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本編-ARIA-
第59話『還流』
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後藤さんが会議室を後にしてから、数分後。
――コンコン。
そんなノック音が聞こえると、すぐに扉が開き、後藤さんの後に1人の女子生徒が部屋の中に入ってきた。セミロングの艶やかな黒髪が印象的で、顔も結構可愛らしい。この子が佐相柚葉さんなのかな。
「お待たせしました。彼女が佐相柚葉さんです」
「……初めまして、佐相柚葉です」
「初めまして、氷室智也です。美来から聞いたことがあるかもしれないけど、僕が彼女の言っている『運命の人』です」
自分で『運命の人』って言うと凄く恥ずかしいな。さっそく後悔している。
「初めまして、朝比奈美来の父の朝比奈雅治と申します」
「……初めまして」
佐相さんはちょっと怯えた表情を浮かべ、視線をちらつかせている。いじめた生徒の父親と、大切に想っている人が目の前にいるんだ。緊張してしまって、もしかしたら今すぐにでも逃げ出したい想いがあるのかも。
「松坂さんと阿久津さんは席を外していただけると嬉しいです。これだけ多くの大人がいると、佐相さんも話しづらいでしょうから」
「……分かりました」
松坂さんがそう言うと、2人は静かに会議室から出て行った。
後藤さんと佐相さんは僕や雅治さんと向かい合うようにして席に座る。
「……佐相さん。さっそく本題に入るけど、美来が不登校になったこの状況をどう想っているのかな。悪いことをしたと思っているのかな。それとも、当然のこと? ざまあみろって思ってる? 佐相さんの今の気持ちを聞かせてほしいんだ」
まずは今の佐相さんの気持ちを知りたい。少しでも悪かったと想う気持ちがあればいいんだけれど。
しかし、佐相さんはなかなか口を開こうとしない。この状況で、いじめている生徒についてどう想うかなんて言えないのかな。
「……いんです」
「えっ?」
「朝比奈さんが悪いんです! たくさんの男の子を振ってきたんですよ、彼女は! それに、フラれた男の子の中には私の好きな人もいたから……」
美来から聞いたとおり、多くの男子生徒を振ったことで、フラれた生徒の周りにいる生徒がいじめたという構図か。佐相さん自身も好きな人が美来にフラれたしまったから、美来を許せなくなってしまったと。
「つまり、多くの生徒を振って心を傷つけた美来には、痛い目に遭った方がいいって考えたわけだ。それで、クラスでは君が中心となって美来にいじめをした……」
「い、いじめなんて言わないでください! 私達は当然のことをしただけで……」
「じゃあ、犯罪って言えばいいか。いじめっていう犯罪を君はしたんだよ」
僕がそう言うと、佐相さんは机を激しく叩いて、
「私は何も悪いことはしていません! 悪いことをしたのは朝比奈さん! 私達はそれに対して当然の罰を与えただけなんです!」
椅子から立ち上がって、涙を流しながらそう言ってきたのだ。なるほど、自分には全く非がないって主張するつもりなのか。
「当然の罰を与えた?」
「その通りです。だから、私達で――」
「じゃあ、僕が君を殺してもいいわけだね。大切な人を散々傷つけて、不登校に追い込んで……それでも、反省する様子が見られない君に、自分の犯したことの重さを分からせるために。当然の罰を与えるんだから、そういうことをしてもいいよね?」
「えっ、な、なんで……」
「氷室さん、何てことを……!」
「後藤さんは黙っていてくれませんか。あなたに、僕達の会話に口を挟む権利なんて一切ありませんよ」
「くっ……!」
後藤さんは悔しそうな表情を浮かべている。
「罰として、美来をいじめた生徒全員の頬を一発叩きたいって本気で思ってるよ。でも、それをやっていい理由にはならない。さっき言った君を殺すこともね。それに、法律で人に暴力を振ったり、ケガをさせたりしちゃいけないって定められているしね。もちろん、それは佐相さんにも言えることだと思う。自分の好きな人を振った美来のことを嫌だと思い、恨んだ。でもね、それは美来を傷つけていい理由にはならないんだよ」
