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特別編
プロローグ『恋人の温もり』
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特別編
5月9日、木曜日。
10日間にも及ぶゴールデンウィークが明けてから3日目。ようやく、いつも通りの一日を過ごしたような気がする。そう思うのは、一昨日と昨日はクラスやあけぼの荘、部活で16歳の誕生日を祝ってもらったからだ。俺・桐生由弦は本当に幸せ者だなぁ。
「由弦君。夕食の後片付けお疲れ様。温かいコーヒーを淹れたよ」
「ありがとうございます、美優先輩」
「お風呂のスイッチも押したから、あと少しで入れるよ。お風呂が沸いたら、今日も一緒にお風呂に入ろうね」
「いいですね。一緒に入りましょうか」
本当に……俺は幸せ者だと思う。こんなに可愛くて優しい人と恋人として付き合い、同棲しているのだから。
ソファーでコーヒーを飲みながらくつろぐ恋人・白鳥美優先輩の隣に、俺は腰を下ろす。先輩が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
「美味しいですね」
「美味しいよね、朱莉と葵が誕生日プレゼントにくれたコーヒー。でも、本当に私も飲んでいいの? 砂糖とミルクを入れているし」
「もちろんいいですよ。確かに俺への誕生日プレゼントですけど、美優先輩と一緒に飲む方がより美味しいですから。それに、美味しく飲める方法があるなら、無理してブラックを飲むよりもいいと思います」
「由弦君……」
美優先輩は嬉しそうな笑顔で俺を抱きしめてくる。そのことで先輩の温もりや柔らかさを感じ、今日の疲れが取れていく。
俺は左手を美優先輩の背中に回し、右手で先輩の頭を優しく撫でる。お風呂に入る直前だけど、先輩の髪は柔らかくていい匂いがする。
「由弦君に嬉しい言葉を言われたから、キスしたくなってきちゃった。ねえ、由弦君。……してもいい?」
「もちろん」
「……ありがとう」
正直、俺も美優先輩とキスしたいと思っていた。ゴールデンウィークが明けて、学校生活が再開したから、先輩と離れる時間も多くなったし。先輩の艶やかな唇を見るとドキドキする。
美優先輩と目が合うと、先輩はニッコリと笑ってキスしてきた。先輩の唇は温かくて、ふっくらとしていて。あぁ、さっそく興奮してきた。
「んっ……」
キスしたいと言ってくるだけあってか、唇を重ねてからすぐに舌を絡ませてくる。砂糖とミルク入りのコーヒーを飲んでいるからか、先輩の舌から砂糖の甘味とミルクのコクが感じられて。あと、先輩が両手で俺の背中を擦ってくるからより興奮する。
美優先輩からゆっくりと唇を離すと、先輩はうっとりとした様子で俺を見つめる。
「……キスっていいね。する度にそう思うよ」
「ドキドキもしますし、幸せな気持ちにもなりますもんね」
「そうだね! ……プレゼントで思い出したけど、もうすぐで母の日なんだね」
「5月の第2日曜日ですから……そうですね。今度の日曜日ですか」
「やっぱりそうだよね。この前の旅行のお土産、お母さんには特別に何か買えば良かったな。みんなへのお土産も考えていたからか、すっかりと忘れていたよ」
「俺も忘れていました」
俺の場合は、美優先輩のご実家に行って、先輩の御両親に挨拶することの緊張もあったけど。
それにしても、母の日か。去年までは母の日周辺にプレゼントしていたな。上京したとはいえ、今年も何かプレゼントした方がいいか。
「由弦君って母の日にはプレゼントってあげる?」
「あげますね。雫姉さんや心愛とお金を出し合ってプレゼントすることもあります。母は甘いもの好きなのでコンビニスイーツをいくつかプレゼントした年もありますね」
