管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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続編

第48話『いただき』

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「到着!」
「あっという間でしたね! 先輩!」

 ロープウェイでの15分の旅を終え、無事に頂上まで到着。
 風花と花柳先輩は終始興奮していた。元気にロープウェイから降りていく。そんな2人は小動物のような可愛らしさがある。

「いい景色だったね、由弦君」
「ええ。頂上からの景色も期待できそうです」

 俺は美優先輩と一緒にロープウェイから降りる。数百メートル上がったから、駐車場のある場所よりも涼しい。空気が美味しいな。

「成実さん。頂上に着きましたよ」
「……うん。無事に着いて良かったぁ。一佳ちゃんが手を繋いでくれたおかげで耐えられたよ」
「ふふっ。でも、最後の方は成実さんも景色を楽しめていて良かったです。さあ、一緒に降りましょう」

 霧嶋先生と大宮先生もロープウェイから降りる。その瞬間、大宮先生はほっとした表情を浮かべていた。
 あと、ロープウェイに乗っている間、霧嶋先生と大宮先生は一度も手を離さなかったな。それもあって、大宮先生はとても可愛くて、霧嶋先生はとてもかっこよく見えた。
 人気の観光地ということもあってか、ロープウェイ乗り場を出ると多くの人で賑わっている。こういうところに来ると旅行しているって感じがするなぁ。
 色々な景色を楽しんでもらうためか、東西南北に広がる展望台の柵の近くには望遠鏡が設置されている。また、以前に美優先輩達から話を聞いていた通り、パワースポットの石『御立山の石』もちゃんと置かれており、今も触っているカップルがいる。
 また、ロープウェイで気軽に来ることができる観光スポットだからか、お土産屋さんやアイスクリーム屋さんまである。いいのがあったら、家族や友達にお土産を買いたいな。

「美優先輩。以前来たときも、今のように賑わっていましたか?」
「賑わっていたよ。夏休みだったから、今とは違って半袖の人が多くて、アイスクリームやソフトクリームを食べている人が多かったな」
「美優の話を聞いていると、思い出を体験できているようで嬉しいな。ロープウェイからもたくさん見たけど、まずは山頂から見える景色を楽しまないとね!」

 花柳先輩についていく形で、俺達は展望台の方へ歩いていく。
 ロープウェイ乗り場の近くから見える景色は、当たり前だけどロープウェイから見える景色とほとんど同じ。御立市の街並みと海を堪能することができる。でも、頂上での空気を味わいながら見る景色はいいものだな。穏やかに吹く風が心地いい。

「旅の景色って感じがしていいですね、瑠衣先輩!」
「そうね。ここを提案して良かった……」

 美しい景色を目の前にして、花柳先輩はとてもいい笑顔を浮かべている。その笑みは霧嶋先生や大宮先生よりも大人の色気があるように思えた。

「いい景色だね、由弦君」
「そうですね。晴れていて空気も澄んでいますからとても綺麗ですよね」

 展望台から見える景色はもちろんのこと、その景色を見て喜んでいる美優先輩達の写真も撮っていく。

「成実さん、気分は落ち着いてきましたか?」
「ええ。美味しい空気を吸って、綺麗な景色を見たら落ち着いてきたよ。こういう自然たっぷりの景色を見ると心が洗われるわ」
「そうですね。伯分寺市も夕立市も、都心ほどではありませんが建物が多いですからね。こういう自然の景色は私もひさしぶりに見ました。旅をしていると実感します。それはホテルの部屋からの一面の海を見たときにも思いましたけど」
「ふふっ、そうね。一佳ちゃんと一緒だと安心するわ。帰りのロープウェイでも手を離さないでくれると嬉しいな」
「成実さんが望む限り、私はずっと成実さんと手を繋いでいますよ」

 頂上に着いてからも、写真を撮るとき以外はほとんど霧嶋先生と大宮先生は手を繋いでいる。ロープウェイを乗る直前から、本当に霧嶋先生がイケメンに見えるぞ。これが御立山マジックなのだろうか。
 東西南北の景色を見ることができるので、俺達は歩きながら山頂から見える様々な景色を楽しむ。関東地方だけれど、福島県に近いこともあってか自然がたくさんあるんだなと思う。
 景色を十分に楽しんだところで、パワースポットである御立山の石のある方へと向かう。実際に見てみると、てっぺんが三角で、しめ縄が結んである大きな石にしか見えないけれど、御利益があると思うと何か凄いと思ってしまう。

「あっ、案内板がありますよ! 撫でる場所によって、違う御利益があるみたいですね。てっぺんの部分を触ると頭脳。向かって右側面を触ると健康。左側面が金運。正面の中心付近を触ると、恋愛や子宝にいいそうです」

