28 / 190
第27話『ワンピース』
しおりを挟む
お昼ご飯のお店はロミネの8階・レストランフロアにある、俺オススメのパスタ屋さん・デリツィオーゾ萩窪。ちなみに、デリツィオーゾはイタリア語で美味しいという意味。以前、氷織が「麺類全般が好き」と言っていたからここにしたのだ。美味しいし、学生のお財布にも優しいリーズナブルさだし。
氷織はカルボナーラ、俺は明太子パスタを注文。
俺の記憶は正しく、氷織はパスタも好きとのこと。クリーム系やトマト系のソースが特に好きらしい。なので、カルボナーラを美味しそうに食べていた。とても好みの味だったそうで、幸せそうな笑みを浮かべていて。その笑顔に夢中になり、俺は途中食べるのを忘れてしまったときも。
途中、俺の明太子パスタと一口交換。明太子パスタも氷織は美味しいと言っていた。
氷織が笑顔を見せてくれたのもあり、とても楽しい昼食になった。
「とてもいい昼食でした」
「良かった。氷織が美味しそうにパスタを食べてくれて凄く嬉しいよ」
「あのカルボナーラは私好みの味でした。明太子パスタはさっぱりしていて美味しかったです。メニューもたくさんありましたし、また食べに来たいですね」
「美味しいパスタがたくさんあるよ。もし良ければ、氷織とまた一緒に食べに来たいな」
「はいっ、喜んで」
明るい声で返事をすると、氷織は微笑みながら首肯してくれた。それだけ、このお店で食べたパスタが美味しくて、俺とのお昼ご飯が楽しかったのだろう。胸がほんのりと温かくなり、その温もりが全身に優しく伝わっていった。
「じゃあ、次はどこへ行こうか。氷織は行きたい場所ってある?」
「そうですね……」
そう呟くと、氷織は腕時計を見る。
「今は1時半過ぎですか。では、もういますね。……明斗さん。3階にあるG and Lというアパレルショップに行きたいです」
「G and Lって……姉貴がバイトしているアパレルブランドのお店か」
「そうです。実は昨日、明実さんからメッセージをもらいまして。午後1時から6時までバイトしているので、もし良かったらデート中に来てみてと」
姉貴……氷織にそんなことを話していたのか。今日、萩窪デートをすることは、一昨日のお家デートの後に言ったからな。今日はシフトが入っているから、氷織にお誘いのメッセージを送ったのだろう。
「明実さんが働いている姿を見てみたいですし、G and Lは知っているブランドです。なので、興味がありまして」
「なるほどね」
興味があって行きたいのなら、G and Lに行ってもいいか。姉貴に気を遣っているだけなら止めようと思ったけど。
「分かった。じゃあ、G and Lへ行こうか」
「はいっ」
俺達はお店の近くにあるエスカレーターを使って、G and Lのある3階まで降りる。
3階は女性向けの衣類を扱うフロア。直営のエリアもあれば、G and Lのようなアパレル系の専門店もいくつもある。姉貴や母親はこのフロアで衣類を買うことが多い。
3階に辿り着いた俺達は、姉貴が働いているG and Lへ向かう。
このフロアに来るのはいつ以来だろう。去年、姉貴と母親に衣服のバーゲンの荷物持ちに付き合わされたときが最後かな。ロミネには数え切れないほどに来ているけど、新鮮な感じだ。氷織が一緒に来るのが初めてだからなのもあるかもしれない。
