前に和男と清水さんにはアルバムを見せたことがあったな。そのときのことを思い出すと……2人から可愛いってたくさん言われた気がする。小学生までは童顔だったから。
氷織は本棚から俺のアルバムを取り出し、自分の座るクッションに戻ってくる。
「持ってきました」
「……じゃあ、俺は勉強机の方にいるよ」
「一緒に見ないんですか?」
「一緒に見るのはちょっと気恥ずかしいというか。照れくさいというか。氷織達に写真を見られるのは全然かまわないんだけど」
「紙透の気持ち、何か分かるかも。どんな反応をされるかドキドキするわよね」
「アルバムを明斗さんに見せたとき、私もちょっとドキドキしましたね」
氷織と火村さんに共感してもらえて嬉しいな。
「もちろん、貼ってある写真の質問には答えるよ。ちなみに、概ね時系列順に貼ってある」
「分かりました」
俺はコンビニで買ったボトル缶コーヒーとスマホを持って、クッションから立ち上がった。勉強机へと行き、その椅子に腰を下ろす。
テーブルの方を見ると、氷織の周りに5人が集まり俺のアルバムを見始める。
『かわいい!』
氷織と火村さん、葉月さんの高い声のユニゾンが聞こえてきた。きっと、赤ちゃんか幼少期の俺の写真を見たのだろう。
「小さい頃の紙透君は可愛いッスね」
「可愛いですね。お姉さんの明実さんと雰囲気が似ています」
「明実さんっていうのは、よく写っているこの女の子のことかしら」
「そうですよ、恭子さん」
思い返すと、小学生くらいまでの写真は姉貴と一緒に写る写真が多いな。だから、姉貴との成長記録的な意味合いもあるアルバムになっている。
その後も主に氷織、火村さん、葉月さんの「かわいい」という声が何度も聞こえてくる。まあ、小さい頃の写真だし、可愛いってたくさん言われるのも悪くない。
コーヒーを飲みながら、投稿サイトのネット小説を読む。
「あれ? この写真だけ女の子2人が写ってるッス」
「そうですね。青いワンピースを着ている大きな子は明実さんだと思いますが、こちらの赤いワンピースを着た子はどなたでしょう?」
「雰囲気が紙透やお姉さんに似ているし、親戚の子かしら? 美羽と倉木は覚えてる?」
「……ごめん、覚えてない。アルバムを見たのは1年ぶりくらいだし」
「俺もはっきりとは覚えてねぇ。ただ、紙透だった感じもする」
「えぇ、まさか。でも、今までの紙透が可愛いからそれもあり得そう……」
という会話が聞こえてきた。何の写真を見ているんだろう?
「明斗さん、写真のことで伺いたいことがあるのですが。いいですか?」
「うん、いいよ」
俺も、みんなが何の写真を見ているのか気になったし。
氷織達のところに行き、アルバムを見てみると……俺が小学校低学年くらいの写真のページを開いているのが分かる。この頃もまだまだ姉貴が一緒に写っている。
「この写真なのですが」
と、氷織が指さした写真には、ワンピースを着た2人の子供が写っている。2人ともカメラに向かってピースサインをし、笑顔を見せている。
「ああ、姉貴と俺だよ」
『えええっ!』
初めてアルバムを見る氷織と火村さん、葉月さんは大きな声を上げて驚いている。そんな3人とは対照的に、和男と清水さんはスッキリとした表情に。
「青いワンピースは明実さんですよね」
「そうだよ。それで、赤いワンピースを着て、桃色のカチューシャを頭に付けているのが俺」
「そうなんですか。とっても可愛いですね!」
「マジで美少女だわ!」
「ワンピースとカチューシャ効果もあると思うッスけど、これはかなり可愛いッスね!」
氷織と火村さん、葉月さんは目を輝かせて俺を見てくる。そんなに俺のワンピース姿が良かったのか。てっきり、火村さんはこんな俺の写真を見たら馬鹿にするかと思ったんだけどな。
「小学校低学年くらいまでは、姉貴にマネキン扱いされて、姉貴の色んな服を着させられたな。可愛い可愛いって姉貴が言うから、当時の俺は抵抗感なく着ていたよ」
「こんなに似合っているのですから、明実さんが自分の服を明斗さんに着させたくなるのも分かります」
「そうッスね、ひおりん」
そう言うと、葉月さんは俺の方をじっと見つめてくる。俺に女装とか女性キャラのコスプレをさせたいとか思っていそうで怖い。もしかしたら、そういった姿を既に妄想し始めているかもしれない。
