アリア

桜庭かなめ

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続々編-蒼き薔薇と不協和音-

第6話『会いたい人-前編-』

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 土日は智也さんと家でゆっくりと過ごすことができて良かった。たくさんイチャイチャできたし。智也さんからたっぷりと元気をもらったな。智也さんや有紗さん達が楽しみにしているし、文化祭に向けて頑張らないと。ただし、また体調を崩してしまわないよう無理しない程度に。



 週が明けて、いよいよ文化祭の週となった。だからなのか、いつもと違って月曜日からクラスに活気があるように思える。文化祭の準備の関係で、今週は授業が水曜日までしかないのも大きいかもしれない。
 被服部の子が週末の間にメイド服を作ってくれた。それをさっそく試着するとサイズがピッタリだった。衣装ができると、文化祭ももうすぐなんだなと実感する。
 あと、土曜日に撮影した智也さんからの応援メッセージをクラスメイトに見せたら、予想以上に好評でみんなやる気になりました。
 ちなみに、家に帰って智也さんにそのことを伝えたら、

「そんなに効果があるのかい」

 と驚いている様子だった。智也さんは優しくてかっこいいですから、私だけじゃなくてみんなの癒しにもなるんですよ。
 でも、そんな智也さんがメイド喫茶に来たら、クラスメイトの子が智也さんに言い寄るなんてこと……ありませんよね、さすがに。私の婚約者だと知っていますから。それに、智也さん並みにイケメンの羽賀さんも来ますし。



 9月27日、火曜日。
 今日もよく晴れていて、秋の爽やかな空気が気持ちいい。天気予報の通り、このまま週末までずっと晴れていてほしいなぁ。
 いつもの通り、智也さんと一緒に家を出発し、桜花駅で親友の佐々木亜依ちゃんと会い、彼女と一緒に智也さんとは反対側の電車に乗って天羽女子へと向かい始める。

「夏服だと、すっかりと涼しく感じるようになりましたね」
「そうだね、亜依ちゃん。部活が終わって暗くなると肌寒い日もあるよ。確か、来週から冬服になるんだよね」
「そうですね。10月になりますからね。文化祭の片付けの日までは夏服で大丈夫だったはずです。冬服の美来ちゃんを見るのが楽しみです」

 そういえば、天羽女子に転入してきたのは7月だから、もうそのときは夏服だったな。冬服のデザインは個人的にけっこう好きだから着るのが楽しみ。

「私だって、亜依ちゃん達の冬服姿を見るのが楽しみだよ。その前にメイド服姿になるんだけどね」
「そうですね。可愛いメイド服ができましたよね。サイズもピッタリでしたし、被服部の子達は凄いです」
「凄いよね。私もお母さんと一緒に何度か服を作ったことあるけど、あんなに可愛くてしっかりとした服は作れないもん」
「うん。メイド服を作ってくれた子達のためにも、当日はしっかりとメイドとしてご奉仕しないといけませんね」
「そうだね!」

 あと、あのメイド服姿を智也さんが気に入ってくれると嬉しいな。できれば、文化祭が終わったら、そのメイド服を着て智也さんとイチャイチャしたい……なんて。えへへっ、えへへへへっ、えへへへへへへっ。

「美来ちゃん、今、氷室さんのことを考えていたでしょう」
「……う、うん」
「やっぱり。いつも以上に素敵な笑顔になっていますからね。あと、頬が結構赤くなっていますし」
「智也さんのことを考えるとドキドキしちゃうから」
「ふふっ、可愛い」

 亜依ちゃんは私のことを抱きしめてくる。涼しくなってきたから、亜依ちゃんの温もりが心地いい。こうしていると、智也さんと同級生で同じ高校に通っていたら、こういうことが毎日体験できるのかなと妄想してしまう。
 普段よりもちょっと幸せな気持ちに浸りながら、亜依ちゃんと一緒に学校へと向かうのであった。


 文化祭間近であり、授業も明日までしかないからか、時間が早く過ぎていく感じがする。
 あっという間に昼休みになり、いつもの通りに私は神山乃愛ちゃんや亜依ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べることに。私や乃愛ちゃんはコンビニや購買部でお昼ご飯を買うけれど、亜依ちゃんは自分でお弁当を作ってくることが多い。

「今日も亜依のお弁当は美味しそうだねぇ」
「まったく亜依ちゃんったら。仕方ありませんね、今日もおかずを一つだけあげますよ」
「えへへっ、ありがとう」

 そう言って、乃愛ちゃんは亜依ちゃんに玉子焼きを食べさせてもらっている。乃愛ちゃんはもちろんだけど、亜依ちゃんも何だかんだで嬉しそう。

「さすがは亜依。めっちゃ美味しい」
「そう言ってくれるので、乃愛ちゃんにおかずを一つあげたくなってしまいます」
「ふふっ。……そういえば、今朝も青薔薇のニュースをやってたよね。亜依や美来は観た?」
「ええ、観ましたよ。県議会議員の政務調査費の不正利用についてですよね」
「私も観た。青薔薇さんは本当に色々なことを暴いているよね」

