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続編-螺旋百合-
第9話『彼女は近くにいた』
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――ひとみんのことが好き。だから、ここにやってきた。
桃花ちゃんは真剣な表情をして、はっきりとそう言った。
「ひとみんって……アルバムやホームビデオに出てくる仁実ちゃんのこと?」
「はい、そうです。仁実ちゃんのことを私はそう呼んでいるんです」
「そっか。……リアル百合だね」
有紗さん、凄く食いついているな。とりあえず、有紗さんは女性同士の恋愛に不快感はないらしい。
「女性同士の恋愛もそれは立派な愛の形だと私は思っている。まあ……男性同士の恋愛は色々と理由があってあまりイメージが良くないが」
「……奇遇だね、僕もだよ。きっと理由は同じじゃないかな?」
浅野さんっていう暴走率の高い腐女子の方を知っているから。もちろん、男性同士の恋愛自体に嫌悪感は抱いていない。
「女性同士の恋愛ですか。それも素敵ですよね! 漫画やアニメで女性同士のラブストーリーを何度も見たことがありますよ」
僕も漫画やアニメでガールズラブストーリーの作品に触れたことがあるな。僕は何とも思わなかったけど、女の子の美来もそういった作品が好きなのか。ただ、美来の場合は実際に女の子からも、愛の告白を受けた経験がありそうな気がする。
「……良かった、勇気を出して話してみて」
女性同士の恋愛に偏見を持っているかもしれないと思っていたのかな。僕達が好意的な反応を示したからか、桃花ちゃんは嬉しそうな表情を見せる。
それにしても、桃花ちゃんが仁実ちゃんのことが好きだなんて。昔からたま~に喧嘩はしていたけれど、基本的には仲が良かったから納得かな。
「ただ、気になる点がある。なぜ、結城さんと会うためにここにいるのか。昔、氷室から聞いた話を思い出したが、彼の実家からでも恩田さんの自宅がある地域まで車で3時間はかかるらしいではないか」
羽賀の言う通りだ。この家からだと、桃花ちゃんや仁実ちゃんの家がある地域まで、車で4時間以上かかる。
仁実ちゃんに告白したいことと、僕と久しぶりに会いたいこと。今回の旅行で桃花ちゃんはそれらを一度に果たそうとしている。自然とそう考える理由があるはずだ。
「高校までは仁実ちゃんも私と同じ地元の公立高校に通っていました。でも、大学は……ここからでも行ける紅花女子大学に通っているんです」
「あっ、その大学の名前なら知っています。桜花駅の案内板にも書いてありますよね。確か、家に帰る方とは反対側の出口に降りるんでしたよね」
「ああ、紅花女子大学か。案内板にその大学名が書いてあったような気がする。そういえば、仕事の行き帰りの時間帯に私服を着た若い女性が多いと思っていたけど、それって女子大の最寄り駅だったからなのか」
「……へえ、智也さんは若い女性を見ていたんですか」
美来、口元では笑っているけど、目つきが恐いぞ。
「もちろん、厭らしい意味じゃなくて、どうして多いのかなって純粋に疑問を抱いただけだよ」
「それならいいですよ」
ただ、私服姿の美来がそういった女性達の中に入っていたら、十分に溶け込めるだろうなと思っている。美来は大人っぽい雰囲気があるからな。実際に桃花ちゃんと美来なら、美来の方が年上に見えるし。
「今のみんなの話から考えると、紅花女子大学に進学した仁実ちゃんはこの桜花周辺に住んでいる。だから、桃花ちゃんはひさしぶりに智也君と再会することを兼ねてここに泊まりに来たと」
「はい。お兄ちゃんの実家が東京にあることは知っていて。例の事件のニュースを見て、お兄ちゃんが都内で1人暮らしをしていることも知っていました。無実であることを証明されたので、夏休みになったらお兄ちゃんのところに行きたいと思いました。ただ、美来ちゃんと同棲するために引っ越しをして、引越し先のマンションの最寄り駅が桜花駅であることを知ったときは驚きました。それと同時に、これは運命だとも思いました」