僕がそう言うと、佐相さんはまるで倒れるようにして椅子に腰を下ろした。彼女は俯いたままだ。
「美来から話を聞いたよ。謝っただけでは到底許すことなんてできないって。謝って済むと思ったら大間違いなんだよ、佐相さん」
「……話が全然違うじゃないですか、先生……」
それが佐相さんの本音ってわけか。まったく、謝罪の言葉を言えば終わると思っているんだから困ったものだ。この教師にしてこの生徒ありってか。
「いいかい、佐相さん。これからたくさん、美来をいじめたことについて訊かれると思う。正直に答えなかったり、反省していなかったりしたら、法律に則った処罰を受けてもらうことも考えているから覚悟しておいてね」
「もちろん、それは佐相さんだけではなく、娘をいじめた生徒全員のことだ。もし良かったら、佐相さんから言っておいてくれるかな。娘をいじめたことについては正直に話し、反省してほしいと。それが、美来の父親としてからのお願いだ」
僕と雅治さんがそうお願いするけれども、佐相さんはムッとした表情をするだけで、返事をすることもなければ、頷くことさえもしなかった。これは佐相さんが改心するまでかなり時間が掛かりそうだな。
「後藤先生、もう帰っていいですか。私、そろそろ学校を出ないと間に合わない用事があるんです」
「いや、でも……」
「いいですよ。私と氷室さんが、彼女に訊きたいことや言いたいことはもうないので。……あっ、一つだけ言いたいことがあった。明日は我が身となるかもしれない。それだけは覚えておいてくれるかな」
「……一応、頭には入れておきます。では、失礼します」
佐相さんは僕達に一礼をして、会議室を後にした。結局、彼女からは謝罪の言葉がないままになってしまったか。
「……本日はこのくらいでよろしいでしょうか」
「ええ。色々なことが分かりましたので。今回は娘のことでお時間を作っていただきありがとうございました。また何かありましたら連絡をお願いします。そして、いち早くこの事実を公表していただくようお願いします」
「……承知いたしました」
後藤さん、随分とげんなりとしている。当たり前か。いじめを隠蔽していたことがバレてしまったんだから。そして、彼の言葉で言えば面倒な事態になってしまったから。
「学校として誠実な対応をお願いします」
最後に僕がそう言って、雅治さんと一緒に私立月が丘高等学校を後にする。
時刻は午後6時近くになっていて、空に浮かぶ雲が茜色に染まっていた。
「とりあえず、学校側の隠蔽を暴いて、美来がクラスで受けたいじめの調査を、本格的に始めさせることができたね」
「そうですね。ただ、担任の後藤さんからは謝罪の言葉はありましたけど、いじめの問題を扱うことが面倒だと言っていましたよね。いじめの中心人物となった佐相さんについては、謝罪の言葉さえもありませんでした」
「ああ。ただ、2人も人間だ。改心する可能性があると信じるしかないね」
「……あんな態度を取られると、あまり信じられないのが正直な気持ちです」
「ははっ、本人がいないからってそう言っちゃうか。でも、正直な気持ちとしては俺も同じかな」
片倉さん以外はあまり誠実な態度を見せなかったからな。声楽部の方については、このままいけば解決に向かいそうだから、それがせめての救いかな。
「……あと、気になったことがあるんですけど」
「何かな?」
「佐相さんに言った『明日は我が身』という言葉です。どういうことですか?」
それがずっと気になっていたんだ。何かを諭しているとは思うんだけれど。
ふっ、と雅治さんは一つ息を吐くと、
「……あまりはっきりとは言いたくないが、今の1年1組の状況を考えたら……もしかしたら、次に美来と同じ目に遭ってしまうのは彼女かもしれないってことだ」
「つまり、佐相さんがいじめられる可能性があるということですか?」
「ああ。今の1年1組は美来がいなくなっただけで、状況は全く変わっていない。いじめを隠蔽しようとすることは、そういうことなんだよ」
