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本編-ARIA-
第64話『話に薔薇を咲かせる女』
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警視庁に連行された僕は、さっそく取調べを受けること。浅野千尋さんという女性の警察官によって取調べが行なわれる。セミロングの黒髪にメガネといういかにも真面目そうな風貌だ。メガネを取れば可愛いかも。
逮捕はもちろんのこと、取調べも人生初であるため、刑事ドラマで見たイメージしかない。恐いことをされるのかな。自白の強要とか。カツ丼などの丼ものを食べられるのかな。
「それでは、事情聴取を始めます。羽賀さんはあなたが無実だと考えているそうです。ですが、私は信じられません。……実際のところ、朝比奈さんとはどういうことをしたんですか? 親しい関係らしいですが」
単刀直入に訊いてくるな。取調べだからそれは当たり前か。ここは正直に答えておかなければ。
「……キスですね」
「それって、ベロチューですか?」
「ベ、ベロチューってなんですか?」
「舌を絡ませるキスのことです」
「……しました」
いきなりベロチューと言うから何かと思ったら。もしかして、警察では舌を絡ませるキスをベロチューと言っているのか?
「あの、浅野さん。被害者となっている朝比奈美来さん側から被害届は出ていないんですよね。よく、第三者の人間が児童福祉法を違反していると告発できましたよね。何が根拠だったんですか?」
「複数の写真と病院の診断書です」
「診断書?」
確か、今後のことを考えて、月曜日に美来は果歩さんと一緒に外科病院に行って、診断書を発行してもらったんだよな。
「ええ。朝比奈美来さんが受診した病院にカルテを調べてもらい、朝比奈さんが暴力を振われて、体に複数のあざがあったと。全治2週間ほどでしょうか」
「まさか、そのケガを僕が負わせたことになっているんですか?」
「ええ。わいせつな行為をするときに、朝比奈さんに暴力を振ったことで恐怖感を植え付け、抵抗できなくさせたと」
「何だって……」
僕に叩かれたことになってしまっているのか。
おそらく、カルテには「体に暴力による複数のあざがある」ということしか記載されていないのだろう。真犯人はその原因を「学校で美来をいじめた生徒から」ではなく、「僕が無理矢理にわいせつな行為をしようとしたときに殴った」ということにしたんだ。
「診断書については分かりました。あと、写真というのは……」
「これが前任の警察官から渡された写真です」
浅野さんは机に2枚の写真を置く。どちらも僕と美来が一緒に写っていた。片方の写真は自宅に入ろうとしている場面で、もう片方は一緒に歩いているところだけど、後ろにある店からして自宅の最寄り駅前かな。
「てっきり、美来が嫌がる写真や、わいせつな内容でも写っている写真なのかと思いましたが、どちらの写真も美来は楽しそうじゃないですか」
「あなたのことが恐くて、笑顔を見せければならないと思っていたんじゃないですか?」
何なんだよ、その解釈。
しかし、そういう風に言われると美来が作り笑いをしているように見えてきてしまう。
「この写真を撮ったのは誰なんですか?」
「それは……聞いていませんね。あとで調べておきます」
大切な証拠品なんだから、出所くらいはしっかりと調べておいてほしい。おそらく、写っている内容からして、撮影したのは諸澄君である可能性が高いな。ということは、僕を嵌めた人物は諸澄君なのか?