「素敵だね! 私も朱莉や葵と一緒にプレゼントしたこともあったな。去年はショッピングセンターの中にあるスイーツ専門店のマカロンを送ったの」
「そうなんですか。今からだと母の日当日には間に合わないかもしれませんが、今年も何か母にプレゼントしようと思います」
「いいね! 私もそうしようっと。じゃあ、明日か週末にショッピングセンターに行こうか」
「分かりました」
ショッピングセンターに行けば、母さんへプレゼントするのにいいものが見つかりそうだ。せっかく上京したんだし、東京にあるお店のスイーツを送るのもいいかもしれない。
美優先輩はマグカップをじっと見つめている。
「そのマグカップがどうかしましたか?」
「母の日の話をしたからか、小さい頃のことを思い出してね。幼稚園くらいだったかな。私、お母さんのお気に入りのマグカップを割ったことがあるんだ。そのとき、お母さんに凄く叱られて、家出したんだよね」
「そうなんですか」
麻子さんの性格からして、うっかり割ったくらいでは美優先輩を激しく叱ることはないだろう。きっと、故意に割ったんじゃないだろうか。今の美優先輩からでは想像できないけど。
「といっても、その後のことは全然覚えていないんだけどね」
「幼稚園の頃の話ですもんね。俺も全然記憶にないですよ。そのときのことで覚えていることと言えば……し、雫姉さんに色々とされたことくらいでしょうか」
「女の子の服を着せられたりしてたよね。ゴールデンウィークにお姉様と心愛ちゃんが持ってきたアルバムやホームビデオで見たけど、可愛かったな……」
美優先輩は何かを期待した様子で俺のことをチラチラ見てくる。たとえ美優先輩の頼みだったとしても、レディースの服なんて着ないぞ。……た、たぶん。
「……あれ、何だか寒気がしてきました」
なので、まだ温かいブラックコーヒーをゴクゴク飲む。
「ゴールデンウィークが明けたけど、夜になると冷え込む日があるからね。今夜はゆっくりとお風呂に入って、早めに寝た方がいいかも」
「そうですね。もう課題もありませんし、今日はお風呂に入ったらすぐに寝ましょうかね」
「それがいいよ。私も今日は早く寝ようっと。だから、今夜は私のことを抱きしめて寝て。その……温かい抱き枕になると思うから。由弦君専用の特別な抱き枕だよ……」
そう言うと、美優先輩の頬は見る見るうちに赤くなっていく。これだと、温かいというよりは熱い抱き枕になりそうだ。
「そうですね。温かいだけじゃなくて、柔らかくて甘い匂いもするのでぐっすりと眠ることができそうです」
「……もう。そう言われると照れちゃうよ」
美優先輩ははにかみながらキスしてきた。
その後、美優先輩の言うように、先輩と一緒に入浴し、普段よりも早めに眠ることにした。もちろん、眠るときは先輩のことを抱きしめて。入浴してからあまり時間も経っていないから、かなりの温もりを感じる。
「どうかな? 由弦君」
「とても気持ちいいですね」
「良かった。由弦君に抱きしめられて凄く気持ちいいの。由弦君に気持ち良く眠ってもらいたいのに、私の方が先に眠っちゃいそう」
「ははっ、そうですか」
ぐっすりと眠れるのはいいことだ。美優先輩の快眠の一助となれば嬉しい。
「由弦君。もし、私を抱きしめても眠れなかったら、私の胸の中に遠慮なく顔を埋めていいからね」
「そんなことをしたら、ドキドキしてむしろ眠気が吹き飛びそうですけどね。でも、柔らかくて気持ちいいですから、意外と落ち着けるのかも」
「試してみる価値はありそうだね。……じゃあ、そろそろ寝ようか」
「ええ。おやすみなさい」
「おやすみ」
美優先輩からおやすみのキスをして、俺はゆっくり目を瞑る。
