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本編-ARIA-
第50話『新しい朝』
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5月25日、水曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、僕の隣で美来が気持ち良さそうに寝ている。
美来のベッドは僕の家のベッドよりも広いので、2人で寝ても少し余裕があった。といっても、美来がぎゅっと俺の腕を抱きしめているので、これまでとさほど変わらないけども。
部屋にある時計で時刻を確認すると、今は午前7時前か。いつもなら、コーヒーを1杯飲みながら準備をして、家を出発するくらいだ。
「うんっ……」
美来はそう声を漏らすと、ゆっくりと目を覚ました。
「智也さん……おはようございます」
「おはよう、美来」
すると、美来はほんわかとした笑みを浮かべて、僕にそっとキスする。
「私の家で智也さんと一緒に朝を迎えることができるなんて。今までの中で、一番幸せな一日の始まりかもしれません」
「僕も女の子の部屋で朝を迎えたのは、親戚以外では初めてかもしれない」
小学生のときに、正月やお盆に親の故郷に帰省して、そのときに従妹の部屋で寝たことはある。
「私が初めてなんですね。そうですか……ふふっ」
声が漏れてしまうほど嬉しいのか。
「昨日も智也さんと一緒にこのベッドで眠れて嬉しかったです」
「そっか」
「智也さんさえ良ければ、またこのベッドで一緒に寝てくださいね」
「もちろんだよ」
お酒が回っていてお風呂の直後ということもあったかもしれないけど、昨日はとても温かい中眠ることができた。
――キィッ。
部屋の扉が開く音が聞こえたのでそっちの方を向いてみると、結菜ちゃんが、
「お姉ちゃん、智也お兄ちゃん……起きてますかぁ?」
小さな声で僕達にそんな言葉を掛けてきた。
「おはよう、結菜」
「結菜ちゃん、おはよう」
「あっ、もう起きていたんですね。てっきり、夜中はずっと2人でイチャイチャしたせいで、まだ寝ていると思っていました」
結菜ちゃんはそう言い、ニヤニヤとしながら美来と僕を見ている。まったく、朝比奈姉妹はおませさんだなあ。
「夜中ずっとイチャイチャしてないよ。お風呂で髪と体を洗っただけだよ……」
「じゃあ、智也お兄ちゃんとの仲がちょっとは進展したんだね」
「ま、まあね」
美来はちょっと顔を赤くしながら言った。
「まあいいや。朝ご飯できているので、2人とも着替えたら降りてきてくださいね」
「うん、分かったよ。ありがとう、結菜ちゃん」
「すぐに降りるから、結菜は先に食べ始めていいよ」
「うん」
結菜ちゃんはゆっくりと扉を閉める。階段を降りていく足音が聞こえるから、きっとリビングに行ったんだろう。
「お母さんとかに聞かれるかもしれませんが、お風呂でのことは……あまり言わないようにしていただけますか。詳しく聞いてくるかもしれないので……」
「分かった」
といっても、髪と体を洗ってもらったくらいだけど。そこまで詳しく訊かれちゃうのかな。
「……ありがとうございます。さあ、早く着替えて朝ご飯を食べましょう」
「うん、そうだね」
僕と美来は寝間着から私服に着替えて、1階のリビングへと行く。そこでは既に雅治さんと結菜ちゃんが朝食を食べていた。
美来の予想通り、果歩さんを中心に昨日の夕食後の話になったけど、お風呂に入って一緒に寝たと正直に言うと、意外にもあっさりとその話題は終わった。
雅治さんと結菜ちゃんがそれぞれ会社と学校に行った後、ティータイムの時間になってやっと、お風呂で互いの体を洗ったことを果歩さんに伝えた。ただ、果歩さんは物足りなかったようで、ちょっとつまらさそうな表情を見せたのであった。
学校からの連絡がないため、現在、どんな感じで調査が行なわれているのかよく分かっていない状況だ。
ただ、声楽部の方はLINEで明美ちゃんが随時メッセージを送ってくれる。
