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続編-螺旋百合-
第2話『実家に帰っちゃいます!』
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8月27日、土曜日。
今日も天気は快晴。絶好の帰省日和だ。
今日は僕の両親に旅行のお土産を渡すために、美来と一緒に僕の実家へと帰る予定。また、実家で僕の従妹の桃花ちゃんと再会することになっている。
「智也さん、御両親に渡すお土産は持ちましたね?」
「うん、ちゃんと持ったよ」
「それでは、出発しましょう!」
「そうだね」
僕の実家に行くだけなんだけど、僕と一緒にお出かけすることが嬉しいのか美来はとても張り切っているな。
午前10時過ぎ。
実家に向けて、僕は美来と一緒に自宅を出発する。
新居に引っ越したことで実家まで遠くなってしまったものの、それでも電車を乗り継いで1時間半ほどで行ける。この時間に家を出発したのは、実家で桃花ちゃんと5人でお昼ご飯を食べる予定になっているからだ。
「今日もいい天気ですね。まさにお出かけ日和です」
「ははっ、僕も同じことを思っていたよ。でも、一番暑い時期と比べればちょっとはマシになったよね」
「ですね。風が爽やかで気持ち良くなってきました」
ふふっ、とノースリーブの水色のワンピース姿の美来は微笑んでいる。制服を着ているともちろん高校生に見えるけど、私服姿だと、スタイルがいいためか可愛らしい大学生や若手の社会人の女の子と一緒にいる感じだ。
「どうしたんですか、私のことをじっと見ちゃって。前を見ないと危ないですよ」
「そうだね。ワンピース服姿の美来がとても可愛くてさ」
「ありがとうございます。その……桃花さんと再会されるということで、智也さんの気持ちが私の側から離れないように頑張ってみました」
「……なるほどね」
昨日の夜、お風呂やベッドでたっぷりと愛し合ったのに。
アルバムに挟んであった写真に写っていた幼い頃の桃花ちゃんはとても可愛かったし、実際に会うまで油断はできないと思っているのかも。
「それに、智也さんは腋フェチですからね。それもあって、今日はノースリーブにしたんです。いつでも堪能してくれていいですからね?」
「自宅で2人きりのときしか堪能するつもりはないよ。あと、腋フェチとかそういうことは外で言わないようにしようね、恥ずかしいから。もちろん、両親や桃花ちゃんの前でも」
僕が腋フェチであることは旅行に行ったときに分かったことだ。旅先でお酒に酔っている中。美来と色々なことをしているときに発覚したそうで。それ以降、美来はノースリーブの服を着ることが多くなった。美来の腋は魅力的なのは事実だけど。
「分かっていますって。このことは私達と有紗さんくらいしか知らない秘密ですから」
「是非、そうしておいてくれると嬉しいよ」
そんなことを話していると最寄り駅である桜花駅に到着する。
土曜日の午前中なのもあってか、年代や性別を問わず結構多くの人がいる。さすがは快速急行も停車する駅周辺だけのことはある。
「そういえば、引っ越してから美来と一緒にここら辺をあまり散策できていないから、今回のことが落ち着いたら……2人でデートしようか」
「いいですね! 色々なお店がありますもんね。そういえば、天羽女子でできたクラスメイトの友人の1人が、この桜花駅の近くに住んでいると言っていました。新学期になったらその子と一緒に高校に行くつもりです」
「そうなんだね。でも、最寄り駅が一緒の友達がいるのは心強いね。僕の場合は地元の公立校で、羽賀や岡村も一緒だったから、いつも3人で登校してたな……」
「当時からとても仲がいいんですよね。私、そういうのに憧れていたんです」
「そっか」
同じ最寄り駅の友人がいるというのは心強いよな。
僕と美来は桜花駅から2つの路線を使って、僕の実家の最寄り駅まで向かう。
乗り継ぎが上手くいったので、実家の最寄り駅までは1時間ちょっとで到着。
「思ったよりも早く着きましたね」
「そうだね、乗り換えにあまり時間がかからなかったからかな」
しかも、土曜日だから乗客もあまり多くなくてとても快適だった。通勤するときもこのくらいに空いていれば最高なんだけれど。
