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桜庭かなめ

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本編

第35話『料理部-後編-』

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「はい、完成です」
『おおっ……』

 大宮先生がずっと側にいたから緊張したけど、無事にオムライスを作れて良かった。記念にスマートフォンで写真を撮る。
 また、部活の活動記録用ということで、大宮先生がデジカメで写真を撮っており、美優先輩と汐見部長もスマホで撮っていた。

「由弦君のオムライス、凄く美味しそうだね!」
「なかなか美味しそうね。美優の作ったものといい勝負ね」
「料理は競うものじゃないよ、瑠衣ちゃん。楽しく作って食べることだからね。それにしても、とても美味しそうだ、桐生君」
「ありがとうございます」

 味重視で作ったけど、見た目も上手いことできて良かった。そういえば、実家で作ったときは家族が見た目について褒めてくれたっけ。

「チキンライスのいい匂いがするわ。今日はオムライスを作ったのね」

 霧嶋先生が家庭科室の中に入ってきた。オムライスの匂いがするからか、教室にいるときよりも表情が柔らかい。あと、いいタイミングで入ってきたな。まさか……狙ってここに来たか?
 見学しやすいように扉を開けていたこともあってか、廊下まで匂いが広がっているのか。

「もしかして、このオムライス……桐生君が作ったの?」
「はい、そうです」
「そうなの。なかなか美味しそうに作ったじゃない」
「でしょう? ずっと近くで見ていたけど、彼の手つきに惚れ惚れしちゃった。いい子の担任になったね、一佳ちゃん」
「どんな判断基準ですか、成実さん。他のオムライスもとても美味しそうね」
「今日は初回ですし、見学期間でもありますから、僕を含め料理が特に得意な部員と、料理好きだという桐生君が作りました。一佳ちゃんも食べていってくださいね」
「こらっ、汐見さん。あなた、3年生になっても私のことを名前で呼んで……」
「だって、一佳ちゃんは可愛いですから。一佳ちゃんって呼びたくなっちゃうんですよ」

 爽やかな笑顔でそう言うと、不機嫌そうにしている霧嶋先生の頭を撫でる。物怖じせずに先生に相手できる生徒って汐見部長くらいじゃないだろうか。

「一佳ちゃんが可愛いのは同意ね。さあ、みんな。冷めないうちにオムライスを食べましょうか! せっかくだし、まずは桐生君の作ったものから食べようか」
「ええ。みんな、由弦君の作ったオムライスを食べてみよう」

 汐見部長の一声によって、みんなが俺の作ったオムライスを一口ずつ食べていく。てっきり、自分で作ったものは自分で食べて、たまに交換するくらいだと思っていた。
 それにしても、自分が作った料理をこんなにも多くの人が食べるなんて。何だか緊張してくるな。

「うん、とっても美味しいよ! 由弦君!」

 最初に感想を言ってくれたのは美優先輩だった。先輩の満面の笑顔を見られて嬉しいし、安心する。

「美味しいわね。美優と同じくらいに美味しいよ、桐生君」
「そうね、花柳さん。とても美味しいわ」
「上手だし、楽しそうに料理をしていたからこのまま入ってくれると嬉しいな、顧問としては」
「みなさん、お褒めの言葉ありがとうございます」

 みんな美味しそうに食べてくれて嬉しいな。歳の近い女性が食べていることもあってか、雫姉さんや心愛のことを思い出す。夏休みやお正月とかに実家に帰ったときはオムライスを作ろうかな。

「由弦君。とっても美味しいね」
「ありがとうございます、汐見部長」

 すると、汐見部長は両手で俺の右手をぎゅっと握ってくる。そして、うっとりとした様子で俺のことを見つめてきて。

「是非、由弦君には料理部に入部してほしい。あと、こんなに美味しいものを食べさせられたら、君のことをもっと興味を持っちゃうね。どうだろう、僕の家に来て一緒に美味しい料理の研究をしてみないかい? 僕の家には空き部屋があるし、あけぼの荘に住むことについて、学校から何か言われたらそのときは家に来るといい」

 艶やかな声でそう言うと、汐見部長は俺の手を更に強く握ってきた。自分のことを『僕』と呼んでいるせいか、かっこいい部分が多いかと思っていたら、途端に可愛らしい部分も出してきて。
 あと、今の言葉が本心なのかからかっているのかは分からないけど、

「家のこと云々は気持ちだけ受け取っておきます。ただ、料理を作るのは好きなので、汐見部長と一緒に料理を作るのは楽しいかもしれませんね。部長の家でもいいかもしれませんが、とりあえずはここで作りたいと思います」
「……ということは、料理部に?」
「ええ。料理部に入部します。なので、これからよろしくお願いします」
「うん、よろしくね、由弦君。部長として歓迎するよ!」