美来が名を挙げた生徒と個人面談をし、部長の松川寧音さんも美来にいじめをしたと認めた。それ以外の生徒も続々といじめをしていたことを認めたり、見て見ぬふりをしたり……と、部活内での実情が明らかになってきている。
部活の方がこれだけしっかりと調査をしているのだから、クラスの方も当然、きちんとした調査結果を伝えてくれると思いたい。けれど、一度は隠そうとした人が担任のクラスだから、油断してはいけない。
午後2時過ぎ。
――プルルッ。
朝比奈家の固定電話が鳴る。番号を確認すると、発信者は私立月が丘高等学校であることが分かった。昨日と同じように、僕はスマートフォンで録音を始める。
「果歩さん、お願いします」
「はい」
果歩さんが電話に出る。
「はい、朝比奈ですが」
『お世話になっております。月が丘高校の後藤です』
「お世話になっております」
『……昨日の午後、氷室さんからご指摘を頂いたので、まずはクラスでいじめについてのアンケートを行ないました』
ご指摘を頂いたって言っているけど、美来が名指しをしてまでいじめがあったと言っているんだから、調査をするのは当たり前なんだけど。いちいち、ツッコミところを作ってくれるな、この教師は。
「アンケートですか。どのような内容で?」
『いじめがあると思うか。あるなら、どのような内容なのか。それをしていたか。見ていただけなのか。見ていたなら、していたのは誰なのか……などです』
アンケートの質問内容としては普通か。
ただ、重要なのはそのアンケートをして結果をまとめたらどうなったのか。美来の言っていることと整合性がとれているのか。
「それで、どのような結果になったのでしょうか?」
『はい。複数の職員に協力してもらいました。そして、その結果なのですが……』
さあ、どのような結果になったんだ。美来の言うように、複数の生徒からいじめられていたという結果になったのか。
『うちのクラス……1年1組にはいじめはないという結果になりました』
後藤さんから伝えられたアンケート結果に、僕は耳を疑った。
僕の聞き間違いなのかと思って、美来や果歩さんの顔を見てみる。ただ、2人とも複雑な表情をしているので、信じられないアンケート結果が出てしまったのだとようやく分かったのであった。
ゆっくりと目を覚ますと、僕の隣で美来が気持ち良さそうに寝ている。
美来のベッドは僕の家のベッドよりも広いので、2人で寝ても少し余裕があった。といっても、美来がぎゅっと俺の腕を抱きしめているので、これまでとさほど変わらないけども。
部屋にある時計で時刻を確認すると、今は午前7時前か。いつもなら、コーヒーを1杯飲みながら準備をして、家を出発するくらいだ。
「うんっ……」
美来はそう声を漏らすと、ゆっくりと目を覚ました。
「智也さん……おはようございます」
「おはよう、美来」
すると、美来はほんわかとした笑みを浮かべて、僕にそっとキスする。
「私の家で智也さんと一緒に朝を迎えることができるなんて。今までの中で、一番幸せな一日の始まりかもしれません」
「僕も女の子の部屋で朝を迎えたのは、親戚以外では初めてかもしれない」
小学生のときに、正月やお盆に親の故郷に帰省して、そのときに従妹の部屋で寝たことはある。
「私が初めてなんですね。そうですか……ふふっ」
声が漏れてしまうほど嬉しいのか。
「昨日も智也さんと一緒にこのベッドで眠れて嬉しかったです」
「そっか」
「智也さんさえ良ければ、またこのベッドで一緒に寝てくださいね」
「もちろんだよ」
お酒が回っていてお風呂の直後ということもあったかもしれないけど、昨日はとても温かい中眠ることができた。
――キィッ。
部屋の扉が開く音が聞こえたのでそっちの方を向いてみると、結菜ちゃんが、
「お姉ちゃん、智也お兄ちゃん……起きてますかぁ?」
小さな声で僕達にそんな言葉を掛けてきた。
「おはよう、結菜」
「結菜ちゃん、おはよう」
「あっ、もう起きていたんですね。てっきり、夜中はずっと2人でイチャイチャしたせいで、まだ寝ていると思っていました」
結菜ちゃんはそう言い、ニヤニヤとしながら美来と僕を見ている。まったく、朝比奈姉妹はおませさんだなあ。
