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続々編-蒼き薔薇と不協和音-
第15話『ドキドキお化け屋敷』
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メイド喫茶での時間が楽しかったために、すっかりと長居してしまった。
美来と乃愛ちゃん、亜依ちゃんの接客担当が終わる午前10時を機に、僕らはメイド喫茶を後にした。ちなみに、僕ら5人のテーブルの代金は社会人ということで、有紗さんと僕で折半という形に。
「じゃあ、これから3人がまた接客担当する11時半までは、僕達と一緒に回ろうか。ただ、3人はメイド服姿のままでいいの?」
「はい! 学校でもメイド服姿で智也さんと一緒にいられるのは嬉しいですから」
「もう、美来は氷室さんの前だとデレデレして可愛いなぁ。この後も接客がありますし、2度目の接客が終わるまでこのままでいようと思います」
「このメイド服姿であれば、1年2組のメイド喫茶の宣伝もできますから。このメイド服も好きですし」
「なるほどね」
2度目の接客が1時間半後にあるなら、着替えない方が楽でいいのかな。それに、今日は文化祭。メイド服姿も制服の一つとも言えるし、何かあればお店の宣伝できる。この姿が3人にとって合理的なのだろう。
「この後また接客のお仕事があるし、美来達の行きたいところに行こうか」
「いいんですか? でも、私は智也さんと一緒に回りたいのが一番ですからね。知り合いの先輩で茶道部の方が多いですから茶道室にも行きたいですし、声楽部の先輩のいるクラスにも……あっ」
何を考えついたのか、美来はニヤリとした笑みを浮かべる。
「そういえば、声楽部の先輩達の中に、お化け屋敷をやるクラスの先輩がいましたね。そこに行きたいですね。私、心霊系は好きなので」
「えっ、お、お化け屋敷?」
有紗さんの顔色が急に悪くなる。彼女はお化け屋敷が物凄く苦手なんだっけ。本人曰く、あまり得意じゃないとのことだけど。まさか、美来は有紗さんにお化け屋敷につれて行くつもりなのか?
「美来、あたしお化け屋敷は苦手だからパスするよ。屋台で色々と食べたい」
「分かったよ、乃愛ちゃん」
「おっ、か、神山ちゃんとは気が合うなぁ! 俺も今はお化け屋敷よりも屋台で色々と食いたい気分なんだ! 全部はダメだけど、いくつかは俺が奢ろう! こう見えても俺は社会人だしな!」
「そういえば、昔の話だが、岡村はお化け屋敷が苦手だったな。氷室もそこまで得意ではなかったような。苦手であれば、無理に行く必要はあるまい」
「羽賀の言う通りですね。有紗さん、無理しなくていいですよ?」
「氷室さんの言うとおりだよ? お姉ちゃん、私のクラスのお化け屋敷に着たとき、途中からずっとお化け役の私と一緒だったじゃない」
「ど、どうしてもダメってわけじゃないし! それに、智也君や美来ちゃんと一緒なら大丈夫かもしれないし。明美のクラスのお化け屋敷が物凄く恐かっただけかもしれないし! だから、チャレンジしてやりますって。あたしは今年で四捨五入したら30になる大人なんだから!」
物凄く強がっているな、有紗さん。
羽賀の言う通り、僕も心霊系はそこまで得意じゃないけど、隣でビクビクしている有紗さんや、心霊系が好きな美来が一緒なら大丈夫かもしれない。あと、羽賀はお化け屋敷も含めて絶叫系全般が好きだったような。
「じゃあ、みんな声楽部のコンサートを見るつもりですから、その直前まで各自の自由行動ということにしませんか? 美来達3人は途中で接客の仕事だったり、声楽部としてパフォーマンスしたりするけれど。会場である体育館の入り口近くで待ち合わせってことにしましょう。賛成の人は挙手で」
僕がそう言うと、みんな手を挙げてくれた。
