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続編-螺旋百合-
第37話『温かい場所』
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『玲奈先輩が家に泊まりたいそうです。急なのですが大丈夫でしょうか?』
そんなメッセージが美来から届いたのは、会社の最寄り駅のホームに到着したときのことだった。
僕自身、女の子が泊まりに来ること自体は何の問題もない。ただし、その女の子が渦中の人物である神山玲奈ちゃんというのが気になるけども。
OKというメッセージを送ると、すぐに、
『亜依ちゃんも泊まりたいとのことです。いい……ですか?』
という返信が送られてきた。さらに1人増えてしまったことで恐縮している美来の姿が容易に想像できる。
『こっちは大丈夫だけど、2人のご家族からはちゃんと許可をもらってね』
というメッセージを送っておいた。
神山玲奈ちゃんがどうしてうちに泊まることになったのだろうか。ありそうなのは、乃愛さんのいる家に帰りづらいけど、大好きな美来の側にいたいからとりあえず今晩は僕達の家にお世話になることにした……というところだろうか。亜依ちゃんは……何も問題が起きないように見守るためかな。
程なくして、美来から2人のご家族から許可が出たというメッセージが届いた。知り合いの女子の家に泊まると言ったのかな。
美来達は今から学校を出るということなので、夕飯を作って待っているとメッセージを送っておいた。
「さてと、何を作ろうかな……」
ちょうど来た電車乗り、夕食を何にするか考える。一人暮らしをしていたこともあって、料理は一応できるけど、4人分のご飯は作ったことがそんなにない。ただ、2人も女の子が泊まりに来るんだから、4人で楽しく食べられるものがいいよね。
「……鍋だな」
パッと思いつくものがそれしかない。大学生のとき、1人暮らしの友人の家に何人かで泊まりに行ったときに食べた鍋が美味しかった思い出がある。よし、そうしよう。まだ暑い日が続くけれど部屋は涼しいし、温かいものは体にいいから。
桜花駅に到着し、家までの間にあるスーパーに入り、タイムセールで安くなっているものを中心に、鍋の材料を購入する。スープは……鶏ガラベースの塩味にしよう。
家に帰り、さっそく調理に取りかかる。多分、寄り道をしなければ、鍋が完成するかどうかってところで美来達が帰ってくると思う。
「思い出すなぁ」
あのときは慣れない中で友達の料理を手伝ったっけ。当時に比べれば、今の方がよっぽど料理はできている。でも、料理上手な美来に比べたらまだまだだな。
そういえば、本格的に美来の学校生活も始まったし、今日みたいに僕が早く帰ってくる日もあるんだよな。家事の分担とか緊急時はどうするとか……生活していく上で一度、しっかりと話し合わなければいけないな。ただ、美来の性格上、基本的に家事は自分に任せてほしいと主張しそうだ。
「こんなことを考えるなんて。本当に僕と美来……同棲しているんだな。学生時代は想像もしなかったなぁ。しかも、同棲相手の美来が天羽女子の生徒を2人も連れてくるなんて。それに、泊まるし……」
考えてみたら、美来……2人を泊めることをよく許したな。有紗さんのような特別な女性でもなければ、桃花ちゃんのように僕や美来の親戚でもないのに。亜依ちゃんはきっと親友として信頼しているから許したのだと分かるけど、玲奈ちゃんの方は……泊める以外にいい方法が思いつかなかったのかな。帰ってきたら、こっそりと訊いてみよう。
「ただいまです」
「何だかいい匂いがしますね」
もう少しで完成というところで、美来と亜依ちゃんの声が聞こえた。
玄関に行ってみると、そこには美来と亜依ちゃんと、ウェーブのかかった茶髪の子がいる。この子が例の神山玲奈ちゃんかな。
「ただいま帰りました、智也さん」
「おかえり、美来。学校お疲れ様」
美来は僕の姿を見たままうっとりとした表情になっている。
「どうしたの?」
「いえ、智也さんのエプロン姿がとても素敵だなと思って」
「あまりこういう姿を見せないもんね。亜依ちゃんと……ええと、こちらの茶髪の女の子が神山玲奈ちゃんかな?」