「夜中ずっとイチャイチャしてないよ。お風呂で髪と体を洗っただけだよ……」
「じゃあ、智也お兄ちゃんとの仲がちょっとは進展したんだね」
「ま、まあね」
美来はちょっと顔を赤くしながら言った。
「まあいいや。朝ご飯できているので、2人とも着替えたら降りてきてくださいね」
「うん、分かったよ。ありがとう、結菜ちゃん」
「すぐに降りるから、結菜は先に食べ始めていいよ」
「うん」
結菜ちゃんはゆっくりと扉を閉める。階段を降りていく足音が聞こえるから、きっとリビングに行ったんだろう。
「お母さんとかに聞かれるかもしれませんが、お風呂でのことは……あまり言わないようにしていただけますか。詳しく聞いてくるかもしれないので……」
「分かった」
といっても、髪と体を洗ってもらったくらいだけど。そこまで詳しく訊かれちゃうのかな。
「……ありがとうございます。さあ、早く着替えて朝ご飯を食べましょう」
「うん、そうだね」
僕と美来は寝間着から私服に着替えて、1階のリビングへと行く。そこでは既に雅治さんと結菜ちゃんが朝食を食べていた。
美来の予想通り、果歩さんを中心に昨日の夕食後の話になったけど、お風呂に入って一緒に寝たと正直に言うと、意外にもあっさりとその話題は終わった。
雅治さんと結菜ちゃんがそれぞれ会社と学校に行った後、ティータイムの時間になってやっと、お風呂で互いの体を洗ったことを果歩さんに伝えた。ただ、果歩さんは物足りなかったようで、ちょっとつまらさそうな表情を見せたのであった。
学校からの連絡がないため、現在、どんな感じで調査が行なわれているのかよく分かっていない状況だ。
ただ、声楽部の方はLINEで明美ちゃんが随時メッセージを送ってくれる。
美来が名を挙げた生徒と個人面談をし、部長の松川寧音さんも美来にいじめをしたと認めた。それ以外の生徒も続々といじめをしていたことを認めたり、見て見ぬふりをしたり……と、部活内での実情が明らかになってきている。
部活の方がこれだけしっかりと調査をしているのだから、クラスの方も当然、きちんとした調査結果を伝えてくれると思いたい。けれど、一度は隠そうとした人が担任のクラスだから、油断してはいけない。
午後2時過ぎ。
――プルルッ。
朝比奈家の固定電話が鳴る。番号を確認すると、発信者は私立月が丘高等学校であることが分かった。昨日と同じように、僕はスマートフォンで録音を始める。
「果歩さん、お願いします」
「はい」
果歩さんが電話に出る。
「はい、朝比奈ですが」
『お世話になっております。月が丘高校の後藤です』
「お世話になっております」
『……昨日の午後、氷室さんからご指摘を頂いたので、まずはクラスでいじめについてのアンケートを行ないました』
ご指摘を頂いたって言っているけど、美来が名指しをしてまでいじめがあったと言っているんだから、調査をするのは当たり前なんだけど。いちいち、ツッコミところを作ってくれるな、この教師は。
「アンケートですか。どのような内容で?」
『いじめがあると思うか。あるなら、どのような内容なのか。それをしていたか。見ていただけなのか。見ていたなら、していたのは誰なのか……などです』
アンケートの質問内容としては普通か。
ただ、重要なのはそのアンケートをして結果をまとめたらどうなったのか。美来の言っていることと整合性がとれているのか。
「それで、どのような結果になったのでしょうか?」
『はい。複数の職員に協力してもらいました。そして、その結果なのですが……』
さあ、どのような結果になったんだ。美来の言うように、複数の生徒からいじめられていたという結果になったのか。
『うちのクラス……1年1組にはいじめはないという結果になりました』
後藤さんから伝えられたアンケート結果に、僕は耳を疑った。
僕の聞き間違いなのかと思って、美来や果歩さんの顔を見てみる。ただ、2人とも複雑な表情をしているので、信じられないアンケート結果が出てしまったのだとようやく分かったのであった。
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