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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第35話『2人きりの後夜祭』
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声楽部のコンサートが終わり、僕らは昨日と同じように体育館の入り口近くで美来達のことを待つことに。
ただ、青薔薇がスペシャルゲストとしてコンサートに出演したことを知った人が多いのか、昨日よりも体育館の周りには多くの人がいた。この天羽祭を通じて青薔薇の人気の高さを思い知った気がする。
「智也さん!」
「美来、お疲れ……んっ!」
美来は僕のことを見つけるや否や、こちらの方へと勢いよく走ってきてそのまま抱きつきながらキスしてきた。それなのに、僕の口が痛くなることもなく、美来の唇の感触や温もりが存分に感じられる絶妙な強さで押し当ててくるのはさすがだと思う。
また、僕達の様子を見た女性から「きゃーっ!」という黄色い悲鳴が飛び交う。昨日も体育館の前でキスしたし、今日もコンサートで僕のことを紹介されてしまったので、もはやこのくらいではあまり恥ずかしいとは思わなくなった。
唇をゆっくりと離すと、そこには可愛らしさと艶やかさが感じられる美来の笑みがあった。
「もう、美来ったら。急にキスするから驚いたよ」
「えへへっ、ごめんなさい。コンサートが無事に終わって、早く智也さんのところに行ってキスしたかったものですから」
「ははっ、そうか。今日もコンサートお疲れ様。とても良かったよ」
コンサートを含め、これまで天羽祭で頑張ってきたご褒美で、僕は美来のことをぎゅっと抱きしめる。
「良かったよ、美来ちゃん!」
「良かったぜ、朝比奈ちゃん! 羽賀や浅野さんにも見せたかったぜ!」
「岡村さんの言う通りですね。美来ちゃん、とても楽しそうで……この2日間で転入した天羽女子がとても素敵なところだって分かったよ」
「私も朝比奈さんの転校先が気になっていたから、今回はいい経験だったよ。いい高校だね、天羽女子は。まあ、個人的には羽賀さんとたくさんお喋りできたし良かったかな」
「みんなから、そう言ってもらえてとても嬉しいです」
美来はみんなに嬉しそうな笑みを見せる。天羽祭が楽しかったことがよく伝わってくる。
僕も美来の転校先が天羽女子で本当に良かったなと思う。ここならきっと、卒業まで楽しく過ごせるんじゃないだろうか。
「それにしても、青薔薇さんがスペシャルゲストで出るとは思わなかったな。彼女の姿……って言っても美来ちゃんの変装なんだけど、見たときには感動して涙出ちゃった。こんなにすぐにまた会えたから」
「千秋、ポロポロ泣いていたね。ただ、花音ちゃんのMCからして、事前に出るのが決まっていた感じだったよね」
「ええ。コンサートが始まる10分くらい前に、胸が小さくなった私の姿でステージ横に来て。マスコミとかパトカーがたくさん来て騒がせたのは、自分がメッセージを送ったのがそもそもの発端だと考えたみたいで。あと、天羽女子の生徒にファンがいることも知っていたので、お詫びを兼ねてファンサービスをしたいと申し出たんです。あとは、花園先輩を少しでもサポートできればと」
「そんな打診を青薔薇さんが受けたから、声楽部のメンバーと顧問で協議したの。すぐに出演という決断になったけど」
「そういうことだったんだね」
青薔薇って、犯罪や不正を明らかにするだけかと思ったけど、明らかにした内容で被害を受けた人のケアを彼女なりにしているのかもしれない。
「美来、僕らはもうすぐ帰るけど、美来はこれから後夜祭があるんだっけ」
「そうです。その後に声楽部の方で打ち上げをすることになっていますので、今日は夕ご飯はいりません」