共通の目的である1年2組のメイド喫茶と声楽部のコンサート以外は、それぞれが行きたいところに行った方がより文化祭を楽しめるよな。
「賛成多数ということで、自由行動にしましょう。では、一旦解散で」
岡村と乃愛ちゃんがすぐに僕らのもとから離れていく。そんな2人のことを浅野さんが追いかける。彼女も心霊系はあまり得意ではないという。岡村と乃愛ちゃんの2人きりだと不安だったけど、浅野さんもいればとりあえずは大丈夫か。
残った僕ら9人で、声楽部の先輩のクラスがやっているお化け屋敷へと向かい始める。2年5組とのこと。ちなみに、僕は美来と手を繋いで。
「まさか、学校でメイド服姿の美来と一緒に手を繋いで歩けるとは思わなかったよ」
「そうですか。私は文化祭中にこういう時間を作りたいと思っていました。ですから、今がとても嬉しいです」
「そっか。僕も嬉しいよ。一緒に楽しもうね」
「はい!」
あまりにも美来が可愛いので、彼女にキスしたい。家だったら絶対にしていたな。
月が丘でいじめに遭い、退学して。一時はどうなるかと思ったけど、天羽女子に転入して、楽しい学校生活を送って、文化祭を迎えることができて本当に良かったと思う。
「美来ちゃん、本当に可愛い。転入した天羽女子がいい学校で安心した」
「そう言ってくれると天羽女子の生徒として嬉しいです、絢瀬さん。転入してからずっと美来ちゃんはうちのクラスの人気者ですよ。いえ、学校の人気者と言った方が正しいでしょうか」
「そうなんだね。佐々木さん、これからも美来ちゃんのことをよろしくお願いします! あとで、神山さんにも同じことを伝えておいてくれるかな」
「分かりました」
詩織ちゃんと亜依ちゃん、笑顔でぎゅっと握手を交わしている。見た目もそうだけど、性格とかも結構似ているな。
あと、羽賀は明美ちゃんや仁実ちゃん、結菜ちゃんと楽しげに話しているな。明美ちゃんはメイド喫茶でも同じテーブルにいたし。もしかしたら、これを機に明美ちゃんの恋が進展したりして。
そんなことを考えていながら歩くと、お化け屋敷をやっている2年5組に到着する。受付には幽霊らしく白い着物を着て、わらじを履いている女の子が。
9人一緒ではさすがに入れないので、僕、美来、有紗さん、仁実ちゃん、結菜ちゃん。羽賀、明美ちゃん、詩織ちゃん、亜依ちゃんの2組に分かれることに。
「次の組の方……どうぞ……」
「羽賀の組と僕の組、どっちが先に入ろうか」
「あたし、心の準備が必要だから、羽賀さん達の方から入って」
「では、その言葉に甘えさせていただきます。さあ、明美さん、絢瀬さん、佐々木さん。一緒に入ろうではないか。明美さんや私は心霊系のアトラクションは好きだし、我々の側にいれば大丈夫だ」
羽賀がそう言うと、詩織ちゃん、亜依ちゃんは安心した様子に。羽賀は普段から落ち着いていて、何事にも動じないので、彼に大丈夫だと言われると本当に大丈夫だと思える。
羽賀達はお化け屋敷の中に入っていった。
「次は僕達の番ですね。有紗さん、心の準備はできていますか?」
「……で、できてきた。美来ちゃんごめん、お化け屋敷が終わるまでは智也君の左腕を借りる」
「ふふっ、そういうことであれば。では、私は右腕の方を」
右腕に美来、左腕に有紗さん。両腕に華だな。美来は抱きしめている感じだけれど、有紗さんはしがみついているというのが正しいだろうか。なかなか力が強くて、若干痛みも。
「じゃあ、結菜ちゃんはあたしと手を繋いでいようか。あたしもそんなにお化け屋敷は得意じゃないけど」
「そうしましょう。あたしもお化け屋敷は苦手な方ですけど、仁実お姉さんと一緒なら大丈夫そうです」
「……かわいい」
すると、仁実ちゃんは結菜ちゃんのことを後ろから抱きしめる。2人とも苦手らしいけど、一緒にいれば大丈夫だろう。すぐ側には僕らもいるし。
