管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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続編

第67話『パーティー』

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 それから程なくして、私服姿の花柳先輩が家にやってきた。
 美優先輩と花柳先輩が料理やケーキ作りを始める前に、3人で汐見部長がプレゼントしてくれた手作りマカロンを食べてみる。結構美味しい。さすがは部長。
 マカロンで元気をもらったようで、先輩方は張り切った様子でキッチンに立った。
 料理やスイーツ作りは好きだけど、さっき美優先輩から見守っていてほしいと言われたので、朱莉ちゃんと葵ちゃんがプレゼントしてくれたインスタントコーヒーを飲んでゆっくりするか。

「瑠衣ちゃん。私がスポンジを作るから、瑠衣ちゃんはチョコレートクリームを作ってくれるかな?」
「分かったわ! 任せなさい!」

 美優先輩が一緒なら、とりあえずは大丈夫そうかな。
 2人の会話によると、チョコレートケーキの他にも、料理ではハンバーグに唐揚げ、サラダなどを作るらしい。もし、ピンチになったら手伝うか。
 俺はコーヒーを飲みながら、白金先輩がプレゼントしてくれた4コマ漫画を読み始める。タイトルは知っており、以前から気になっていた作品だ。
 女子高生達の日常系漫画。コメディ中心だけど、たまに恋愛的な描写も描かれているのもいいな。現実に俺の近くで女子高生の楽しげな話し声が聞こえるのも、この漫画の印象をより良くさせている一因になっている。
 白金先輩がプレゼントしてくれた漫画のおかげで、夜までの時間はあっという間に過ぎていったのであった。


 午後7時過ぎ。
 私服姿の風花がビニールの手提げを持って101号室にやってきた。

「こんばんはー! うわあっ、美味しそうですね!」

 風花はリビングの食卓の上に並んでいる料理やケーキを見て、凄く嬉しそうな表情を浮かべている。部活でたくさん泳いでお腹が空いているのかな。風花は興奮気味に食卓の写真をスマホで撮った。
 食卓には2人が作ったチョコレートケーキに、俺の大好物のハンバーグに唐揚げ、ローストビーフ、生野菜のサラダ、バターロール、フランスパンなどが置かれている。どれも美味しそうだ。特にチョコレートケーキとハンバーグは。
 俺は美優先輩の隣同士に座る。風花は食卓を挟んで俺の正面の席に座り、彼女の隣に花柳先輩が座る形だ。

「では、風花ちゃんも来たので、由弦君の誕生日パーティーを始めましょう!」

 美優先輩が開会の挨拶をすると、みんなが拍手する。

「由弦君。何かお言葉をいただけますか?」
「分かりました。今夜はパーティーを開いていただいてありがとうございます。東京に来て1ヶ月ほどですけど、こんなに誕生日を祝っていただけて嬉しいです。みんなのおかげで、16歳のいいスタートを切れたと思います。……こんな感じでいいですか?」
「素敵な言葉だったよ! じゃあ、ケーキに刺さっているろうそくに火を点けるからね」

 チョコレートケーキには7本の誕生日ケーキ用のろうそくが立てられている。1本だけ少し太めで長く、残りの6本はそれよりも細くて短い。もしかして、長い方は10歳で短い方は1歳を意味しているのかな。
 美優先輩は着火ライターで7本のろうそくに火を点け、リビングの電気を消す。7本のろうそくの火で、食卓とその周りが幻想的に照らされている。
 美優先輩、風花、花柳先輩でお誕生日の歌を歌われる。女の子だけで歌われるのは初めてなので、とても美しく思えた。
 3人の歌が終わると、俺はケーキに立てられている7本のろうそくに点く火を吹き消した。

『おめでとう!』

 3人は拍手をしながらお祝いの言葉を送ってくれた。
 高校生になり、住む環境も、一緒に祝ってくれる人も去年までとは違う。だけど、童心に帰った気になれる。
 美優先輩が再び電気を点けると、風花と花柳先輩は手提げを持っている。誕生日プレゼントが入っているのかな。

「次はプレゼントタイムだね。私も寝室から持ってくるよ」

 美優先輩は昨日、ショッピングセンターで買ってくれたんだよな。3人からのプレゼントがどんなものなのか楽しみだな。
 ラッピングされた小さめの箱を持って美優先輩が戻ってきて、プレゼントタイムに。

「じゃあ、まずはあたしからあげるね。由弦、お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 風花からビニールの手提げを受け取り、中身を取り出してみると、それは世界的に活躍する動物写真家さんの猫の写真集だった。

「おっ、猫の写真集だ! 表紙の猫、可愛いな」

 ペラペラとめくっていくと、可愛らしい猫の写真がたくさん載っている。横で見ている美優先輩もうっとりした様子で「可愛い……」と声を漏らす。

「サブロウが初めて来たとき、由弦は猫派だって言っていたからね。それからもサブロウのことを可愛がっているから猫の写真集がいいかなって。実は雫さん達が泊まりに来る前日にショッピングセンターの本屋で買っていたの」
「そうだったんだ」