 風花がそう説明してくれたからか、この石がさらに凄い存在に思えてきた。どこか一カ所だけがいいのか。それとも、全て撫でていいのか。悩むところだなぁ。

「いい触り心地ですし、効き目がありそうですね!」
「ええ! この石が持つパワーに肖りたいわね! 風花ちゃん!」

 俺が悩む中、風花と花柳先輩は御立山の石のあらゆる部分を撫でている。そんなにたっぷりと触ったら、逆に石のパワーに肖れないのでは。

「由弦君はどこを触る?」
「4つの御利益を受けたいところではありますが、1つに絞るとしたら……右側面の健康でしょうかね。健康であれば、他の3つにも繋がる気がしまして」
「いい考えだね。私は正面の恋愛かな。もちろん、こういうところの御利益とか関係なく、由弦君とだったら仲良く長く付き合っていけると思うけれどね。ただ、触ると安心感があるというか。あと、もしいつか子宝に恵まれたとき、その子が健康に育ってくれるといいなって」
「……とても美優先輩らしいと思います」

 とても優しくて温かみのある考え方だなと思う。そんな美優先輩のことを抱きしめたり、頭を撫でたりしても御利益がありそうな気がしてきた。

「いやぁ、たくさん撫でちゃったね!」
「ですね! でも、何だか元気になった気がします!」

 たくさん撫でたからか、風花と花柳先輩は上機嫌だ。もしかしたら、パワースポットっていうのは、撫でたことで御利益があるかもと思え、気持ちを元気にさせるためにあるのかもしれない。心が元気だと、健康にもお金にも、知識にも、恋愛にもいい影響を及ぼすと思うし。2人のことを見てそう思った。

「私達も撫でようか」
「そうですね」

 俺は健康に御利益があるという右側面を、美優先輩は恋愛や子宝に御利益があるという正面の部分を撫でた。これで健康的になるんじゃないかと元気になってきた。美優先輩もいい笑顔を浮かべている。
 また、霧嶋先生は4つ全ての御利益を受けたいのか、それぞれの部分を丁寧に撫でており、大宮先生は健康の御利益があるとされる右側面部分を優しく撫でていた。
 その後はみんなでお土産屋さんに行く。御立山に絡めてアクセサリーやフォトカード、山の形にしたクッキーやお饅頭まで売っている。
 御立山から見える四季の風景のフォトカードがあったので、ここに訪れた記念として買うことにした。また、美優先輩は家で俺と食べるためとしてクッキーを購入していた。
 あと、期間限定の抹茶味に惹かれたのか、風花はアイスクリーム売り場で抹茶アイスを買っていた。この後、いちご狩りをするのにな……と思っていたら、みんなに一口ずつ分けていた。これには美優先輩や花柳先輩だけじゃなく、霧嶋先生や大宮先生も喜んでいた。

「由弦も食べる?」
「ありがとう。ただ、この後いちご狩りがあるからな。俺は遠慮しておくよ」

 抹茶味なので正直興味はあるけど、みんなが一口ずつ食べた後で俺も食べたら、みんなと間接キスすることになってしまう。美優先輩、風花、霧嶋先生は経験があるからまだしも、花柳先輩や大宮先生がどう思うか。

「抹茶の苦味も利いていて美味しいよ? 美味しかったですよね、美優先輩」
「うん。日本茶好きの由弦君なら気に入ると思うけどなぁ」
「……そこまで言われると食べたくなりますね」

 思わず大宮先生や花柳先輩、霧嶋先生の方も見てしまう。

「あらあら、そういうことね。桐生君は可愛いわね。あたしは大丈夫よ」
「あたしはもう先に食べてるから。桐生君が食べても気にしないわ」
「わ、私は以前に間接キスを経験してるから、私のことも気にしなくていいわ。それに、こういう場所でしか食べられないものは食べておいた方がいいと思う。食べない後悔はとても辛いから」

 間接キスの経験があるからなのか、霧嶋先生が一番ドキドキしているように見える。ただ、そんな先生の「食べない後悔は辛い」という言葉が後押しになった。それに、風花も食べていいと言ってくれるし、旅先のスイーツを一口でも味わっておきたい。

「じゃあ、お言葉に甘えていただきます」

 俺は風花の抹茶アイスを一口いただく。

「……うん。渋味もあって美味しい。ありがとう」
「いえいえ」

 そう言って、風花は美味しそうに抹茶アイスを食べていく。
 3人の方をもう一度見てみると、大宮先生は先ほどと変わらない笑みを浮かべ、花柳先輩はほんのりと頬を赤くし、霧嶋先生は顔がかなり赤くなっていた。
 俺達は駐車場に戻るために下りのロープウェイに乗る。上りのときと同じように美優先輩や花柳先輩、風花は景色を堪能し、霧嶋先生と大宮先生はしっかりと手を握っていたのであった。
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