「分かった。後夜祭や打ち上げを楽しんできてね。あと、帰るときは暗くなっていると思うから気を付けて」
「はい! 帰るときは一言メッセージを送りますね」
「うん。改めて、今日はお疲れ様」
今度は僕の方から美来にキスした。お疲れという意味もあるけど、本当は夜遅く帰ってくることの寂しさを少しでもここで晴らしたかったのだ。
唇を離すと、普段と違って少し恥ずかしそうにしている美来の顔があった。
「まさか、智也さんの方からキスされるとは思わなかったので、キュンとしてしまいました。周りに人がいる中でされる不意のキスって恥ずかしいんですね。もちろん、嫌じゃないですよ!」
「……そう言ってくれて良かったよ。また後でね」
「ええ」
僕は受付で今日良かったクラスと部活に投票して、有紗さん達と一緒に天羽女子を後にする。
花園雪子達が学校の中で現行犯逮捕されたこともあってか、朝よりもマスコミ関係者が多くいる。ただ、青薔薇がマスコミにメッセージを送ったのか、誰かに執拗に聞き込み取材などをする様子は見受けられなかった。
「天羽祭楽しかったね、智也君。今日は色々とあったけれど」
「そうですね。美来のメイド姿や歌う姿も堪能できましたし。あと、青薔薇のこととかもありましたけど、そのこともあってか僕にとっても忘れられない天羽祭になりそうです」
「そうだね。何だか、高校生に戻った気分になったわ」
「もう、お姉ちゃんったらそんなこと言っちゃって。おばさんだね」
「なっ! あたしは今年で25歳なんだよ! 四捨五入したら30歳になっちゃうけれど」
「ふふっ、外れてしまいましたけど、水泳部の推理を披露したときは大人の女性だと思いましたよ、お姉さん」
「月村さんって頭いいんすね! あと、月村さんの気持ちも分かるっすよ! 俺も高校時代のことを思い出しましたし! 氷室もそうだろ?」
「岡村や羽賀と一緒だったから、高校時代までのことを思い出したよ。来年、再来年とまた天羽祭に来たいね」
そのときは、今回のような事件が起きないことを祈りたい。何事もつつがなく進んでいくことが一番だと思うから。
有紗さん達と色々と話しているうちに鏡原駅へと到着した。
「智也君、また明日、会社でね」
「ええ。また明日です」
「じゃあな、氷室。お前と朝比奈ちゃんのおかげで、女子校での文化祭をたっぷりと楽しめたぜ! 明日からの仕事も頑張れそうだ」
「それは何よりだよ。羽賀と3人でまたいつか呑もう」
「ああ。じゃあ、またな」
僕は鏡原駅で有紗さん達と別れて一人に。
羽賀と浅野さんは近隣の警察署に行ってしまったため、最寄り駅などの関係で岡村は有紗さん達と一緒に帰ることになった。
「桃花ちゃんや仁実ちゃん、結菜ちゃんに今日のことを伝えておくか」
自宅の最寄り駅である桜花駅に到着するまでに、僕は3人に文化祭についてメッセージや写真を送った。
すると、みんなから楽しそうだねとか、青薔薇のことも何とかなって良かったねと返信をくれた。
家に帰ってからは、洗濯物を取り込んだり、お風呂掃除をしたりするなど家事をやっていった。1人だとこの家は広すぎるなと思いながら。
美来が夕ご飯はいらないと言っていたので、引っ越してからずっと気になっていた桜花駅近くにあるラーメン屋さんに行き、味噌ラーメンを食べた。とても美味しかったから、近いうちに美来と一緒にまた来よう。
夕食から帰ってきた僕は、美来がいつ帰ってきても大丈夫なようお風呂の準備をして、彼女が帰ってくるまでコーヒーを飲みながら録画した映画を観ることにした。美来と一緒に話しながら観るのもいいけど、1人でじっくりと観るのもなかなかいい。
――プルルッ。
うん、スマートフォンが鳴っているな。確認してみると、美来から新着のメッセージが1件届いていた。
『打ち上げが終わりました! 今から帰りますね!』