だから、僕の実家から帰ってくる電車の中で、僕と美来が住むマンションの最寄り駅を訊いてきたんだ。それで、僕が桜花駅だと教えたとき、桃花ちゃんは少しの間、黙り込んでいたのか。仁実ちゃんが通っている紅花女子大学の最寄り駅と一緒だったから。
「じゃあ、仁実ちゃんの住んでいる場所も知っているのかな?」
「うん。3月にひとみんが上京するとき、私に引っ越し先の住所を教えてくれたよ。スマホで検索したら、ここからなら歩いて20分くらいで行けるところなの」
「そっか」
それなら、桃花ちゃんが運命だと思うのも当然かな。
「それにしても、まさか仁実ちゃんがここから歩けるところに住んでいたなんて。大学進学のために引っ越したんだから、きっと新しい住まいは駅の反対側にあるんだろうね」
「うん。紅花女子大学のすぐ近くのアパートだよ」
「やっぱり。近い方が色々と楽だもんね」
こんなに近くに住んでいることを知ると、ひさしぶりに仁実ちゃんと一度会ってみたいな。けれど、このタイミングで僕が会いに行ったら彼女に色々と怪しまれそうだ。
「ちなみに、仁実ちゃんは誰かと付き合っているのかしら?」
「それは多分……ないかと思います。大学の女性と付き合っているとは聞いていません。あと、彼女、喫茶店でアルバイトをしているらしいんですけど、バイト先の人と付き合っているという話も聞いていませんね」
「なるほどね。それなら、ひとまずは大丈夫そうか……」
最も懸念しているポイントはクリアかな。仁実ちゃんの性格上、誰かと付き合うことになったら桃花ちゃんには伝えそうな気がするし。
「じゃあ、これからみんなで仁実ちゃんに会いに行くとかはどう?」
「ま、まだ心の準備ができていませんよ! それに、大勢で突然行ったらさすがのひとみんも混乱しちゃうかも……」
「そ、そうね。ごめん、勢いでつい言っちゃったわ」
有紗さんは苦笑い。
気さくで活発な性格が変わっていなくても、ここにいる5人で彼女の家に行ったら仁実ちゃんはきっと混乱するだろうな。しかも、美来と羽賀と有紗さんは一度も会ったことがないから。
「恩田さんは勇気を出して私達に相談してきたのだ。結城さんと会って告白することは、きっと今回とは比べものにならないくらいの勇気が必要だろう。そのためにも、ゆっくり時間をかけるのも一つの手ではないかと思うが」
「羽賀の言う通りだな。だから、桃花ちゃんは何日間ここにいるつもりなのかはっきりと言わなかったんだよね」
「……うん。ごめんね、突然ここにやってきて、何日いるかも分からない状態で。お兄ちゃんには美来ちゃんっていう恋人もいるのに……」
「気にしないでください。桃花さんのおかげで、幼い頃の智也さんをたくさん知ることができましたし。それに、私達は全面的に桃花さんのことをバックアップするつもりです!」
美来は桃花ちゃんの手を握りながら、しっかりとそう言った。美来がそう言ってくれることに僕はとても安心しているよ。
「ありがとう、美来ちゃん。私、美来ちゃんのことを尊敬しているんだ。10年間も好意を抱き続けて、お兄ちゃんに2度もプロポーズしているから」
「そういう風に言われると照れてしまいます」
えへへっ、と美来は文字通りの照れ笑い。
美来の場合はかなり凄いからな。僕への想いの強さはもちろんのこと、8年近くも遠くから見守り続ける行動力。美来のことを尊敬したいという桃花ちゃんの気持ちは尊重するけど、あまり尊敬しすぎない方がいいというのが本音だ。
「遊園地で迷子になって泣いていたあの少女がここまで成長するとは」
「ああ。あのときは僕が美来の手を引っ張ったけど、今はそんな彼女が桃花ちゃんの手を引っ張るようになるなんてね」
「しかし、隠れて結城さんのことをコソコソ見るようアドバイスしないかどうかが心配だ」
これまで美来がやってきたことを羽賀は知っているからな。さすがに警察官だけあって、ストーカーと間違われるようなことをしてほしくないと考えているのだろう。
「そこら辺は……僕が定期的に2人に確認するようにするよ。今は僕が2人の保護者のようなものだし、まずそうなことなら注意する」