「……そうですか」
「でも、絢瀬さんが隠蔽の証拠を収集し、それを使って氷室君が今日、学校側に隠蔽の事実を証明した。あとは学校の対応次第だけど、月が丘高校がいい学校になっていく機会は作れたはずだ」
確かに、このままいじめが隠蔽されたとして、美来が転校してしまったら……月が丘高校の1年1組は美来がいなくなっただけで、状況は全く変わらなかったのか。むしろ、更なるいじめが起こるかもしれない。
「氷室君、どうもありがとう。明日はどっちでもいいけど、来週からは自分の仕事を頑張ってほしい。君のことが好きな先輩社員が今、頑張っているんだろう?」
好きな先輩社員……それって、有紗さんのことだよな。
有紗さんとは定期的に連絡を取り合っているけれど、一昨日の朝、駅で別れたときは何だか寂しそうだった。今日も、有紗さんは隣に僕がいない中で頑張って仕事をしたんだと思う。
「そうですね。では、来週の月曜日から仕事に戻ります。それまでは美来の側にいてもいいですか?」
「もちろんだ。美来の側にいてやってくれ。そして、いずれ……君が美来と共に歩む決断をしてくれると嬉しいよ。もし、先輩社員の方を選んだとしても、美来とはずっと仲良くしてやってほしい」
「分かっています。どんな決断をしようと、お互いに生きている限り、美来とは仲良くしていくことは約束します」
美来の受けたいじめのことも、とりあえず一つの区切りが付いた感じだ。だから、これからは自分のこともしっかりと考えていかなきゃ。
「……さすがは美来が10年間ずっと惚れているだけあるな。君ならしっかりとした判断ができると信じているよ」
「……はい」
僕に告白してきた美来と有紗さんのことを考えると、少しでも早く決断した方がいいだろう。でも、大切なことだから急いでしまうのも良くないと思う自分もいる。
美来のいじめのことを考えているときは、さすがに美来のことで頭がいっぱいになったけれど、少し気を休めたときにふと有紗さんの顔が浮かんでくる。以前、有紗さんが言ったように、それは2人のことが好きだからなんだろうな。
急ぐべきかどうかは分からない。でも、しっかりと考えて決断すべきなのは確かなようだ。
――コンコン。
そんなノック音が聞こえると、すぐに扉が開き、後藤さんの後に1人の女子生徒が部屋の中に入ってきた。セミロングの艶やかな黒髪が印象的で、顔も結構可愛らしい。この子が佐相柚葉さんなのかな。
「お待たせしました。彼女が佐相柚葉さんです」
「……初めまして、佐相柚葉です」
「初めまして、氷室智也です。美来から聞いたことがあるかもしれないけど、僕が彼女の言っている『運命の人』です」
自分で『運命の人』って言うと凄く恥ずかしいな。さっそく後悔している。
「初めまして、朝比奈美来の父の朝比奈雅治と申します」
「……初めまして」
佐相さんはちょっと怯えた表情を浮かべ、視線をちらつかせている。いじめた生徒の父親と、大切に想っている人が目の前にいるんだ。緊張してしまって、もしかしたら今すぐにでも逃げ出したい想いがあるのかも。
「松坂さんと阿久津さんは席を外していただけると嬉しいです。これだけ多くの大人がいると、佐相さんも話しづらいでしょうから」
「……分かりました」
松坂さんがそう言うと、2人は静かに会議室から出て行った。
後藤さんと佐相さんは僕や雅治さんと向かい合うようにして席に座る。
「……佐相さん。さっそく本題に入るけど、美来が不登校になったこの状況をどう想っているのかな。悪いことをしたと思っているのかな。それとも、当然のこと? ざまあみろって思ってる? 佐相さんの今の気持ちを聞かせてほしいんだ」
まずは今の佐相さんの気持ちを知りたい。少しでも悪かったと想う気持ちがあればいいんだけれど。
しかし、佐相さんはなかなか口を開こうとしない。この状況で、いじめている生徒についてどう想うかなんて言えないのかな。
「……いんです」
「えっ?」
「朝比奈さんが悪いんです! たくさんの男の子を振ってきたんですよ、彼女は! それに、フラれた男の子の中には私の好きな人もいたから……」