声楽部の打ち上げが終わったのか。今から帰るってことは、家に帰ってくるのは小一時間くらい後か。今観ている映画もちょうど終わるくらいだな。
美来からのメッセージが1つあっただけで、凄く気持ちが落ち着くな。それまでとはゆったりとした気分で映画を観ていく。
そして、エンドロールが始まったところで、
「ただいま~」
玄関から美来の声が聞こえてきた。帰ってきたんだな。
Blu-rayの再生を止めて、僕は玄関の方へと向かう。すると、そこには制服姿の美来がいた。
「おかえり、美来」
「ただいま帰りました、智也さん」
「後夜祭や部活の打ち上げは楽しかった?」
「はい! 後夜祭は校庭でキャンプファイヤーをやって、その後は声楽部のみんなで、鏡原駅の近くにあるファミレスに行って打ち上げをしました。明日は片付けの日なので、早く終わったらクラスの方で打ち上げするつもりです」
「そうなんだね。楽しかったみたいで良かったよ」
「楽しい2日間になりました! 天羽祭を堪能できました。あと、今日もクラス部門では1年2組、部活部門では1位になりました!」
「おめでとう、美来。メイド喫茶もコンサートが良かったからね。今日も投票したよ」
「ありがとうございます! とっても嬉しいです!」
そう言って笑顔を見せる美来。クラスでも部活でも、みんな一緒に頑張った成果だろう。本当に天羽女子に転入して良かったなと思う。きっと、来年も再来年の天羽祭も、今回のように楽しむことができるんじゃないだろうか。できれば、僕も一緒に楽しみたい。
「智也さんはあれから何をしていたんですか?」
「帰ってきて、洗濯物を取り込んだり、お風呂掃除をしたりして……美来が夕飯はいらないっていうから、せっかくだし気になっていたラーメン屋に行ったんだ。とても美味しかったよ」
「そうなんですか! これからは寒くなりますし、一緒に行って食べてみたいですね」
「じゃあ、近いうちに一緒に行こうね。夕食から帰ってきた後は、コーヒーを飲みながらゆっくりと映画を観ていたよ」
「なるほど。では、まだお風呂は入っていないと」
「そうだね」
「では、一緒に入りませんか? 帰りの電車の中で、家に帰ったら智也さんと2人きりで後夜祭をしたいと思いまして。ただ、思いついたのは、一緒にお風呂に入ったり、ベッドの中で、3日連続でイチャイチャしたりすることくらいなんですけどね」
「美来らしくていいね。僕も1人で過ごしていたから、帰ってきたら、寝るまでなるべく美来の側にいたいと思って」
「ふふっ、そうですか。では、ささやかですが、2人きりで後夜祭を楽しみましょう」
その後、僕は美来と一緒にお風呂に入った。
今日は2日間メイド喫茶やコンサートを頑張っていたので、美来の髪や体を洗う。彼女の金色の髪も、白い肌も本当に綺麗だ。再会した5月頃と比べても、艶やかになったような気がする。
「もう、どうしたんですか。私の体をじっと見て」
「……綺麗だなと思って」
「ふふっ、智也さんが優しく洗ってくれるおかげですよ。智也さんになら汚されてもいいですけど。ただ、智也さんから出るものは全然汚くないですけどね!」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、衛生面はしっかりしないとね。はい、このくらいでいいかな。シャワーでボディーソープの泡を落とすよ」
「ありがとうございます。泡を落としたら、智也さんの髪や体をやさーしく洗いますからね!」
「……楽しみしておくよ」
美来の体に付いているボディーソープの泡をシャワーで洗い流す。
美来の言葉通り、その後に僕は彼女に髪や体を洗ってもらうことに。美来の優しさがどんな感じなのか不安だったけれど、いつも以上に丁寧に洗ってくれた。美来は恋人なんだし、もう少し信用しないといけないなと胸に刻むのであった。