美来と付き合うようになってから何度か実家に帰っているので、地元のこの風景に懐かしさはあまりない。ただ、去年の夏までずっと暮らしてきた街なので、地元に帰ってきたことの安心感はある。
最寄り駅から10分ほど歩いて僕の実家に到着した。
「ただいま~」
「お邪魔します」
玄関を見ると、女子高生や女子大生が穿いているような靴は見当たらないな。桃花ちゃんはまだ来ていないのかな。
「あら、智也に美来ちゃん。おかえりなさい」
「智也に美来さん、よく来たね。結構早かったな」
「上手く急行列車に乗り換えられたからね。そういえば、桃花ちゃんは?」
「まだ来てないな。正午くらいに来るらしい」
「そっか」
腕時計を見て時間を確認すると、今は11時半ちょっと前か。桃花ちゃんが来るまでゆっくりしようかな。
「にゃ~」
「おっ、親方じゃないか」
よしよし、と頭を撫でる。
親方というのは相撲の親方ではなく、家で飼っている黒いオス猫の名前。とても大きな体をしていて、落ち着いた性格だから僕が親方と名付けた。
数年くらい前から、野良猫として家の庭にくつろぐことが多かったけど、僕が1人暮らしをしてから家の中に入るようになり、そのまま飼うことになったそうだ。
「今日も親方さんは可愛いですね」
「にゃ~」
ゴロン、と美来の目の前で親方はお腹を見せる。どうやら、僕よりも美来の方がお気に入りのようだ。美来はそんな親方のお腹を撫でている。
「智也、美来ちゃん。とりあえずはリビングでゆっくりしなさい」
「ありがとうございます」
「あっ、そうだ。これ……旅行のお土産。温泉まんじゅうとゴーフレット。あと、父さんには地酒も買ってきた」
「おっ、地酒まであるとは嬉しいな」
「ホテルで呑んできたけど、冷やすと結構美味しいよ」
「へえ、そうなのか。じゃあ、今夜はこの冷酒を呑むことにするかな」
そう言うと、父さんはお土産を持ってリビングの方に入っていった。
「ここに来る度に思いますが、智也さんの御両親って若々しいですよね」
「息子から見ても、2人とも50歳過ぎには見えないかな」
ただ、美来の御両親を見てからは、さすがにうちの両親は年齢相応の落ち着きはあるのかなと思うようになった。それは美来の御両親がかなり若々しいというのもあるけど。
「さあ、親方さんも一緒にリビングに行きましょうね」
「ごろにゃぁん」
よいしょ、と美来は親方のことを抱き上げる。こうして見てみると本当に大きな猫だ。親方っていう名前がしっくりくるよ。あと、美来に抱かれて幸せそうだな、お前。
リビングに入ると、テーブルの上には僕と美来の分の紅茶が淹れられていた。俺と美来はソファーに隣同士に座る。
「そうだ、せっかくだから智也と美来さんが買ってきたゴーフレットでも食うか」
「あと1時間もすればお昼ご飯ですよ」
「いいじゃないか。こういうお土産は早く食べる方が美味しいんだ」
「……しょうがないわね。じゃあ、私も食べようかしら」
何だ、結局母さんも食べるのか。
僕らは旅行のお土産で買ってきた抹茶ゴーフレットを食べる。旅行で行ったホテルの地域はお茶が名産で、そこで飲んだお茶が美味しかったことを、ゴーフレットを食べながら思い出した。
あと、旅行中での美来とのことも。本当に……あのときの美来はいつも以上に可愛らしくて、艶やかだった。
「どうしたんだ、智也。顔が赤くなっているけど。まだ、風邪が治ってないのか?」
「ううん、何でもないよ。ただ、外が暑かったから」
「そうか。……このゴーフレット美味いな」
「そうね」
「そう言ってくれて良かったよ」
買ってきて良かったなと思えるし。
「話は変わるが、新しい会社はどうだ? もしかしてキツい仕事なのか? 体調も崩したし」
「さすがに2ヶ月近く経ったから慣れたよ。それに、担当している仕事も、前の会社にいたときに関わっていたプロジェクトだからやりやすい。前と変わらず残業もあまりないから。あと、給料も前よりもかなりいいし、福利厚生も色々と手厚いからね。あとは美来との新生活が楽しいから」
「そうか。それなら良かった。無理はするなよ。お前、たまに頑張りすぎて体調崩すことがあるから。美来さん、こんな息子ですが、末永くお願いします」
「もりろんです、お義父様!」
「……聞いたか母さん。お義父様だってよ!」
いい響きだな! と父さんは喜んでいる。そういう呼び方をされることは今までなかったので単に嬉しいんだろう。そんな父さんに美来も嬉しそうだ。