美来から聞いたとおり、多くの男子生徒を振ったことで、フラれた生徒の周りにいる生徒がいじめたという構図か。佐相さん自身も好きな人が美来にフラれたしまったから、美来を許せなくなってしまったと。
「つまり、多くの生徒を振って心を傷つけた美来には、痛い目に遭った方がいいって考えたわけだ。それで、クラスでは君が中心となって美来にいじめをした……」
「い、いじめなんて言わないでください! 私達は当然のことをしただけで……」
「じゃあ、犯罪って言えばいいか。いじめっていう犯罪を君はしたんだよ」
僕がそう言うと、佐相さんは机を激しく叩いて、
「私は何も悪いことはしていません! 悪いことをしたのは朝比奈さん! 私達はそれに対して当然の罰を与えただけなんです!」
椅子から立ち上がって、涙を流しながらそう言ってきたのだ。なるほど、自分には全く非がないって主張するつもりなのか。
「当然の罰を与えた?」
「その通りです。だから、私達で――」
「じゃあ、僕が君を殺してもいいわけだね。大切な人を散々傷つけて、不登校に追い込んで……それでも、反省する様子が見られない君に、自分の犯したことの重さを分からせるために。当然の罰を与えるんだから、そういうことをしてもいいよね?」
「えっ、な、なんで……」
「氷室さん、何てことを……!」
「後藤さんは黙っていてくれませんか。あなたに、僕達の会話に口を挟む権利なんて一切ありませんよ」
「くっ……!」
後藤さんは悔しそうな表情を浮かべている。
「罰として、美来をいじめた生徒全員の頬を一発叩きたいって本気で思ってるよ。でも、それをやっていい理由にはならない。さっき言った君を殺すこともね。それに、法律で人に暴力を振ったり、ケガをさせたりしちゃいけないって定められているしね。もちろん、それは佐相さんにも言えることだと思う。自分の好きな人を振った美来のことを嫌だと思い、恨んだ。でもね、それは美来を傷つけていい理由にはならないんだよ」
僕がそう言うと、佐相さんはまるで倒れるようにして椅子に腰を下ろした。彼女は俯いたままだ。
「美来から話を聞いたよ。謝っただけでは到底許すことなんてできないって。謝って済むと思ったら大間違いなんだよ、佐相さん」
「……話が全然違うじゃないですか、先生……」
それが佐相さんの本音ってわけか。まったく、謝罪の言葉を言えば終わると思っているんだから困ったものだ。この教師にしてこの生徒ありってか。
「いいかい、佐相さん。これからたくさん、美来をいじめたことについて訊かれると思う。正直に答えなかったり、反省していなかったりしたら、法律に則った処罰を受けてもらうことも考えているから覚悟しておいてね」
「もちろん、それは佐相さんだけではなく、娘をいじめた生徒全員のことだ。もし良かったら、佐相さんから言っておいてくれるかな。娘をいじめたことについては正直に話し、反省してほしいと。それが、美来の父親としてからのお願いだ」
僕と雅治さんがそうお願いするけれども、佐相さんはムッとした表情をするだけで、返事をすることもなければ、頷くことさえもしなかった。これは佐相さんが改心するまでかなり時間が掛かりそうだな。
「後藤先生、もう帰っていいですか。私、そろそろ学校を出ないと間に合わない用事があるんです」
「いや、でも……」
「いいですよ。私と氷室さんが、彼女に訊きたいことや言いたいことはもうないので。……あっ、一つだけ言いたいことがあった。明日は我が身となるかもしれない。それだけは覚えておいてくれるかな」
「……一応、頭には入れておきます。では、失礼します」
佐相さんは僕達に一礼をして、会議室を後にした。結局、彼女からは謝罪の言葉がないままになってしまったか。
「……本日はこのくらいでよろしいでしょうか」
「ええ。色々なことが分かりましたので。今回は娘のことでお時間を作っていただきありがとうございました。また何かありましたら連絡をお願いします。そして、いち早くこの事実を公表していただくようお願いします」
「……承知いたしました」
