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エピローグ『これから』

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 優那の部屋に戻ると、優那は窓を開けて、外の様子を眺めていた。風が吹いているのか、彼女の髪がなびく。落ち着いた表情を浮かべているのもあってか、今までの中で一番大人らしく感じられた。

「優那、お風呂いただいたよ。気持ち良かった」
「それなら良かったよ。結構ゆっくり入っていたね」
「湯船に入ったらまったりとした気分になれてさ。あと、風呂に入るのは好きだから。そういえば、優那はどうして外の景色を眺めているの?」
「早めにお風呂から出たんだけれど、ずっと体が熱いままで。それで、髪を乾かしてから、こうして窓を開けて外の景色を眺めていたんだ。涼しくてとても気持ちいいよ。それに、今日の月はとても綺麗でずっと見てるの」
「へえ、どれどれ」

 俺は優那のすぐ側まで行き、窓から夜空を見上げる。優那の言うとおり、夜空には綺麗な月があって。満月に近いな。もうすぐ5月だけれど、夜はまだ涼しく、空気が気持ちがいい。これなら、優那がずっと夜空を見ているのも納得だ。

「月が綺麗だね、優那」
「そ、そうだね。本当に月が綺麗だよね、颯介。……これからもずっと、颯介とこうして綺麗な景色を見ることのできる関係でいたいな」
「うん」

 優那を後ろから抱きしめながら、彼女と月を眺めることに。夜の涼しい空気と温かい優那。愛おしい気持ちがどんどん膨らんでいく。許されるなら、このままずっと彼女のことを抱きしめていたい気分だ。

「……大好きだよ、優那」
「あたしも大好き。……もう、颯介のせいでまた体が熱くなってきちゃったじゃない」
「……ごめん。ただ、温かい優那を抱きしめると幸せな気持ちになれるよ。……そういえば、今日は俺ってどこで寝ればいいかな」
「あたしのベッドで一緒に寝るつもりでいるんだけれど……いや?」

 優那は俺の方に振り返って、上目遣いで俺を見てくる。小動物みたいで可愛らしい。

「嫌なわけないよ。今日は優那のベッドで一緒に寝よう」
「うん!」

 優那はとても嬉しそうな笑顔を見せ、俺にキスをしてきた。お風呂から出てきてあまり時間が経っていないからか、普段よりも唇が温かくて、柔らかく感じる。
 その後、俺は優那に髪を乾かしてもらい、彼女と隣り合う形でベッドに腰を下ろした。腕が触れるくらいの距離感で。

「まだ10時になっていないけれど、颯介はもう寝たい?」
「お風呂に入ったから眠気はある。ただ、明日も休みだし、優那と初めて泊まっているからここで寝るのも何だかもったいない気もする。……ごめん、はっきりとした答えじゃなくて」
「ううん、いいよ。あたしも同じような感じだから」

 そう言うと、優那が俺に若干寄り掛かってきたのが分かった。
 恋人と一緒に過ごす初めての夜。
 しかも、この家には優那と俺しかおらず、彼女の御両親は明日の夕方まで帰ってこない。
 そんな環境の中、彼女とこうしてベッドで隣り合って座っていたら、色々と意識せざるを得ない。
 ただ、想像しただけで緊張してきて、体が熱くなってしまう。このまま素直に眠るべきなのか、それとも優那と……愛し合っている人間らしいことをすべきなのか。

「……ねえ、颯介」
「うん?」
「そ、颯介と……このベッドでイチャイチャしたい!」

 大声でそう言うと、優那は俺のことを強引にベッドの上に押し倒してきた。そんな彼女の顔はとっても真っ赤で、恥ずかしそうな表情をしていて。それがとても可愛らしくて。そんな彼女にドキドキし、キュンとなる。
 お風呂に入ったからか、優那からシャンプーとボディーソープの匂いが凄く香ってくる。

「……ねえ、颯介。押し倒して何だけど、これからどうすればいいかな? ……そうだ、颯介って菜月さんと一緒に寝ることがあるんだよね。颯介が大好きだし、一緒に寝るときに何かされるの?」
「うん、姉ちゃんは色々としてくるよ。頬にキスしたり、全身の匂いを堪能したり、耳に息を吹きかけて甘噛みしたり、俺を抱きしめるときに俺の顔を自分の胸に押しつけるような体勢を取ったりとか色々と。俺は姉ちゃんを抱きしめるだけなんだれど」
「な、なるほどね。さすがは菜月さん。でも、あたしだって颯介に色々としちゃうんだから!」

 姉ちゃんに対抗心でも燃やしたのか、優那はさっき俺が言ったことやり、それに加えて首筋に何度もキスをして、舌を絡めた凄いキスをしてくる。その中で、優那は何度も俺に向かって好きだと言ってきた。
 ただ、優那にそんなことをされるだけでは俺も我慢できなくなって、優那の匂いを感じたり、可愛い声を聞きたくて体をさすってみたり、俺の方からも激しいキスをしたり。胸を大きくしてほしいから触ってと優那にせがまれるので触れてみたり。俺なりに優那とイチャイチャしてみた。