「しっかし、女性の話なんて全然なかった智也が、こうして結婚を前提に付き合う彼女ができるとはな。高校時代まで、羽賀君や岡村君と一緒にいることが多かったのが影響しているんだろうが」
それはもちろんあるけど、この8年近く美来がずっとストーカー……じゃなくて、陰で見守ってきたことも大きく影響していると思う。
「でも、智也は桃花ちゃんのことをよく面倒を見ていたわよね。あとは桃花ちゃんの友達の仁実ちゃんだっけ」
「そうだね。桃花ちゃんの家は母さんの実家から近かったし、母さんの方では歳の近い親戚は僕しかいなかったからね」
「ということは、桃花さんも一人っ子なのですか?」
「そうなの。だから2人は仲がいいから、将来結婚させちゃおっかって妹と私で話したくらいよ」
「い、いとこ同士なら結婚はできますもんね……」
どうやら、今の母さんの話は衝撃的だったらしく、美来はがっかりとしている。自分以外に僕と結婚の話が出ていたのが信じられなかったのだろう。
「当然、そのことは1回しか話していないし。もちろん、美来ちゃんの方が智也にお似合いだと思うわ!」
「……そう言ってくださって嬉しいです」
美来、目力が凄いな。もしかしたら、今の母さんの話で桃花ちゃんのことを強力な恋のライバルだと思ったのかもしれない。
――ピーンポーン。
そのとき、インターホンが鳴った。もしかして、桃花ちゃんかな。時刻も正午近くになっているし。
「きっと、桃花ちゃんだと思うからあなたが行ってきなさい、智也」
「分かった」
「私も一緒に行きます!」
僕と桃花ちゃんを2人きりにはできないってことかな。
美来と一緒に玄関まで向かい、僕が玄関の扉を開けると、そこにはロングスカートとブラウス姿の女の子が立っていた。桃色のショルダーバッグをたすき掛けしている。彼女の横には桃色のスーツケースが。桃花という名前だけあって、桃色にこだわりでもあるのかな。
服装や体つきは変わったけど、セミロングの黒髪や優しげな笑みを浮かべた可愛らしい顔は全然変わっていない。だから、この女性が誰なのか一瞬にして分かった。
「桃花ちゃん……」
「……ひさしぶりだね。智也お兄ちゃん」
僕の名前を口にすると、桃花ちゃんはとても嬉しそうな笑みを浮かべて、僕のことをぎゅっと抱きしめてくるのであった。
今日も天気は快晴。絶好の帰省日和だ。
今日は僕の両親に旅行のお土産を渡すために、美来と一緒に僕の実家へと帰る予定。また、実家で僕の従妹の桃花ちゃんと再会することになっている。
「智也さん、御両親に渡すお土産は持ちましたね?」
「うん、ちゃんと持ったよ」
「それでは、出発しましょう!」
「そうだね」
僕の実家に行くだけなんだけど、僕と一緒にお出かけすることが嬉しいのか美来はとても張り切っているな。
午前10時過ぎ。
実家に向けて、僕は美来と一緒に自宅を出発する。
新居に引っ越したことで実家まで遠くなってしまったものの、それでも電車を乗り継いで1時間半ほどで行ける。この時間に家を出発したのは、実家で桃花ちゃんと5人でお昼ご飯を食べる予定になっているからだ。
「今日もいい天気ですね。まさにお出かけ日和です」
「ははっ、僕も同じことを思っていたよ。でも、一番暑い時期と比べればちょっとはマシになったよね」
「ですね。風が爽やかで気持ち良くなってきました」
ふふっ、とノースリーブの水色のワンピース姿の美来は微笑んでいる。制服を着ているともちろん高校生に見えるけど、私服姿だと、スタイルがいいためか可愛らしい大学生や若手の社会人の女の子と一緒にいる感じだ。
「どうしたんですか、私のことをじっと見ちゃって。前を見ないと危ないですよ」
「そうだね。ワンピース服姿の美来がとても可愛くてさ」
「ありがとうございます。その……桃花さんと再会されるということで、智也さんの気持ちが私の側から離れないように頑張ってみました」
「……なるほどね」
昨日の夜、お風呂やベッドでたっぷりと愛し合ったのに。
アルバムに挟んであった写真に写っていた幼い頃の桃花ちゃんはとても可愛かったし、実際に会うまで油断はできないと思っているのかも。
「それに、智也さんは腋フェチですからね。それもあって、今日はノースリーブにしたんです。いつでも堪能してくれていいですからね?」
「自宅で2人きりのときしか堪能するつもりはないよ。あと、腋フェチとかそういうことは外で言わないようにしようね、恥ずかしいから。もちろん、両親や桃花ちゃんの前でも」