女性向けの衣類のフロアだからか、お客さんは女性の割合がかなり多い。今は下着売り場の横を歩いているけど、氷織が一緒でなければメンタルを削られていたところだ。
「ありましたね。G and L」
G and L。中高生から30代の女性をターゲットにしたアパレルブランド。デザインの良さと価格の安さから、結構な人気のブランドである。
今も店内には、若い女性を中心にお客さんがいて賑わっている。
「姉さんも……いたな」
俺は高校生くらいの女子のグループに接客する姉貴を指さす。
「爽やかな笑顔で接客していますね。落ち着いた雰囲気もあります。明美さんに聞けば、いい服が買えそうな感じがします」
「そうだね。高1の頃からずっとバイトしているのが大きいだろうな」
「そうなのですね」
バイトを始めた直後に母親と一緒に様子を見に行ったことがある。当時も笑顔で接客はしていたけど、緊張しい様子もあって。家では見せない姿だったので、今でも鮮明に覚えている。
あれから5年。今の姉貴はとても落ち着いている。グループのお客さんへの接客を終え、困っている他の店員のサポートをしている。頼れる店員さんオーラ全開だ。そんな姉貴のことを氷織はじっと見つめていた。
「あっ、明斗に氷織ちゃん!」
おーい、と姉貴はこちらに向かって元気よく手を振っている。5年前に見に行ったときも、こんな感じで俺と母親に手を振っていたな。
俺は手を振り、氷織は軽く頭を下げて、姉貴のところへ向かう。
「こんにちは、明実さん」
「お疲れ、姉貴」
「2人とも来てくれてありがとう。デート楽しんでる?」
「楽しんでるよ」
「私も楽しんでいます。猫カフェとアニメイクに行きました。あと、ゲームコーナーのクレーンゲームで、明斗さんに猫のぬいぐるみを取ってもらいました」
「へえ、良かったね! 明斗は昔からクレーンゲームが得意だからね。ちなみに、ゲットしたのは、トートバッグから顔が少し出ている猫のことかな?」
「はい、そうです」
「可愛いぬいぐるみだね! あと、今日の氷織ちゃんは笑顔も見せてくれるから、この前以上に可愛いよ~」
姉貴は右手で氷織の頭を、左手で猫のぬいぐるみを撫でている。頭を撫でられるのが気持ちいいのか、氷織はやんわりと微笑む。
「氷織ちゃんってうちのお店って来たことある?」
「今日が初めてです。G and Lのことは知っています」
「そうなんだ。じゃあ、今日でうちのお店を少しでも好きになってくれると嬉しいな。とりあえず、中を一通り見てみる? 案内するよ」
「お願いしたいです。明斗さん、見てもいいですか?」
「もちろんさ」
「ありがとうございます」
それから、姉貴の案内でお店の中を見ていくことに。
服のことだからか、氷織と姉貴は楽しそうに話している。いい光景だ。あと、お店の説明や、氷織の質問に返答する姉貴の姿はベテラン店員の風格が感じられる。
それにしても、このお店に売っているトップスやボトムス、ワンピース……どれも氷織に似合いそうだ。
「うちのお店はこんな感じ。どうかな?」
「素敵な服がたくさんあるお店ですね。お手頃な価格ですし、人気があるのも納得です」
「それは良かった。何か気になったり、買いたいと思ったりする服はある?」
「ワンピースで、一着いいなと思うものがありました」
「そっか!」
俺達はワンピースのコーナーに向かう。その際、氷織から彼女のトートバッグを受け取る。
ハンガーラックにはワンピースが何着も掛かっている。氷織はどのワンピースが気になったんだろう?
