管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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本編

第2話『あけぼの荘の住人たち』

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「まずは行くのは103号室。佐竹莉帆さたけりほちゃんっていう2年生の女の子だよ」

 103号室は女子生徒が住んでいるのか。それなら、風花も安心して過ごせそうだ。
 美優先輩が103号室のインターホンを押す。佐竹さんはどういう方なんだろう?
 しかし、中から佐竹さんが出てくる気配は一切感じられない。

「出ないですね、美優先輩」
「そうだね、風花ちゃん。莉帆ちゃんは今日もバイトかな。彼女、駅の近くにある喫茶店でバイトしていて。とても楽しいみたいで、シフトを結構入れているの。特に今みたいな長いお休みの時期は」

 陽出学院高校はバイトOKなんだ。今のところは入りたい部活もないし、バイトをして生活費や趣味のためのお金を稼ぐのもありかな。

「お隣さんですし、どんな方なのか楽しみだったので、会えなくてちょっと残念です」
「来週、2人の歓迎会を兼ねたあけぼの荘のお花見をお庭でやるから、遅くてもそのときには会えるよ。じゃあ、次は201号室に行こうか。その子も2年生の女の子で、松本杏まつもとあんずちゃんっていうの」

 201号室ということは、美優先輩と俺の部屋の真上に住んでいるのか。そういう意味では松本さんのどんな方なのか気になるな。
 アパートの横にある階段を上がって2階へ。2階に上がると、見える景色は結構違ってくる。
 201号室の前に到着して、美優先輩がインターホンを鳴らす。
 しかし、さっきと同じように中から物音や足音が聞こえてこない。

「また出ないですね、美優先輩」
「杏ちゃんは今日も部活かな。彼女は女子テニス部に入っていてね。テニス部は土日や今みたいな長期休暇でも練習することが多いらしいの。ちなみに、彼女は中学のときに全国大会に入賞していて、陽出学院にはスポーツ推薦で入部したの」
「そうなんですか! その話を聞いたらより一層話したくなりますけど、松本先輩もお花見コースになるかもしれないですね」
「そうかもね。じゃあ、次は202号室に行きましょうか。深山小梅みやまこうめさんっていう3年生の女の子が住んでいるんだよ」

 今度こそは会いたいけど、二度あることは三度あるとも言うし。でも、三度目の正直という言葉もある。今みたいな状況のときって、どっちを信じればいいんだろう?
 そんなことを考えているうちに、美優先輩が202号室のインターホンを押す。

『はい。おっ、美優ちゃんと……知らない子が2人いる。ちょっと待ってて』

 インターホンから可愛らしい声が聞こえてきた。挨拶しようとしたのに2連続で不在だったためか、反応があることが嬉しく思える。風花もこれから深山先輩に会えるからか興奮気味。
 ゆっくりと扉が開くと、そこにはスカートに長袖のTシャツというラフな格好をした銀髪の女の子が。風花よりも背が小さいし、可愛らしいけれど幼さの残る顔立ち。美優先輩が3年生とは言っていたけれど、中学3年生じゃないよな。

「大きな君、私がちっこいからって小学生や中学生じゃないかって思ってない?」
「……中学生だと思いました」
「やっぱり。まあ、高校でも子供扱いされているのは慣れているけれど」

 はあっ、と深山先輩はため息をつく。学校で子供扱いされている姿が容易に想像できてしまうな。

「こんにちは、小梅先輩」
「こんにちは。この2人は? もしかして、引っ越してきた子達?」
「はい。金髪の女の子が102号室に引っ越してきた姫宮風花ちゃん。それで、背の高い黒髪の男の子が、訳あって私と一緒に暮らすことになった桐生由弦君です」
「初めまして、102号室に入居した姫宮風花です。1年です。よろしくお願いします」
「同じく1年の桐生由弦です。これからよろしくお願いします」
「初めまして、4月から3年になる深山小梅よ。よろしく」

 すると、深山先輩は落ち着いた様子で風花、俺の順番で握手を交わす。見た目や声は幼いけれど、この落ち着きぶりは3年生の風格がある。

「随分なイケメン君だけれど、まさか美優ちゃんが男の人と同棲するとは思っていなかったわ。学校で男子から告白されるのを何度か見たことがあるし。ただ、あなたは男性が苦手にしていそうだったから意外」
「同棲じゃありません! 由弦君とは付き合っていませんし。同居です。こちらの不手際で同じ部屋で風花ちゃんと二重契約になってしまって。その責任を取るためでもあります」
「なるほどね。管理人として真面目で責任感が強いよね、美優ちゃんは」
「しっかりしていそうですもんね。あと、美優先輩って学校で人気があるんですね。優しいですし、顔も可愛らしいですし、胸もかなり大きいですもんね!」
「ふふっ、姫宮さんも分かっているじゃない。この胸の何割かを分けてほしいわ」
「憧れる大きさですよね、小梅先輩」

 風花と深山先輩、さっそく意気投合しているな。そのきっかけとなった美優先輩の胸を一緒に凝視している。膨らみがさほど見受けられない深山先輩が憧れるのはまだしも、風花はそれなりにあるのにな。美優先輩を目の前にすると小さく感じるのかな。
 あと、美優先輩が男子から人気があって、何度も告白されるのは納得かな。優しい雰囲気をまとっているし、綺麗で可愛らしいし。スタイルも……好みだと思う人は結構多いんじゃないかと思う。