 汐見部長は俺の右手を離し、握手をする。そんな彼女の笑みは爽やかなものに。
 料理は好きだし、週に一度の活動だからやっていけるだろう。

「由弦君、入部してくれて嬉しいよ!」

 美優先輩はとても嬉しそうな表情をして俺の腕をぎゅっと抱きしめてきた。そのことが嬉しいけれど、花柳先輩の反応が気になってしまう。
 恐る恐る花柳先輩の方を見てみると、彼女も笑顔を浮かべていた。さすがにこの場では俺に怒った様子は見せないのかな。

「入部届は持ってきてあるから、後で書いてね」
「分かりました」
「……今後は担任として定期的に様子を見に来ないといけないわね」

 霧嶋先生、理由を付けて料理部の作ったものを食べたいだけなのでは。もう副顧問になればいいんじゃないか、と心の中でツッコむ。

「あと、活動する曜日が違うから、文芸部の方にも来てくれると嬉しいわ」
「……考えておきます」
「月曜日と木曜日よね、文芸部は。ただ、材料の買い出しは月曜日にすることが多いの。もちろん、こっちは火曜日にもすることもできるし、文芸部も含めて月曜日に活動のある部活を掛け持ちするときはあたしに言ってね」
「分かりました」

 水曜日はもちろんのこと、月曜日か火曜日のどちらかが活動のない部活であれば料理部との掛け持ちもOKってことか。
 それから、美優先輩や汐見部長など料理部部員が作ったオムライスを食べていく。どれも美味しいけれど、美優先輩と汐見部長が作ったものは特に美味しいな。さすがは部長と副部長。
 後片付けをした後に入部届を書いて、顧問の大宮先生に提出した。これで正式に料理部の一員になったのであった。


 今日の部活動が終わり、下校するために美優先輩や花柳先輩と一緒に第1教室棟の昇降口へ向かうと、そこにはローファーに履き替えた風花がいた。

「風花」
「あっ、由弦。美優先輩や瑠衣先輩も」
「風花も部活帰り?」
「うん、そうだよ」

 そう言うと、風花は俺の目の前に立って制服の匂いを嗅いでくる。

「洗剤の匂いと、ほんの少し甘い匂いもする。これって卵かな?」

 洗剤と卵の匂いがかぎ分けられるなんて、まるで犬みたいだな。料理を作っているときや後片付けをしているときは、ブレザーを脱いでマイエプロンを着けていたのに。

「今日はオムライスを作ったんだ。見学する1年生は見るだけだったんだけど、料理好きだって伝えたからか、俺も作ることになって。でも、楽しかったな」
「由弦君の作るオムライス美味しかったよね、瑠衣ちゃん」
「ええ。素直に凄いと思った」
「そうだったんですか。美味しいものを楽しく作ることができて良かったじゃない。材料は用意するから、今度あたしにも作ってよ」
「もちろんいいよ」
「ありがとう!」

 風花、とっても嬉しそうだな。部活に行く前に風花の食べたいものだったら作るって約束したからかな。あと、水泳部の練習を頑張ってお腹が空いているっていうのもあるかも。

「風花は水泳部の練習はどうだった?」
「今日もいっぱい泳いで楽しかったよ。だからか、疲れているけれど心地いいんだ」
「そっか、それは良かった。でも、無理はしないでね。そうだ、俺、料理部に入部することになったんだ。今日の活動が終わった後に入部届を書いて、大宮先生に渡してきた」
「……へえ、そうなんだ。良かったね。楽しそうな部活が見つかって、入ることができてさ」

 風花は変わらず笑顔を見せてくれるけれど、その笑みはさっきとは違うような気がした。

「由弦君、風花ちゃん、帰ろっか」
「そうですね。由弦、早く履き替えちゃいなさい」
「そうだね。風花と話していて忘れていたよ」

 ローファーに履き替えて、俺は美優先輩や風花、花柳先輩と一緒に学校を後にする。6時を過ぎているからか、もう空がだいぶ暗くなっているな。

「今日は美味しいオムライスを食べることができて、1年生の子も4人入ったから良かったな」
「そうだね、瑠衣ちゃん」
「由弦以外にも料理部に入部したんですか?」
「うん。由弦君以外は全員女子生徒だけどね。このままだと、料理部にいる男子生徒は由弦君だけになるね」
「そうですね」

 あけぼの荘にとっての白金先輩のように、男子生徒が1人でもいれば違うかもしれないな。

「由弦。変なことをしないように気を付けなさいね」
「もちろん気を付けるさ」
「大丈夫よ、風花ちゃん。美優とあたしでちゃんと見ておくから」
「もう2人とも。そんな心配はないと思うよ、由弦君」

 美優先輩の優しい笑顔に心が救われる。
 それにしても、俺、女子に手を出すようなイメージを持たれているのかな。まあ、風花にとって俺は変態だからな。そんなことを考えながら、あけぼの荘に帰るのであった。
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