「は、はいっ! 初めまして、3年3組の神山玲奈と申します。美来ちゃんとの関係は妹の親友の姉といいますか、美来ちゃんの入っている声楽部の部長のクラスメイトといいますか……ううっ、何て言えばいいんだろ」
初対面だからなのか、好意を寄せている美来と付き合っている彼氏だからなのか……玲奈ちゃんはあたふたしているぞ。
「初めてだと緊張しちゃうよね。僕も職場で年上の人と初めて話すときは凄く緊張するよ。……あっ、名前を言っていなかったね。初めまして、氷室智也です。美来から聞いているかもしれないけれど、彼女とは結婚を前提に付き合っています。社会人2年生です。よろしくね」
「よろしくお願いします」
玲奈ちゃんは深く頭を下げる。急に泊まりに来てしまったことで、僕に恐縮しているのかもしれないな。
「智也さん。食欲そそる匂いがしますが、今日の夕ご飯は何ですか?」
「鶏ガラスープの塩鍋だよ。せっかく4人で食べるんだから、そういうものがいいのかなと思って。今日もちょっと暑かったけれど、温かいものは体にいいからね。締めはもちろんラーメンだよ」
「そうなんですか! いいですね。私はかまいませんが、2日連続のラーメンで智也さんは良かったんですか?」
「スープの味を変えれば毎日食べても全然飽きないね。それに、買ってきたスープの袋に締めにはラーメンがオススメって書いてあったからさ」
「なるほどです」
「僕は夕食の仕度をするから、みんなは寝室で着替えてきて」
「分かりました。着替え次第、私も手伝いますね。じゃあ、玲奈先輩に亜依ちゃん、寝室に行きましょう」
僕はキッチンに戻って塩鍋ができているかどうか確認。
「……うん、美味しそうだ」
鍋をリビングに運んで配膳をしているときに、私服に着替えた美来達がリビングにやってきた。美来はもちろん可愛いけれど、亜依ちゃんも玲奈ちゃんも可愛いな。美来と同棲しているとはいえ、まさか女子高生が3人も自宅にいるときが来るとは。
「美味しそうですね。氷室さんは料理もされるのですか?」
「1人暮らししている頃があったからね。美来と同棲し始めてからはあまりやっていないんだけれど。今日みたいな日はもちろん、これからは僕も料理を作ろうって考えてる」
「智也さんのお気持ちはとても嬉しいですが、基本的には私が作りますよ!」
美来は力を込めてそう言った。予想通りのことを言ったので思わず笑ってしまった。
「美来の料理は美味しいからね。そう言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう。さあ、みんなで鍋を食べよう」
僕と美来が隣同士に座り、テーブルを介して亜依ちゃんと玲奈ちゃんが座った。僕の正面には亜依ちゃん、美来の正面に玲奈ちゃん。
「それじゃ、いただきます」
『いただきます!』
4人で塩鍋を食べ始める。
味見して大丈夫だと思っているけど、3人は美味しいと思ってくれるかな。
「美味しいですよ、智也さん!」
「そうですね。お肉とお野菜の旨みが出ているスープも美味しいです。今までこの時期に鍋は食べたことはあまりなかったですが、体が温まっていいですね」
美来のように、亜依ちゃんも幸せな表情をして食べてくれている。
「玲奈ちゃんはどうかな?」
「……美味しいです。その……最近、色々とあったんですけど、温かくて、美味しくて……心が安まるというか」
そう言うと、微笑んでいる玲奈ちゃんの目には涙が浮かび、やがて頬を伝ってこぼれ落ちていく。
「あれ、なんで涙なんて出ちゃうのかな」
「それはきっと、僕の作った鍋が美味しすぎて感動したからだと思うよ」
「……智也さんらしくないことを言いますね」
「確かに、今みたいなことを言うイメージはないですね」
美来と亜依ちゃんはクスクスと笑っている。僕だって、自分らしくないことを言っていることは分かっているんだよ。それでも実際に言われると恥ずかしいな。
「……ふふっ」
僕の言葉なのか、美来と亜依ちゃんにつられただけなのか……玲奈ちゃんも笑みを見せてくれる。僕の言葉で笑ってくれたんだと思っておこう。そうじゃないと報われない。
「みんなで食べるご飯は美味しいですよね、氷室さん」
「そう言ってくれると嬉しいよ。たくさん食べてね」
「……お言葉に甘えて」
夕食の時間が進んでいくうちに玲奈ちゃんが笑う場面も増えてきて。恋人関係になっても、姉妹のままでも……この笑顔を妹の乃愛ちゃんにも見せられればいいんだけど。
