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第21話『氷織の膝枕』
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中学時代の途中までの写真を見ていた。なので、氷織のアルバム鑑賞もそれから程なくして終わった。
昼食後に淹れてもらったアイスコーヒーを全て飲んだので、今度はアイスティーを淹れてもらう。
「アイスティーも美味しいな」
「ありがとうございます。……ところで、明斗さん。マッサージして肩凝りを解消してくれたことと、中学時代の話を聞いて励ましてくれたことのお礼がしたいです。私にしてほしいことはありますか? お試しの交際のルールに触れなければ何でもいいですよ」
優しい声で氷織はそう言ってくれる。再び無表情になったけど、さっきまで微笑んでいたから普段よりも明るく見える。
励ましたことはともかく、マッサージは食事を作ってくれたお礼も兼ねていた。でも、お礼がしたいという氷織の気持ちを無碍にはしたくない。ここは受け入れよう。
「分かった。ただ、何がいいかな……」
この前、バイトのご褒美と倒れそうになった氷織を抱き留めたお礼では、頭を撫でてもらったんだよな。さすがに、同じことをしてもらうのは避けた方がいいだろう。
氷織にしてほしいことは……あるにはある。でも、これをお願いしたら氷織はどう思うだろう? ただ、ルールには触れていないし、氷織も何でもいいと言ってくれている。お願いしてみるか。
「……ひ、膝枕してほしい」
氷織の目を見ながら俺はそう言った。
以前から、一度でいいから氷織の膝枕を体験してみたいと思っていた。ただ、実際にお願いしてみると結構恥ずかしいな。頬がちょっと熱い。
「膝枕ですか。いいですよ」
特に嫌がったり、恥ずかしがったりする様子もなく、氷織は俺の要望を受け入れてくれる。そのことにほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとう」
「いえいえ。では、ベッドで膝枕しましょうか。そうした方がより気持ちいいでしょう」
「そうかもしれないね。じゃあ、ベッドでお願いします」
氷織のベッドで横になれるのか。俺にとっては、それだけでも十分にお礼になりますよ。膝枕したいと言ってみて良かった。
氷織はクッションから立ち上がり、ベッドの掛け布団を壁側に寄せる。そのことで氷織の甘い匂いがふんわりと香る。
氷織はベッドの端に座り、右手で膝をポンポンと叩く。
「明斗さん、どうぞ」
「……失礼いたします」
これから夢のような時間を過ごせるからだろうか。気づけば丁寧な言葉を発していた。
俺は氷織のベッドに乗り、仰向けの状態になる。その流れで、頭を氷織の膝の上にそっと乗せた。
ジーンズパンツ越しだけど、後頭部から氷織の脚の柔らかさと温もりが伝わってくる。氷織の甘い匂いも感じるし。あと、ベッドだから非常にゆったりできる。
あと、仰向けなので天井の方を見ているけど……氷織が持っている2つのお山が結構な存在感を放っている。少なくとも姉貴よりはありそうだ。
「明斗さん。私の膝枕はどうですか?」
氷織は覗き込むようにして俺のことを見て、俺に問いかけてくる。そのことで視界の大半を氷織が占拠する形に。また、氷織の長い銀髪が顔に迫り、シャンプーの甘い匂いが濃く香る。
「最高だよ」
素直に感想を述べると、氷織は優しく微笑んだ。
「良かったです。そう言ってもらえて」
「氷織は俺を膝枕してみてどうだ? 頭が重かったりしないか?」
「平気ですよ。七海が小さい頃は、たまに膝枕してあげていましたし。ですから、頭を乗せられたときの感覚が好きです。もちろん、当時の七海に比べたら重量はありますが」
氷織は優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる。
七海ちゃんに関する話を聞いたから、氷織の微笑みがとても大人っぽく見える。七海ちゃんに膝枕したときも、今のような顔を見せていたのだろうか。
「明斗さんは、今までに膝枕をしてもらったことはありますか?」
「小さい頃、姉貴にしてもらったよ。膝枕してあげるって言ってきて強制的にさせられたときもあれば、DVDやBlu-rayを一緒に観ているときに寝落ちして、起きたら膝枕してもらっていたときもあったな」
ただ、どういった流れでも、膝枕をしてもらうと、姉貴は氷織のように微笑みながら俺のことを見ていたっけ。
