アリア

桜庭かなめ

文字の大きさ
上 下
135 / 292
特別編-Looking back 10 years of LOVE-

エピローグ『きせき』

しおりを挟む
 10年間についての内容を1日で話したのか。僕は聞いているだけだったけれど、結構充実していた1日だった気がする。
 話してくれた美来は……とても嬉しそうな表情をしていた。この10年間で色々なことがあったけど、それらは全て今に繋がっているので、こういった表情を見せられるのかもしれない。

「智也さん」
「うん?」
「……今、とっても幸せな気分です」

 美来はゆっくりと腕を絡ませてきて、頭を僕の肩に乗せる。そのことで美来の優しい温かさと甘い匂いが感じられる。

「今日、10年分の話をしましたけれど、全てはこの瞬間のためにあったんですね」
「そういう風に言われると、もうすぐ結婚式が始まるみたいだな」
「確かにそんな感じかも。いつか、絶対に結婚式をしましょうね」
「もちろんだよ」

 そのときがいつになるかは分からないけど、そのときは必ずやって来るだろう。

「じゃあ、早く結婚式を挙げられるように、子供はいかがですか?」
「そんなことになったら、大事な高校生活を返上することになるよ。僕は美来にきちんと高校生活や大学生活を送ってほしいんだ。少なくとも高校生活は……」

 まったく、美来は。僕と早く結婚したい気持ちは十分に分かるけれどさ。

「ふふっ、智也さんったら。真面目ですね。でも、いつかは結婚して、私達の子供を作りましょうね」
「まったく、再会した当初は美来がこんなにも変態さんだとは思わなかったよ」

 再会してから最も意外だったことがそれかもしれない。ただ、今日の話を聞いて納得したけれど。数年くらい、僕のことを想像して自分のことを慰めていたそうだから。

「驚きましたか?」
「……うん」
「ふふっ」

 美来は楽しそうに笑って、上目遣いで僕のことを見ながら、

「智也さん。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それともわ・た・し?」

 幸福な3択問題を出してきた。こういう風に訊かれたのも、随分とひさしぶりのような気がするな。美来と付き合うと決めた直後に温泉へ行ったとき以来かな。
 夕ご飯の用意はできていない。
 お風呂の準備もできていない。
 となると、必然的に美来を選ぶことになる。それを見越して美来は僕に訊いてきたのかな。今夜、ゆっくりと営むことを約束したのに。こうなったら、
 
「お風呂で美来と……したいかな」

 以前に美来は自分のことをデザートと言ったくらいだ。今のように答えたっていいだろう? ただ、僕の言った答えの真意が伝わっていなかったら物凄く恥ずかしい。

「智也さん……」

 僕の名前を口にすると、美来の顔は見る見るうちに赤くなっていき、

「もう、智也さんったら。私が想像したよりも斜め上の答えを言ってくださるなんて。今すぐに準備してきますね!」

 どうやら、僕の答えの意味をきちんと汲み取ってくれたようで、美来はリビングを飛び出していった。さすがは美来だな。

「お風呂とその他諸々の準備を終えました! あと15分もすれば私と色々なことができますよ」
「……さすがは美来だね」

 僕がそう言うと、美来は僕のことをぎゅっと抱きしめ、そっとキスしてくる。美来は僕とこうすることを夢見て10年も待っていたんだな。
 僕と美来はこの10年間、別々の道を歩いていたけれど、これからは同じ道を一緒に歩いて行くんだ。ちょっと歩幅は違うかもしれないけど、手を繋いで。大人として美来のことを引っ張っていかないと。

「智也さん、お風呂の準備ができたようです。行きましょう!」
「そうだね」

 時々は今のように美来に手を引かれることもあるだろうけど。
 そんな僕と美来が歩いて行く道では色々なことがきっと……いや、必ず待ち受けていることだろう。



特別編-Looking back 10 years of LOVE- おわり


次の話からは特別編-浅野狂騒曲-になります。日にちは6月に戻ります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...