氷織達はアルバム鑑賞を再開する。氷織がページをめくると……まだまだ小学生時代だな。
「小さい頃とはいえ、お姉さんと一緒に写っている楽しそうな写真が多いわね。普段はお姉さんの話は全然しないけど、実は紙透ってシスコンだったりするの?」
ニヤニヤしながらそう問いかけてくる火村さん。まあ、姉貴と一緒に写っている写真が多かったら、俺がシスコンだと考えるのも無理ないか。
「姉貴と仲がいいのは認めるけど、俺はシスコンじゃないよ。むしろ、姉貴がブラコンじゃないかって思うほどだ。一緒の写真が多いのは、姉貴が俺と写りたがったからであって。俺が小さい頃はベッタリしていたよ。一緒に風呂に入ろうとか、一緒に寝ようって誘ってさ」
「へえ、そうだったんだ。確かに、お姉さんも楽しそうだったり、嬉しそうだったりする写真が多いわね」
「だろう? まあ、そんな姉貴だけど、紙透明実が俺の姉で良かったって思っているよ」
『お姉ちゃんもだよ!』
部屋の外からそんな姉貴の声が聞こえてくる。
そして、次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、姉貴が部屋の中に入ってきた。嬉しそうな様子で俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「お姉ちゃんも明斗が弟で良かったって思ってるよ!」
姉貴はそう言うと、俺のことを見上げてニッコリとした笑顔を見せてくる。
「……さっきの俺の話を聞いていたのか。あと、大学から帰ってきていたんだ。おかえり」
「ただいま! 明斗の部屋をノックしようとしたら、明斗がシスコンかどうか訊かれていたからさ。こっそりと聞いたの」
あの部分から聞いていたのか。ちょっと恥ずかしいな。
「明斗の言葉を聞いて、お姉ちゃん凄く嬉しくなっちゃった。だから、今夜は久しぶりに一緒にお風呂に入って、明斗のベッドで寝ようか!」
「しないしない」
みんなの前で何てことを言うんだか。
あと、風呂は何年も一緒に入っていないけど、一緒に寝るのは今年に入ってから何度もあるだろ。姉貴が酔っ払ったときに。
氷織達の方を見ると、姉貴と面識のある氷織と和男、清水さんは微笑んで、面識のない火村さんと葉月さんは目を見開いてこちらを見ていた。
「……分かったでしょ、火村さん。姉貴がブラコンかもって思うのが」
「……とても納得したわ」
火村さんと俺の目を見てしっかりと頷いた。納得してもらえて何よりである。
姉貴は俺への抱擁を解いて、氷織達の方を向く。
「みんなこんにちは。あと、赤髪の子と茶髪の子は初めましてだね。ただ、前に明斗から見せてもらった写真に写ってたから知ってるよ。確か、明斗と一緒にドームタウンへ遊びに行ったお友達だよね」
「は、はい。火村恭子といいます」
「葉月沙綾です。あたしはみんなとは別の理系クラスッス」
火村さんと葉月さんが自己紹介して軽く頭を下げると、姉貴は落ち着いた笑みを見せる。
「2人とも可愛いね。私は明斗の姉の紙透明実です。多摩中央大学に通う3年生だよ。明斗から中間試験の勉強会するって聞いていたけど。アルバムを開いているってことは休憩中かな?」
「そうだよ。今日出た課題がみんな終わったから休憩してた」
「それで、私のお願いで明斗さんのアルバムを見させてもらっているんです」
「なるほどね」
姉貴は納得した様子。
「小さい頃の明斗さんって本当に可愛いですね。もちろん、明実さんも」
「ふふっ、ありがとう。明斗は小学生の頃までは童顔で、女の子みたいに可愛かったからね。私もアルバム見たくなってきちゃった」
「一緒に見ましょう、明実さん」
「うんっ! あと、文系科目と英語と数学なら教えられるよ。理系科目も……文系クラスの内容なら教えられるかな。笠ヶ谷高校文系クラスの卒業生だし、当時のノートもあるし」
「明実さんも教えてくれるのは凄く心強いっす!」
「そうだね、和男君!」
和男と清水さんは嬉しそうに言う。
これまで、姉貴が大学から早く帰ってきたときや、大学が休みで家にいるときに、姉貴に勉強会に付き合ってもらったことがある。和男や清水さんはもちろん、俺も姉貴に分からないところを教えてもらった。