「羽賀さんが、氷室さんは無実で、真犯人は別にいると強く主張していますから、本当に無実……と考えていいんですか? 2歳年下ですが、羽賀さんは信頼できる警察官なので」
「ということは、浅野さんは彼より2つ年上ですか」
「ええ。でも、羽賀さんはキャリア組で、階級も警部なので年下でも私の上司です。ちなみに、私はノンキャリア組で階級は巡査です」
「なるほど」
羽賀には年上の部下がいるのか。やりにくそうな感じがするけど、浅野さんは羽賀を信頼しているみたいだからいいのかな。
「羽賀とは小学生からの親友なので。僕のことををよく知っている人の一人です。それに、美来とも面識があって、僕と美来の関係も分かっていると思います。羽賀は僕を逮捕する話を聞いたときから、僕が無実であると信じてくれています。僕も羽賀なら真犯人を見つけてくれると信じていますよ」
羽賀と岡村の2人だけは何があっても信じられる。きっと、羽賀なら僕を嵌めた真犯人を突き止めてくれると。
「そうですか……」
すると、浅野さんは両手で机を激しく叩いて、
「何て美しい友情なのでしょうか! まさか、あの羽賀さんにこんな素敵な親友の男性がいたなんて!」
さっきまでとは打って変わって、凄く興奮している。いったいどうしたんだろう? 僕と羽賀の名前を口にしていたけれど。
「羽賀さんは美しい方ですから、どの男性とのカップリングで妄想しても絵になりましたが、ついにベストな方に出会うことができました!」
「はあっ?」
「羽賀さんは自分のことを私と言って、氷室さんは自分のことを僕と言います。これなら、攻め受けどちらのパターンでも十分に妄想できます。ぐへへっ……」
浅野さん、僕と羽賀のことで変なことを妄想していそうな気がする。
「あの、さっきから何の話をしているんですか? 攻めとか受けとか言っていましたが……」
すると、浅野さんは僕のことを見てニヤリと笑った。
「薔薇です! BLです! ボーイズラブです!」
「何を言っているんですかあなたは!」
取調室で言うような言葉じゃない! 浅野さんの頭の中では僕と羽賀を使っていかがわしい妄想をしているのか? こういう人のことを腐女子っていうのかな。リアル腐女子に出会ったのは初めてだ。
「あなたの方がわいせつ行為をしてるじゃないですか!」
そう言わずにはいれなかった。
すると、浅野さんは得意げな笑みを浮かべる。
「羽賀さんと氷室さんの愛情行為はわいせつではありませんからぁ。それに、私の頭の中で行為をしているんですぅ。思うだけなら自由ですし、罪にはなりませんからね!」
「ううっ……」
羽賀は浅野さんのこういう趣味を知っているのかな。ただ、あいつの性格上、迷惑をかけなければどんな趣味を持っていても問題ないとか言いそうだな。
「囚われの身で不安になっている氷室さんを守れるのは私だけ。そこから愛が生まれるのですね! あぁ、何て美しいことなのでしょうか。妄想が捗りすぎて、思わず鼻血が出そうです。それで、実際に愛を感じているのでしょうか?」
「いや、羽賀のことは信頼していますけど。それは20年近くの付き合いで培われた友情があってのことで……」
「20年! 20年近くもお付き合いしているのですか! 結婚しちゃえよ!」
「しませんし、そもそもできませんよ!」
浅野さん、相当重度な腐女子なのかもしれない。僕が普通に話していることでも、浅野さんの耳に入った言葉は全てBL要素に変わってしまうというのか。
「私が警察官になったのは、警察は男の園だと思ったからです」
「そ、そうなんですか……」
女の園という言葉は何度か聞いたことがあるけれど、男の園という言葉は初めて聞いたな。BL好きを理由に警察官になる人は彼女くらいしかいないのでは?