出口からは3人組の天羽女子の生徒が出てきた。羽賀達はまだお化け屋敷の中か。
「では……次の組の方、どうぞ……」
「みなさん、行きましょう!」
「う、うん……」
心霊系が好きな美来はテンションが高いけれど、苦手な有紗さんは顔が青白くなっている。さて、どうなることやら。
お化け屋敷の中に入ると、薄暗くなっていて道がぼんやりと見える程度だ。冷房が入っているのか、ひんやりしているし。正直、文化祭のお化け屋敷はそこまで怖くないと思っていたけれど、これは覚悟しておいた方がいいかも。
「雰囲気ありますね、智也さん」
「そうだね、美来。有紗さんも無理はしないでくださいね。怖かったら目を瞑って、僕の腕にしがみついていてください」
「……智也君、頼もしいね。智也君はお化け屋敷好きなの?」
「可も不可もなくってところです」
正直、やや苦手だけれど、隣にとても苦手な人がいたらしっかりしちゃうよ。
「恨めしや……」
「ひぃ!」
目の前にはまさに幽霊というべき元気の無い様子の女の子が。だからか、有紗さんはぎゅっと左腕を抱きしめる。あと、僕の背中に温もりや柔らかさが。仁実ちゃんや結菜ちゃんも怖いのかな。
「うっ、ううっ……私は失恋した女の子の幽霊。恋人にフラれて、そのショックで自殺しました……」
「なかなか重い設定ですね」
「しっかり練られている感じはするよ」
「ただ、あなたは振った恋人よりもタイプです。さっきの茶髪のイケメンさんもそうでした」
茶髪のイケメン……ああ、羽賀のことか。あと、今の悲しそうな表情やさっきの涙からして、恋人にフラれたのは設定じゃなくて実際にあったことじゃないかと思える。
「もし良ければ、私と付き合ってくれませんか! これが連絡先ですから! そうすれば、私は元気……いや、成仏できると思いますから」
「いや、僕には恋人がいるんで……」
「……ええ。失恋して自殺した幽霊役をなったことをいいことに、タイプの男性に告白するなんて。しかも、智也さんは私という恋人がしっかりとくっついているのに。相当な度胸がおありのようで。……覚悟できてますよね?」
「……ご、ごめんなさい!」
失恋幽霊の女の子は目に涙を浮かべて立ち去った。
「まったく、こうしてくっついているんですから、有紗さんか私のどちらかが彼女だって分かると思うのですが」
「そ、そうだね」
「でも、お姉ちゃんかっこ良かった! 幽霊を倒しちゃうなんて!」
「なかなかないことだからね、結菜ちゃん」
「悪霊退治はお姉ちゃんにまかせなさい!」
結菜ちゃんはかっこいいと言っているけれど、僕はとても恐かったよ。もしかしたら、このお化け屋敷にいるどの幽霊やお化けよりも美来の方が恐いと思う。そう考えると、お化け屋敷が怖くなくなったな。
その後もお化け屋敷の中を歩いていく。
「ひゃああっ! 智也君、今、足首に息がかかった!」
「あたしにも来た! 智也お兄ちゃん、生温かいよ!」
誰か、2人の足元に直接息を吹きかけているのかな。ここは女子校だから、その役はもちろん女子生徒。だからいいけど、これが男子生徒だったら問題になっていそうだ。どちらにせよ、変態であることには変わりないか。
ただ、暗い中、足元で何か起こると怖いよな。
「きゃっ、冷たい。太ももに何かが……」
「ひゃあっ! あたしも何か冷たいのが手元に来たよ、美来ちゃん」
「ちょっと濡れていますし、きっと冷水で湿らしたタオルやハンカチを当てたんでしょうね。……それにしても、暗い中で濡れているって言うとドキドキしませんか、智也さん」
「寝室だったらドキドキしていたかもね。さすがにここじゃ……」
「ふふっ、照れちゃって」
お化け屋敷の中でもドキドキできるなんて、さすがは美来だ。心霊系が好きだから余裕があるのか。それとも、暗闇だから厭らしいことを考えているのか。