僕が腋フェチであることは旅行に行ったときに分かったことだ。旅先でお酒に酔っている中。美来と色々なことをしているときに発覚したそうで。それ以降、美来はノースリーブの服を着ることが多くなった。美来の腋は魅力的なのは事実だけど。
「分かっていますって。このことは私達と有紗さんくらいしか知らない秘密ですから」
「是非、そうしておいてくれると嬉しいよ」
そんなことを話していると最寄り駅である桜花駅に到着する。
土曜日の午前中なのもあってか、年代や性別を問わず結構多くの人がいる。さすがは快速急行も停車する駅周辺だけのことはある。
「そういえば、引っ越してから美来と一緒にここら辺をあまり散策できていないから、今回のことが落ち着いたら……2人でデートしようか」
「いいですね! 色々なお店がありますもんね。そういえば、天羽女子でできたクラスメイトの友人の1人が、この桜花駅の近くに住んでいると言っていました。新学期になったらその子と一緒に高校に行くつもりです」
「そうなんだね。でも、最寄り駅が一緒の友達がいるのは心強いね。僕の場合は地元の公立校で、羽賀や岡村も一緒だったから、いつも3人で登校してたな……」
「当時からとても仲がいいんですよね。私、そういうのに憧れていたんです」
「そっか」
同じ最寄り駅の友人がいるというのは心強いよな。
僕と美来は桜花駅から2つの路線を使って、僕の実家の最寄り駅まで向かう。
乗り継ぎが上手くいったので、実家の最寄り駅までは1時間ちょっとで到着。
「思ったよりも早く着きましたね」
「そうだね、乗り換えにあまり時間がかからなかったからかな」
しかも、土曜日だから乗客もあまり多くなくてとても快適だった。通勤するときもこのくらいに空いていれば最高なんだけれど。
美来と付き合うようになってから何度か実家に帰っているので、地元のこの風景に懐かしさはあまりない。ただ、去年の夏までずっと暮らしてきた街なので、地元に帰ってきたことの安心感はある。
最寄り駅から10分ほど歩いて僕の実家に到着した。
「ただいま~」
「お邪魔します」
玄関を見ると、女子高生や女子大生が穿いているような靴は見当たらないな。桃花ちゃんはまだ来ていないのかな。
「あら、智也に美来ちゃん。おかえりなさい」
「智也に美来さん、よく来たね。結構早かったな」
「上手く急行列車に乗り換えられたからね。そういえば、桃花ちゃんは?」
「まだ来てないな。正午くらいに来るらしい」
「そっか」
腕時計を見て時間を確認すると、今は11時半ちょっと前か。桃花ちゃんが来るまでゆっくりしようかな。
「にゃ~」
「おっ、親方じゃないか」
よしよし、と頭を撫でる。
親方というのは相撲の親方ではなく、家で飼っている黒いオス猫の名前。とても大きな体をしていて、落ち着いた性格だから僕が親方と名付けた。
数年くらい前から、野良猫として家の庭にくつろぐことが多かったけど、僕が1人暮らしをしてから家の中に入るようになり、そのまま飼うことになったそうだ。
「今日も親方さんは可愛いですね」
「にゃ~」
ゴロン、と美来の目の前で親方はお腹を見せる。どうやら、僕よりも美来の方がお気に入りのようだ。美来はそんな親方のお腹を撫でている。
「智也、美来ちゃん。とりあえずはリビングでゆっくりしなさい」
「ありがとうございます」
「あっ、そうだ。これ……旅行のお土産。温泉まんじゅうとゴーフレット。あと、父さんには地酒も買ってきた」
「おっ、地酒まであるとは嬉しいな」
「ホテルで呑んできたけど、冷やすと結構美味しいよ」
「へえ、そうなのか。じゃあ、今夜はこの冷酒を呑むことにするかな」
そう言うと、父さんはお土産を持ってリビングの方に入っていった。
「ここに来る度に思いますが、智也さんの御両親って若々しいですよね」
「息子から見ても、2人とも50歳過ぎには見えないかな」
ただ、美来の御両親を見てからは、さすがにうちの両親は年齢相応の落ち着きはあるのかなと思うようになった。それは美来の御両親がかなり若々しいというのもあるけど。
「さあ、親方さんも一緒にリビングに行きましょうね」
「ごろにゃぁん」
よいしょ、と美来は親方のことを抱き上げる。こうして見てみると本当に大きな猫だ。親方っていう名前がしっくりくるよ。あと、美来に抱かれて幸せそうだな、お前。
