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特別編-ホームでシック-
中編
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「う~ん……」
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中が薄暗くなっていた。夕方なのか、朝なのか分からないけれど、お昼ご飯のお粥を食べてからぐっすりと眠ることができたんだな。
「……おっ」
体を起こすと、思った以上に体が軽くなっていた。熱っぽくないし、だるさもすっかりと消えている。まるで風邪なんて引いていなかったかのように。
「へえ、薬が凄く効いたんだな」
お昼ご飯のお粥を食べてすぐに眠ることができたし、やっぱり医者から処方された薬はいいんだな。治って良かった。
「あっ、智也さん。起きたんですね。おはようございます」
寝室の扉から、エプロン姿の美来がこちらを覗いていた。そうか、もう翌日の朝だから美来の服装が違うのか。
「朝まで寝ちゃったんだね、僕」
「えっ? 普通に寝ていましたけど」
美来がきょとんとしているのがちょっと気になるけど、きっと僕の体の治りが早かったからだろう。昨日、僕はひどく体調を崩したから。
「美来、今、朝の何時かな?」
「8時過ぎですけど」
「ええっ! じゃあ、早く会社に行かないと」
そんな時間だったのか。美来はきっと僕の体調がまだ悪いと思っていたから起こさなかったんだろうな。
「ちょっと待ってください! 智也さん、今日は土曜日ですよ?」
「……えっ?」
体調を崩したのは火曜日だから、僕は……4日近くも眠り続けていたのか。あの薬……どれだけ強かったんだ? それとも、薬が効きすぎる体質なのかな。
まあ、後で……勝沼さんには連絡しておこう。ご心配をお掛けしました、って。
寝間着から私服に着替えて、リビングに行くとテーブルには3人分の朝食があった。
「朝食が3人分あるけど、どうしたの?」
「有紗さんの分ですけど」
「……そっか」
どうして、美来……不思議そうな表情をするんだろう。もしかして、お見舞いに来るのは有紗さんに決まっているでしょって言いたいのかな。
「あれ、有紗さんがいないみたいだけど」
「今、コンビニにパンを買いに行ってもらっているんです」
「……そっか」
病み上がりだけれど、いつもと変わらないからパンでも大丈夫か。しかし、有紗さんにパンを買いに行かせちゃって良かったのかな。
それにしても、今日はいい天気だな。元気だけれど、今日は大事を取って家でゆっくりするのが一番いいかな。
「それにしてもよく寝たよ。4日近くも寝ていたなんて」
「何を言っているんですか、智也さん。昨日、有紗さんと一緒に会社から帰ってきて、毎週金曜日恒例でコンビニスイーツを一緒に食べたじゃないですか」
「……えっ?」
毎週金曜日にコンビニスイーツを食べることは習慣になっているけど、昨日の記憶なんてないぞ。最後に覚えているのは、火曜日のお昼に美来にお粥を食べさせてもらって、薬を飲んで寝たってことだ。
美来や有紗さんの巧妙ないたずらかもしれないと思って、スマートフォンを見てみると日付は8月27日の土曜日だ。ということは、僕は4日近く寝ていたのか。それとも記憶がないだけで、美来が言うように昨日は仕事に行って、家に帰ったら有紗さんと3人でスイーツを食べたのかな。
「ただいまー、美来ちゃん。パン買ってきたよ」
「ありがとうございます、有紗さん」
「もう、美来ちゃんったら。あたしの親になったんだし、そろそろ敬語を使わなくていいもいいんじゃないかな。まだ……慣れない?」
「そう言う有紗さんだって、あたしのことをお母さんって言わないじゃないですか」
「まあ、自然な話し方が一番いいよね」
「そうですね」
「ちょ、ちょっと待って!」
今の美来と有紗さんの会話……おかしい点が多すぎる。まさか、僕のことを混乱させるためにこんな芝居を打っているのか?
「今の話を聞いていると、美来が有紗さんのお母さんに聞こえるけど」
「ええ、そうですよ。智也さん。何を言っているんですか」
「智也君と美来ちゃんが結婚して、3人で一緒に家族になろうってことで……養子縁組であたしのことを2人の娘として迎えてくれたじゃない」
「はあっ?」
僕と美来が結婚して……養子縁組で有紗さんを娘に迎え入れたって?