 智也さんも一緒にそのニュースを観ていたけれど、よくやるなぁと感心していた。本当に何者なんだろうと。

「天羽女子にも青薔薇のファンはいるし、文化祭に来てくれるといいのにな。そうすればより盛り上がりそうな気がする」
「純粋に遊びに来てくれるのであればいいのですが、『青薔薇の現れるところ、必ず犯罪あり』なんて言われていますからね。来たら来たで何とも言えない感じがします」
「亜依ちゃんの言うとおりだね。ただ、青薔薇さんの正体も分かっていないから、天羽女子に来たところで分からないんじゃない?」
「そうだね。性別も年齢も全くの不明。あと、自分の正体を隠すために、変装はもちろん、声も自由自在に変えられるっていう噂もあるんだよ」
「その噂は本当かもしれませんね。毎度のことしっかりと証拠や証言を集めているそうですし。そのためには関係者の姿や声になるのが一番でしょうから」
「それは言えてるね! じゃあ、もしかしたら今はこの天羽女子に青薔薇がいたりして」
「どうでしょうねぇ」

 2人とも青薔薇の話で盛り上がっているな。
 ただ、青薔薇が天羽女子に現れることってあるのかなぁ。私の記憶の限りでは、学校関連の問題で解決したのは、高校や大学の入試結果の不正くらい。男性か女性か、現役か浪人かで試験の点数を調整したという内容を青薔薇がマスコミに流したのだ。報道されていないだけで、いじめのことなども解決しているのかな。
 スマートフォンを取り出して、『青薔薇 学校』と検索すると……入試結果の不正の記事ばかりがヒットする。
 ――プルルッ。
 花音先輩からメッセージが届いた。確認してみると、

『美来ちゃんと乃愛ちゃんに相談してみたいっていう友達がいるの。今日の部活の後にその人と会ってくれるかな?』

 乃愛ちゃんに私に相談したいことって何だろう? 思わず乃愛ちゃんと顔を見合う。
 相談相手が気になるけれど、今日は予定もないし、

『分かりました。大丈夫ですよ』

 という返信を送っておいた。

『あたしも大丈夫だよ』

 乃愛ちゃんも直後のそんなメッセージを花音先輩に送っていた。

「美来ちゃんと乃愛ちゃん、どうかしましたか?」
「花音先輩からメッセージが来て、乃愛ちゃんと私に相談したい花音先輩の友達がいるんだって。それで、今日の部活の後に会うことにしたの」
「あたしも予定がないからね」
「そうなんですか。2人とも、その人のために頑張ってくださいね。あと、話しても良い内容であれば、今夜か明日にでも私に教えてください」
「任せろ、亜依」

 乃愛ちゃんならともかく、亜依ちゃんもそういう話に食いつくんだ。何だか意外だな。話せそうな内容だったら、亜依ちゃんに話すことにしよう。


 午後の授業もつつがなく終わり、放課後の声楽部での練習もしっかりと取り組むことができた。先週の半ばに体調を崩してから、特に喉の調子を気にしながら練習するようにしているけれど、いい感じに声を出すことができている。

「よーし、今日の練習はこのくらいにしようか! みんないい声出てるね! この調子で天羽祭2daysコンサートを頑張りましょう!」
『おー!』

 文化祭が明日ってわけじゃないのに、先週から、練習が終わるときはいつもこんな感じで花音先輩が締めている。

「じゃあ、美来ちゃんと乃愛ちゃんはここに残ってて。美春ちゃんはこの第2音楽室で相談することになっているから」
「分かりました」
「分かったよ、花音ちゃん」

 練習を始める前に相談したい人のことを花音先輩に訊くと、その人は茶道部の3年生の赤城美春あかぎみはる先輩。花音先輩はクラスメイトで茶道部の玲奈先輩や栞先輩を通じて仲良くなったとか。
 また、乃愛ちゃんはお姉さんの玲奈先輩が茶道部なので、入学前から何度か家で会ったことがあるという。乃愛ちゃん曰く、赤城先輩は活発的な可愛らしい人らしい。知り合いの乃愛ちゃんに相談するのは分かるけど、私にも相談したいって本当にどんなことなんだろう。

「乃愛。美来ちゃん。お待たせ」

 すると、第2音楽室の中に玲奈先輩と栞先輩、ショートボブの赤髪がよく似合う可愛らしい生徒さんが入ってきた。彼女が赤城先輩なのかな。

「美春ちゃん、久しぶり。新学期になってからは初めてかな」
「そうだね、乃愛ちゃん」

 赤髪の女子生徒は柔らかな笑みを浮かべた。やっぱり、彼女が赤城先輩なんだ。あと、声がとても可愛らしい。

「乃愛ちゃんの隣にいる金髪の子が朝比奈美来ちゃん……だよね」
「そうだよ」
「初めまして、1年2組の朝比奈美来です」
「初めまして、3年1組の赤城美春です。よろしくね」

 赤城先輩が手を差し出してきたので、私は彼女と握手を交わした。そのときの赤城先輩の笑みを見て不覚にもちょっとキュンとなった。

「それで、美春。さっそくだけど、乃愛ちゃんや初対面の美来ちゃんに相談したいことって何なの?」

 花音先輩が本題を切り出すと、それまでの赤城先輩の元気そうな笑みは消えて、切ない笑みへと変わっていく。

「あたし、好きな子がいて。告白したんだけど、それを機にその子が元気なくなっちゃって。どうすればいいのか分からなくなっちゃったんだ……」
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