「ああ、そうしてくれ」
ただ、今の羽賀を見ていると彼も2人の保護者のように思えるけれど。有紗さんを含めて、大人である僕等は桃花ちゃんと美来を見守っていくことにしよう。
「智也さん、『夜桜Tricks』のBlu-rayはありますか?」
「録画したBlu-rayがあると思うよ」
美来が口にした『夜桜Tricks』というアニメは、女の子同士の青春ラブストーリーとして評価が高い作品だ。ほんわかとした雰囲気が基本だけど、しっかりと恋愛ドラマも描かれている。まずはこの作品を観て、桃花ちゃんにイメージを持ってもらうのかな。この作品はハッピーエンドだし。
「あっ、それならあたしも観たことある。2、3年くらい前にやっていたよね」
「有紗さんも観たことがあるんですね」
テレビのすぐ側にあるBlu-rayのラックを漁ってみると……あった。
「これだよ、美来」
「ありがとうございます」
「作品の名前は聞いたことがあるから、私もこれを機に一度観てみることにしよう」
「……羽賀、意外にお前もアニメが好きだよな」
「ああ。小学生の頃は、氷室の家で岡村と3人でよくテレビアニメを観ていただろう。それに、昨日は金曜に公開が始まったアニメ映画『あなたの名は。』を観に行ったのだ。とても美しい作品だった。氷室達にオススメしたい」
「そうなのか。じゃあ、近いうちに観に行くよ」
普段はクールな羽賀がちょっとドヤ顔で話すなんて。相当良かったんだろう。
ただ、映画っていいよなぁ。桜花駅の近くにシネコンがあるから、今度、美来と一緒に観に行くか。
「まだお昼前ですし、今からなら夕方までに全話観ることができますね」
「じゃあ、今日は鑑賞会だね、美来ちゃん」
この『夜桜Tricks』で、桃花ちゃんに何かしらのいい影響をもたらすことができれば何よりだけれど。
それよりも心配なのは、この作品には随所に口づけのシーンがあるということ。これをみんなで観たときにどんな空気になるか。
美来、有紗さん、桃花ちゃん、羽賀は『夜桜Tricks』を観ている中、僕は桃花ちゃんの持ってきてくれたアルバムを見て仁実ちゃんのことを思い出すのであった。
桃花ちゃんは真剣な表情をして、はっきりとそう言った。
「ひとみんって……アルバムやホームビデオに出てくる仁実ちゃんのこと?」
「はい、そうです。仁実ちゃんのことを私はそう呼んでいるんです」
「そっか。……リアル百合だね」
有紗さん、凄く食いついているな。とりあえず、有紗さんは女性同士の恋愛に不快感はないらしい。
「女性同士の恋愛もそれは立派な愛の形だと私は思っている。まあ……男性同士の恋愛は色々と理由があってあまりイメージが良くないが」
「……奇遇だね、僕もだよ。きっと理由は同じじゃないかな?」
浅野さんっていう暴走率の高い腐女子の方を知っているから。もちろん、男性同士の恋愛自体に嫌悪感は抱いていない。
「女性同士の恋愛ですか。それも素敵ですよね! 漫画やアニメで女性同士のラブストーリーを何度も見たことがありますよ」
僕も漫画やアニメでガールズラブストーリーの作品に触れたことがあるな。僕は何とも思わなかったけど、女の子の美来もそういった作品が好きなのか。ただ、美来の場合は実際に女の子からも、愛の告白を受けた経験がありそうな気がする。
「……良かった、勇気を出して話してみて」
女性同士の恋愛に偏見を持っているかもしれないと思っていたのかな。僕達が好意的な反応を示したからか、桃花ちゃんは嬉しそうな表情を見せる。
それにしても、桃花ちゃんが仁実ちゃんのことが好きだなんて。昔からたま~に喧嘩はしていたけれど、基本的には仲が良かったから納得かな。
「ただ、気になる点がある。なぜ、結城さんと会うためにここにいるのか。昔、氷室から聞いた話を思い出したが、彼の実家からでも恩田さんの自宅がある地域まで車で3時間はかかるらしいではないか」
羽賀の言う通りだ。この家からだと、桃花ちゃんや仁実ちゃんの家がある地域まで、車で4時間以上かかる。