お風呂から出た後はベッドに直行して、3日連続で体を重ねた。
今夜の美来もとても可愛らしく、僕が飽きないようにするためなのか、たまにネコ耳カチューシャやメイドカチューシャを付けて口調を変えることがあった。それがまた可愛らしくて。美来への欲は深まっていくばかりだった。
「……3夜連続でたくさんしてしまいましたね」
「うん。こんなことは付き合ってから初めてだよね」
「ええ。これも天羽祭効果でしょうか。前夜祭、本夜祭、後夜祭と盛り上がりましたね! 至福の時間でした」
「本夜祭っていう言葉は初めて聞いたな。でも、この週末は特別な感じがして、とても長く感じたよ」
「天羽祭だけじゃなくて、青薔薇さんのことについてもありましたからね」
青薔薇のことについても、しっかりと解決に向かいそうで良かった。花園さんは赤城さんと恋人として付き合うことになったし。ということは、赤城さんの悩みも解決したことになるのか。
「私にとってはあっという間でしたが、振り返ると長かった週末でした。楽しくて素敵な週末になりました。それは天羽女子のみんなだけではなくて、智也さん達が遊びに来てくれたおかげでもあります。ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、天羽女子で素敵な週末を過ごさせてくれてありがとう」
「ありがとうございます。みんなにも伝えておきますね。では、智也さんも明日はお仕事がありますから、今日はもう寝ましょうか」
「そうだね。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
美来は僕におやすみのキスをして、幸せな笑みを浮かべながらゆっくりと目を閉じた。天羽祭の疲れが溜まっているからか、すぐに可愛らしい寝息を立て始めた。
このまま目を閉じると、休日が終わりそうでもったいなく、寂しい気持ちもあるけれど、美来の言う通り明日は仕事がある。早く寝ないと。
「おやすみ、美来」
僕は美来の額にキスをして、ゆっくりと目を閉じる。
美来の寝息が聞こえたり、甘い匂いや温もりを感じたりしているからか、程なくして眠りにつくのであった。
ただ、青薔薇がスペシャルゲストとしてコンサートに出演したことを知った人が多いのか、昨日よりも体育館の周りには多くの人がいた。この天羽祭を通じて青薔薇の人気の高さを思い知った気がする。
「智也さん!」
「美来、お疲れ……んっ!」
美来は僕のことを見つけるや否や、こちらの方へと勢いよく走ってきてそのまま抱きつきながらキスしてきた。それなのに、僕の口が痛くなることもなく、美来の唇の感触や温もりが存分に感じられる絶妙な強さで押し当ててくるのはさすがだと思う。
また、僕達の様子を見た女性から「きゃーっ!」という黄色い悲鳴が飛び交う。昨日も体育館の前でキスしたし、今日もコンサートで僕のことを紹介されてしまったので、もはやこのくらいではあまり恥ずかしいとは思わなくなった。
唇をゆっくりと離すと、そこには可愛らしさと艶やかさが感じられる美来の笑みがあった。
「もう、美来ったら。急にキスするから驚いたよ」
「えへへっ、ごめんなさい。コンサートが無事に終わって、早く智也さんのところに行ってキスしたかったものですから」
「ははっ、そうか。今日もコンサートお疲れ様。とても良かったよ」
コンサートを含め、これまで天羽祭で頑張ってきたご褒美で、僕は美来のことをぎゅっと抱きしめる。
「良かったよ、美来ちゃん!」
「良かったぜ、朝比奈ちゃん! 羽賀や浅野さんにも見せたかったぜ!」
「岡村さんの言う通りですね。美来ちゃん、とても楽しそうで……この2日間で転入した天羽女子がとても素敵なところだって分かったよ」
「私も朝比奈さんの転校先が気になっていたから、今回はいい経験だったよ。いい高校だね、天羽女子は。まあ、個人的には羽賀さんとたくさんお喋りできたし良かったかな」