「これです」
氷織が手に取ったのは、襟付きの青いワンピース。袖の長さはパッと見た感じ……半袖よりも短めかな。
「フレンチスリーブの青いワンピースだね。これからの季節にピッタリだね」
「はい。青が好きで、デザインもいいなと思いまして」
「嬉しいね。じゃあ、試着してみたらどうかな? こうして見るのと、実際に着てみるのとでは印象が変わることもあるし。もちろん、サイズの確認も」
「そうですね。着てみて、いいなと思ったら買います」
「うんっ!」
明るい笑顔で頷く姉貴。確定ではないものの、氷織の口から「買います」という言葉を聞けたのが嬉しいのだろう。
俺達はカーテンが開いている試着室の前まで向かう。
「明斗さん。試着してみますね。試着したら明斗さんの感想も聞きたいです」
「分かった。どんな感じか楽しみだな」
「はいっ」
「私も手伝ってあげるね」
「ちょっと待て」
俺は姉貴の右肩をしっかり掴む。
こちらに振り返る姉貴は不思議そうな面持ち。そして、首を少し傾げる。
「どうしたの?」
「姉貴は入る必要ないだろ? 小さい子じゃないんだし」
「何があるか分からないし、店員の私がいた方が安心でしょ? うちの試着室は広めだから私が入っても大丈夫だよ」
「そうか。まあ……いるに越したことはないな」
「分かってくれたみたいね。さあ、氷織ちゃん。入りましょう」
「はい」
氷織と姉貴が試着室の中に入り、カーテンが閉まった。
試着したワンピースの感想を聞きたいと言われたし、試着室の前で待つことにしよう。
周りにいるお客さんや店員さんは俺に変な視線を向けていない。おそらく、氷織と姉貴とずっと一緒にいたからだろう。
「氷織ちゃん、スタイルがとてもいいね! 胸が大きくて、くびれがちゃんとあって。肌も白くて綺麗。羨ましいなぁ」
「ありがとうございます」
試着室の中からそんな会話が聞こえてくる。氷織の下着姿や素肌を見たかったのが、姉貴が試着室に入った一番の目的なんじゃないか?
「何か普段からしていることはあるの?」
「入浴後にお肌のケアをしたり、ストレッチをしたりしています」
「そうなんだ。だからいい匂いもするのかな」
「ひゃあっ。いきなり脇腹を触らないでください。弱いんです……」
「ごめんごめん。綺麗な肌だったからつい」
「あと、吐息もくすぐったいですよ……」
「姉貴。氷織にそれ以上何かしたら試着室からつまみ出すぞ」
「はーい」
いい返事をするねぇ。
それにしても、この場に葉月さんと火村さんがいなくて良かったな。葉月さんは今の氷織と姉貴の試着室の会話を聞いて「ガールズラブの波動を感じるッス!」とか言って興奮しそうだし。火村さんは我慢できずに試着室に突入しそうだから。
俺が忠告したからか、氷織が変な声を上げてしまうことはなかった。
「明斗さん。ワンピース着てみました」
「そうか。サイズとかはどうだ?」
「いい感じです。快適です」
「それは良かった。俺はここにいるからカーテンを開けて大丈夫だよ」
「とてもよく似合っているよ! きっと、明斗も可愛いとか綺麗だって言ってくれるわ」
「だといいのですが……」
姉貴の予想はきっと当たると思う。もうすぐ見られるからワクワクしているよ。
試着室のカーテンが開く。そこには青い襟付きのワンピースを試着する氷織の姿が。氷織は緊張した様子で俺を見ている。そんな氷織とは対照的に、姉貴は爽やかな笑みを浮かべている。
肩の近くまで腕が露出しており、膝が隠れるくらいの丈。これからの季節にいいと思う。あと、濃い青色だから、氷織の白くて綺麗な肌が映える。
「どうですか? 明斗さん」
「よく似合っているよ、氷織。綺麗で可愛いし、爽やかな感じがして素敵だよ」
「ありがとうございますっ」
氷織は嬉しそうに微笑み、頬がほんのりと赤くなる。
「氷織はどうだ?」
「とてもいい感じのワンピースです。気に入りました。なので、これを買います」
「ありがとうございます、氷織ちゃん!」
ご購入が決定したからか、姉貴はとても嬉しそうだ。普段から「買います」って言われるとこういう感じなのだろうか。
「いい服に出会えました。確か、天気予報では明後日は暖かいと言っていましたから、みんなで東都ドームタウンへ行くときにこれを着ようと思います」
「そうか。明後日がより楽しみになったよ」
