アリア

桜庭かなめ

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本編-ARIA-

第99話『彼の様子』

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 午後3時半。
 私は浅野さんと一緒に警視庁に戻る。
 私は逮捕され、浅野さんは無期限の謹慎処分になっていたが、その後に捜査妨害に巻き込まれたためであると判明し、捜査復帰したこともあってか、デスクに戻ったときには我々を歓迎するムードに包まれていた。
 種田さんが午前中に作成していた、昨日の諸澄司に対する聞き取り捜査の調書を読みたいところだ。

「羽賀さん、これからどのように捜査を進めますか? 逮捕された佐相警視と佐相さんに取り調べをしますか?」
「それもしたいですが、まずは種田さんが作成した、諸澄司の聞き取り捜査に関する調書を読みたいですね」
「種田さんの机の上には……さすがにありませんよね」

 おそらく、引き出しの中に入っていると思うが勝手に開けるのは気が引ける。
 ――プルルッ。
 スマートフォンが鳴っているな。確認してみると、発信者は種田さんだった。ちょうどいいタイミングでかかってきたな。柚葉さんに犯行を指示していた『TKS』のTubutterアカウントについて分かったのだろうか。

「羽賀です。お疲れ様です」
『お疲れ様です。種田です。羽賀さんと浅野さんが捜査に復帰されたということで連絡しました』
「ありがとうございます」

 まさか、捜査に復帰したことを祝うだけで連絡したのだろうか。嬉しいけれども。

『例のTubutterアカウントについて分かったので連絡させていただきました』
「そうですか。それで、何か分かりましたか?」
『今はユーザー側から削除された状態ですが、アカウント復活もできる期間ですので、データ自体は残っていました。ユーザー名が『TKS』というアカウントですよね』
「そうです」
『それで、TKSというアカウントがどの端末から使われているのか調べたところ、ネットカフェにあるパソコンであることが分かりました』
「そうですか……」

 やはり、『TKS』は自分であることを特定されないように、誰でも使える端末からTubutterを利用していたのか。

「そういえば、アカウントの作成にはメールアドレスが必要ですよね」

 警視庁に戻ってくる間に、浅野さんからTubutterについて簡単に教えてもらっていた。その中で気になったのが、アカウント作成にメールアドレスが必要であることだ。

『ええ。メールアドレスから特定できるかと思ったのですが、Webで使えるメールサービスのアドレスでした』
「そうですか……」

 そのメールアドレスを作成するときに使った端末を調べても、おそらく、それもネットカフェなどの誰でも利用できるパソコンだったという結果になるのは目に見えている。

「一応、そのアドレスについても調べていただけますか」
『分かりました』
「ちなみに、該当のパソコンがあるネットカフェはどこにあるんですか?」
『住所を見たら、諸澄司の家から徒歩で行ける場所にありました。もしかしたら、彼がネットカフェを利用した可能性があるかと』
「そうですね」

 種田さんはネットカフェが彼の家から近いためにそう言っているのだろうが、私もその可能性は大いにあると考えている。自宅のパソコンで利用していたら、IPアドレスなどからすぐに特定されてしまうからな。

「……そうだ。種田さん、昨日の諸澄司に対する聞き取り捜査の調書を読みたいのですが、どこにありますでしょうか」
『ああ、それなら私の机の引き出しの中にありますよ。一番大きな引き出しにあります。開けてもらってかまいませんよ』
「分かりました。ちょっと待ってください、今、見つけますので」

 私は種田さんのデスクの大きな引き出しを開ける。
 すると、透明なファイルに纏められている文書があった。見てみると、参考人への聞き取り捜査の調書と書かれている。中身を見てみると、諸澄司という名前が記載されているのでこれだろう。

「見つかりました」
『良かった。彼、凄く機嫌が悪かったですよ。特に氷室さんの話をしたときなんて』
「そうでしょうね」

 美来さんに好意を寄せていたからな。彼にとっては、氷室に美来さんのことを横取りされた気分なのだろう。
 資料を読んでいると、諸澄司は被疑者の氷室智也のことを強く恨むような言動があったと書かれている。『強制わいせつをしたのだから、逮捕されて当然なのでは?』とも書いてあるな。

『昨日もお伝えしましたが、彼は被害者の女子生徒をストーカーしたことで、学校から自宅謹慎処分を受けています。それを破って氷室さんのところに面会しに来たなんて。相当彼のことを恨んでいますよ』
「氷室にそのときの様子を聞いたら、終始尖った言葉を言われたと言っていました」
『そうですか。彼は何度か外出していたので、羽賀さんに言われたように佐相柚葉に会ったことがあるかどうか訊いたのですが、謹慎処分を受けてからは一度も会っていないようです。これも昨日話したと思いますが』
「確かに、昨日そう言っていましたね」

 氷室への面会を含めて、何度か外出したと書かれているな。彼が佐相柚葉に会っていないと嘘を付いている可能性は否定できないが、『TKS』が諸澄司であれば彼女とわざわざ会う必要はない。

『しかし、その佐相柚葉って女の子、佐相警視の娘さんで真犯人だったんですよね。しかも、彼女はTubutterで犯行の指示を受けていたと』
「ええ。そして、指示した人物のアカウントが『TKS』だったんですよ」
『なるほど、そういうことだったんですね。もしかして、羽賀さんはその『TKS』が諸澄司だと考えているんですか?』
「そうです。なので、『TKS』と諸澄司が同一である証拠を掴みたいのです」

 今や、氷室は無実であり、真犯人が別にいると世間に知られている状態だ。もちろん、真犯人に指示した人物がいることも。だから、種田さんに隠す必要はない。

『そういうことでしたか』
「ええ。私が捜査を始めた頃から、警察関係者が関わっている可能性を考えていたので、真犯人がいることを念頭に捜査しているのを、今までは限られた捜査官にしか話していなかったんです。すみません、今まで隠していまして」
『かまいませんよ。どんな事実にせよ、それを明らかにしましょう』
「……はい」
『では、私の方も更に調査を進めたいと思います。報告書の方はいつでも見てもらってかまわないので』
「ありがとうございます」
『また、何か分かりましたら連絡します。それでは、失礼します』

 種田さんの方から通話を切った。
 その後は浅野さんと一緒に調書を読んでみる。ただ、特にこれといった情報はないな。氷室への恨みが凄まじく、学校による謹慎処分を破る少年であることくらいしか分からなかった。

「何というか、普通ではない男子高校生ということだけは分かりました」
「……その認識で合っていると思います」

 調書からも、氷室を嵌める動機があったことが伺える。あとは、さっき種田さんに言ったように『TKS』が諸澄司と同一人物であることが証明できれば、この事件は一気に解決へと向かうことができるだろう。
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