「みんなから、そう言ってもらえてとても嬉しいです」
美来はみんなに嬉しそうな笑みを見せる。天羽祭が楽しかったことがよく伝わってくる。
僕も美来の転校先が天羽女子で本当に良かったなと思う。ここならきっと、卒業まで楽しく過ごせるんじゃないだろうか。
「それにしても、青薔薇さんがスペシャルゲストで出るとは思わなかったな。彼女の姿……って言っても美来ちゃんの変装なんだけど、見たときには感動して涙出ちゃった。こんなにすぐにまた会えたから」
「千秋、ポロポロ泣いていたね。ただ、花音ちゃんのMCからして、事前に出るのが決まっていた感じだったよね」
「ええ。コンサートが始まる10分くらい前に、胸が小さくなった私の姿でステージ横に来て。マスコミとかパトカーがたくさん来て騒がせたのは、自分がメッセージを送ったのがそもそもの発端だと考えたみたいで。あと、天羽女子の生徒にファンがいることも知っていたので、お詫びを兼ねてファンサービスをしたいと申し出たんです。あとは、花園先輩を少しでもサポートできればと」
「そんな打診を青薔薇さんが受けたから、声楽部のメンバーと顧問で協議したの。すぐに出演という決断になったけど」
「そういうことだったんだね」
青薔薇って、犯罪や不正を明らかにするだけかと思ったけど、明らかにした内容で被害を受けた人のケアを彼女なりにしているのかもしれない。
「美来、僕らはもうすぐ帰るけど、美来はこれから後夜祭があるんだっけ」
「そうです。その後に声楽部の方で打ち上げをすることになっていますので、今日は夕ご飯はいりません」
「分かった。後夜祭や打ち上げを楽しんできてね。あと、帰るときは暗くなっていると思うから気を付けて」
「はい! 帰るときは一言メッセージを送りますね」
「うん。改めて、今日はお疲れ様」
今度は僕の方から美来にキスした。お疲れという意味もあるけど、本当は夜遅く帰ってくることの寂しさを少しでもここで晴らしたかったのだ。
唇を離すと、普段と違って少し恥ずかしそうにしている美来の顔があった。
「まさか、智也さんの方からキスされるとは思わなかったので、キュンとしてしまいました。周りに人がいる中でされる不意のキスって恥ずかしいんですね。もちろん、嫌じゃないですよ!」
「……そう言ってくれて良かったよ。また後でね」
「ええ」
僕は受付で今日良かったクラスと部活に投票して、有紗さん達と一緒に天羽女子を後にする。
花園雪子達が学校の中で現行犯逮捕されたこともあってか、朝よりもマスコミ関係者が多くいる。ただ、青薔薇がマスコミにメッセージを送ったのか、誰かに執拗に聞き込み取材などをする様子は見受けられなかった。
「天羽祭楽しかったね、智也君。今日は色々とあったけれど」
「そうですね。美来のメイド姿や歌う姿も堪能できましたし。あと、青薔薇のこととかもありましたけど、そのこともあってか僕にとっても忘れられない天羽祭になりそうです」
「そうだね。何だか、高校生に戻った気分になったわ」
「もう、お姉ちゃんったらそんなこと言っちゃって。おばさんだね」
「なっ! あたしは今年で25歳なんだよ! 四捨五入したら30歳になっちゃうけれど」
「ふふっ、外れてしまいましたけど、水泳部の推理を披露したときは大人の女性だと思いましたよ、お姉さん」
「月村さんって頭いいんすね! あと、月村さんの気持ちも分かるっすよ! 俺も高校時代のことを思い出しましたし! 氷室もそうだろ?」
「岡村や羽賀と一緒だったから、高校時代までのことを思い出したよ。来年、再来年とまた天羽祭に来たいね」
そのときは、今回のような事件が起きないことを祈りたい。何事もつつがなく進んでいくことが一番だと思うから。
有紗さん達と色々と話しているうちに鏡原駅へと到着した。