俺がそう言うと、氷織は「ふふっ」と上品に笑う。今の氷織を見ていると大人っぽく見える。姉貴と一緒に、同級生として大学のキャンパスを歩いていてもおかしくないと思う。
それから、氷織は元の服に着替え、青いワンピースを購入。氷織はもちろんのこと、姉貴もとても満足そうにしていたのであった。
氷織はカルボナーラ、俺は明太子パスタを注文。
俺の記憶は正しく、氷織はパスタも好きとのこと。クリーム系やトマト系のソースが特に好きらしい。なので、カルボナーラを美味しそうに食べていた。とても好みの味だったそうで、幸せそうな笑みを浮かべていて。その笑顔に夢中になり、俺は途中食べるのを忘れてしまったときも。
途中、俺の明太子パスタと一口交換。明太子パスタも氷織は美味しいと言っていた。
氷織が笑顔を見せてくれたのもあり、とても楽しい昼食になった。
「とてもいい昼食でした」
「良かった。氷織が美味しそうにパスタを食べてくれて凄く嬉しいよ」
「あのカルボナーラは私好みの味でした。明太子パスタはさっぱりしていて美味しかったです。メニューもたくさんありましたし、また食べに来たいですね」
「美味しいパスタがたくさんあるよ。もし良ければ、氷織とまた一緒に食べに来たいな」
「はいっ、喜んで」
明るい声で返事をすると、氷織は微笑みながら首肯してくれた。それだけ、このお店で食べたパスタが美味しくて、俺とのお昼ご飯が楽しかったのだろう。胸がほんのりと温かくなり、その温もりが全身に優しく伝わっていった。
「じゃあ、次はどこへ行こうか。氷織は行きたい場所ってある?」
「そうですね……」
そう呟くと、氷織は腕時計を見る。
「今は1時半過ぎですか。では、もういますね。……明斗さん。3階にあるG and Lというアパレルショップに行きたいです」
「G and Lって……姉貴がバイトしているアパレルブランドのお店か」
「そうです。実は昨日、明実さんからメッセージをもらいまして。午後1時から6時までバイトしているので、もし良かったらデート中に来てみてと」
姉貴……氷織にそんなことを話していたのか。今日、萩窪デートをすることは、一昨日のお家デートの後に言ったからな。今日はシフトが入っているから、氷織にお誘いのメッセージを送ったのだろう。
「明実さんが働いている姿を見てみたいですし、G and Lは知っているブランドです。なので、興味がありまして」
「なるほどね」
興味があって行きたいのなら、G and Lに行ってもいいか。姉貴に気を遣っているだけなら止めようと思ったけど。
「分かった。じゃあ、G and Lへ行こうか」
「はいっ」
俺達はお店の近くにあるエスカレーターを使って、G and Lのある3階まで降りる。
3階は女性向けの衣類を扱うフロア。直営のエリアもあれば、G and Lのようなアパレル系の専門店もいくつもある。姉貴や母親はこのフロアで衣類を買うことが多い。
3階に辿り着いた俺達は、姉貴が働いているG and Lへ向かう。
このフロアに来るのはいつ以来だろう。去年、姉貴と母親に衣服のバーゲンの荷物持ちに付き合わされたときが最後かな。ロミネには数え切れないほどに来ているけど、新鮮な感じだ。氷織が一緒に来るのが初めてだからなのもあるかもしれない。
女性向けの衣類のフロアだからか、お客さんは女性の割合がかなり多い。今は下着売り場の横を歩いているけど、氷織が一緒でなければメンタルを削られていたところだ。
「ありましたね。G and L」
G and L。中高生から30代の女性をターゲットにしたアパレルブランド。デザインの良さと価格の安さから、結構な人気のブランドである。
今も店内には、若い女性を中心にお客さんがいて賑わっている。
「姉さんも……いたな」
俺は高校生くらいの女子のグループに接客する姉貴を指さす。
「爽やかな笑顔で接客していますね。落ち着いた雰囲気もあります。明美さんに聞けば、いい服が買えそうな感じがします」
「そうだね。高1の頃からずっとバイトしているのが大きいだろうな」
「そうなのですね」
バイトを始めた直後に母親と一緒に様子を見に行ったことがある。当時も笑顔で接客はしていたけど、緊張しい様子もあって。家では見せない姿だったので、今でも鮮明に覚えている。
あれから5年。今の姉貴はとても落ち着いている。グループのお客さんへの接客を終え、困っている他の店員のサポートをしている。頼れる店員さんオーラ全開だ。そんな姉貴のことを氷織はじっと見つめていた。