後藤さん、随分とげんなりとしている。当たり前か。いじめを隠蔽していたことがバレてしまったんだから。そして、彼の言葉で言えば面倒な事態になってしまったから。
「学校として誠実な対応をお願いします」
最後に僕がそう言って、雅治さんと一緒に私立月が丘高等学校を後にする。
時刻は午後6時近くになっていて、空に浮かぶ雲が茜色に染まっていた。
「とりあえず、学校側の隠蔽を暴いて、美来がクラスで受けたいじめの調査を、本格的に始めさせることができたね」
「そうですね。ただ、担任の後藤さんからは謝罪の言葉はありましたけど、いじめの問題を扱うことが面倒だと言っていましたよね。いじめの中心人物となった佐相さんについては、謝罪の言葉さえもありませんでした」
「ああ。ただ、2人も人間だ。改心する可能性があると信じるしかないね」
「……あんな態度を取られると、あまり信じられないのが正直な気持ちです」
「ははっ、本人がいないからってそう言っちゃうか。でも、正直な気持ちとしては俺も同じかな」
片倉さん以外はあまり誠実な態度を見せなかったからな。声楽部の方については、このままいけば解決に向かいそうだから、それがせめての救いかな。
「……あと、気になったことがあるんですけど」
「何かな?」
「佐相さんに言った『明日は我が身』という言葉です。どういうことですか?」
それがずっと気になっていたんだ。何かを諭しているとは思うんだけれど。
ふっ、と雅治さんは一つ息を吐くと、
「……あまりはっきりとは言いたくないが、今の1年1組の状況を考えたら……もしかしたら、次に美来と同じ目に遭ってしまうのは彼女かもしれないってことだ」
「つまり、佐相さんがいじめられる可能性があるということですか?」
「ああ。今の1年1組は美来がいなくなっただけで、状況は全く変わっていない。いじめを隠蔽しようとすることは、そういうことなんだよ」
「……そうですか」
「でも、絢瀬さんが隠蔽の証拠を収集し、それを使って氷室君が今日、学校側に隠蔽の事実を証明した。あとは学校の対応次第だけど、月が丘高校がいい学校になっていく機会は作れたはずだ」
確かに、このままいじめが隠蔽されたとして、美来が転校してしまったら……月が丘高校の1年1組は美来がいなくなっただけで、状況は全く変わらなかったのか。むしろ、更なるいじめが起こるかもしれない。
「氷室君、どうもありがとう。明日はどっちでもいいけど、来週からは自分の仕事を頑張ってほしい。君のことが好きな先輩社員が今、頑張っているんだろう?」
好きな先輩社員……それって、有紗さんのことだよな。
有紗さんとは定期的に連絡を取り合っているけれど、一昨日の朝、駅で別れたときは何だか寂しそうだった。今日も、有紗さんは隣に僕がいない中で頑張って仕事をしたんだと思う。
「そうですね。では、来週の月曜日から仕事に戻ります。それまでは美来の側にいてもいいですか?」
「もちろんだ。美来の側にいてやってくれ。そして、いずれ……君が美来と共に歩む決断をしてくれると嬉しいよ。もし、先輩社員の方を選んだとしても、美来とはずっと仲良くしてやってほしい」
「分かっています。どんな決断をしようと、お互いに生きている限り、美来とは仲良くしていくことは約束します」
美来の受けたいじめのことも、とりあえず一つの区切りが付いた感じだ。だから、これからは自分のこともしっかりと考えていかなきゃ。
「……さすがは美来が10年間ずっと惚れているだけあるな。君ならしっかりとした判断ができると信じているよ」
「……はい」
僕に告白してきた美来と有紗さんのことを考えると、少しでも早く決断した方がいいだろう。でも、大切なことだから急いでしまうのも良くないと思う自分もいる。
美来のいじめのことを考えているときは、さすがに美来のことで頭がいっぱいになったけれど、少し気を休めたときにふと有紗さんの顔が浮かんでくる。以前、有紗さんが言ったように、それは2人のことが好きだからなんだろうな。
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