「智也君、また明日、会社でね」
「ええ。また明日です」
「じゃあな、氷室。お前と朝比奈ちゃんのおかげで、女子校での文化祭をたっぷりと楽しめたぜ! 明日からの仕事も頑張れそうだ」
「それは何よりだよ。羽賀と3人でまたいつか呑もう」
「ああ。じゃあ、またな」
僕は鏡原駅で有紗さん達と別れて一人に。
羽賀と浅野さんは近隣の警察署に行ってしまったため、最寄り駅などの関係で岡村は有紗さん達と一緒に帰ることになった。
「桃花ちゃんや仁実ちゃん、結菜ちゃんに今日のことを伝えておくか」
自宅の最寄り駅である桜花駅に到着するまでに、僕は3人に文化祭についてメッセージや写真を送った。
すると、みんなから楽しそうだねとか、青薔薇のことも何とかなって良かったねと返信をくれた。
家に帰ってからは、洗濯物を取り込んだり、お風呂掃除をしたりするなど家事をやっていった。1人だとこの家は広すぎるなと思いながら。
美来が夕ご飯はいらないと言っていたので、引っ越してからずっと気になっていた桜花駅近くにあるラーメン屋さんに行き、味噌ラーメンを食べた。とても美味しかったから、近いうちに美来と一緒にまた来よう。
夕食から帰ってきた僕は、美来がいつ帰ってきても大丈夫なようお風呂の準備をして、彼女が帰ってくるまでコーヒーを飲みながら録画した映画を観ることにした。美来と一緒に話しながら観るのもいいけど、1人でじっくりと観るのもなかなかいい。
――プルルッ。
うん、スマートフォンが鳴っているな。確認してみると、美来から新着のメッセージが1件届いていた。
『打ち上げが終わりました! 今から帰りますね!』
声楽部の打ち上げが終わったのか。今から帰るってことは、家に帰ってくるのは小一時間くらい後か。今観ている映画もちょうど終わるくらいだな。
美来からのメッセージが1つあっただけで、凄く気持ちが落ち着くな。それまでとはゆったりとした気分で映画を観ていく。
そして、エンドロールが始まったところで、
「ただいま~」
玄関から美来の声が聞こえてきた。帰ってきたんだな。
Blu-rayの再生を止めて、僕は玄関の方へと向かう。すると、そこには制服姿の美来がいた。
「おかえり、美来」
「ただいま帰りました、智也さん」
「後夜祭や部活の打ち上げは楽しかった?」
「はい! 後夜祭は校庭でキャンプファイヤーをやって、その後は声楽部のみんなで、鏡原駅の近くにあるファミレスに行って打ち上げをしました。明日は片付けの日なので、早く終わったらクラスの方で打ち上げするつもりです」
「そうなんだね。楽しかったみたいで良かったよ」
「楽しい2日間になりました! 天羽祭を堪能できました。あと、今日もクラス部門では1年2組、部活部門では1位になりました!」
「おめでとう、美来。メイド喫茶もコンサートが良かったからね。今日も投票したよ」
「ありがとうございます! とっても嬉しいです!」
そう言って笑顔を見せる美来。クラスでも部活でも、みんな一緒に頑張った成果だろう。本当に天羽女子に転入して良かったなと思う。きっと、来年も再来年の天羽祭も、今回のように楽しむことができるんじゃないだろうか。できれば、僕も一緒に楽しみたい。
「智也さんはあれから何をしていたんですか?」
「帰ってきて、洗濯物を取り込んだり、お風呂掃除をしたりして……美来が夕飯はいらないっていうから、せっかくだし気になっていたラーメン屋に行ったんだ。とても美味しかったよ」
「そうなんですか! これからは寒くなりますし、一緒に行って食べてみたいですね」
「じゃあ、近いうちに一緒に行こうね。夕食から帰ってきた後は、コーヒーを飲みながらゆっくりと映画を観ていたよ」
「なるほど。では、まだお風呂は入っていないと」
「そうだね」