仁実ちゃんに告白したいことと、僕と久しぶりに会いたいこと。今回の旅行で桃花ちゃんはそれらを一度に果たそうとしている。自然とそう考える理由があるはずだ。
「高校までは仁実ちゃんも私と同じ地元の公立高校に通っていました。でも、大学は……ここからでも行ける紅花女子大学に通っているんです」
「あっ、その大学の名前なら知っています。桜花駅の案内板にも書いてありますよね。確か、家に帰る方とは反対側の出口に降りるんでしたよね」
「ああ、紅花女子大学か。案内板にその大学名が書いてあったような気がする。そういえば、仕事の行き帰りの時間帯に私服を着た若い女性が多いと思っていたけど、それって女子大の最寄り駅だったからなのか」
「……へえ、智也さんは若い女性を見ていたんですか」
美来、口元では笑っているけど、目つきが恐いぞ。
「もちろん、厭らしい意味じゃなくて、どうして多いのかなって純粋に疑問を抱いただけだよ」
「それならいいですよ」
ただ、私服姿の美来がそういった女性達の中に入っていたら、十分に溶け込めるだろうなと思っている。美来は大人っぽい雰囲気があるからな。実際に桃花ちゃんと美来なら、美来の方が年上に見えるし。
「今のみんなの話から考えると、紅花女子大学に進学した仁実ちゃんはこの桜花周辺に住んでいる。だから、桃花ちゃんはひさしぶりに智也君と再会することを兼ねてここに泊まりに来たと」
「はい。お兄ちゃんの実家が東京にあることは知っていて。例の事件のニュースを見て、お兄ちゃんが都内で1人暮らしをしていることも知っていました。無実であることを証明されたので、夏休みになったらお兄ちゃんのところに行きたいと思いました。ただ、美来ちゃんと同棲するために引っ越しをして、引越し先のマンションの最寄り駅が桜花駅であることを知ったときは驚きました。それと同時に、これは運命だとも思いました」
だから、僕の実家から帰ってくる電車の中で、僕と美来が住むマンションの最寄り駅を訊いてきたんだ。それで、僕が桜花駅だと教えたとき、桃花ちゃんは少しの間、黙り込んでいたのか。仁実ちゃんが通っている紅花女子大学の最寄り駅と一緒だったから。
「じゃあ、仁実ちゃんの住んでいる場所も知っているのかな?」
「うん。3月にひとみんが上京するとき、私に引っ越し先の住所を教えてくれたよ。スマホで検索したら、ここからなら歩いて20分くらいで行けるところなの」
「そっか」
それなら、桃花ちゃんが運命だと思うのも当然かな。
「それにしても、まさか仁実ちゃんがここから歩けるところに住んでいたなんて。大学進学のために引っ越したんだから、きっと新しい住まいは駅の反対側にあるんだろうね」
「うん。紅花女子大学のすぐ近くのアパートだよ」
「やっぱり。近い方が色々と楽だもんね」
こんなに近くに住んでいることを知ると、ひさしぶりに仁実ちゃんと一度会ってみたいな。けれど、このタイミングで僕が会いに行ったら彼女に色々と怪しまれそうだ。
「ちなみに、仁実ちゃんは誰かと付き合っているのかしら?」
「それは多分……ないかと思います。大学の女性と付き合っているとは聞いていません。あと、彼女、喫茶店でアルバイトをしているらしいんですけど、バイト先の人と付き合っているという話も聞いていませんね」
「なるほどね。それなら、ひとまずは大丈夫そうか……」
最も懸念しているポイントはクリアかな。仁実ちゃんの性格上、誰かと付き合うことになったら桃花ちゃんには伝えそうな気がするし。
「じゃあ、これからみんなで仁実ちゃんに会いに行くとかはどう?」
「ま、まだ心の準備ができていませんよ! それに、大勢で突然行ったらさすがのひとみんも混乱しちゃうかも……」
「そ、そうね。ごめん、勢いでつい言っちゃったわ」
有紗さんは苦笑い。
気さくで活発な性格が変わっていなくても、ここにいる5人で彼女の家に行ったら仁実ちゃんはきっと混乱するだろうな。しかも、美来と羽賀と有紗さんは一度も会ったことがないから。
「恩田さんは勇気を出して私達に相談してきたのだ。結城さんと会って告白することは、きっと今回とは比べものにならないくらいの勇気が必要だろう。そのためにも、ゆっくり時間をかけるのも一つの手ではないかと思うが」