美優先輩とキスしてドキドキしたけど、先輩という抱き枕のおかげで、数分もしないうちに眠りに落ちるのであった。
5月9日、木曜日。
10日間にも及ぶゴールデンウィークが明けてから3日目。ようやく、いつも通りの一日を過ごしたような気がする。そう思うのは、一昨日と昨日はクラスやあけぼの荘、部活で16歳の誕生日を祝ってもらったからだ。俺・桐生由弦は本当に幸せ者だなぁ。
「由弦君。夕食の後片付けお疲れ様。温かいコーヒーを淹れたよ」
「ありがとうございます、美優先輩」
「お風呂のスイッチも押したから、あと少しで入れるよ。お風呂が沸いたら、今日も一緒にお風呂に入ろうね」
「いいですね。一緒に入りましょうか」
本当に……俺は幸せ者だと思う。こんなに可愛くて優しい人と恋人として付き合い、同棲しているのだから。
ソファーでコーヒーを飲みながらくつろぐ恋人・白鳥美優先輩の隣に、俺は腰を下ろす。先輩が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
「美味しいですね」
「美味しいよね、朱莉と葵が誕生日プレゼントにくれたコーヒー。でも、本当に私も飲んでいいの? 砂糖とミルクを入れているし」
「もちろんいいですよ。確かに俺への誕生日プレゼントですけど、美優先輩と一緒に飲む方がより美味しいですから。それに、美味しく飲める方法があるなら、無理してブラックを飲むよりもいいと思います」
「由弦君……」
美優先輩は嬉しそうな笑顔で俺を抱きしめてくる。そのことで先輩の温もりや柔らかさを感じ、今日の疲れが取れていく。
俺は左手を美優先輩の背中に回し、右手で先輩の頭を優しく撫でる。お風呂に入る直前だけど、先輩の髪は柔らかくていい匂いがする。
「由弦君に嬉しい言葉を言われたから、キスしたくなってきちゃった。ねえ、由弦君。……してもいい?」
「もちろん」
「……ありがとう」
正直、俺も美優先輩とキスしたいと思っていた。ゴールデンウィークが明けて、学校生活が再開したから、先輩と離れる時間も多くなったし。先輩の艶やかな唇を見るとドキドキする。
美優先輩と目が合うと、先輩はニッコリと笑ってキスしてきた。先輩の唇は温かくて、ふっくらとしていて。あぁ、さっそく興奮してきた。
「んっ……」
キスしたいと言ってくるだけあってか、唇を重ねてからすぐに舌を絡ませてくる。砂糖とミルク入りのコーヒーを飲んでいるからか、先輩の舌から砂糖の甘味とミルクのコクが感じられて。あと、先輩が両手で俺の背中を擦ってくるからより興奮する。
美優先輩からゆっくりと唇を離すと、先輩はうっとりとした様子で俺を見つめる。
「……キスっていいね。する度にそう思うよ」
「ドキドキもしますし、幸せな気持ちにもなりますもんね」
「そうだね! ……プレゼントで思い出したけど、もうすぐで母の日なんだね」
「5月の第2日曜日ですから……そうですね。今度の日曜日ですか」
「やっぱりそうだよね。この前の旅行のお土産、お母さんには特別に何か買えば良かったな。みんなへのお土産も考えていたからか、すっかりと忘れていたよ」
「俺も忘れていました」
俺の場合は、美優先輩のご実家に行って、先輩の御両親に挨拶することの緊張もあったけど。
それにしても、母の日か。去年までは母の日周辺にプレゼントしていたな。上京したとはいえ、今年も何かプレゼントした方がいいか。
「由弦君って母の日にはプレゼントってあげる?」
「あげますね。雫姉さんや心愛とお金を出し合ってプレゼントすることもあります。母は甘いもの好きなのでコンビニスイーツをいくつかプレゼントした年もありますね」
「素敵だね! 私も朱莉や葵と一緒にプレゼントしたこともあったな。去年はショッピングセンターの中にあるスイーツ専門店のマカロンを送ったの」