それから少しの間、姉貴も交えてアルバムを鑑賞。これまで以上に「かわいい」という声が大きくなって。姉貴がいるからか、さっきまでよりも恥ずかしい。
休憩後は各自で試験対策の勉強をする。姉貴がいるので、休憩前に比べて俺は自分の勉強をする時間が多かった。
2年生最初の勉強会は、休憩を含めて盛りだくさんな時間になったのであった。
ちなみに、夜になって、姉貴が再び入浴を誘ってきたけど、何とか阻止した。だけど、俺のベッドで一緒に寝る羽目に。姉貴が俺の腕をぎゅっと抱きしめたから、とても温かかったです。
座っている場所が近いのもあり、和男に数学ⅡとB、葉月さんにたまに古典を教える。人に教えると授業の理解が深まるなぁ。
たまに氷織の方をチラッと見ると、氷織は火村さんと清水さんに理系科目を教えていることが多い。清水さんは真剣だけど、火村さんは氷織をうっとりと見つめているときがあった。君……氷織に教えてもらったことはちゃんと頭に入っているのかな?
今日出た課題はそこまで難しくなかったので、俺は結構早めに終わった。
数学Ⅱの問題集を取り出し、担当教師が教えてくれた中間試験の範囲の問題を解き始める。課題とは違って、問題集にはかなり難しい問題もある。
「これ……分からないな」
数分考えたけど全然分からない。解答の冊子を見ても……この答えになる流れが分からん。よし、氷織か葉月さんに訊くか。
氷織の方を見ると……氷織も課題が終わったようで、今は古典の問題集をやっている。誰にも教えていないから、今なら訊いても大丈夫かな。
「氷織」
小さな声で呼びかけると、氷織はこちらを向いてくる。
「何でしょう?」
「数学Ⅱの問題集をやっているんだけど、分からないところがあって。訊いてもいいかな?」
「もちろんいいですよ」
そう言う氷織は何だか嬉しそうに見えた。初めて質問するからかな。
氷織は俺の方に少し動いてくる。そのことで、甘い匂いがふんわりと香ってきて。
「どの問題ですか?」
「この……因数分解の問題なんだけど」
「……あっ、この問題ですか。以前、解いた記憶があります。難しいですよね。まず、この式で注目する部分は……」
と、氷織は俺の分からない因数分解の問題を丁寧に教えてくれる。
氷織の解説……とても分かりやすいな。さすがは学年1位を取り続けるだけのことはある。自分一人では全く歯が立たなかった問題の解き方が、どんどん頭に入っていく。
「それで、これが答えになるんです」
「おおっ、なるほど。しっかりと理解できたよ。ありがとう、氷織」
「いえいえ。明斗さんのお役に立てて嬉しいです」
氷織は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せてくれる。至近距離だし、分からなかった問題を解説してくれた直後だから、氷織にキュンキュンしちゃってる。あぁ、可愛すぎるよこの笑顔。気づけば、頬に熱が帯びていた。
教えてくれたお礼に、コンビニで買った抹茶マシュマロを氷織にあげることに。
氷織は袋からマシュマロを一粒取り、口の中に入れる。美味しいです、と言って笑顔でモグモグしている姿はとても可愛らしかった。
「よし、これで今日の課題が終わったぜ!」
勉強会を始めてから1時間ほど。
和男も課題が終わって、これで6人全員が終わった。なので、少しの間、みんなで休憩することに。
「明斗さん」
「うん?」
「本棚の一番下の段の端にある、白い立派な背表紙。あれって何なのですか? 無地ですし」
「ああ、あれは俺のアルバムだよ」
「そうですか! 見てみてもいいですか? 連休中のお家デートで私のアルバムを見せてから、私も明斗さんのアルバムを見てみたいと思っていたので」
「そうだったんだ。見ていいよ」
「ありがとうございます」
嬉しそうにお礼を言うと、氷織はクッションから立ち上がって、本棚の方へ。
「紙透君の小さい頃の姿は興味があるッスね。紙透君はイケメンッスから、小さい頃は可愛い感じがするッス」
「沙綾の言うこと……分からなくはないわ。興味がないと言ったら嘘になるし、あたしも見ようかしら」