「羽賀の言う通りだな。だから、桃花ちゃんは何日間ここにいるつもりなのかはっきりと言わなかったんだよね」
「……うん。ごめんね、突然ここにやってきて、何日いるかも分からない状態で。お兄ちゃんには美来ちゃんっていう恋人もいるのに……」
「気にしないでください。桃花さんのおかげで、幼い頃の智也さんをたくさん知ることができましたし。それに、私達は全面的に桃花さんのことをバックアップするつもりです!」
美来は桃花ちゃんの手を握りながら、しっかりとそう言った。美来がそう言ってくれることに僕はとても安心しているよ。
「ありがとう、美来ちゃん。私、美来ちゃんのことを尊敬しているんだ。10年間も好意を抱き続けて、お兄ちゃんに2度もプロポーズしているから」
「そういう風に言われると照れてしまいます」
えへへっ、と美来は文字通りの照れ笑い。
美来の場合はかなり凄いからな。僕への想いの強さはもちろんのこと、8年近くも遠くから見守り続ける行動力。美来のことを尊敬したいという桃花ちゃんの気持ちは尊重するけど、あまり尊敬しすぎない方がいいというのが本音だ。
「遊園地で迷子になって泣いていたあの少女がここまで成長するとは」
「ああ。あのときは僕が美来の手を引っ張ったけど、今はそんな彼女が桃花ちゃんの手を引っ張るようになるなんてね」
「しかし、隠れて結城さんのことをコソコソ見るようアドバイスしないかどうかが心配だ」
これまで美来がやってきたことを羽賀は知っているからな。さすがに警察官だけあって、ストーカーと間違われるようなことをしてほしくないと考えているのだろう。
「そこら辺は……僕が定期的に2人に確認するようにするよ。今は僕が2人の保護者のようなものだし、まずそうなことなら注意する」
「ああ、そうしてくれ」
ただ、今の羽賀を見ていると彼も2人の保護者のように思えるけれど。有紗さんを含めて、大人である僕等は桃花ちゃんと美来を見守っていくことにしよう。
「智也さん、『夜桜Tricks』のBlu-rayはありますか?」
「録画したBlu-rayがあると思うよ」
美来が口にした『夜桜Tricks』というアニメは、女の子同士の青春ラブストーリーとして評価が高い作品だ。ほんわかとした雰囲気が基本だけど、しっかりと恋愛ドラマも描かれている。まずはこの作品を観て、桃花ちゃんにイメージを持ってもらうのかな。この作品はハッピーエンドだし。
「あっ、それならあたしも観たことある。2、3年くらい前にやっていたよね」
「有紗さんも観たことがあるんですね」
テレビのすぐ側にあるBlu-rayのラックを漁ってみると……あった。
「これだよ、美来」
「ありがとうございます」
「作品の名前は聞いたことがあるから、私もこれを機に一度観てみることにしよう」
「……羽賀、意外にお前もアニメが好きだよな」
「ああ。小学生の頃は、氷室の家で岡村と3人でよくテレビアニメを観ていただろう。それに、昨日は金曜に公開が始まったアニメ映画『あなたの名は。』を観に行ったのだ。とても美しい作品だった。氷室達にオススメしたい」
「そうなのか。じゃあ、近いうちに観に行くよ」
普段はクールな羽賀がちょっとドヤ顔で話すなんて。相当良かったんだろう。
ただ、映画っていいよなぁ。桜花駅の近くにシネコンがあるから、今度、美来と一緒に観に行くか。
「まだお昼前ですし、今からなら夕方までに全話観ることができますね」
「じゃあ、今日は鑑賞会だね、美来ちゃん」
この『夜桜Tricks』で、桃花ちゃんに何かしらのいい影響をもたらすことができれば何よりだけれど。
それよりも心配なのは、この作品には随所に口づけのシーンがあるということ。これをみんなで観たときにどんな空気になるか。
美来、有紗さん、桃花ちゃん、羽賀は『夜桜Tricks』を観ている中、僕は桃花ちゃんの持ってきてくれたアルバムを見て仁実ちゃんのことを思い出すのであった。
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