「これまで、脳内で様々な男性警察官のカップリングを妄想しました。でも、これぞというカップリングはなかったです。しかし、羽賀さんと出会ってがらりと変わりました。ここまで美しい男性がいるとは! ですが、羽賀さんだからこそ、これぞというカップリングを見つけるのがより難しくなってしまいました……」
「それは……大変ですねぇ」
「しかしっ!」
浅野さんは僕のことを指さして、
「羽賀さんの親友である氷室さんという方に出会い、ようやく羽賀さんに合うカップリングが見つかりました! 氷室さん、あなたは私の恩人ですっ!」
ありがとうございます! と握手される始末。
どうやら、僕との出会いが衝撃的だったそうで、凄く感謝されることに。まさか、取調中にBLのことでお礼を言われるとは思わなかったぞ。これでいいのか、日本の警察。
「氷室さんさえよければ、羽賀さんとの思い出話を聞かせてください!」
「いいですけど……」
どうせ、BL妄想の材料とかにされるんだろう? ううっ、ある意味でキツい取調べだ。羽賀……早くここに来てくれ。切にそう願うのであった。
逮捕はもちろんのこと、取調べも人生初であるため、刑事ドラマで見たイメージしかない。恐いことをされるのかな。自白の強要とか。カツ丼などの丼ものを食べられるのかな。
「それでは、事情聴取を始めます。羽賀さんはあなたが無実だと考えているそうです。ですが、私は信じられません。……実際のところ、朝比奈さんとはどういうことをしたんですか? 親しい関係らしいですが」
単刀直入に訊いてくるな。取調べだからそれは当たり前か。ここは正直に答えておかなければ。
「……キスですね」
「それって、ベロチューですか?」
「ベ、ベロチューってなんですか?」
「舌を絡ませるキスのことです」
「……しました」
いきなりベロチューと言うから何かと思ったら。もしかして、警察では舌を絡ませるキスをベロチューと言っているのか?
「あの、浅野さん。被害者となっている朝比奈美来さん側から被害届は出ていないんですよね。よく、第三者の人間が児童福祉法を違反していると告発できましたよね。何が根拠だったんですか?」
「複数の写真と病院の診断書です」
「診断書?」
確か、今後のことを考えて、月曜日に美来は果歩さんと一緒に外科病院に行って、診断書を発行してもらったんだよな。
「ええ。朝比奈美来さんが受診した病院にカルテを調べてもらい、朝比奈さんが暴力を振われて、体に複数のあざがあったと。全治2週間ほどでしょうか」
「まさか、そのケガを僕が負わせたことになっているんですか?」
「ええ。わいせつな行為をするときに、朝比奈さんに暴力を振ったことで恐怖感を植え付け、抵抗できなくさせたと」
「何だって……」
僕に叩かれたことになってしまっているのか。
おそらく、カルテには「体に暴力による複数のあざがある」ということしか記載されていないのだろう。真犯人はその原因を「学校で美来をいじめた生徒から」ではなく、「僕が無理矢理にわいせつな行為をしようとしたときに殴った」ということにしたんだ。
「診断書については分かりました。あと、写真というのは……」
「これが前任の警察官から渡された写真です」
浅野さんは机に2枚の写真を置く。どちらも僕と美来が一緒に写っていた。片方の写真は自宅に入ろうとしている場面で、もう片方は一緒に歩いているところだけど、後ろにある店からして自宅の最寄り駅前かな。
「てっきり、美来が嫌がる写真や、わいせつな内容でも写っている写真なのかと思いましたが、どちらの写真も美来は楽しそうじゃないですか」
「あなたのことが恐くて、笑顔を見せければならないと思っていたんじゃないですか?」
何なんだよ、その解釈。
しかし、そういう風に言われると美来が作り笑いをしているように見えてきてしまう。
「この写真を撮ったのは誰なんですか?」
「それは……聞いていませんね。あとで調べておきます」
大切な証拠品なんだから、出所くらいはしっかりと調べておいてほしい。おそらく、写っている内容からして、撮影したのは諸澄君である可能性が高いな。ということは、僕を嵌めた人物は諸澄君なのか?
