アリア

桜庭かなめ

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本編-ARIA-

第96話『釈放会見』

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 午後2時。警視庁入口にて。
 僕が釈放されたことを受けて、多数の報道陣が待ち構えている。これから羽賀の運転する車で美来の家に向かうことになっているけど。ここはしっかりと対応しないといけないかな。


「この度は、多くの方に多大なご迷惑とご心配をお掛けしましたことを、深くお詫び申し上げます」


 ――現在の心境をお聞かせください。
「今は……私が無実であると証明されたことにほっとしております。この件に警察関係者が関わっていることを知って、憤りもありますが」


 ――逮捕されることを知ったときの心境は?
「どうしてなんだろうと。身に覚えのないことで逮捕されてしまったので。それでも、手錠をかけられたときや、パトカーに乗せられたときは虚しさでいっぱいでした。今みたいにレンズを向けられていることがとても怖かったです」


 ――拘留中はどのような心境を持って過ごしていましたか?
「およそ丸2日間でしたが、それよりも長く感じました。時間が過ぎるのが本当に遅く感じました。あまり眠れなくて。足音が聞こえると、何か言われるんじゃないかとか、送検が決まったんじゃないかとか。どうしてここにいなきゃいけないんだろうとか。不安な気持ちでいっぱいで、心身共に疲れがどんどん溜まっていった2日間でした」


 ――無実の逮捕には警察関係者が関わっていると報道されましたが。
「警察という組織があまり信用できなくなってしまいますね。逮捕されてからおよそ2日の間、取調べも色々な意味でキツかったので。もちろん、警察官全員が不正をするわけではないというのは分かってはいるんですけど。ただ、事件を担当した私の古くからの友人が、事実を見つけることを第一に捜査をしてくれて、個人的には私のことを無実だと信じてくれていましたので、それは心の支えになりました」


 ――その友人の警察官というのが、羽賀尊さんですよね。
「そうです。信頼できる親友の1人です。彼は冷静に状況を分析して、僕が無実である可能性も考えて捜査してくれました。被害者と言われていた女子高生の協力があったのはもちろんなんですけど、警察に彼がいてくれたので、こうして釈放まで辿り着けたのかなと思います。私を無実だと信じてくださった方々にお礼を言いたいです」


 ――羽賀さんまでも逮捕させられてしまったことについては?
「そこまでして、警察側は事実を明らかにされることが怖いのかなと思いました。羽賀と仲間の警察官のみなさんがおそらく、僕が逮捕された事件と併せて、これまでの警察の不正……と言ってしまっていいのかどうかは分かりませんが、様々な事実を明らかにしてくれると信じています」


 ――真犯人は逮捕されました。しかし、指示をしていた人が他にいると聞いています。
「真犯人に指示していた人物がいたことは今日になって羽賀から聞きました。それは彼が逮捕され、独房で一緒にいたときなんですけど」


 ――その人物は今、テレビやネットを通じて今の氷室さんの姿を見ているかもしれません。何か伝えたいことがあれば。
「自分のしたことの間違いや重さを分かってほしいというのが一番です。僕は職を失い、2日間、様々な媒体で逮捕について報道されました。事件に関係のある方には報道関係者が押しかけたとも聞いています。たくさんの方に迷惑を掛けたことを分かってほしい。僕と羽賀が一時的に無実の罪で逮捕され、真犯人とその協力者が逮捕されました。指示した人物にはできれば、自首をしてほしいです。ただ、羽賀を中心に捜査を再開したとも聞いているので、近いうちに事実が明らかになり、逮捕されることを願っています」


 ――今のお話にも出たように今回の逮捕を受け、勤めていた会社を懲戒解雇されてしまいましたが、それについては?
「無実であることは証明されました。それでも、僕が逮捕されてしまった事実を変えることはできません。そして、今回の逮捕を受け、多くの方に多大なご迷惑をお掛けしてしまったことは事実です。それまでの仕事に再び携わりたい気持ちはもちろんあります。おそらく、この釈放を受けて会社側で再度協議が行なわれるのだと思います」


 ――被害者と言われていた女子高生をいじめから助けたという情報もあります。
「そうですね。その子とは個人的に付き合いがあって、半月ほど前に、学校でいじめを受けていると僕に話してくれて。既に報道されているように、学校側と連絡を重ねるうちに隠蔽があったことも分かりました。一番は彼女のためなのですが、現在、月が丘高校に通っている生徒さん、来年以降に入学される生徒さんのことも考えて、いじめという難しい問題には真摯に取り組むべきだということを学校側にはお伝えしました」


 ――しかし、それによる報復によって、氷室さんが逮捕されたと聞いています。
「真犯人として逮捕された女の子にも直接会って話したことがあります。そのときの彼女の表情を思い出すと、私のせいで彼女に色々な想いを抱かせてしまったのかなと思っています。ただ、その子の場合は父親がある程度の位にある警察官でした。真犯人の気持ちや家族構成を知っていた黒幕が、僕を無実の罪で逮捕させる計画を考え、指示したのだと思います」


 ――一連の事件の背景には、被害者と言われていた高校生の女の子にいじめにあったということですね。
「そうだと思います。そして、真犯人に犯行の計画を指示した人物も、そのいじめに関わっているか、近くで見ていたのではないかと考えています。今回のことを通して、いじめというのは、いつの時代にも存在していて、本当に難しい問題なのだと痛感しています」


 ――その他に何か伝えたいことはありますか? どの話題についてもかまいません。
「報道についてなのですが、僕が起こしたという未成年へのわいせつ事件はそもそもありませんでした。被害者と言われていた女の子の家からは、すぐに立ち退いていただきたいです。騒がしくて、彼女と彼女の家族はこの2日間なかなか落ち着くことができなかったと思います。そして、黒幕が明らかになるまで、そっと見守っていただけると有り難いです。みなさんが手に入れた情報についてはきちんと精査をして、事実であることを確認した上で報道していただければと思います」


 ――最後にですが、釈放となった今、何かやりたいと思っていることはありますか?
「被害者と言われていた女の子に直接会って、抱きしめたいです。面会は一度しましたが、おそらく、彼女は僕が逮捕されたことを知った瞬間から、釈放されたと発表されるまでとても寂しく、苦しい想いをしたと思います。あとは……今はゆっくりと休みたいです。まだまだ、今回の事件に向き合っていかなければならない状況ですけど」


 ――分かりました。ありがとうございました。釈放おめでとうございます。
「ありがとうございます。失礼します」


 僕は羽賀の運転する車へと向かうのであった。
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