「美優ちゃんを傷つけたり、他の住人に迷惑を掛けたりしなければ一緒に住むのもOKじゃないかしら。ただ、美優ちゃんと一緒に住むことに否定的に考える人もいると思う。年頃の男女が住むという理由や、美優ちゃんの大ファンだからという理由で」
「美優先輩が嫌がるようなことをしてしまわないように気を付けます。もちろん、あけぼの荘の方々に迷惑を掛けるようなこともしないようにします」
「いい心掛けね。とりあえずはその言葉を信じるわ。受験勉強の続きをやるから、今日はこれで。お花見を楽しみにしてる。でも、その前に連絡先を交換しましょうか」

 深山先輩は俺達と連絡交換し、部屋の中に戻っていった。そっか、3年生ってことは受験生でもあるのか。2年後はまた受験生になるんだな、俺も。

「可愛らしくも落ち着きのある先輩でしたね」
「ギャップのある先輩だよね。そんな先輩がいたからか、去年、ここに住み始めたときに安心感があったよ。最後に203号室だね。ここには白金和紀しろがねかずき君っていう2年生の男の子が住んでいるわ」
「俺以外にも男性の住人がいるんですね。1人でも男性がいると何かいいですね」

 どんな方なのか楽しみだな。
 美優先輩が203号室のインターホンを押す。

『はい。どうかした? 管理人さん』
「管理人の白鳥です。今日引っ越してきた1年生の子と一緒に挨拶しに来ました」
『そういえば、今日が引っ越しの日だったか。今すぐに行くよ』

 美優先輩や風花と一緒にいるからか、男性の声が新鮮に聞こえてくる。
 それから程なくして玄関の扉が開く。そこには、デニムにチェック柄のワイシャツを着た男の方が。メガネをかけている。髪がボサボサなのは……寝起きなのかな?

「こんにちは」
「こんにちは、白金君。こちら、102号室に引っ越してきた姫宮風花ちゃん。それと、訳あって私と一緒に101号室に住むことになった桐生由弦君だよ」
「なにぃ! 管理人さんと一緒に住むだと!」

 大きな声を上げると、白金先輩が目を細めて俺のことをじっと見てくる。
 さっき、美優先輩と一緒に暮らすことに否定的な人もいるかもと深山先輩が言っていたな。白金先輩はそういった人達のうちの一人だろうか。

「……これだけ圧倒的なイケメンだと逆に嫌味を全く感じないな。爆発しろとも思わない。まあ、僕は三次元よりも圧倒的な二次元の女の子派だがな! そうかそうか、2人で幸せに暮らすといい!」

 あははっ! と高らかに笑う。白金先輩は肯定派だったか。何だか安心した。

「おっと、自己紹介が遅れたな。僕の名前は白金和紀。4月から2年生になるよ。よろしく」
「今度入学する1年の姫宮風花です。よろしくお願いします」
「同じく1年の桐生由弦といいます。これからよろしくお願いします」
「姫宮に桐生だな、覚えたぞ。特に桐生とは、あけぼの荘に住む唯一の男仲間だから仲良くしたいところだ。2人とも、これからよろしく。僕は漫画やアニメが大好きで、高校では漫画研究会に入っているんだ。興味があったら、いつでも遊びに来てくれ」
「分かりました」
「ああ。一応、連絡先を交換しておくか。学校のこととか分からなかったら訊いてくれよ」

 俺と風花は白金先輩と連絡先を交換する。
 部活はそこまで詳しく調べていないけれど、陽出学院高校の部活はバラエティに富んでいるようだ。文化系はどこか面白そうな部活があるかも。

「僕は今、今期放送されたアニメの復習をしているので、今日はこれで失礼する。来週のお花見、楽しみにしてるよ」

 そう言って、白金先輩は部屋の中に入っていった。個性的な人だけど、先輩とは仲良くなれそうかな。俺も好きな漫画やアニメはいくつもあるし。

「男性と聞いてどういう方なのか不安でしたけど、あの方なら大丈夫そうです」
「白金君の好みの女性は次元を越えた先にいる人だからね。好みの作品のことになると熱中するけれど、普段は気さくに話す人だよ」
「そうなんですね。今日は会えなかった佐竹先輩と松本先輩の2人がどんな方なのか楽しみです!」
「遅くても3日にやるお花見では会えるから楽しみにしててね」

 白金先輩も深山先輩も個性的な感じがしたから、佐竹先輩と松本先輩がどういう感じの人なのか気になるな。お花見では会えるようだから、楽しみにしておくか。

「じゃあ、ご挨拶も終わったし、少し早めだけど夜ご飯にしようか。風花ちゃんも一緒に食べましょう? 引っ越しっていうお祝い事だし、すき焼きにしようと思っているの」
「すき焼き大好きです! いただきます」
「良かった。由弦君はすき焼きって好きかな?」
「はい、好きです」

 あの甘辛い味が好きだ。ただ、すき焼きでは姉と妹がお肉をたくさん食べる。最後にすき焼きでまともに肉を食べたのはいつだったっけ。

「由弦、どうして好きだって言ったのに切なげな顔をしてるの?」
「……肉を普通に食べられるのかなと思いまして」
「大丈夫だよ。多めに買ってあるし、3人で食べても満足できると思う」
「それなら一安心です。夕食が楽しみです」

 美優先輩や風花が、うちの家族のように大食いでないことを祈ろう。そんなことを考えながら、2人と一緒に101号室に戻るのであった。
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