その後、締めのラーメンまで4人で美味しくいただきました。ごちそうさまでした。
そんなメッセージが美来から届いたのは、会社の最寄り駅のホームに到着したときのことだった。
僕自身、女の子が泊まりに来ること自体は何の問題もない。ただし、その女の子が渦中の人物である神山玲奈ちゃんというのが気になるけども。
OKというメッセージを送ると、すぐに、
『亜依ちゃんも泊まりたいとのことです。いい……ですか?』
という返信が送られてきた。さらに1人増えてしまったことで恐縮している美来の姿が容易に想像できる。
『こっちは大丈夫だけど、2人のご家族からはちゃんと許可をもらってね』
というメッセージを送っておいた。
神山玲奈ちゃんがどうしてうちに泊まることになったのだろうか。ありそうなのは、乃愛さんのいる家に帰りづらいけど、大好きな美来の側にいたいからとりあえず今晩は僕達の家にお世話になることにした……というところだろうか。亜依ちゃんは……何も問題が起きないように見守るためかな。
程なくして、美来から2人のご家族から許可が出たというメッセージが届いた。知り合いの女子の家に泊まると言ったのかな。
美来達は今から学校を出るということなので、夕飯を作って待っているとメッセージを送っておいた。
「さてと、何を作ろうかな……」
ちょうど来た電車乗り、夕食を何にするか考える。一人暮らしをしていたこともあって、料理は一応できるけど、4人分のご飯は作ったことがそんなにない。ただ、2人も女の子が泊まりに来るんだから、4人で楽しく食べられるものがいいよね。
「……鍋だな」
パッと思いつくものがそれしかない。大学生のとき、1人暮らしの友人の家に何人かで泊まりに行ったときに食べた鍋が美味しかった思い出がある。よし、そうしよう。まだ暑い日が続くけれど部屋は涼しいし、温かいものは体にいいから。
桜花駅に到着し、家までの間にあるスーパーに入り、タイムセールで安くなっているものを中心に、鍋の材料を購入する。スープは……鶏ガラベースの塩味にしよう。
家に帰り、さっそく調理に取りかかる。多分、寄り道をしなければ、鍋が完成するかどうかってところで美来達が帰ってくると思う。
「思い出すなぁ」
あのときは慣れない中で友達の料理を手伝ったっけ。当時に比べれば、今の方がよっぽど料理はできている。でも、料理上手な美来に比べたらまだまだだな。
そういえば、本格的に美来の学校生活も始まったし、今日みたいに僕が早く帰ってくる日もあるんだよな。家事の分担とか緊急時はどうするとか……生活していく上で一度、しっかりと話し合わなければいけないな。ただ、美来の性格上、基本的に家事は自分に任せてほしいと主張しそうだ。
「こんなことを考えるなんて。本当に僕と美来……同棲しているんだな。学生時代は想像もしなかったなぁ。しかも、同棲相手の美来が天羽女子の生徒を2人も連れてくるなんて。それに、泊まるし……」
考えてみたら、美来……2人を泊めることをよく許したな。有紗さんのような特別な女性でもなければ、桃花ちゃんのように僕や美来の親戚でもないのに。亜依ちゃんはきっと親友として信頼しているから許したのだと分かるけど、玲奈ちゃんの方は……泊める以外にいい方法が思いつかなかったのかな。帰ってきたら、こっそりと訊いてみよう。
「ただいまです」
「何だかいい匂いがしますね」
もう少しで完成というところで、美来と亜依ちゃんの声が聞こえた。
玄関に行ってみると、そこには美来と亜依ちゃんと、ウェーブのかかった茶髪の子がいる。この子が例の神山玲奈ちゃんかな。
「ただいま帰りました、智也さん」
「おかえり、美来。学校お疲れ様」
美来は僕の姿を見たままうっとりとした表情になっている。
「どうしたの?」
「いえ、智也さんのエプロン姿がとても素敵だなと思って」
「あまりこういう姿を見せないもんね。亜依ちゃんと……ええと、こちらの茶髪の女の子が神山玲奈ちゃんかな?」
「は、はいっ! 初めまして、3年3組の神山玲奈と申します。美来ちゃんとの関係は妹の親友の姉といいますか、美来ちゃんの入っている声楽部の部長のクラスメイトといいますか……ううっ、何て言えばいいんだろ」
初対面だからなのか、好意を寄せている美来と付き合っている彼氏だからなのか……玲奈ちゃんはあたふたしているぞ。