「あっ、明斗に氷織ちゃん!」
おーい、と姉貴はこちらに向かって元気よく手を振っている。5年前に見に行ったときも、こんな感じで俺と母親に手を振っていたな。
俺は手を振り、氷織は軽く頭を下げて、姉貴のところへ向かう。
「こんにちは、明実さん」
「お疲れ、姉貴」
「2人とも来てくれてありがとう。デート楽しんでる?」
「楽しんでるよ」
「私も楽しんでいます。猫カフェとアニメイクに行きました。あと、ゲームコーナーのクレーンゲームで、明斗さんに猫のぬいぐるみを取ってもらいました」
「へえ、良かったね! 明斗は昔からクレーンゲームが得意だからね。ちなみに、ゲットしたのは、トートバッグから顔が少し出ている猫のことかな?」
「はい、そうです」
「可愛いぬいぐるみだね! あと、今日の氷織ちゃんは笑顔も見せてくれるから、この前以上に可愛いよ~」
姉貴は右手で氷織の頭を、左手で猫のぬいぐるみを撫でている。頭を撫でられるのが気持ちいいのか、氷織はやんわりと微笑む。
「氷織ちゃんってうちのお店って来たことある?」
「今日が初めてです。G and Lのことは知っています」
「そうなんだ。じゃあ、今日でうちのお店を少しでも好きになってくれると嬉しいな。とりあえず、中を一通り見てみる? 案内するよ」
「お願いしたいです。明斗さん、見てもいいですか?」
「もちろんさ」
「ありがとうございます」
それから、姉貴の案内でお店の中を見ていくことに。
服のことだからか、氷織と姉貴は楽しそうに話している。いい光景だ。あと、お店の説明や、氷織の質問に返答する姉貴の姿はベテラン店員の風格が感じられる。
それにしても、このお店に売っているトップスやボトムス、ワンピース……どれも氷織に似合いそうだ。
「うちのお店はこんな感じ。どうかな?」
「素敵な服がたくさんあるお店ですね。お手頃な価格ですし、人気があるのも納得です」
「それは良かった。何か気になったり、買いたいと思ったりする服はある?」
「ワンピースで、一着いいなと思うものがありました」
「そっか!」
俺達はワンピースのコーナーに向かう。その際、氷織から彼女のトートバッグを受け取る。
ハンガーラックにはワンピースが何着も掛かっている。氷織はどのワンピースが気になったんだろう?
「これです」
氷織が手に取ったのは、襟付きの青いワンピース。袖の長さはパッと見た感じ……半袖よりも短めかな。
「フレンチスリーブの青いワンピースだね。これからの季節にピッタリだね」
「はい。青が好きで、デザインもいいなと思いまして」
「嬉しいね。じゃあ、試着してみたらどうかな? こうして見るのと、実際に着てみるのとでは印象が変わることもあるし。もちろん、サイズの確認も」
「そうですね。着てみて、いいなと思ったら買います」
「うんっ!」
明るい笑顔で頷く姉貴。確定ではないものの、氷織の口から「買います」という言葉を聞けたのが嬉しいのだろう。
俺達はカーテンが開いている試着室の前まで向かう。
「明斗さん。試着してみますね。試着したら明斗さんの感想も聞きたいです」
「分かった。どんな感じか楽しみだな」
「はいっ」
「私も手伝ってあげるね」
「ちょっと待て」
俺は姉貴の右肩をしっかり掴む。
こちらに振り返る姉貴は不思議そうな面持ち。そして、首を少し傾げる。
「どうしたの?」
「姉貴は入る必要ないだろ? 小さい子じゃないんだし」
「何があるか分からないし、店員の私がいた方が安心でしょ? うちの試着室は広めだから私が入っても大丈夫だよ」
「そうか。まあ……いるに越したことはないな」
「分かってくれたみたいね。さあ、氷織ちゃん。入りましょう」
「はい」
氷織と姉貴が試着室の中に入り、カーテンが閉まった。
試着したワンピースの感想を聞きたいと言われたし、試着室の前で待つことにしよう。
周りにいるお客さんや店員さんは俺に変な視線を向けていない。おそらく、氷織と姉貴とずっと一緒にいたからだろう。
「氷織ちゃん、スタイルがとてもいいね! 胸が大きくて、くびれがちゃんとあって。肌も白くて綺麗。羨ましいなぁ」
「ありがとうございます」
試着室の中からそんな会話が聞こえてくる。氷織の下着姿や素肌を見たかったのが、姉貴が試着室に入った一番の目的なんじゃないか?