リビングに入ると、テーブルの上には僕と美来の分の紅茶が淹れられていた。俺と美来はソファーに隣同士に座る。
「そうだ、せっかくだから智也と美来さんが買ってきたゴーフレットでも食うか」
「あと1時間もすればお昼ご飯ですよ」
「いいじゃないか。こういうお土産は早く食べる方が美味しいんだ」
「……しょうがないわね。じゃあ、私も食べようかしら」
何だ、結局母さんも食べるのか。
僕らは旅行のお土産で買ってきた抹茶ゴーフレットを食べる。旅行で行ったホテルの地域はお茶が名産で、そこで飲んだお茶が美味しかったことを、ゴーフレットを食べながら思い出した。
あと、旅行中での美来とのことも。本当に……あのときの美来はいつも以上に可愛らしくて、艶やかだった。
「どうしたんだ、智也。顔が赤くなっているけど。まだ、風邪が治ってないのか?」
「ううん、何でもないよ。ただ、外が暑かったから」
「そうか。……このゴーフレット美味いな」
「そうね」
「そう言ってくれて良かったよ」
買ってきて良かったなと思えるし。
「話は変わるが、新しい会社はどうだ? もしかしてキツい仕事なのか? 体調も崩したし」
「さすがに2ヶ月近く経ったから慣れたよ。それに、担当している仕事も、前の会社にいたときに関わっていたプロジェクトだからやりやすい。前と変わらず残業もあまりないから。あと、給料も前よりもかなりいいし、福利厚生も色々と手厚いからね。あとは美来との新生活が楽しいから」
「そうか。それなら良かった。無理はするなよ。お前、たまに頑張りすぎて体調崩すことがあるから。美来さん、こんな息子ですが、末永くお願いします」
「もりろんです、お義父様!」
「……聞いたか母さん。お義父様だってよ!」
いい響きだな! と父さんは喜んでいる。そういう呼び方をされることは今までなかったので単に嬉しいんだろう。そんな父さんに美来も嬉しそうだ。
「しっかし、女性の話なんて全然なかった智也が、こうして結婚を前提に付き合う彼女ができるとはな。高校時代まで、羽賀君や岡村君と一緒にいることが多かったのが影響しているんだろうが」
それはもちろんあるけど、この8年近く美来がずっとストーカー……じゃなくて、陰で見守ってきたことも大きく影響していると思う。
「でも、智也は桃花ちゃんのことをよく面倒を見ていたわよね。あとは桃花ちゃんの友達の仁実ちゃんだっけ」
「そうだね。桃花ちゃんの家は母さんの実家から近かったし、母さんの方では歳の近い親戚は僕しかいなかったからね」
「ということは、桃花さんも一人っ子なのですか?」
「そうなの。だから2人は仲がいいから、将来結婚させちゃおっかって妹と私で話したくらいよ」
「い、いとこ同士なら結婚はできますもんね……」
どうやら、今の母さんの話は衝撃的だったらしく、美来はがっかりとしている。自分以外に僕と結婚の話が出ていたのが信じられなかったのだろう。
「当然、そのことは1回しか話していないし。もちろん、美来ちゃんの方が智也にお似合いだと思うわ!」
「……そう言ってくださって嬉しいです」
美来、目力が凄いな。もしかしたら、今の母さんの話で桃花ちゃんのことを強力な恋のライバルだと思ったのかもしれない。
――ピーンポーン。
そのとき、インターホンが鳴った。もしかして、桃花ちゃんかな。時刻も正午近くになっているし。
「きっと、桃花ちゃんだと思うからあなたが行ってきなさい、智也」
「分かった」
「私も一緒に行きます!」
僕と桃花ちゃんを2人きりにはできないってことかな。
美来と一緒に玄関まで向かい、僕が玄関の扉を開けると、そこにはロングスカートとブラウス姿の女の子が立っていた。桃色のショルダーバッグをたすき掛けしている。彼女の横には桃色のスーツケースが。桃花という名前だけあって、桃色にこだわりでもあるのかな。
服装や体つきは変わったけど、セミロングの黒髪や優しげな笑みを浮かべた可愛らしい顔は全然変わっていない。だから、この女性が誰なのか一瞬にして分かった。
「桃花ちゃん……」
「……ひさしぶりだね。智也お兄ちゃん」
僕の名前を口にすると、桃花ちゃんはとても嬉しそうな笑みを浮かべて、僕のことをぎゅっと抱きしめてくるのであった。
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