何がどうなっているんだ。さっぱり分からないぞ。ただ、今のことを言った2人は本当のことを言っているように見えた。
「どうしたの? 智也君」
「何だか、起きてから様子がおかしいんですよ。昨日も、有紗さんと一緒へ会社に行って、夜には3人でスイーツを楽しんだのに、智也さんは4日間ずっと寝ていたって言っていますし」
「えっ、そうなの? もしかして、風邪でも引いているんじゃない?」
そう言って、有紗さんは心配そうな表情をして僕の額に手を当ててくる。
その瞬間、全身に悪寒が走った。急に息苦しくなる。
「熱はないみたいだけど……って、顔色が悪くなっているじゃない。大丈夫? 智也君」
そうだ、何かがおかしいんだ。今の状況が普通じゃないってことを本能で感じ取っているんだ。
「風邪がぶり返したんでしょうかね……」
「……もしかしたら、本当に風邪かもしれませんよ。でも、智也さん……ほら、こうして結婚指輪もはめていますよ。智也さんの左手の薬指にも」
ボケないでくださいよぉ、と美来は左手の薬指にはめられている指輪を見せてくる。見覚えのない指輪だ。しかし、僕の左手の薬指にも美来がはめているものと同じデザインの指輪がはめられていた。こんな指輪を買った覚えがない。右手を見てみると、薬指にはめていた婚約指輪がなくなっているし。
「嘘だろ……」
何かがおかしい。それは僕じゃないはずだ。僕が美来と結婚して、有紗さんの養親になっているという今の状況が正しいかどうか確認しないと!
「……そうだ」
羽賀に電話をしてこのことを伝えよう。
「ど、どうして……」
スマートフォンで羽賀に電話をしようとしても、画面が暗いままで一切の操作ができない。さっきまではできていたのに。
家にある電話で連絡を掛けようとしても、全然通じない。
「ごめん、2人とも! 僕、行かなきゃいけないところがあるから!」
こうなったら、羽賀の所に直接行こう! それに、このままここにいてはまずい!
「どうして!」
玄関から家に出ようとしても、家の扉がビクともしない。鍵も開いているのに、どうして扉が開かないんだ!
「智也君が行くべきところは寝室だよ。あたしと美来ちゃんと3人で」
耳元で有紗さんがそう言われると、後ろから羽交い締めにされる。有紗さんを振り払おうとしても、彼女の力が強いためにできない。有紗さん、こんなに力があったっけ?
「智也さん。もう私達も結婚しましたし……私、人妻JKですけど、子供……作っちゃいましょうよ」
僕の目の前に立った美来はいつもと変わらない笑みを浮かべながら、僕のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「美来ちゃんの後はあたしにしてくれない? いけないことだけど、だからこそ気持ちいいと思うの」
「いっその事3人でしちゃいましょうよ。体を使って家族のコミュニケーションを取りましょう、智也さん。それに、寝室に行きたくないならここで……」
美来と有紗さんにそう言われると、2人から触られて、顔や首にキスされて、服を逃がされそうになってしまう。
どうすればいい……どうすればいいんだよ!
「うわああああああっ!」
急に視界が真っ暗になって、意識が無くなってしまうのであった。
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中が薄暗くなっていた。夕方なのか、朝なのか分からないけれど、お昼ご飯のお粥を食べてからぐっすりと眠ることができたんだな。
「……おっ」
体を起こすと、思った以上に体が軽くなっていた。熱っぽくないし、だるさもすっかりと消えている。まるで風邪なんて引いていなかったかのように。
「へえ、薬が凄く効いたんだな」
お昼ご飯のお粥を食べてすぐに眠ることができたし、やっぱり医者から処方された薬はいいんだな。治って良かった。
「あっ、智也さん。起きたんですね。おはようございます」
寝室の扉から、エプロン姿の美来がこちらを覗いていた。そうか、もう翌日の朝だから美来の服装が違うのか。
「朝まで寝ちゃったんだね、僕」
「えっ? 普通に寝ていましたけど」
美来がきょとんとしているのがちょっと気になるけど、きっと僕の体の治りが早かったからだろう。昨日、僕はひどく体調を崩したから。
「美来、今、朝の何時かな?」
「8時過ぎですけど」
「ええっ! じゃあ、早く会社に行かないと」
そんな時間だったのか。美来はきっと僕の体調がまだ悪いと思っていたから起こさなかったんだろうな。
「ちょっと待ってください! 智也さん、今日は土曜日ですよ?」
「……えっ?」
体調を崩したのは火曜日だから、僕は……4日近くも眠り続けていたのか。あの薬……どれだけ強かったんだ? それとも、薬が効きすぎる体質なのかな。
まあ、後で……勝沼さんには連絡しておこう。ご心配をお掛けしました、って。
寝間着から私服に着替えて、リビングに行くとテーブルには3人分の朝食があった。
「朝食が3人分あるけど、どうしたの?」
「有紗さんの分ですけど」
「……そっか」
どうして、美来……不思議そうな表情をするんだろう。もしかして、お見舞いに来るのは有紗さんに決まっているでしょって言いたいのかな。
「あれ、有紗さんがいないみたいだけど」
「今、コンビニにパンを買いに行ってもらっているんです」
「……そっか」
病み上がりだけれど、いつもと変わらないからパンでも大丈夫か。しかし、有紗さんにパンを買いに行かせちゃって良かったのかな。
それにしても、今日はいい天気だな。元気だけれど、今日は大事を取って家でゆっくりするのが一番いいかな。
「それにしてもよく寝たよ。4日近くも寝ていたなんて」
「何を言っているんですか、智也さん。昨日、有紗さんと一緒に会社から帰ってきて、毎週金曜日恒例でコンビニスイーツを一緒に食べたじゃないですか」
「……えっ?」
毎週金曜日にコンビニスイーツを食べることは習慣になっているけど、昨日の記憶なんてないぞ。最後に覚えているのは、火曜日のお昼に美来にお粥を食べさせてもらって、薬を飲んで寝たってことだ。
美来や有紗さんの巧妙ないたずらかもしれないと思って、スマートフォンを見てみると日付は8月27日の土曜日だ。ということは、僕は4日近く寝ていたのか。それとも記憶がないだけで、美来が言うように昨日は仕事に行って、家に帰ったら有紗さんと3人でスイーツを食べたのかな。
「ただいまー、美来ちゃん。パン買ってきたよ」
「ありがとうございます、有紗さん」
「もう、美来ちゃんったら。あたしの親になったんだし、そろそろ敬語を使わなくていいもいいんじゃないかな。まだ……慣れない?」
「そう言う有紗さんだって、あたしのことをお母さんって言わないじゃないですか」
「まあ、自然な話し方が一番いいよね」
「そうですね」
「ちょ、ちょっと待って!」
今の美来と有紗さんの会話……おかしい点が多すぎる。まさか、僕のことを混乱させるためにこんな芝居を打っているのか?
