アリア

桜庭かなめ

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本編-ARIA-

第79話『つながり』

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 佐相柚葉の家庭調査票を見せてもらったら、家族についての欄に父親として佐相警視の名前が書かれていた。

「佐相柚葉さんと佐相警視は親子だったんですね」
「そのようですね」

 親子というのは非常に強い関係の一つだ。これで、月が丘高校で美来さんの受けたいじめと氷室の逮捕を繋げることができそうだ。

「佐相さんのお父様が警察官であることが重要なのですか?」
「ええ。氷室は第三者によって嵌められ、無実の罪で逮捕されたと考えております。つまり、警察関係者が逮捕状を発行できるよう働きかけていた可能性が非常に高いのです。そこで、我々は真犯人の他に、警察関係者の中に協力者がいると考えているのですよ」
「そうなんですか……」

 しかし、佐相柚葉さんが真犯人だとしたら、証拠として挙がっている2枚の写真はどう説明するのか。もしかしたら、諸澄司と佐相柚葉の2人が真犯人で、諸澄司が氷室を逮捕するようにと、佐相柚葉を経由して佐相警視に写真を渡したか。2人はクラスメイトなのでその可能性は十分にある。

「仮に佐相さんが犯人だとしたら、写真はどのように説明するんでしょう? 氷室さんのアパート近くで、怪しげ女の子の目撃情報はありませんでしたよ。朝比奈さんが氷室さんと一緒に歩いていたと証言する人はいましたが」
「なるほど……」

 おそらく、2枚の写真を撮影したのは諸澄司で間違いないだろう。ただ、仮に諸澄司が真犯人だとして、佐相警視が協力者だとしたら……やはり、佐相柚葉を経由しないと写真は渡せないだろう。

「いや、スマートフォンで撮っていたとすると……」

 SNSに写真をアップロードすれば、佐相柚葉を経由せずとも佐相警視に写真をダウンロードする形で提供することも可能か。

「写真のことで警察関係者に電話します」

 あの2枚の写真はネット上に存在しているものなのか。報道にも2枚の写真は公表されているが、美来さんの顔が分からないようにモザイク処理などがされている。処理が施されていない写真がネット上に存在すれば、アップロード元を調べてもらうか。
 サイバー犯罪対策課の知り合いに連絡して、2枚の写真がネット上に存在しているのかどうか。もし存在すれば、特定は難しいかもしれないが、最初にアップロードしたのは誰なのか調べてもらうように依頼した。

「例の2枚の写真、ネット上にアップロードされている可能性も考えられますので、サイバー犯罪対策課の知り合いに調査を依頼しておきました」
「そうですか。それで、最初のアップロード者が分かるといいですよね」
「そうですね」

 ただ、ネット上にアップロードしていたとしても、真犯人は自分がアップロードしたと簡単に特定できるようなやり方はしないだろうな。例えば、自宅のパソコンではなく、ネットカフェで行なったとか。特定できればラッキーなのが本音である。
 ――キーンコーンカーンコーン。
 おっ、チャイムが鳴ったか。
 時刻は午後0時か。昼休みになってもいい時間帯であるが。

「チャイムが鳴ったということは、昼休みに入ったのですか?」
「はい。午前中の授業が終わって、これから1時間の昼休みになりますね」
「なるほど、そうですか」

 それなら、生徒から話を聞きたい。そうだな……月村さんの妹さんにも話を聞きたいが、諸澄司と会ったあの場にいた美来さんの友人の話を聞きたい。彼女は1年1組の生徒なので諸澄司や佐相柚葉のことで何か聞けるかもしれない。しかし、名前が分からない。

「そうだ」

 美来さんに連絡して、あの生徒の名前を聞いてみることにしよう。
 美来さんのスマートフォンに電話をすると、

『はい。朝比奈ですが』
「羽賀です。今、浅野さんと一緒に月が丘高校で捜査をしている」
『そうですか。何か分かりましたか?』
「ああ。クラスでのいじめの中心となっていた佐相柚葉という生徒の父親が、警察関係者であることが分かった」
『そう……なんですね』

 いじめていた人物の名前を言ってしまったからか、美来さんの声に元気がない。

「突然で申し訳ないが、私と岡村が駅前で諸澄司と会ったとき、君と一緒にいた友人の名前を教えてほしい。彼女から色々と話を聞きたいと思って」
『詩織ちゃんのことですか。絢瀬詩織ちゃんです』
「あやせしおり……さん」

 家庭調査票のファイルがあるので美来さんの言った名前の生徒を探してみると……あった。『絢瀬詩織』と書くのか。写真に写っている顔と私の記憶にある顔が一致している。彼女が諸澄司と対峙した際にいたときの少女だ。

「ありがとう、美来さん。あと、月村有紗さんの妹さんの名前は分かるだろうか? 彼女にも話を聞くかもしれない」
『月村さんの妹さんの名前は明美といいます。漢字は分かりますか?』
「あけみ……ということは『明』るいに『美』しいと書くのだろうか?」
『そうです。あと、彼女は2年生です』
「分かった。美来さん、教えてくれてありがとう。感謝する」

 昼休みの間に、絢瀬詩織さんと月村明美さんに話を聞いてみることにするか。

『羽賀さんと浅野さんが月が丘高校にいるということは、父はお2人と会うことができませんね』
「どういうことだろうか?」
『2時間ほど前に、智也さんと面会するために父が警視庁に向かったんです。私も行こうと思ったのですが、まずは父だけで智也さんの様子見に行くと』
「そういうことか。それが賢明だと思う」
『賢明というのは?』
「実は、諸澄司が君へのストーカー行為による処罰で自宅謹慎処分を受けた。今は謹慎期間中なのだが……もしかしたら、君が氷室の面会に来る可能性を考えて、警視庁に待ち伏せしている可能性も考えられるのだ」
『ああ、彼ならやりかねませんね……』

 意外と落ち着いているな、美来さん。自身が10年近く氷室のことを遠くから見ていた経験があるから……と思ってはいけないか。彼と美来さんは同類ではない。

「もし、氷室と面会したいのであれば、まずは私に連絡してほしい。安全を確保するため、私と一緒に面会しに行くようにしよう」
『分かりました。そのときには連絡しますね。では、捜査を頑張ってください』
「ああ、ありがとう」

 、美来さんの方から通話を切った。
 氷室のところへ美来さんの父親が面会しに行っているのか。美来さんのいじめのことで一緒に学校へ行くほどだから、氷室のことを信じているとは思うが……娘に強制わいせつをした罪で逮捕された氷室に何を言うだろうか。氷室の側にいてやりたいが、今は捜査をしなければいけない。心が折れてしまうような言葉を言われないよう祈るしかないか。
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