その後も美来達の可愛らしい叫び声を聞いたり、強い温もりを感じたり、美来にたまにキスされたりしながらお化け屋敷を楽しむのであった。
美来と乃愛ちゃん、亜依ちゃんの接客担当が終わる午前10時を機に、僕らはメイド喫茶を後にした。ちなみに、僕ら5人のテーブルの代金は社会人ということで、有紗さんと僕で折半という形に。
「じゃあ、これから3人がまた接客担当する11時半までは、僕達と一緒に回ろうか。ただ、3人はメイド服姿のままでいいの?」
「はい! 学校でもメイド服姿で智也さんと一緒にいられるのは嬉しいですから」
「もう、美来は氷室さんの前だとデレデレして可愛いなぁ。この後も接客がありますし、2度目の接客が終わるまでこのままでいようと思います」
「このメイド服姿であれば、1年2組のメイド喫茶の宣伝もできますから。このメイド服も好きですし」
「なるほどね」
2度目の接客が1時間半後にあるなら、着替えない方が楽でいいのかな。それに、今日は文化祭。メイド服姿も制服の一つとも言えるし、何かあればお店の宣伝できる。この姿が3人にとって合理的なのだろう。
「この後また接客のお仕事があるし、美来達の行きたいところに行こうか」
「いいんですか? でも、私は智也さんと一緒に回りたいのが一番ですからね。知り合いの先輩で茶道部の方が多いですから茶道室にも行きたいですし、声楽部の先輩のいるクラスにも……あっ」
何を考えついたのか、美来はニヤリとした笑みを浮かべる。
「そういえば、声楽部の先輩達の中に、お化け屋敷をやるクラスの先輩がいましたね。そこに行きたいですね。私、心霊系は好きなので」
「えっ、お、お化け屋敷?」
有紗さんの顔色が急に悪くなる。彼女はお化け屋敷が物凄く苦手なんだっけ。本人曰く、あまり得意じゃないとのことだけど。まさか、美来は有紗さんにお化け屋敷につれて行くつもりなのか?
「美来、あたしお化け屋敷は苦手だからパスするよ。屋台で色々と食べたい」
「分かったよ、乃愛ちゃん」
「おっ、か、神山ちゃんとは気が合うなぁ! 俺も今はお化け屋敷よりも屋台で色々と食いたい気分なんだ! 全部はダメだけど、いくつかは俺が奢ろう! こう見えても俺は社会人だしな!」
「そういえば、昔の話だが、岡村はお化け屋敷が苦手だったな。氷室もそこまで得意ではなかったような。苦手であれば、無理に行く必要はあるまい」
「羽賀の言う通りですね。有紗さん、無理しなくていいですよ?」
「氷室さんの言うとおりだよ? お姉ちゃん、私のクラスのお化け屋敷に着たとき、途中からずっとお化け役の私と一緒だったじゃない」
「ど、どうしてもダメってわけじゃないし! それに、智也君や美来ちゃんと一緒なら大丈夫かもしれないし。明美のクラスのお化け屋敷が物凄く恐かっただけかもしれないし! だから、チャレンジしてやりますって。あたしは今年で四捨五入したら30になる大人なんだから!」
物凄く強がっているな、有紗さん。
羽賀の言う通り、僕も心霊系はそこまで得意じゃないけど、隣でビクビクしている有紗さんや、心霊系が好きな美来が一緒なら大丈夫かもしれない。あと、羽賀はお化け屋敷も含めて絶叫系全般が好きだったような。
「じゃあ、みんな声楽部のコンサートを見るつもりですから、その直前まで各自の自由行動ということにしませんか? 美来達3人は途中で接客の仕事だったり、声楽部としてパフォーマンスしたりするけれど。会場である体育館の入り口近くで待ち合わせってことにしましょう。賛成の人は挙手で」
僕がそう言うと、みんな手を挙げてくれた。
共通の目的である1年2組のメイド喫茶と声楽部のコンサート以外は、それぞれが行きたいところに行った方がより文化祭を楽しめるよな。
「賛成多数ということで、自由行動にしましょう。では、一旦解散で」