「今の話を聞いていると、美来が有紗さんのお母さんに聞こえるけど」
「ええ、そうですよ。智也さん。何を言っているんですか」
「智也君と美来ちゃんが結婚して、3人で一緒に家族になろうってことで……養子縁組であたしのことを2人の娘として迎えてくれたじゃない」
「はあっ?」
僕と美来が結婚して……養子縁組で有紗さんを娘に迎え入れたって?
何がどうなっているんだ。さっぱり分からないぞ。ただ、今のことを言った2人は本当のことを言っているように見えた。
「どうしたの? 智也君」
「何だか、起きてから様子がおかしいんですよ。昨日も、有紗さんと一緒へ会社に行って、夜には3人でスイーツを楽しんだのに、智也さんは4日間ずっと寝ていたって言っていますし」
「えっ、そうなの? もしかして、風邪でも引いているんじゃない?」
そう言って、有紗さんは心配そうな表情をして僕の額に手を当ててくる。
その瞬間、全身に悪寒が走った。急に息苦しくなる。
「熱はないみたいだけど……って、顔色が悪くなっているじゃない。大丈夫? 智也君」
そうだ、何かがおかしいんだ。今の状況が普通じゃないってことを本能で感じ取っているんだ。
「風邪がぶり返したんでしょうかね……」
「……もしかしたら、本当に風邪かもしれませんよ。でも、智也さん……ほら、こうして結婚指輪もはめていますよ。智也さんの左手の薬指にも」
ボケないでくださいよぉ、と美来は左手の薬指にはめられている指輪を見せてくる。見覚えのない指輪だ。しかし、僕の左手の薬指にも美来がはめているものと同じデザインの指輪がはめられていた。こんな指輪を買った覚えがない。右手を見てみると、薬指にはめていた婚約指輪がなくなっているし。
「嘘だろ……」
何かがおかしい。それは僕じゃないはずだ。僕が美来と結婚して、有紗さんの養親になっているという今の状況が正しいかどうか確認しないと!
「……そうだ」
羽賀に電話をしてこのことを伝えよう。
「ど、どうして……」
スマートフォンで羽賀に電話をしようとしても、画面が暗いままで一切の操作ができない。さっきまではできていたのに。
家にある電話で連絡を掛けようとしても、全然通じない。
「ごめん、2人とも! 僕、行かなきゃいけないところがあるから!」
こうなったら、羽賀の所に直接行こう! それに、このままここにいてはまずい!
「どうして!」
玄関から家に出ようとしても、家の扉がビクともしない。鍵も開いているのに、どうして扉が開かないんだ!
「智也君が行くべきところは寝室だよ。あたしと美来ちゃんと3人で」
耳元で有紗さんがそう言われると、後ろから羽交い締めにされる。有紗さんを振り払おうとしても、彼女の力が強いためにできない。有紗さん、こんなに力があったっけ?
「智也さん。もう私達も結婚しましたし……私、人妻JKですけど、子供……作っちゃいましょうよ」
僕の目の前に立った美来はいつもと変わらない笑みを浮かべながら、僕のことをぎゅっと抱きしめてくる。
「美来ちゃんの後はあたしにしてくれない? いけないことだけど、だからこそ気持ちいいと思うの」
「いっその事3人でしちゃいましょうよ。体を使って家族のコミュニケーションを取りましょう、智也さん。それに、寝室に行きたくないならここで……」
美来と有紗さんにそう言われると、2人から触られて、顔や首にキスされて、服を逃がされそうになってしまう。
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