「七海も、一緒にアニメを見ている途中で寝て、そのまま膝枕をしてあげたことがありますね。弟や妹のいる姉の多くが、そういった経験したことがありそうですね」
「調査してみたら、面白い結果になるかもしれないね」
中学時代までの友人の中に、姉のいる友達が何人かいたな。もし、どこかで会ったら今のことを聞いてみようかな。
ベッドの上で膝枕をしてもらっていて、寝落ちの話をしたからか、急に眠気が襲ってきたぞ。「ふああっ」とあくびが出てしまった。
「ごめん、氷織。この体勢が凄く気持ち良くて」
「気にしないでください。明斗さんさえよければ、このままお昼寝しますか? 15分から30分くらいの昼寝は体にいいらしいですよ」
「今までで一番いい環境の中で眠れるのは嬉しい。でも、氷織はそれでいいのか? せっかくのお家デートなのに」
「かまいませんよ。むしろ、お家デートらしいことじゃないですか。それに、明斗さんの寝顔がどんな感じなのか気になりますし。30分ほど経ったら起こしますよ」
確かに、こういう環境の中で眠れるのはお家デートならではかも。
「じゃあ、お言葉に甘えて。おやすみなさい」
「おやすみなさい、明斗さん」
氷織に優しく見守られる中、俺はゆっくりと目を閉じた。昼寝とはいえ、寝る直前まで氷織の姿が見られるのは幸せなことだ。
氷織の温もりや甘い匂い、柔らかさ。また、氷織が定期的にお腹の辺りを優しく叩いてくれるおかげだろうか。目を閉じてから程なくして眠りについた。
氷織に起こされる形で俺は目を覚ました。すると、そこには眠ったときと同じように、優しい目つきで俺を見る氷織の姿が。
「おはようございます、明斗さん」
「……おはよう」
自然と目を覚ましたわけじゃないのに、とてもいい目覚めだ。これも、氷織のベッドの上で氷織に膝枕されたからだろうか。
あと、目を開けると氷織の姿が見えるって最高だな。いつかは毎朝そうなるといいなって考えちゃうよ。
「気持ち良さそうに寝ていましたね。いい寝顔をしていました。記念にスマホで写真を撮りました」
「ははっ、そうか」
「あと、寝返りを打って、私のお腹に顔を埋めたときはドキッとしました」
そのときのことを思い出しているのか、氷織の頬がほんのり赤くなる。
眠っている間に氷織のお腹に顔を埋めたのか。どんな感じだったのか思い出そうとするけど……さすがに寝ている間のことは思い出せない。もちろん、今の状態で氷織のお腹に顔を埋める度胸はない。
「そ、そうだったんだね。ぐっすり眠れたよ。内容は覚えていないけど、いい夢を見た感じがする」
「それは良かったです」
体をゆっくり起こすと、膝枕をする前と比べて体が軽くなった気がする。30分昼寝をしたおかげだろう。
「幸せな時間をありがとう、氷織」
「どういたしまして」
氷織の頭を優しく撫でると、彼女の口角がちょっと上がったのであった。
それからは、氷織の頼みで最近書き上げたガールズラブの短編小説を読んで感想を言ったり、『秋目知人帳』のアニメ第1期のBlu-rayを観たりして過ごした。短編漫画はキュンキュンして面白く、アニメはひさしぶりに観たけど結構楽しめた。
あっという間に時間が過ぎていき、気づけば午後6時過ぎになっていた。もうそんな時刻になっていると気づいたのは、七海ちゃんが部活から帰ってきたからだ。
俺が帰ることを伝えると、氷織はもちろんのこと、亮さんと陽子さん、七海ちゃんも玄関まで来てくれた。
「今日は氷織やみなさんと楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」
「それは良かった。僕も紙透君と話せて楽しかったよ。これからも氷織のことをよろしく」
「仲良くしてくれると嬉しいわ、紙透君。また来てね」
「あたしも紙透さんと話せて楽しかったです! また会えて嬉しいです」
亮さんも陽子さんも七海ちゃんも笑顔でそう言ってくれる。氷織のご家族に、氷織と俺の関係を好意的に受け入れてもらえて良かった。
「では、失礼します」
「明斗さん。途中まで送っていきますよ」
「ありがとう」
氷織のご家族にお辞儀をして、俺は氷織と一緒に家の外へ出る。一昨日、帰宅する氷織を送ったときのように、この時間になると涼しくなっていた。
「高架下の近くにある交差点まで送りますね」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はい」
氷織と手を繋いで、氷織の家を出発する。
家のすぐ近くにある公園を通る。正午頃、氷織の家に来たときとは違って子供の姿は全然ない。もうみんな家に帰ったのかな。
「盛りだくさんなお家デートでしたね」
「盛りだくさんだったね。とても楽しかったよ」
「私も楽しかったです。お家デートに誘って良かったです。それに……中学時代の話をして心が軽くなりましたし」
「それは良かった。氷織に何かあったときは、きっと俺だけじゃなくて、葉月さんや火村さん、和男や清水さんも力になってくれると思うよ」
「そうですね」
氷織は微笑む。高校に入学した直後に葉月さんと仲良くなり、2年生になって火村さん達と友達になったんだ。きっと、彼らは氷織の支えになるだろう。
「あと、明斗さんに小説を読んでもらえて良かったです。面白いって言ってもらえて嬉しかったです」
「本当に面白かったよ。キュンとする場面が何度もあって。言葉選びもいいなって思えたし。小説を書けるって凄いよ」
「ありがとうございます」
氷織の微笑みが嬉しそうなものに変わる。これからも、氷織の書いた小説を楽しんでいきたい。
「明斗さん。明日はバイトがあるんですよね」
「うん。午前中から夕方までバイトだよ」
「そうですか。頑張ってくださいね。ちなみに、明後日の予定はどうなっていますか?」
「今のところは予定はないよ」
「……良かった。明斗さんさえ良ければ、明後日……私とデートしませんか?」
「もちろんいいぞ!」
俺がそう返事すると、氷織は微笑みながら頷いた。
明後日は氷織とデートか。これで、明日のバイトをより頑張れそうだ。
「氷織はどこか行きたいところはある?」
「萩窪駅の周辺に行きたいなって思っています。今まであまり行ったことないですし。それに、この前の放課後デートでは笠ヶ谷駅周辺のお店に行ったので」
「分かった。じゃあ、萩窪駅の周辺でデートしようか」
「はいっ!」
氷織は元気良く返事する。そんな氷織の姿が凄く可愛く見えた。
氷織と話したこともあり、あっという間に高架下近くの交差点に到着する。
「ここまで来れば、あとは登下校している道だから大丈夫だよ」
「はい。今日は本当に楽しかったです。明日のバイトを頑張ってください」
「ありがとう。じゃあ……また明後日だな」
「はい。また明後日です」
氷織と互いに手を振って、俺は帰路に就く。
今日の放課後デートは本当に盛りだくさんで楽しかったな。今日のことはきっと忘れないだろう。
氷織の中学時代の話を聞いて、氷織のことをより深く知れた。それに、氷織を守ると伝えたことで、彼女も微笑むようになってくれた。氷織を守れるような人になるために頑張ろう。
昼食後に淹れてもらったアイスコーヒーを全て飲んだので、今度はアイスティーを淹れてもらう。
「アイスティーも美味しいな」
「ありがとうございます。……ところで、明斗さん。マッサージして肩凝りを解消してくれたことと、中学時代の話を聞いて励ましてくれたことのお礼がしたいです。私にしてほしいことはありますか? お試しの交際のルールに触れなければ何でもいいですよ」
優しい声で氷織はそう言ってくれる。再び無表情になったけど、さっきまで微笑んでいたから普段よりも明るく見える。
励ましたことはともかく、マッサージは食事を作ってくれたお礼も兼ねていた。でも、お礼がしたいという氷織の気持ちを無碍にはしたくない。ここは受け入れよう。
「分かった。ただ、何がいいかな……」
この前、バイトのご褒美と倒れそうになった氷織を抱き留めたお礼では、頭を撫でてもらったんだよな。さすがに、同じことをしてもらうのは避けた方がいいだろう。
氷織にしてほしいことは……あるにはある。でも、これをお願いしたら氷織はどう思うだろう? ただ、ルールには触れていないし、氷織も何でもいいと言ってくれている。お願いしてみるか。
「……ひ、膝枕してほしい」
氷織の目を見ながら俺はそう言った。
以前から、一度でいいから氷織の膝枕を体験してみたいと思っていた。ただ、実際にお願いしてみると結構恥ずかしいな。頬がちょっと熱い。
「膝枕ですか。いいですよ」
特に嫌がったり、恥ずかしがったりする様子もなく、氷織は俺の要望を受け入れてくれる。そのことにほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとう」
「いえいえ。では、ベッドで膝枕しましょうか。そうした方がより気持ちいいでしょう」
「そうかもしれないね。じゃあ、ベッドでお願いします」
氷織のベッドで横になれるのか。俺にとっては、それだけでも十分にお礼になりますよ。膝枕したいと言ってみて良かった。
氷織はクッションから立ち上がり、ベッドの掛け布団を壁側に寄せる。そのことで氷織の甘い匂いがふんわりと香る。
氷織はベッドの端に座り、右手で膝をポンポンと叩く。
「明斗さん、どうぞ」
「……失礼いたします」
これから夢のような時間を過ごせるからだろうか。気づけば丁寧な言葉を発していた。
俺は氷織のベッドに乗り、仰向けの状態になる。その流れで、頭を氷織の膝の上にそっと乗せた。
ジーンズパンツ越しだけど、後頭部から氷織の脚の柔らかさと温もりが伝わってくる。氷織の甘い匂いも感じるし。あと、ベッドだから非常にゆったりできる。
あと、仰向けなので天井の方を見ているけど……氷織が持っている2つのお山が結構な存在感を放っている。少なくとも姉貴よりはありそうだ。
「明斗さん。私の膝枕はどうですか?」
氷織は覗き込むようにして俺のことを見て、俺に問いかけてくる。そのことで視界の大半を氷織が占拠する形に。また、氷織の長い銀髪が顔に迫り、シャンプーの甘い匂いが濃く香る。
「最高だよ」
素直に感想を述べると、氷織は優しく微笑んだ。
「良かったです。そう言ってもらえて」
「氷織は俺を膝枕してみてどうだ? 頭が重かったりしないか?」
「平気ですよ。七海が小さい頃は、たまに膝枕してあげていましたし。ですから、頭を乗せられたときの感覚が好きです。もちろん、当時の七海に比べたら重量はありますが」
氷織は優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる。
七海ちゃんに関する話を聞いたから、氷織の微笑みがとても大人っぽく見える。七海ちゃんに膝枕したときも、今のような顔を見せていたのだろうか。
「明斗さんは、今までに膝枕をしてもらったことはありますか?」
「小さい頃、姉貴にしてもらったよ。膝枕してあげるって言ってきて強制的にさせられたときもあれば、DVDやBlu-rayを一緒に観ているときに寝落ちして、起きたら膝枕してもらっていたときもあったな」
ただ、どういった流れでも、膝枕をしてもらうと、姉貴は氷織のように微笑みながら俺のことを見ていたっけ。
「七海も、一緒にアニメを見ている途中で寝て、そのまま膝枕をしてあげたことがありますね。弟や妹のいる姉の多くが、そういった経験したことがありそうですね」
「調査してみたら、面白い結果になるかもしれないね」
中学時代までの友人の中に、姉のいる友達が何人かいたな。もし、どこかで会ったら今のことを聞いてみようかな。
ベッドの上で膝枕をしてもらっていて、寝落ちの話をしたからか、急に眠気が襲ってきたぞ。「ふああっ」とあくびが出てしまった。
「ごめん、氷織。この体勢が凄く気持ち良くて」
「気にしないでください。明斗さんさえよければ、このままお昼寝しますか? 15分から30分くらいの昼寝は体にいいらしいですよ」
「今までで一番いい環境の中で眠れるのは嬉しい。でも、氷織はそれでいいのか? せっかくのお家デートなのに」
「かまいませんよ。むしろ、お家デートらしいことじゃないですか。それに、明斗さんの寝顔がどんな感じなのか気になりますし。30分ほど経ったら起こしますよ」
確かに、こういう環境の中で眠れるのはお家デートならではかも。
「じゃあ、お言葉に甘えて。おやすみなさい」
「おやすみなさい、明斗さん」
氷織に優しく見守られる中、俺はゆっくりと目を閉じた。昼寝とはいえ、寝る直前まで氷織の姿が見られるのは幸せなことだ。
氷織の温もりや甘い匂い、柔らかさ。また、氷織が定期的にお腹の辺りを優しく叩いてくれるおかげだろうか。目を閉じてから程なくして眠りについた。
氷織に起こされる形で俺は目を覚ました。すると、そこには眠ったときと同じように、優しい目つきで俺を見る氷織の姿が。
「おはようございます、明斗さん」
「……おはよう」
自然と目を覚ましたわけじゃないのに、とてもいい目覚めだ。これも、氷織のベッドの上で氷織に膝枕されたからだろうか。
あと、目を開けると氷織の姿が見えるって最高だな。いつかは毎朝そうなるといいなって考えちゃうよ。
「気持ち良さそうに寝ていましたね。いい寝顔をしていました。記念にスマホで写真を撮りました」
「ははっ、そうか」
「あと、寝返りを打って、私のお腹に顔を埋めたときはドキッとしました」
そのときのことを思い出しているのか、氷織の頬がほんのり赤くなる。
眠っている間に氷織のお腹に顔を埋めたのか。どんな感じだったのか思い出そうとするけど……さすがに寝ている間のことは思い出せない。もちろん、今の状態で氷織のお腹に顔を埋める度胸はない。
「そ、そうだったんだね。ぐっすり眠れたよ。内容は覚えていないけど、いい夢を見た感じがする」
「それは良かったです」