「……いいね、イチャイチャって」
「そうだね。優那、とっても可愛かったよ」
「……イチャイチャした後の可愛いは照れます。ただ、触り方とかキスの仕方があたし好みだったから、とても気持ち良かったよ。颯介はどうだった?」
「優那が可愛かったから凄く興奮した。キスされると気持ち良くて。優那を好きになって本当に良かったなって思うよ」
「そう言ってくれて嬉しい。……いつかはキスの先のことをしようね。最後まで。そのいつかはとても近いかもしれないけれど。それとも、今から……し、してみる?」
「えっ!」

 優那は顔を赤くしながらも俺のことを見つめてくる。
 そんなことを言われたら、ベッドの上の優那の色んな姿や表情を想像してしまうじゃないか。今日の中で一番と言っていいほど体が熱くなり、激しい鼓動が幾度となく全身に響き渡っていく。
 すると、優那はクスクスと笑った。

「ふふっ、颯介ったら。顔を真っ赤にしちゃって可愛い。イチャイチャしているときにあたしの胸を触ってくれたのに。今日は止めておこうか?」
「……そうしてくれると有り難いよ。今でさえも心臓バクバクだから、実際にやったらきっと爆発する。意識不明になって倒れそう」

 優那に色々したい気持ちはあるけど、このまましたら体がもたない気がした。
 優那は俺に向かって一度、しっかりと頷いた。

「うん、分かった。正直、あたしも……自分で言っておいてかなり緊張しているの」
「そうなんだね。俺達なりのペースで好きっていう気持ちを育んでいこう。それで、優那の言う最後までをしよう。……ずっといつまでも一緒にいよう、優那。いつかは恋人から別の関係になるだろうけど」
「……へえ、別の関係ってどんな関係なのかなぁ? 教えてくれる?」

 優那はニヤニヤしながらそんなことを言ってくる。これ、絶対に俺が何を言おうとしているか分かっているだろう。

「……夫婦、とか」

 言葉に出すと結構恥ずかしいな。
 高校1年生の今から、気が早いと言われるかもしれないけれど、優那と夫婦としてずっと一緒にいたいくらいに好きなのだ。恋人として付き合い始めてからそう思うようになった。
 すると、優那はにっこりと笑って、

「……良かった、あたしの想像していた通りの関係で。あたしも同じことを考えていたから。恋人になってから数日くらいだけれど、今から颯介といつかは夫婦になって、ずっと一緒にいたいって強く想うの。他の人が聞いたら笑われるかもしれないけれど。これから色々なことがあって、お互いのことも知っていって。それでも、颯介といられるように頑張りたい。颯介もあたしと一緒に頑張ってくれますか?」
「ああ、もちろん。一緒に頑張ろう。……一緒に幸せになろう、優那。愛しているよ」
「……うん! あたしも颯介のことを愛してる」

 今一度、優那と抱きしめ合って、お互いの想いを確認し合うように長く、熱く、甘いキスを交わした。これで今日何度目のキスなのか分からないけれど、優那のことを愛おしく想う気持ちが湧いてくる。

「これからずっとよろしくね、颯介」
「うん、よろしくね、優那」
「……じゃあ、もういい時間だから寝よっか」
「そうだね」

 俺は優那と一緒に彼女のベッドで眠ることに。優那は俺の右腕を抱きしめている。

「今日はとってもいい夢が見られそう。おやすみなさい」
「おやすみ」

 キスを交わすと、優那はゆっくりと目を閉じた。いい夢が見られそうだと言うだけあってか、程なくして可愛らしい寝顔を浮かべながら寝息を立て始めた。

「優那、おやすみ」

 優那の額にキスをして、俺もゆっくりと目を閉じる。
 何も見えないけれど温もりや匂い、柔らかさ、寝息の音。優那のことはしっかりと感じることができている。そのことを幸せに想いながら眠りにつくのであった。



 4月29日、日曜日。
 ゆっくりと目を覚ますと、そこには優しい笑みを浮かべながら俺を見ている優那がいた。目覚めたその瞬間から優那がいるなんて、とても幸せだ。

「おはよう、颯介」
「おはよう、優那」

 目覚めのキスをすると、優那は恍惚とした笑みに変わる。

「颯介の寝顔はとっても可愛かったよ」
「そっか。何だか恥ずかしいな」
「いいじゃない、可愛いんだから。寝る前に言ったとおり、いい夢を見た。颯介と2人きりでのんびりして口づけばかりしている夢や、小春や奈々子、前川君達と学校で楽しく喋っている夢。正夢になるといいなって思った。颯介はどんな夢を見た?」
「全然覚えていないけれど、いい目覚めだったからいい夢を見ることができたんだと思う」

 楽しそうにしている優那がずっと側にいたということだけは覚えている。優那の出てくる楽しい夢も見たいけれど、現実で優那と楽しい時間を過ごしていきたいな。

「そっか。夢って覚えていないことの方が多いよね。……よし、今日の朝ご飯は玉子焼きを作るよ! あの後も定期的に練習しているから、きっと前よりも美味しくなっていると思うよ」
「おっ、それは楽しみだ。じゃあ、優那の食べる玉子焼きは俺が作ろう」
「やった! 昨日のハンバーグも美味しかったし、玉子焼きも食べてみたい!」
「よし、気合い入れて作るぞ」

 今日のような幸せな目覚めを、いつかは毎日できるように。たまにひねくれていて、とても可愛い優那との歩みは始まったばかりです。



『(たぶん)ひねくれ(ている可愛い彼女との)ラブストーリー』 おわり
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