 俺と美優先輩がデートしたときか。そういえば、その日は水泳部の友達と一緒に遊びに行くって言っていたな。そのときに買ったのかな。

「美優先輩と一緒に楽しんで」
「うん、分かった。凄く嬉しいよ、ありがとう」
「ふふっ」
「じゃあ、次はあたしね。いやぁ、風花ちゃんがまさか猫の写真集をプレゼントするとは思わなかったわ。ナイスアシスト」
「ということは、瑠衣先輩も猫関連ですか?」
「うん。1つはそうだよ」

 1つは……ってことは、花柳先輩はいくつもプレゼントを用意してくれたのか。美優先輩へのプレゼントならともかく、俺へのプレゼントをたくさん用意してくれるなんて。意外だし、不安だ。
 花柳先輩は紙袋から黒いネコ耳カチューシャを取り出す。

「……何ですか、それ」
「連休中に付けたのに忘れちゃったの? これはネコ耳カチューシャって言うんだよ。この家には1つしかないし、美優と一緒に猫ちゃんになれたら楽しいでしょ?」

 まあ、花柳先輩だもんな。こういうプレゼントが1つはあると思ってたよ。

「凄く楽しいと思うよ、瑠衣ちゃん! さすが瑠衣ちゃん分かってる! 私、ネコ耳付けてくるね!」

 美優先輩は張り切った様子でリビングを出て行くと、10秒もかからずに黒いネコ耳を付けた状態で戻ってきた。何度も見たことあるけれど、ネコ耳美優先輩は可愛いな。
 美優先輩が付けたなら仕方ない。俺は花柳先輩からネコ耳カチューシャを受け取り、頭に付けた。

「由弦君かわいい! よく似合ってるよ!」
「優しい雰囲気もあるからネコ耳が結構似合うよね、由弦って」
「ネコ耳カップルの爆誕ね」

 そう言うと、花柳先輩はスマートフォンで俺達のことを撮影した。美優先輩や風花が似合っていると言ってくれているだけマシだが、また黒歴史が1つ増えた気がする。

「瑠衣ちゃん、あとで写真送ってね!」
「あたしにもください!」
「うん、分かった。桐生君、もう一つのプレゼントは……はい」

 花柳先輩から渡されたのは手のひらサイズの紙袋。その紙袋には『御立山』という赤い文字と、御立山の絵が描かれていた。旅行中に買っていたのか。
 紙袋の中身を取り出すと、それは『御立山幸運乃御守』と刺繍された青い御守だった。

「御守ですか」
「うん。御立山のお土産屋さんで買ったの。その中には、御立山の石のかけらが入っていて。幸運を呼び込むらしいの」
「そうなんですか」

 山頂に置いてあった御立山の石を削ったかけらが入っているのか? それとも、御立山にある適当な石を使っているのだろうか。どちらにせよ、パワースポットと言われている御立山の石を触った経験があるからか、凄く効き目があるように思える。

「桐生君はもちろんのこと、一緒にいる美優にも幸運が舞い込みそうな気がするから」
「そういうことですか。でも、ありがとうございます。スクールバッグの中に入れておきますね」

 美優先輩にも幸運が舞い込んでほしい気持ちは俺も同じだから。
 俺への誕生日プレゼントではあるけど、美優先輩も喜ぶことを考えたプレゼントだったな。それも花柳先輩らしいか。

「じゃあ、最後は私だね。由弦君、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

 俺は美優先輩からラッピングされた細長い箱を渡された。
 ラッピングされた包み紙を丁寧に剥がし、箱の蓋を開けると、そこにはシルバーのネックレスが入っていた。ハートの形なので可愛らしい。

「昨日、ショッピングセンターで買ったの。連休前の緊急のバイト代があったからね。実はペアで買って、私はそのピンクゴールドのものを持っているの。今度、デートをするときに一緒に付けてくれると嬉しいです」
「そうしましょう。こういったアクセサリーをペアで持てるって嬉しいですね。ありがとうございます、美優先輩」
「えへへっ」

 俺は美優先輩の頭を優しく撫でる。
 連休前、美優先輩は喫茶店・ユナユナの厨房で一生懸命頑張っていたことを知っている。だからこそ、彼女が誕生日プレゼントをくれたことをより嬉しく思うのだ。

「みなさん、素敵な誕生日プレゼントをありがとうございます。……もうお腹がペコペコですし、4人で食べましょうか」
「そうだね! 由弦君の好きな料理を中心に作ったから、たくさん食べてね! もちろん、チョコケーキも」
「分かりました。では、いただきます」
『いただきまーす!』

 俺は美優先輩と花柳先輩が作ってくれた料理やチョコケーキを食べていく。どれも美味しいけど、大好物のハンバーグは特に美味しい。それを伝えると美優先輩はとても嬉しそうにしていた。
 たまに、美優先輩がハンバーグやケーキを食べさせてくれて。嬉しいけど、その場面を風花や花柳先輩にスマホで撮影されるのは恥ずかしかった。ネコ耳カチューシャも付けているし。ただ、誕生日ということもあって、すぐに楽しい気持ちになったのであった。
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