「羽賀さんが、氷室さんは無実で、真犯人は別にいると強く主張していますから、本当に無実……と考えていいんですか? 2歳年下ですが、羽賀さんは信頼できる警察官なので」
「ということは、浅野さんは彼より2つ年上ですか」
「ええ。でも、羽賀さんはキャリア組で、階級も警部なので年下でも私の上司です。ちなみに、私はノンキャリア組で階級は巡査です」
「なるほど」
羽賀には年上の部下がいるのか。やりにくそうな感じがするけど、浅野さんは羽賀を信頼しているみたいだからいいのかな。
「羽賀とは小学生からの親友なので。僕のことををよく知っている人の一人です。それに、美来とも面識があって、僕と美来の関係も分かっていると思います。羽賀は僕を逮捕する話を聞いたときから、僕が無実であると信じてくれています。僕も羽賀なら真犯人を見つけてくれると信じていますよ」
羽賀と岡村の2人だけは何があっても信じられる。きっと、羽賀なら僕を嵌めた真犯人を突き止めてくれると。
「そうですか……」
すると、浅野さんは両手で机を激しく叩いて、
「何て美しい友情なのでしょうか! まさか、あの羽賀さんにこんな素敵な親友の男性がいたなんて!」
さっきまでとは打って変わって、凄く興奮している。いったいどうしたんだろう? 僕と羽賀の名前を口にしていたけれど。
「羽賀さんは美しい方ですから、どの男性とのカップリングで妄想しても絵になりましたが、ついにベストな方に出会うことができました!」
「はあっ?」
「羽賀さんは自分のことを私と言って、氷室さんは自分のことを僕と言います。これなら、攻め受けどちらのパターンでも十分に妄想できます。ぐへへっ……」
浅野さん、僕と羽賀のことで変なことを妄想していそうな気がする。
「あの、さっきから何の話をしているんですか? 攻めとか受けとか言っていましたが……」
すると、浅野さんは僕のことを見てニヤリと笑った。
「薔薇です! BLです! ボーイズラブです!」
「何を言っているんですかあなたは!」
取調室で言うような言葉じゃない! 浅野さんの頭の中では僕と羽賀を使っていかがわしい妄想をしているのか? こういう人のことを腐女子っていうのかな。リアル腐女子に出会ったのは初めてだ。
「あなたの方がわいせつ行為をしてるじゃないですか!」
そう言わずにはいれなかった。
すると、浅野さんは得意げな笑みを浮かべる。
「羽賀さんと氷室さんの愛情行為はわいせつではありませんからぁ。それに、私の頭の中で行為をしているんですぅ。思うだけなら自由ですし、罪にはなりませんからね!」
「ううっ……」
羽賀は浅野さんのこういう趣味を知っているのかな。ただ、あいつの性格上、迷惑をかけなければどんな趣味を持っていても問題ないとか言いそうだな。
「囚われの身で不安になっている氷室さんを守れるのは私だけ。そこから愛が生まれるのですね! あぁ、何て美しいことなのでしょうか。妄想が捗りすぎて、思わず鼻血が出そうです。それで、実際に愛を感じているのでしょうか?」
「いや、羽賀のことは信頼していますけど。それは20年近くの付き合いで培われた友情があってのことで……」
「20年! 20年近くもお付き合いしているのですか! 結婚しちゃえよ!」
「しませんし、そもそもできませんよ!」
浅野さん、相当重度な腐女子なのかもしれない。僕が普通に話していることでも、浅野さんの耳に入った言葉は全てBL要素に変わってしまうというのか。
「私が警察官になったのは、警察は男の園だと思ったからです」
「そ、そうなんですか……」
女の園という言葉は何度か聞いたことがあるけれど、男の園という言葉は初めて聞いたな。BL好きを理由に警察官になる人は彼女くらいしかいないのでは?
「これまで、脳内で様々な男性警察官のカップリングを妄想しました。でも、これぞというカップリングはなかったです。しかし、羽賀さんと出会ってがらりと変わりました。ここまで美しい男性がいるとは! ですが、羽賀さんだからこそ、これぞというカップリングを見つけるのがより難しくなってしまいました……」
「それは……大変ですねぇ」
「しかしっ!」
浅野さんは僕のことを指さして、
「羽賀さんの親友である氷室さんという方に出会い、ようやく羽賀さんに合うカップリングが見つかりました! 氷室さん、あなたは私の恩人ですっ!」
ありがとうございます! と握手される始末。
どうやら、僕との出会いが衝撃的だったそうで、凄く感謝されることに。まさか、取調中にBLのことでお礼を言われるとは思わなかったぞ。これでいいのか、日本の警察。
「氷室さんさえよければ、羽賀さんとの思い出話を聞かせてください!」
「いいですけど……」
どうせ、BL妄想の材料とかにされるんだろう? ううっ、ある意味でキツい取調べだ。羽賀……早くここに来てくれ。切にそう願うのであった。
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