「何か普段からしていることはあるの?」
「入浴後にお肌のケアをしたり、ストレッチをしたりしています」
「そうなんだ。だからいい匂いもするのかな」
「ひゃあっ。いきなり脇腹を触らないでください。弱いんです……」
「ごめんごめん。綺麗な肌だったからつい」
「あと、吐息もくすぐったいですよ……」
「姉貴。氷織にそれ以上何かしたら試着室からつまみ出すぞ」
「はーい」
いい返事をするねぇ。
それにしても、この場に葉月さんと火村さんがいなくて良かったな。葉月さんは今の氷織と姉貴の試着室の会話を聞いて「ガールズラブの波動を感じるッス!」とか言って興奮しそうだし。火村さんは我慢できずに試着室に突入しそうだから。
俺が忠告したからか、氷織が変な声を上げてしまうことはなかった。
「明斗さん。ワンピース着てみました」
「そうか。サイズとかはどうだ?」
「いい感じです。快適です」
「それは良かった。俺はここにいるからカーテンを開けて大丈夫だよ」
「とてもよく似合っているよ! きっと、明斗も可愛いとか綺麗だって言ってくれるわ」
「だといいのですが……」
姉貴の予想はきっと当たると思う。もうすぐ見られるからワクワクしているよ。
試着室のカーテンが開く。そこには青い襟付きのワンピースを試着する氷織の姿が。氷織は緊張した様子で俺を見ている。そんな氷織とは対照的に、姉貴は爽やかな笑みを浮かべている。
肩の近くまで腕が露出しており、膝が隠れるくらいの丈。これからの季節にいいと思う。あと、濃い青色だから、氷織の白くて綺麗な肌が映える。
「どうですか? 明斗さん」
「よく似合っているよ、氷織。綺麗で可愛いし、爽やかな感じがして素敵だよ」
「ありがとうございますっ」
氷織は嬉しそうに微笑み、頬がほんのりと赤くなる。
「氷織はどうだ?」
「とてもいい感じのワンピースです。気に入りました。なので、これを買います」
「ありがとうございます、氷織ちゃん!」
ご購入が決定したからか、姉貴はとても嬉しそうだ。普段から「買います」って言われるとこういう感じなのだろうか。
「いい服に出会えました。確か、天気予報では明後日は暖かいと言っていましたから、みんなで東都ドームタウンへ行くときにこれを着ようと思います」
「そうか。明後日がより楽しみになったよ」
俺がそう言うと、氷織は「ふふっ」と上品に笑う。今の氷織を見ていると大人っぽく見える。姉貴と一緒に、同級生として大学のキャンパスを歩いていてもおかしくないと思う。
それから、氷織は元の服に着替え、青いワンピースを購入。氷織はもちろんのこと、姉貴もとても満足そうにしていたのであった。
0
読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や感想をお待ちしております。
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』の続編がスタートしました!(2025.2.8) 学園ラブコメです。是非、読みに来てみてください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/89864889
『高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。』は全編公開中です。 学園ラブコメ作品です。是非、読みに来てみてください。宜しくお願いします。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/441389601
『まずはお嫁さんからお願いします。』は全編公開中です。高校生夫婦学園ラブコメです。是非、読みに来て見てください。
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/347811610/120759248
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる