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特別編10

第1話『球技大会②-ドッジボール(2年4組)-』

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 サッカーの初戦が終わった俺と加藤はコートを出て、美優先輩達のところに向かう。勝利したのもあって、みんな笑顔で拍手をしながら迎えてくれた。
 俺と加藤は美優先輩達とハイタッチする。

「由弦君、加藤君、初戦突破おめでとう! 由弦君、相手のシュートを何回も止めてかっこよかったよ!」
「かっこよかったですよね! もちろん、シュートを2回決めた潤もね! キュンキュンしたよ! 勝利おめでとう!」
「初戦勝利おめでとう! 由弦も加藤君も大活躍だったね!」
「2人とも良かったわよ!」
「攻撃では加藤君、守備では桐生君がとても活躍していたわね。良かったわ。初戦突破おめでとう! サッカーで勝利したおかげで、うちのクラスは幸先のいいスタートを切れたわ」

 美優先輩達は俺達に向かって称賛の言葉を言ってくれる。そのことで、勝利したことの嬉しい気持ちが膨らんでいく。
 サッカーでの勝利が、他の種目でのうちのクラスに勢いを付けられたら何よりだ。

「ありがとうございます。初戦勝利しました! みなさんからの応援と、美優先輩からのおまじないもあって勝てました」
「桐生の言う通りだな。みんな、ありがとうございます」

 俺と加藤がお礼を言うと、美優先輩達はニッコリと笑いかけてくれた。

「美優先輩、おまじないのお礼をさせてください」

 そう言い、俺は美優先輩にキスをした。
 試合をして体が熱くなっているけど、美優先輩の柔らかい唇から伝わる優しい温もりはとても心地良くて。試合での疲れがちょっと取れた気がした。
 数秒ほどして俺から唇を離すと、美優先輩は持ち前の優しい笑顔で俺を見つめてくる。

「いえいえ。由弦君の力になれて良かったよ。この後の試合でもおまじないをかけるからね」
「ありがとうございます。俺も先輩の出る試合の前におまじないをかけますね」
「うんっ、お願いね!」

 美優先輩はニコッとした笑顔でそう言ってくれた。

「ねえ、潤。桐生君みたいにお礼ちょうだーい」
「そうだな。ありがとな、奏」

 そんなやり取りの後、加藤が橋本さんにキスした。2人もお互いの試合の前ではおまじないのキスをするかもな。

「2組とも本当に仲がいいですね」
「ラブラブだよね~。より暑く感じるわ」
「ふふっ。キスしているところを間近で見るとドキッとしてしまうけれど、微笑ましい気持ちにもなるわ」

 風花はいつもの明るい笑みを、花柳先輩はニヤリとした笑みを、霧嶋先生は微笑みをそれぞれ顔に浮かべながらそんなことを言った。みんなの前でキスしたことは何度もあるけど、キスのことを言われるとちょっと照れくさい気持ちになる。
 美優先輩から荷物を受け取り、水筒に入っているスポーツドリンクを飲む。暑い中試合をしたから、冷たいスポーツドリンクが凄く美味しく感じられた。
 加藤も橋本さんから荷物を受け取り、スポーツドリンクを美味しそうに飲んでいる。橋本さんはサッカー部のマネージャーだし、普段、サッカー部の休憩のときもこんな感じなのかなと思った。
 美優先輩と花柳先輩のクラスのドッジボールまで試合まで時間が結構ある。そのため、ドッジボールの会場である第2体育館に行く前に第1体育館へ行き、風花と橋本さんの友達も出るうちのクラスの女子バスケの応援をした。うちのクラスの勝利を見届けた後、第2体育館に向かった。
 第2体育館に到着した頃には、ドッジボールの第4試合が始まっていた。

「ドッジボールも盛り上がっていますね」
「そうだね、由弦君」
「そういえば、美優先輩と瑠衣先輩ってドッジボールは得意ですか?」

 風花が先輩達にそんなことを問いかける。

「私は投げるのは苦手で、逃げるのは得意な方かな。最後まで残れることもあるよ」

 美優先輩は逃げることが得意なタイプか。幼稚園の頃から、ドッジボールをやると逃げるのがとても上手い奴がクラスに1人はいたっけ。

「あたしは投げるのも逃げるのも得意な方かな。去年もドッジボールに出場したけど、何人かに当てたし」
「そうだったね。瑠衣ちゃんの活躍で去年は1回戦を勝てたんだよ」

 花柳先輩は攻撃も得意なタイプか。ちょっと意外だ。ただ、美優先輩が言うほどだから、花柳先輩の活躍ぶりを期待したいな。

「風花ちゃんと奏ちゃんってドッジボールはどう?」
「得意ですよ! 小学校の頃は特に休み時間には友達やクラスで遊んで、男女問わずよくボールを当てていました!」
「私も得意な方ですね。女子中心に相手をアウトにしたことは何度もあります」
「そうだったな、奏」

 風花も橋本さんも攻撃が得意なタイプか。風花は運動神経がいいし、橋本さんは加藤のお墨付きなら実力は確かだろう。うちのクラスも勝ち上がりに期待できそうだ。
 美優先輩と花柳先輩のクラスである2年4組は次の試合だ。なので、コートへ行ける扉の前で先輩方とは一旦お別れすることに。
 また、2年4組の担任の大宮先生も体育館にやってきた。球技大会だからか、大宮先生は下は淡いピンク色のジャージ、上は白いTシャツという普段とは違う服装だ。

「じゃあ、瑠衣ちゃんと一緒に初戦いってきます」
「去年も1回戦を突破したから、今回も1回戦を突破できるように頑張ります」
「逃げること中心になるけど、私も頑張りますね」

 美優先輩と花柳先輩は意気込んだ様子でそう言う。

「美優先輩、花柳先輩、頑張ってください」
「頑張ってください! 美優先輩! 瑠衣先輩!」
「頑張ってください! 潤達と一緒に応援します!}
「頑張ってください」
「みんなと一緒に頑張ってね、美優ちゃん、風花ちゃん」
「成実さん達と一緒に応援するわ。頑張って」

 俺達6人は美優先輩と花柳先輩に向かってエールを送る。そのことに2人は笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言った。

「美優先輩。おまじないをかけさせてください」
「うんっ」
「えっ? おまじない?」
「まあ見ていてください、成実さん」

 そうか、サッカーのときには大宮先生はいなかったから、キスのおまじないについては知らないのか。
 俺は美優先輩におまじないのキスをする。その瞬間、「あら~!」と大宮先生の黄色い声が聞こえた。
 数秒ほどして、俺から唇を離した。すると、目の前には嬉しそうに笑っている美優先輩がいて。

「これでより頑張れそうだよ」
「良かったです」
「なるほどね。おまじないってキスのことだったんだね。美優ちゃんと桐生君らしいね」
「奏と加藤君もさっき、加藤君がサッカーに出場する前にキスのおまじないをしていました」
「そうなんだ」

 ふふっ、と大宮先生は楽しげに笑った。
 美優先輩と花柳先輩と別れ、俺達は2階にあるギャラリーに向かう。また、別れ際に俺は先輩方から荷物を預かった。
 球技大会が始まってから少し時間が経っているし、今も試合中なのもあって、ギャラリーには人が結構おり、応援で盛り上がっている。
 2階だから、ドッジボールのコート全体がよく見える。これなら、この後の2年4組の試合や1年3組の試合も楽しめそうだ。
 俺達がギャラリーに来てから少しして第4試合が終了。第4試合に出た両チームの生徒がコートを後にする。

「もうすぐ試合だね、由弦!」
「ああ。2年4組を応援するぞ」

 サッカーでは美優先輩達の応援もあって、ゴールキーパーとして頑張れて、相手に1点も取らせずに済んだ。今度は俺が応援して、先輩達の力になれればと思う。
 それから程なくして、赤色のゼッケンを着た生徒達と、青色のゼッケンの生徒達が入ってくる。美優先輩と花柳先輩は赤色のゼッケンを身につけているから、赤が2年4組か。ちなみに、美優先輩は2番、花柳先輩は3番だ。
 先輩方がコートに出てきたので、俺達は「頑張れ」とエールを送る。その声が聞こえたようで、先輩方はこちらに振り向いて笑顔で手を振ってくれた。

「そういえば、奏。ドッジボールの試合時間って何分なんだ?」
「サッカーやバスケと同じで7分だよ」
「そっか」

 ドッジボールも7分か。3種目とも全学年のクラス対抗のトーナメント戦だし、一律7分にしているのかもしれない。
 両チームの生徒がセンターラインを挟んで整列する。

「これより、2年1組対2年4組の試合を開始します」
『お願いします』

 両チーム挨拶をして、生徒はチームの内野や外野に散らばっていく。相手は同じ2年生か。それなら試合もやりやすそうか。
 両チームとも1人ずつセンターラインに残っている。おそらく、ジャンプボールで試合を始めるためだろう。両チームとも背の高い生徒が残っている。2人の生徒の背丈は変わらない感じだ。
 ジャンプボールを務める生徒2人が向かい合う形で立つ。
 ――ピーッ!
 審判の女性教師がホイッスルを鳴らし、ボールを高く上げる形でドッジボールの第5試合がスタート。2年4組の初戦が始まった。
 ジャンプボールを務める2人の生徒はその場でジャンプして、

「瑠衣!」

 赤いゼッケンの生徒……2年4組の生徒がボールに触れ、花柳先輩に向かって弾き飛ばした。

「OK!」

 花柳先輩はそう言い、弾き飛ばしたボールをしっかりとキャッチ。すぐさまにセンターラインに向かって走っていき、

「えいっ!」

 花柳先輩は正面にいる青いゼッケン5番の生徒に向かって投げた。
 花柳先輩の投げたボールは速く、5番の生徒に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
 5番の生徒はボールを躱そうとするけど、
 ――ボンッ!
 右腕にヒットした! 5番の生徒に当たったボールはその場で落ちる。

 ――ピーッ!
「青色のゼッケン5番、アウト!」
『おおっ!』

 最初の投球でアウトになったため、会場はかなり盛り上がる。

「花柳先輩凄いですっ、! 凄いよね、由弦!」

 風花は俺の右腕を何度も叩きながら、弾んだ声でそう言ってくる。興奮した様子になっていてとても可愛い。

「そうだな! 得意って言っていただけあるな。ナイスです、花柳先輩!」
「瑠衣先輩凄いですっ!」
「いきなりアウトにしたもんな!」
「瑠衣ちゃん凄いよ! かっこいいー!」
「花柳さん凄いわ!」

 加藤達も花柳先輩のナイスプレーに興奮している様子だ。
 コートを見ると、花柳先輩は近くにいる美優先輩などと笑顔でハイタッチしている。花柳先輩はもちろん、美優先輩も嬉しそうだ。
 それにしても、いきなりアウトにするなんて凄いな。ただ、ジャンプボールからのスムーズなプレーからして、ボールを自分達のものにできたら花柳先輩に弾くように話し合っていたのかもしれない。
 相手チームはジャンプボールを務めた生徒がボールを掴み、

「それっ!」

 美優先輩に向かってボールを投げる。先輩なら当てやすいと思ったのだろうか。

「おっと!」

 美優先輩は落ち着いた様子で相手チームの生徒が投げたボールを躱した。さすがは逃げるのは得意なだけある。

「美優先輩! いい躱しっぷりですよ!」
「躱しっぷりって。でも、ちゃんと躱してたね。いい調子ですよ、美優先輩!」

 俺と風花が美優先輩に向かってそんな言葉を掛ける。それが聞こえたようで、美優先輩はこちらをチラッと見て、笑いながらピースした。可愛い。
 それからもドッジボールの試合は進んでいく。
 花柳先輩とジャンプボールを務めた高身長の生徒が中心となって攻撃していき、相手を何人もアウトにしていく。
 美優先輩は何度も狙われることがあった。だけど、先輩はどんどん躱していく。逃げるときの先輩は真剣そのものでかっこよかった。あと、花柳先輩が近くにいると、花柳先輩が美優先輩を守ることもあって。そんな花柳先輩もかっこよくて。
 もちろん、俺達は2年4組を応援する。ただ、

「花柳さん! またアウト! いい球投げてるわ!」

「白鳥さん! よくボールを見ていたわね! その調子で逃げなさい!」

 霧嶋先生は特に大きな声で応援し、親交のある美優先輩と花柳先輩のことは今のように褒めることが何度もあって。そんな先生を見ていると、先日、風花の所属する水泳部が出場した都大会で一生懸命応援した先生のことを思い出す。あと、担任でなくても、先生が先輩方を応援してくれることが嬉しく思えた。

 ――ピーッ!
「そこまで! 2年1組……残り3人。2年4組……残り5人。よって、2年4組の勝利です!」

 試合が終了し、美優先輩と花柳先輩のクラスが勝利した!
 花柳先輩は何人も相手をアウトにしたし、美優先輩は一度も当たることなく内野に残り続けた。2人とも活躍したな。
 勝利したのもあり、美優先輩と花柳先輩は内野に残っているチームメイトと嬉しそうにハイタッチした。
 また、俺も風花達とハイタッチを交わす。

「2年4組、勝利おめでとうございます! 美優先輩、花柳先輩、良かったですよ!」
「おめでとうございまーすっ! 美優先輩、瑠衣先輩、最高でした!」
「2年4組凄かったです!」
「凄かったっす!」
「2年4組おめでとう! 良かったわよ!」
「みんな良かったよ! ドッジボールが勝てて先生嬉しいよ!」

 俺達はコートにいる2年4組の生徒に向かって賛辞を送る。みんな、応援している2年4組が買ったことに嬉しそうだ。特に担任の大宮先生は。みんなの笑顔を見ると温かい気持ちになっていく。
 美優先輩と花柳先輩をはじめとした2年4組の生徒が、こちらに向かって笑顔で大きく手を振ってきた。そのことで胸にある温かい気持ちが膨らんだのを感じつつ、俺はコートに向かって大きく手を振った。
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