火村さんも俺の小さい頃の姿に興味があるとは。意外だ。
「あたし達は前に見たことがあるよね、和男君」
「ああ。小さい頃のアキが可愛かったのは覚えてるぜ。どんな写真があったのかはあまり覚えてねえし、俺達も見るか」
「そうだね!」
「おおっ、期待が膨らむッスね」
そういえば、1年くらい前に和男と清水さんにはアルバムを見せたことがあったな。そのときのことを思い出すと……2人から可愛いってたくさん言われた気がする。小学生までは童顔だったから。
氷織は本棚から俺のアルバムを取り出し、自分の座るクッションに戻ってくる。
「持ってきました」
「……じゃあ、俺は勉強机の方にいるよ」
「一緒に見ないんですか?」
「一緒に見るのはちょっと気恥ずかしいというか。照れくさいというか。氷織達に写真を見られるのは全然かまわないんだけど」
「紙透の気持ち、何か分かるかも。どんな反応をされるかドキドキするわよね」
「アルバムを明斗さんに見せたとき、私もちょっとドキドキしましたね」
氷織と火村さんに共感してもらえて嬉しいな。
「もちろん、貼ってある写真の質問には答えるよ。ちなみに、概ね時系列順に貼ってある」
「分かりました」
俺はコンビニで買ったボトル缶コーヒーとスマホを持って、クッションから立ち上がった。勉強机へと行き、その椅子に腰を下ろす。
テーブルの方を見ると、氷織の周りに5人が集まり俺のアルバムを見始める。
『かわいい!』
氷織と火村さん、葉月さんの高い声のユニゾンが聞こえてきた。きっと、赤ちゃんか幼少期の俺の写真を見たのだろう。
「小さい頃の紙透君は可愛いッスね」
「可愛いですね。お姉さんの明実さんと雰囲気が似ています」
「明実さんっていうのは、よく写っているこの女の子のことかしら」
「そうですよ、恭子さん」
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「……ごめん、覚えてない。アルバムを見たのは1年ぶりくらいだし」
「俺もはっきりとは覚えてねぇ。ただ、紙透だった感じもする」
「えぇ、まさか。でも、今までの紙透が可愛いからそれもあり得そう……」
という会話が聞こえてきた。何の写真を見ているんだろう?
「明斗さん、写真のことで伺いたいことがあるのですが。いいですか?」
「うん、いいよ」
俺も、みんなが何の写真を見ているのか気になったし。
氷織達のところに行き、アルバムを見てみると……俺が小学校低学年くらいの写真のページを開いているのが分かる。この頃もまだまだ姉貴が一緒に写っている。
「この写真なのですが」
と、氷織が指さした写真には、ワンピースを着た2人の子供が写っている。2人ともカメラに向かってピースサインをし、笑顔を見せている。
「ああ、姉貴と俺だよ」
『えええっ!』
初めてアルバムを見る氷織と火村さん、葉月さんは大きな声を上げて驚いている。そんな3人とは対照的に、和男と清水さんはスッキリとした表情に。
「青いワンピースは明実さんですよね」
「そうだよ。それで、赤いワンピースを着て、桃色のカチューシャを頭に付けているのが俺」
「そうなんですか。とっても可愛いですね!」
「マジで美少女だわ!」
「ワンピースとカチューシャ効果もあると思うッスけど、これはかなり可愛いッスね!」
氷織と火村さん、葉月さんは目を輝かせて俺を見てくる。そんなに俺のワンピース姿が良かったのか。てっきり、火村さんはこんな俺の写真を見たら馬鹿にするかと思ったんだけどな。
「小学校低学年くらいまでは、姉貴にマネキン扱いされて、姉貴の色んな服を着させられたな。可愛い可愛いって姉貴が言うから、当時の俺は抵抗感なく着ていたよ」
「こんなに似合っているのですから、明実さんが自分の服を明斗さんに着させたくなるのも分かります」
「そうッスね、ひおりん」
そう言うと、葉月さんは俺の方をじっと見つめてくる。俺に女装とか女性キャラのコスプレをさせたいとか思っていそうで怖い。もしかしたら、そういった姿を既に妄想し始めているかもしれない。
氷織達はアルバム鑑賞を再開する。氷織がページをめくると……まだまだ小学生時代だな。