岡村と乃愛ちゃんがすぐに僕らのもとから離れていく。そんな2人のことを浅野さんが追いかける。彼女も心霊系はあまり得意ではないという。岡村と乃愛ちゃんの2人きりだと不安だったけど、浅野さんもいればとりあえずは大丈夫か。
残った僕ら9人で、声楽部の先輩のクラスがやっているお化け屋敷へと向かい始める。2年5組とのこと。ちなみに、僕は美来と手を繋いで。
「まさか、学校でメイド服姿の美来と一緒に手を繋いで歩けるとは思わなかったよ」
「そうですか。私は文化祭中にこういう時間を作りたいと思っていました。ですから、今がとても嬉しいです」
「そっか。僕も嬉しいよ。一緒に楽しもうね」
「はい!」
あまりにも美来が可愛いので、彼女にキスしたい。家だったら絶対にしていたな。
月が丘でいじめに遭い、退学して。一時はどうなるかと思ったけど、天羽女子に転入して、楽しい学校生活を送って、文化祭を迎えることができて本当に良かったと思う。
「美来ちゃん、本当に可愛い。転入した天羽女子がいい学校で安心した」
「そう言ってくれると天羽女子の生徒として嬉しいです、絢瀬さん。転入してからずっと美来ちゃんはうちのクラスの人気者ですよ。いえ、学校の人気者と言った方が正しいでしょうか」
「そうなんだね。佐々木さん、これからも美来ちゃんのことをよろしくお願いします! あとで、神山さんにも同じことを伝えておいてくれるかな」
「分かりました」
詩織ちゃんと亜依ちゃん、笑顔でぎゅっと握手を交わしている。見た目もそうだけど、性格とかも結構似ているな。
あと、羽賀は明美ちゃんや仁実ちゃん、結菜ちゃんと楽しげに話しているな。明美ちゃんはメイド喫茶でも同じテーブルにいたし。もしかしたら、これを機に明美ちゃんの恋が進展したりして。
そんなことを考えていながら歩くと、お化け屋敷をやっている2年5組に到着する。受付には幽霊らしく白い着物を着て、わらじを履いている女の子が。
9人一緒ではさすがに入れないので、僕、美来、有紗さん、仁実ちゃん、結菜ちゃん。羽賀、明美ちゃん、詩織ちゃん、亜依ちゃんの2組に分かれることに。
「次の組の方……どうぞ……」
「羽賀の組と僕の組、どっちが先に入ろうか」
「あたし、心の準備が必要だから、羽賀さん達の方から入って」
「では、その言葉に甘えさせていただきます。さあ、明美さん、絢瀬さん、佐々木さん。一緒に入ろうではないか。明美さんや私は心霊系のアトラクションは好きだし、我々の側にいれば大丈夫だ」
羽賀がそう言うと、詩織ちゃん、亜依ちゃんは安心した様子に。羽賀は普段から落ち着いていて、何事にも動じないので、彼に大丈夫だと言われると本当に大丈夫だと思える。
羽賀達はお化け屋敷の中に入っていった。
「次は僕達の番ですね。有紗さん、心の準備はできていますか?」
「……で、できてきた。美来ちゃんごめん、お化け屋敷が終わるまでは智也君の左腕を借りる」
「ふふっ、そういうことであれば。では、私は右腕の方を」
右腕に美来、左腕に有紗さん。両腕に華だな。美来は抱きしめている感じだけれど、有紗さんはしがみついているというのが正しいだろうか。なかなか力が強くて、若干痛みも。
「じゃあ、結菜ちゃんはあたしと手を繋いでいようか。あたしもそんなにお化け屋敷は得意じゃないけど」
「そうしましょう。あたしもお化け屋敷は苦手な方ですけど、仁実お姉さんと一緒なら大丈夫そうです」
「……かわいい」
すると、仁実ちゃんは結菜ちゃんのことを後ろから抱きしめる。2人とも苦手らしいけど、一緒にいれば大丈夫だろう。すぐ側には僕らもいるし。
出口からは3人組の天羽女子の生徒が出てきた。羽賀達はまだお化け屋敷の中か。
「では……次の組の方、どうぞ……」
「みなさん、行きましょう!」
「う、うん……」
心霊系が好きな美来はテンションが高いけれど、苦手な有紗さんは顔が青白くなっている。さて、どうなることやら。