「そうなんですか。今からだと母の日当日には間に合わないかもしれませんが、今年も何か母にプレゼントしようと思います」
「いいね! 私もそうしようっと。じゃあ、明日か週末にショッピングセンターに行こうか」
「分かりました」
ショッピングセンターに行けば、母さんへプレゼントするのにいいものが見つかりそうだ。せっかく上京したんだし、東京にあるお店のスイーツを送るのもいいかもしれない。
美優先輩はマグカップをじっと見つめている。
「そのマグカップがどうかしましたか?」
「母の日の話をしたからか、小さい頃のことを思い出してね。幼稚園くらいだったかな。私、お母さんのお気に入りのマグカップを割ったことがあるんだ。そのとき、お母さんに凄く叱られて、家出したんだよね」
「そうなんですか」
麻子さんの性格からして、うっかり割ったくらいでは美優先輩を激しく叱ることはないだろう。きっと、故意に割ったんじゃないだろうか。今の美優先輩からでは想像できないけど。
「といっても、その後のことは全然覚えていないんだけどね」
「幼稚園の頃の話ですもんね。俺も全然記憶にないですよ。そのときのことで覚えていることと言えば……し、雫姉さんに色々とされたことくらいでしょうか」
「女の子の服を着せられたりしてたよね。ゴールデンウィークにお姉様と心愛ちゃんが持ってきたアルバムやホームビデオで見たけど、可愛かったな……」
美優先輩は何かを期待した様子で俺のことをチラチラ見てくる。たとえ美優先輩の頼みだったとしても、レディースの服なんて着ないぞ。……た、たぶん。
「……あれ、何だか寒気がしてきました」
なので、まだ温かいブラックコーヒーをゴクゴク飲む。
「ゴールデンウィークが明けたけど、夜になると冷え込む日があるからね。今夜はゆっくりとお風呂に入って、早めに寝た方がいいかも」
「そうですね。もう課題もありませんし、今日はお風呂に入ったらすぐに寝ましょうかね」
「それがいいよ。私も今日は早く寝ようっと。だから、今夜は私のことを抱きしめて寝て。その……温かい抱き枕になると思うから。由弦君専用の特別な抱き枕だよ……」
そう言うと、美優先輩の頬は見る見るうちに赤くなっていく。これだと、温かいというよりは熱い抱き枕になりそうだ。
「そうですね。温かいだけじゃなくて、柔らかくて甘い匂いもするのでぐっすりと眠ることができそうです」
「……もう。そう言われると照れちゃうよ」
美優先輩ははにかみながらキスしてきた。
その後、美優先輩の言うように、先輩と一緒に入浴し、普段よりも早めに眠ることにした。もちろん、眠るときは先輩のことを抱きしめて。入浴してからあまり時間も経っていないから、かなりの温もりを感じる。
「どうかな? 由弦君」
「とても気持ちいいですね」
「良かった。由弦君に抱きしめられて凄く気持ちいいの。由弦君に気持ち良く眠ってもらいたいのに、私の方が先に眠っちゃいそう」
「ははっ、そうですか」
ぐっすりと眠れるのはいいことだ。美優先輩の快眠の一助となれば嬉しい。
「由弦君。もし、私を抱きしめても眠れなかったら、私の胸の中に遠慮なく顔を埋めていいからね」
「そんなことをしたら、ドキドキしてむしろ眠気が吹き飛びそうですけどね。でも、柔らかくて気持ちいいですから、意外と落ち着けるのかも」
「試してみる価値はありそうだね。……じゃあ、そろそろ寝ようか」
「ええ。おやすみなさい」
「おやすみ」
美優先輩からおやすみのキスをして、俺はゆっくり目を瞑る。
美優先輩とキスしてドキドキしたけど、先輩という抱き枕のおかげで、数分もしないうちに眠りに落ちるのであった。
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