アリア

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
142 / 292
特別編-浅野狂騒曲-

第6話『実は。』

しおりを挟む
 午後11時。
 羽賀や岡村と呑み終わって、ようやく自宅に帰ってきた。美来はまだ起きているかな。羽賀から浅野さんが僕の家で美来や浅野さんと一緒に呑んでいるということなので、もしかしたらまだ2人が家にいたりして。

「ただいま」

 家に入ると、玄関には美来の他に有紗さんの靴があった。
 あと、カレーのいい匂いがするな。確か、今回のカレーはチキンカレーだったかな。夕方、家を出発するときに美来が張り切って下準備をしていたから。

「おかえりなさい、智也さん」

 部屋着姿の美来が俺のことを出迎えてくれた。

「お風呂にはまだ入っていないってことは、今までずっと有紗さんに付き合わされちゃっていたのかな?」
「いえ、有紗さんはお酒に酔ってしまって、2時間くらい前からベッドで眠っています。ぐっすりと眠っていて、起きる気配は全くないですね」
「そっか」
「有紗さんが眠ってから30分くらい浅野さんと話して、彼女は帰っていきました」
「なるほどね」

 美来と浅野さんというのは今までにない組み合わせなので、どんなことを話すのか想像できないな。浅野さんがBL好きだから、BL布教でもされたのかな?

「羽賀さんの言うとおり、BLについて浅野さんに牽制しておいて正解でした」
「いつの間に羽賀とそんなやり取りを……」
「午後6時半くらいでしょうか。羽賀さんからメールが来て、浅野さんがここに来るかもしれないと。それで、BLについて色々と言われそうな空気になったら、遠慮なく拒否反応を示していいって。もちろん、嫌だと思ったらですが」
「そっか……」

 そういえば、浅野さんが一緒に呑みたいと駄々をこねていたと羽賀も言っていたっけ。おそらく、自分達と一緒に呑めないなら、僕達と関わりのある人物と呑むかもしれないと考えて、美来に連絡をしておいたってところかな。そういうことを予測して、しっかりと事前に連絡できるところが羽賀の凄さかな。

「妄想は自由ですが、それを言葉にするには気をつけてと言っておきました」
「それでいいと思うよ。美来、よく言えたね」

 よしよし、と美来の頭を優しく撫でると、美来はデレデレとした笑みを浮かべる。可愛いなぁ、抱きしめよう。

「きゃあっ! と、智也さん……」
「ご褒美だよ、美来」

 羽賀でさえも浅野さんには少し困っている様子だから、BLについてのことをきちんと言えた美来はとても偉いと思う。

「……そういえば、美来。まだ、お風呂に入っていないのかな。いつもだったら、もうお風呂から出ている時間だと思うけれど」

 まさか、お風呂が壊れちゃったのかな。もしそうだったら、美来からメールかメッセージで一言送ってくれると思うけど。

「智也さんと一緒に入りたくて、ずっと待っていました」
「そっか。じゃあ、一緒に入ろうか」
「あ、あと……外から帰ってきた智也さんに癒しを提供したいと思いまして。何かしてほしいことはありませんか? お酒を呑んだので、いつもよりも欲求不満になっているんじゃないかと思って」

 欲求不満の部分を大きめの声で言ったので、一緒に入りたいと言った美来の思惑はだいたい分かったぞ。

「……美来の方が欲求不満なんじゃないのかな」
「何を言っているんですか。ただ、お酒で酔った智也さんの要求をできる限りで何でも受け入れる心積もりでして、私は無事に帰ってきた智也さんを見るだけで欲求は満たされていますって」

 ふふっ、と美来は視線をちらつかせている。まったく、素直じゃないんだから。

「正直に言えば、今日は酔っているから普段はしないことをしたかも――」
「欲求不満です!」
「……急に正直になったね」

 好きなことを妄想する点では浅野さんに負けず劣らずなので、美来は浅野さんにきちんとBLのことを言えたのかもしれないな。
 ただ、美来に言ったように今の僕は酔いがまだ残っている状態なので、普段とは違うことをしてしまうかもしれない。気をつけないといけないな。
 部屋に入ると、ワイシャツ姿の有紗さんがベッドの上でぐっすりと眠っている。

「有紗さん、気持ち良さそうに眠ってるね」
「そうですね。そんな有紗さんを起こしてはいけませんから、智也さんとイチャイチャするのは浴室がいいと思った次第です」
「なるほどね」

 一緒にお風呂に入る一番の目的は僕とイチャイチャすることだったんだな。有紗さんが起きないと踏んでいるのか。それとも、起きてしまっても俺と美来の関係性をよく知っている有紗さんなら大丈夫だと思っているんだろう。

「さあ、智也さん。着替えは洗面所に用意してありますから、このまま行きましょう」
「用意がいいね」

 一緒に入る気満々なんだな。そこまでするなんて。ただ、家に帰ってきたらお風呂が湧いてあって、着替えまで用意してくれているのは本当に有り難い。
 僕は美来にキスをする。

「ありがとう、美来」
「……いえいえ。てっきり、お風呂に入るまで我慢できずに、ここでイチャイチャし始めてしまうのかと思いました。有紗さんが横にいるといくらかの背徳感がありますが」
「……僕は平和に美来との交流を深めたいよ」

 イチャイチャするのであれば、有紗さんが気付かないよう静かにしたい。

「智也さんがそう言うのであれば。では、浴室に行きましょう」
「うん」

 有紗さんを起こしてしまわないように、僕と美来は静かに洗面所に向かう。
 てっきり、家に帰ったら美来が既に眠っていると思ったんだけれど。どうやら、今夜はもう少し続きそうなのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...