「では、一緒に入りませんか? 帰りの電車の中で、家に帰ったら智也さんと2人きりで後夜祭をしたいと思いまして。ただ、思いついたのは、一緒にお風呂に入ったり、ベッドの中で、3日連続でイチャイチャしたりすることくらいなんですけどね」
「美来らしくていいね。僕も1人で過ごしていたから、帰ってきたら、寝るまでなるべく美来の側にいたいと思って」
「ふふっ、そうですか。では、ささやかですが、2人きりで後夜祭を楽しみましょう」
その後、僕は美来と一緒にお風呂に入った。
今日は2日間メイド喫茶やコンサートを頑張っていたので、美来の髪や体を洗う。彼女の金色の髪も、白い肌も本当に綺麗だ。再会した5月頃と比べても、艶やかになったような気がする。
「もう、どうしたんですか。私の体をじっと見て」
「……綺麗だなと思って」
「ふふっ、智也さんが優しく洗ってくれるおかげですよ。智也さんになら汚されてもいいですけど。ただ、智也さんから出るものは全然汚くないですけどね!」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、衛生面はしっかりしないとね。はい、このくらいでいいかな。シャワーでボディーソープの泡を落とすよ」
「ありがとうございます。泡を落としたら、智也さんの髪や体をやさーしく洗いますからね!」
「……楽しみしておくよ」
美来の体に付いているボディーソープの泡をシャワーで洗い流す。
美来の言葉通り、その後に僕は彼女に髪や体を洗ってもらうことに。美来の優しさがどんな感じなのか不安だったけれど、いつも以上に丁寧に洗ってくれた。美来は恋人なんだし、もう少し信用しないといけないなと胸に刻むのであった。
お風呂から出た後はベッドに直行して、3日連続で体を重ねた。
今夜の美来もとても可愛らしく、僕が飽きないようにするためなのか、たまにネコ耳カチューシャやメイドカチューシャを付けて口調を変えることがあった。それがまた可愛らしくて。美来への欲は深まっていくばかりだった。
「……3夜連続でたくさんしてしまいましたね」
「うん。こんなことは付き合ってから初めてだよね」
「ええ。これも天羽祭効果でしょうか。前夜祭、本夜祭、後夜祭と盛り上がりましたね! 至福の時間でした」
「本夜祭っていう言葉は初めて聞いたな。でも、この週末は特別な感じがして、とても長く感じたよ」
「天羽祭だけじゃなくて、青薔薇さんのことについてもありましたからね」
青薔薇のことについても、しっかりと解決に向かいそうで良かった。花園さんは赤城さんと恋人として付き合うことになったし。ということは、赤城さんの悩みも解決したことになるのか。
「私にとってはあっという間でしたが、振り返ると長かった週末でした。楽しくて素敵な週末になりました。それは天羽女子のみんなだけではなくて、智也さん達が遊びに来てくれたおかげでもあります。ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、天羽女子で素敵な週末を過ごさせてくれてありがとう」
「ありがとうございます。みんなにも伝えておきますね。では、智也さんも明日はお仕事がありますから、今日はもう寝ましょうか」
「そうだね。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
美来は僕におやすみのキスをして、幸せな笑みを浮かべながらゆっくりと目を閉じた。天羽祭の疲れが溜まっているからか、すぐに可愛らしい寝息を立て始めた。
このまま目を閉じると、休日が終わりそうでもったいなく、寂しい気持ちもあるけれど、美来の言う通り明日は仕事がある。早く寝ないと。
「おやすみ、美来」
僕は美来の額にキスをして、ゆっくりと目を閉じる。
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