体をゆっくり起こすと、膝枕をする前と比べて体が軽くなった気がする。30分昼寝をしたおかげだろう。
「幸せな時間をありがとう、氷織」
「どういたしまして」
氷織の頭を優しく撫でると、彼女の口角がちょっと上がったのであった。
それからは、氷織の頼みで最近書き上げたガールズラブの短編小説を読んで感想を言ったり、『秋目知人帳』のアニメ第1期のBlu-rayを観たりして過ごした。短編漫画はキュンキュンして面白く、アニメはひさしぶりに観たけど結構楽しめた。
あっという間に時間が過ぎていき、気づけば午後6時過ぎになっていた。もうそんな時刻になっていると気づいたのは、七海ちゃんが部活から帰ってきたからだ。
俺が帰ることを伝えると、氷織はもちろんのこと、亮さんと陽子さん、七海ちゃんも玄関まで来てくれた。
「今日は氷織やみなさんと楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」
「それは良かった。僕も紙透君と話せて楽しかったよ。これからも氷織のことをよろしく」
「仲良くしてくれると嬉しいわ、紙透君。また来てね」
「あたしも紙透さんと話せて楽しかったです! また会えて嬉しいです」
亮さんも陽子さんも七海ちゃんも笑顔でそう言ってくれる。氷織のご家族に、氷織と俺の関係を好意的に受け入れてもらえて良かった。
「では、失礼します」
「明斗さん。途中まで送っていきますよ」
「ありがとう」
氷織のご家族にお辞儀をして、俺は氷織と一緒に家の外へ出る。一昨日、帰宅する氷織を送ったときのように、この時間になると涼しくなっていた。
「高架下の近くにある交差点まで送りますね」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
「はい」
氷織と手を繋いで、氷織の家を出発する。
家のすぐ近くにある公園を通る。正午頃、氷織の家に来たときとは違って子供の姿は全然ない。もうみんな家に帰ったのかな。
「盛りだくさんなお家デートでしたね」
「盛りだくさんだったね。とても楽しかったよ」
「私も楽しかったです。お家デートに誘って良かったです。それに……中学時代の話をして心が軽くなりましたし」
「それは良かった。氷織に何かあったときは、きっと俺だけじゃなくて、葉月さんや火村さん、和男や清水さんも力になってくれると思うよ」
「そうですね」
氷織は微笑む。高校に入学した直後に葉月さんと仲良くなり、2年生になって火村さん達と友達になったんだ。きっと、彼らは氷織の支えになるだろう。
「あと、明斗さんに小説を読んでもらえて良かったです。面白いって言ってもらえて嬉しかったです」
「本当に面白かったよ。キュンとする場面が何度もあって。言葉選びもいいなって思えたし。小説を書けるって凄いよ」
「ありがとうございます」
氷織の微笑みが嬉しそうなものに変わる。これからも、氷織の書いた小説を楽しんでいきたい。
「明斗さん。明日はバイトがあるんですよね」
「うん。午前中から夕方までバイトだよ」
「そうですか。頑張ってくださいね。ちなみに、明後日の予定はどうなっていますか?」
「今のところは予定はないよ」
「……良かった。明斗さんさえ良ければ、明後日……私とデートしませんか?」
「もちろんいいぞ!」
俺がそう返事すると、氷織は微笑みながら頷いた。
明後日は氷織とデートか。これで、明日のバイトをより頑張れそうだ。
「氷織はどこか行きたいところはある?」
「萩窪駅の周辺に行きたいなって思っています。今まであまり行ったことないですし。それに、この前の放課後デートでは笠ヶ谷駅周辺のお店に行ったので」
「分かった。じゃあ、萩窪駅の周辺でデートしようか」
「はいっ!」
氷織は元気良く返事する。そんな氷織の姿が凄く可愛く見えた。
氷織と話したこともあり、あっという間に高架下近くの交差点に到着する。
「ここまで来れば、あとは登下校している道だから大丈夫だよ」
「はい。今日は本当に楽しかったです。明日のバイトを頑張ってください」
「ありがとう。じゃあ……また明後日だな」
「はい。また明後日です」
氷織と互いに手を振って、俺は帰路に就く。
今日の放課後デートは本当に盛りだくさんで楽しかったな。今日のことはきっと忘れないだろう。
氷織の中学時代の話を聞いて、氷織のことをより深く知れた。それに、氷織を守ると伝えたことで、彼女も微笑むようになってくれた。氷織を守れるような人になるために頑張ろう。
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