「小さい頃とはいえ、お姉さんと一緒に写っている楽しそうな写真が多いわね。普段はお姉さんの話は全然しないけど、実は紙透ってシスコンだったりするの?」
ニヤニヤしながらそう問いかけてくる火村さん。まあ、姉貴と一緒に写っている写真が多かったら、俺がシスコンだと考えるのも無理ないか。
「姉貴と仲がいいのは認めるけど、俺はシスコンじゃないよ。むしろ、姉貴がブラコンじゃないかって思うほどだ。一緒の写真が多いのは、姉貴が俺と写りたがったからであって。俺が小さい頃はベッタリしていたよ。一緒に風呂に入ろうとか、一緒に寝ようって誘ってさ」
「へえ、そうだったんだ。確かに、お姉さんも楽しそうだったり、嬉しそうだったりする写真が多いわね」
「だろう? まあ、そんな姉貴だけど、紙透明実が俺の姉で良かったって思っているよ」
『お姉ちゃんもだよ!』
部屋の外からそんな姉貴の声が聞こえてくる。
そして、次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開き、姉貴が部屋の中に入ってきた。嬉しそうな様子で俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「お姉ちゃんも明斗が弟で良かったって思ってるよ!」
姉貴はそう言うと、俺のことを見上げてニッコリとした笑顔を見せてくる。
「……さっきの俺の話を聞いていたのか。あと、大学から帰ってきていたんだ。おかえり」
「ただいま! 明斗の部屋をノックしようとしたら、明斗がシスコンかどうか訊かれていたからさ。こっそりと聞いたの」
あの部分から聞いていたのか。ちょっと恥ずかしいな。
「明斗の言葉を聞いて、お姉ちゃん凄く嬉しくなっちゃった。だから、今夜は久しぶりに一緒にお風呂に入って、明斗のベッドで寝ようか!」
「しないしない」
みんなの前で何てことを言うんだか。
あと、風呂は何年も一緒に入っていないけど、一緒に寝るのは今年に入ってから何度もあるだろ。姉貴が酔っ払ったときに。
氷織達の方を見ると、姉貴と面識のある氷織と和男、清水さんは微笑んで、面識のない火村さんと葉月さんは目を見開いてこちらを見ていた。
「……分かったでしょ、火村さん。姉貴がブラコンかもって思うのが」
「……とても納得したわ」
火村さんと俺の目を見てしっかりと頷いた。納得してもらえて何よりである。
姉貴は俺への抱擁を解いて、氷織達の方を向く。
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「は、はい。火村恭子といいます」
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火村さんと葉月さんが自己紹介して軽く頭を下げると、姉貴は落ち着いた笑みを見せる。
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「そうだよ。今日出た課題がみんな終わったから休憩してた」
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「なるほどね」
姉貴は納得した様子。
「小さい頃の明斗さんって本当に可愛いですね。もちろん、明実さんも」
「ふふっ、ありがとう。明斗は小学生の頃までは童顔で、女の子みたいに可愛かったからね。私もアルバム見たくなってきちゃった」
「一緒に見ましょう、明実さん」
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「明実さんも教えてくれるのは凄く心強いっす!」
「そうだね、和男君!」
和男と清水さんは嬉しそうに言う。
これまで、姉貴が大学から早く帰ってきたときや、大学が休みで家にいるときに、姉貴に勉強会に付き合ってもらったことがある。和男や清水さんはもちろん、俺も姉貴に分からないところを教えてもらった。
それから少しの間、姉貴も交えてアルバムを鑑賞。これまで以上に「かわいい」という声が大きくなって。姉貴がいるからか、さっきまでよりも恥ずかしい。
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