「初めてだと緊張しちゃうよね。僕も職場で年上の人と初めて話すときは凄く緊張するよ。……あっ、名前を言っていなかったね。初めまして、氷室智也です。美来から聞いているかもしれないけれど、彼女とは結婚を前提に付き合っています。社会人2年生です。よろしくね」
「よろしくお願いします」
玲奈ちゃんは深く頭を下げる。急に泊まりに来てしまったことで、僕に恐縮しているのかもしれないな。
「智也さん。食欲そそる匂いがしますが、今日の夕ご飯は何ですか?」
「鶏ガラスープの塩鍋だよ。せっかく4人で食べるんだから、そういうものがいいのかなと思って。今日もちょっと暑かったけれど、温かいものは体にいいからね。締めはもちろんラーメンだよ」
「そうなんですか! いいですね。私はかまいませんが、2日連続のラーメンで智也さんは良かったんですか?」
「スープの味を変えれば毎日食べても全然飽きないね。それに、買ってきたスープの袋に締めにはラーメンがオススメって書いてあったからさ」
「なるほどです」
「僕は夕食の仕度をするから、みんなは寝室で着替えてきて」
「分かりました。着替え次第、私も手伝いますね。じゃあ、玲奈先輩に亜依ちゃん、寝室に行きましょう」
僕はキッチンに戻って塩鍋ができているかどうか確認。
「……うん、美味しそうだ」
鍋をリビングに運んで配膳をしているときに、私服に着替えた美来達がリビングにやってきた。美来はもちろん可愛いけれど、亜依ちゃんも玲奈ちゃんも可愛いな。美来と同棲しているとはいえ、まさか女子高生が3人も自宅にいるときが来るとは。
「美味しそうですね。氷室さんは料理もされるのですか?」
「1人暮らししている頃があったからね。美来と同棲し始めてからはあまりやっていないんだけれど。今日みたいな日はもちろん、これからは僕も料理を作ろうって考えてる」
「智也さんのお気持ちはとても嬉しいですが、基本的には私が作りますよ!」
美来は力を込めてそう言った。予想通りのことを言ったので思わず笑ってしまった。
「美来の料理は美味しいからね。そう言ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう。さあ、みんなで鍋を食べよう」
僕と美来が隣同士に座り、テーブルを介して亜依ちゃんと玲奈ちゃんが座った。僕の正面には亜依ちゃん、美来の正面に玲奈ちゃん。
「それじゃ、いただきます」
『いただきます!』
4人で塩鍋を食べ始める。
味見して大丈夫だと思っているけど、3人は美味しいと思ってくれるかな。
「美味しいですよ、智也さん!」
「そうですね。お肉とお野菜の旨みが出ているスープも美味しいです。今までこの時期に鍋は食べたことはあまりなかったですが、体が温まっていいですね」
美来のように、亜依ちゃんも幸せな表情をして食べてくれている。
「玲奈ちゃんはどうかな?」
「……美味しいです。その……最近、色々とあったんですけど、温かくて、美味しくて……心が安まるというか」
そう言うと、微笑んでいる玲奈ちゃんの目には涙が浮かび、やがて頬を伝ってこぼれ落ちていく。
「あれ、なんで涙なんて出ちゃうのかな」
「それはきっと、僕の作った鍋が美味しすぎて感動したからだと思うよ」
「……智也さんらしくないことを言いますね」
「確かに、今みたいなことを言うイメージはないですね」
美来と亜依ちゃんはクスクスと笑っている。僕だって、自分らしくないことを言っていることは分かっているんだよ。それでも実際に言われると恥ずかしいな。
「……ふふっ」
僕の言葉なのか、美来と亜依ちゃんにつられただけなのか……玲奈ちゃんも笑みを見せてくれる。僕の言葉で笑ってくれたんだと思っておこう。そうじゃないと報われない。
「みんなで食べるご飯は美味しいですよね、氷室さん」
「そう言ってくれると嬉しいよ。たくさん食べてね」
「……お言葉に甘えて」
夕食の時間が進んでいくうちに玲奈ちゃんが笑う場面も増えてきて。恋人関係になっても、姉妹のままでも……この笑顔を妹の乃愛ちゃんにも見せられればいいんだけど。
その後、締めのラーメンまで4人で美味しくいただきました。ごちそうさまでした。
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