お化け屋敷の中に入ると、薄暗くなっていて道がぼんやりと見える程度だ。冷房が入っているのか、ひんやりしているし。正直、文化祭のお化け屋敷はそこまで怖くないと思っていたけれど、これは覚悟しておいた方がいいかも。
「雰囲気ありますね、智也さん」
「そうだね、美来。有紗さんも無理はしないでくださいね。怖かったら目を瞑って、僕の腕にしがみついていてください」
「……智也君、頼もしいね。智也君はお化け屋敷好きなの?」
「可も不可もなくってところです」
正直、やや苦手だけれど、隣にとても苦手な人がいたらしっかりしちゃうよ。
「恨めしや……」
「ひぃ!」
目の前にはまさに幽霊というべき元気の無い様子の女の子が。だからか、有紗さんはぎゅっと左腕を抱きしめる。あと、僕の背中に温もりや柔らかさが。仁実ちゃんや結菜ちゃんも怖いのかな。
「うっ、ううっ……私は失恋した女の子の幽霊。恋人にフラれて、そのショックで自殺しました……」
「なかなか重い設定ですね」
「しっかり練られている感じはするよ」
「ただ、あなたは振った恋人よりもタイプです。さっきの茶髪のイケメンさんもそうでした」
茶髪のイケメン……ああ、羽賀のことか。あと、今の悲しそうな表情やさっきの涙からして、恋人にフラれたのは設定じゃなくて実際にあったことじゃないかと思える。
「もし良ければ、私と付き合ってくれませんか! これが連絡先ですから! そうすれば、私は元気……いや、成仏できると思いますから」
「いや、僕には恋人がいるんで……」
「……ええ。失恋して自殺した幽霊役をなったことをいいことに、タイプの男性に告白するなんて。しかも、智也さんは私という恋人がしっかりとくっついているのに。相当な度胸がおありのようで。……覚悟できてますよね?」
「……ご、ごめんなさい!」
失恋幽霊の女の子は目に涙を浮かべて立ち去った。
「まったく、こうしてくっついているんですから、有紗さんか私のどちらかが彼女だって分かると思うのですが」
「そ、そうだね」
「でも、お姉ちゃんかっこ良かった! 幽霊を倒しちゃうなんて!」
「なかなかないことだからね、結菜ちゃん」
「悪霊退治はお姉ちゃんにまかせなさい!」
結菜ちゃんはかっこいいと言っているけれど、僕はとても恐かったよ。もしかしたら、このお化け屋敷にいるどの幽霊やお化けよりも美来の方が恐いと思う。そう考えると、お化け屋敷が怖くなくなったな。
その後もお化け屋敷の中を歩いていく。
「ひゃああっ! 智也君、今、足首に息がかかった!」
「あたしにも来た! 智也お兄ちゃん、生温かいよ!」
誰か、2人の足元に直接息を吹きかけているのかな。ここは女子校だから、その役はもちろん女子生徒。だからいいけど、これが男子生徒だったら問題になっていそうだ。どちらにせよ、変態であることには変わりないか。
ただ、暗い中、足元で何か起こると怖いよな。
「きゃっ、冷たい。太ももに何かが……」
「ひゃあっ! あたしも何か冷たいのが手元に来たよ、美来ちゃん」
「ちょっと濡れていますし、きっと冷水で湿らしたタオルやハンカチを当てたんでしょうね。……それにしても、暗い中で濡れているって言うとドキドキしませんか、智也さん」
「寝室だったらドキドキしていたかもね。さすがにここじゃ……」
「ふふっ、照れちゃって」
お化け屋敷の中でもドキドキできるなんて、さすがは美来だ。心霊系が好きだから余裕があるのか。それとも、暗闇だから厭らしいことを考えているのか。
その後も美来達の可愛らしい叫び声を聞いたり、強い温もりを感じたり、美来にたまにキスされたりしながらお化け屋敷を楽しむのであった。
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