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桜庭かなめ

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続編

第34話『旅行前日』

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 5月2日、木曜日。
 お昼過ぎ。美優先輩、風花、花柳先輩と一緒に、明日からの旅行で必要なものを買いにショッピングセンターへ行く。美優先輩と俺は昨日のうちにほとんど準備を済ませたので、俺達2人の買い物のメインは水着だ。

「私達は旅行の準備がほとんど終わったけど、風花ちゃんと瑠衣ちゃんはどう?」
「あたしは水着を買えば終わりです。もし、何か忘れたり、足りなくなったりしたら、旅先にあるコンビニとかスーパーとかホテルの売店で買えばいいかなって思ってます」
「あたしも風花ちゃんと同じだね。昨日のうちに終わらせて、あとは水着くらい。ホテルのある地域の観光スポットとかを調べてた」
「観光スポットかぁ。そういえば、私、全然調べてなかったよ」
「俺もです」

 お互いの姉妹が家に泊まりに来たのもあって、どこに観光するとか全然考えてなかったな。昨日も4人の見送りから帰ってきた後は、掃除や旅行の準備をしていたし。

「あたしも観光スポットを調べましたよ。凄く行きたいなって思っているのは、ホテルと同じ地域にあるいちご狩りの農園くらいですけど。ゴールデンウィークがラストみたいで」
「風花ちゃんが見つけた農園とは違うところかもしれないけど、オススメの観光スポットにいちご農園があったな。シーズンラストだって思うと行きたくなるね」
「ですよね!」

 風花、とても興奮しているな。食べ物系の観光スポットに行きたいと考えるのは彼女らしい。
 そういえば、俺も昔、ゴールデンウィークで家族旅行に行ったときにいちご狩りをしたな。雫姉さんや心愛が爆食いしていたっけ。特に雫姉さんは自分の練乳がなくなったからって、俺の練乳を奪ってたな。

「いちご狩りいいね、風花ちゃん。それを成実先生や一佳先生に後で提案するね。瑠衣ちゃんはどこか行きたい観光スポットってある?」
「行きたいなって思うのは御立山ってところかな。ロープウェイで山頂に行くことができて、そこからは綺麗な景色が見えるみたいで。山頂には触ると勉強や仕事、お金などの運がつく石があるみたいで」
「御立山は昔、家族と一緒に行ったことがあるよ。瑠衣ちゃんの言った通り、頂上からはとても綺麗な景色を見ることができたよ」
「へえ、そうなんですか! あたし、行ってみたいです! パワースポットの石があるなら、それをたくさん触りたいですし」

 風花の気持ちはよく分かるけど、触りすぎたらその恩恵を受けられなさそうなイメージがある。

「俺も景色をゆっくり眺めるのは好きなので、御立山に行ってみたいですね」
「分かった。じゃあ、いちご狩りと御立山に行きたいってグループトークに送ろう」

 それから程なくして、明日からの旅行に行く6人のメンバーが参加するグループトークに、美優先輩からいちご狩りと御立山に行きたいという旨のメッセージが送られた。
 すると、すぐに大宮先生から、

『いいよ~ いちご大好きだから、いちご狩りの方はあたしも考えてた』

 というメッセージが届く。大宮先生はいちごが大好きなのか。もしかしたら、6人の中で一番食べるのは大宮先生かもしれない。
 それから少し経って霧嶋先生も、

『了解。調べたら、どちらもホテルから近いところにあるわね』

 俺達4人の希望を受け入れるメッセージをくれた。
 観光地の話をしていたから、あっという間にショッピングセンターに辿り着いた。

「美優。どんな水着を買おうか考えてる?」
「可愛い感じの水着ですか? それとも、由弦も一緒なので大胆な感じの水着を買うつもりですか?」
「そうだね……大胆な水着に挑戦するのもいいかもしれないけど、私達以外にもお客さんはたくさんいるだろうから恥ずかしいな。でも、由弦君に可愛いなって思ってもらえる水着を買いたいかな」

 そう言って、美優先輩は俺のことをチラッと見てくる。俺と目が合うと、彼女ははにかんだ。
 正直、美優先輩の大胆な水着姿も見てみたいけれど、先輩の言うようにホテルのプールには多くの人がいるだろうし。彼女が恥ずかしいと思うことはさせたくないな。

「……美優先輩がどんな水着を選ぶのか、俺、楽しみにしています」
「うん!」
「まあ、あたし達も一緒に行くんだから、あたしや瑠衣先輩の水着も楽しみにしておきなさい」
「分かったよ、風花」

 風花や花柳先輩も可愛らしいし、どんな水着を選んで、それを着た姿は楽しみにしている。それを口にしたら風花に変態呼ばわりされそうなので言わないけれど。
 水着は旅行でのお楽しみということで、レディースの水着売り場に到着したところで美優先輩達と一旦お別れ。買い終わったら、レディースの水着売り場の近くにある休憩スペースで待ち合わせることにした。
 レディースの売り場から少し離れたところに、メンズの水着売り場があった。ゴールデンウィークだけど、レジャー用の水着も結構売っているんだな。これは有り難い。

「おっ、これなんて良さそう」

 濃い青色の水着を手に取る。タグを見る限り、サイズは大丈夫そうだけど、一応、試着をしてみるか。

「……おおっ」

 ちゃんと穿くことができた。キツくないし、泳ぎの練習をするにも良さそうだ。あと、この水着なら美優先輩がかっこいいって言ってくれそうだし。
 お店に入って15分も経たないうちに新しい水着と水中メガネ、スマホの防水ケースも購入。
 俺は待ち合わせ場所である休憩スペースに向かう。オシャレなデザインのベンチがいくつもある。ゆったりとした雰囲気なので、ここなら美優先輩達のことを気長に待つことができそうだ。
 休憩スペースには自販機があったので、そこでボトル缶のブラックコーヒーを買い、まだ誰も座っていないベンチに腰を下ろした。

「美味しいな」

 初めて飲んだコーヒーだけど、苦味が強くて俺好みだ。
 そういえば、昨日の夜に朱莉ちゃんと葵ちゃんが誕生日プレゼントでくれたコーヒーを飲んだけどとても美味しかったな。今朝は心愛がプレゼントしてくれた日本茶も飲み、それも結構美味しかった。

「おや、由弦君じゃないか」

 気付けば、俺の目の前に私服姿の汐見部長が立っていた。パンツルックで、白いワイシャツ姿が爽やかだ。そんな彼女はアニメ専門店の袋を持っている。

「こんにちは、汐見部長。漫画やラノベを買いに来たんですか?」
「そうだよ。4月からスタートしたアニメを観たらかなり面白くてね。原作漫画をこの10連休中に読破しようと思っているんだ。20巻以上あるからね」
「そうなんですか」

 それなら10連休に読むのはいい機会だと思う。ただ、汐見部長は受験生なので、漫画をずっと読んでしまって大丈夫なのかは疑問だけど。

「由弦君の方は旅行の買い物かい? 瑠衣ちゃんや美優ちゃん、成実ちゃんから話は聞いているよ」
「ええ。屋内プールのあるホテルなので、今日は水着を買いに来たんです。俺はすぐに決まって、美優先輩達のことを待っているんです」
「そうなんだ。……ここで会ったのも何かの縁だ。僕も何か飲みながらここで休もう」

 汐見部長はさっき俺がコーヒーを購入した自動販売機で飲み物を買う。彼女の手元を見てみると、レモンティーを手にしていた。部長は俺の隣に腰を下ろすとレモンティーをゴクゴクと飲む。

「うん、美味しいね」

 そう言って、汐見部長は爽やかな笑みを浮かべる。CMのオファーが来るんじゃないかというくらいにいい顔をしているな。

「こうして、ベンチで隣り合って座って、互いに好きな飲み物を飲んでいると、まるで由弦君とショッピングデートをしている気分だよ」
「ははっ、そうですか」

 ささやかなことでもデート気分になるんだな。それは俺のことが好きだからだろうか。俺も美優先輩という恋人がいるので、汐見部長の気持ちが少しは分かる。

「そういえば、瑠衣ちゃんからのメッセージで知ったけど、由弦君と美優ちゃんの姉妹が泊まりに来てたんだって?」
「ええ。29日から昨日までいました。美優先輩の妹さん達は可愛かったです。あと、俺の姉妹とも1ヶ月ぶりですけど会えて良かったです。花柳先輩や風花達はもちろん、大宮先生と霧嶋先生も遊びに来て楽しかったですね」
「おおっ、それは良かったね。僕も混ざりたかったけど、受験勉強と漫画を読むので忙しかったからね。これはこれで楽しいけれどね」

 汐見部長、ちゃんと受験勉強もしていたんだ。それを知って一安心。
 汐見部長はとても綺麗で凜々しい雰囲気があるから、雫姉さんも心愛も会ったらメロメロになりそう。実際にどんな反応をするのか気になるから、会わせてみたかったな。

「あれ、美鈴先輩」

 背後に美優先輩達の姿が。行くときには持っていなかったお店の袋を手にしているから、3人とも水着を買い終わったんだ。

「やあやあ、美少女達よ。漫画を買いに来たら由弦君と会ってね。旅行で着る水着を買いに来たそうだね」
「そうです。由弦君とはホテルのプールで披露することになっているんです」
「へえ、そうなんだ。僕もどんな水着なのか気になるから、連休明けにでも水着を着た写真を見せてくれると嬉しいな。そちらの金髪ちゃんの水着姿もね。前に一度、姿だけ見たけど、あのときは帰り際だったから話せなくて」
「ちらっと見たのは覚えてます。由弦のクラスメイトで、あけぼの荘の102号室に住んでいる姫宮風花といいます」
「僕は3年の汐見美鈴。料理部の部長をやっているよ。よろしくね。それにしても、風花ちゃんはとっても可愛い子だね」

 汐見部長はベンチから立ち上がって、爽やかな笑顔で風花の頭を優しく撫でる。そのことに風花は最初こそ驚いていたけど、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。

「旅行のお土産を楽しみにしてるよ。あと、みんなからお土産話を聞くこともね」
「ちゃんと料理部にもお土産は買ってきますよ。成実先生もいますし、多分忘れないと思います」
「よろしくね、瑠衣ちゃん。じゃあ、僕はそろそろ帰るよ。みんな、気を付けて旅行を楽しんできてね」

 汐見部長は大きく手を振って、俺達の元から立ち去っていく。
 連休明けに「楽しかった!」って言えるような旅行にしたいな。
 あと、加藤などクラスの友人に旅行のことを話したら、今の汐見部長のようにお土産とお土産話を要求された。お土産を買うためにも、旅行中はお金を使いすぎないように気を付けないとな。
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